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第十二話「新しい鷹は」
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次の日から「小鳥遊組」2代目組長小鳥遊美虎の生活が幕を開けた。
「小鳥遊組」は裏社会では、「一本独鈷」と呼ばれ、何処の組や組織とも提携していない独立組織だ。
普通、組長や親が変わると、代替えの儀式があるが、「一本独鈷」の上、まだ16歳の美虎には荷が重く、自然と、暗黙の了解の様に儀式はやらなかった。
唯一決めたのは「若頭は優兎に」ということぐらいだった。
事務所の内装も胡蝶が少し金銭補助して、改装した(胡蝶の趣味が少し入ってしまったのは言うまでもない)。
美虎は、五つ並んでいる牛革のソファの端に座り、読書をしていた。優兎から、軽く読める様なラノベを借りたのだ。登場人物は少し多いものの、個性的な名前で、頭の中で想像しやすい。
その横で、胡蝶は煙草を吸いながら、スマホでゲームをしていた。
この時、美虎は気付いたのだが、胡蝶の煙草は無臭なのだ。普通の煙草は好き嫌いが別れる独特の香りがする。気になって、何故か、を問うと「わっちは心が落ち着いても、服や髪が臭くなるのは嫌でありんす」と言って、はぐらかされた。
煉は、臭いのする煙草の為、換気扇の下で吸うのを余儀なくされている(胡蝶の命令には誰も逆らえない)。
西尾は、インスタントの珈琲を飲んでいた。ブラックで、砂糖はなし。淹れる湯の温度にも気を配るから、インスタントとはいえ、本当にコーヒーが好きなのであろう。それか、インスタント珈琲を極めたいのかもしれない。
優兎は、最近本屋大賞をとったとテレビで流れていた単行本に黒い革のブックカバーをつけて美虎の横で読んでいた。
それぞれがぞれぞれの好きなことをして寛ぐ。まるで、尚虎の時の様な雰囲気だった。
しかし、それを一本の電話に遮られる。
鳴ったのは、煉の赤いスマホだった。
物凄い音量で鳴った為、美虎はビクッと飛び上がり、本を落とした。それに怒った胡蝶が煉に向かって扇子をダーツの様に投げ、額に的中させた。
「どうした?」
煙草の火を消し、赤くなった額を押さえながら、煉は電話に出た。顔は苦痛に歪んでいる。それを見て、ケケケッと昔話に出そうな妖怪の様に笑う胡蝶。
「…河原で喧嘩?…しょうがねぇ、行ってやるよ」
電話を切った後、
「美虎嬢、河原で喧嘩が始まったっす。飛び火しないうちに消したほうがいいと思いますが」
「わっちらの縄張りで争うなんて、命知らずでありんすなぁ。まぁ、ステゴロなら許しんす」
ステゴロとは、素手で喧嘩をすることだ。
ここで優兎が失態を犯してしまう。
「美虎嬢、どうされますか?」
その言葉に美虎の心臓はきゅうっと辛くなった。
(2人でいる時が本当の優兎?それとも、私はただの組長?)
「…胡蝶姐さん、一緒に行こう。煉兄、車を出して」
美虎は八つ当たり気味に、冷たい声を出して、優兎を置いておくことにした。
「じゃ、行きんすか。煉、ちゃんと運転してくんなんし」
胡蝶が小さな鞄を持ち、最低限必要なものを持った煉とスマホだけ持った美虎が事務所を出る時、傷ついた顔をした優兎の顔を見てしまい、さっきよりもっと心が辛くなった。
「はあああああああー…」
「美虎嬢、しっかりしてくんなんし。旦那を放って出かけるぐらい、何処の女でもすることでありんす」
後部座席に座った、正確にいうと横に乗っている胡蝶に寄りかかって、美虎は項垂れていた。
「ダメだよ、もう彼女失格だよ、だって突き放して置いてったんだよ?優兎はなにも悪くないのに…ちょっとヘマしただけなのに…そのヘマを許せないなんて、彼女失格だよ…」
「大丈夫でありんす、優兎はそんな小さいタマじゃありんせん。…そこに惚れたんでありんしょう?」
「…………うん」
「…だいぶ沈黙が長かったでありんすねぇ」
「美虎嬢は、本当に優兎が好きなんすねー」
信号待ちで止まっているベンツの運転席で煉があははと笑う。
「煉、当たり前でありんしょう。美虎嬢、わっちらが事務所に帰ってもまだ優兎が失態を犯したらわっちが優兎を殴りんす。女子の心を知ればいい」
「胡蝶姐さんは、やっぱり殺気が凄いっすねー」
飄々としている煉に運転席の後ろに座っていた胡蝶が扇子で煉の頭を叩いた。
胡蝶は、どうやら、扇子が武器の様だ。
しばらくすると、近所の河原が見えてきた。
「お、あいつらか」
煉の目が鋭く光る。中学生ぐらいの男子数人が、グルになって、金髪の少年を殴っていた。
「小鳥遊組」は裏社会では、「一本独鈷」と呼ばれ、何処の組や組織とも提携していない独立組織だ。
普通、組長や親が変わると、代替えの儀式があるが、「一本独鈷」の上、まだ16歳の美虎には荷が重く、自然と、暗黙の了解の様に儀式はやらなかった。
唯一決めたのは「若頭は優兎に」ということぐらいだった。
事務所の内装も胡蝶が少し金銭補助して、改装した(胡蝶の趣味が少し入ってしまったのは言うまでもない)。
美虎は、五つ並んでいる牛革のソファの端に座り、読書をしていた。優兎から、軽く読める様なラノベを借りたのだ。登場人物は少し多いものの、個性的な名前で、頭の中で想像しやすい。
その横で、胡蝶は煙草を吸いながら、スマホでゲームをしていた。
この時、美虎は気付いたのだが、胡蝶の煙草は無臭なのだ。普通の煙草は好き嫌いが別れる独特の香りがする。気になって、何故か、を問うと「わっちは心が落ち着いても、服や髪が臭くなるのは嫌でありんす」と言って、はぐらかされた。
煉は、臭いのする煙草の為、換気扇の下で吸うのを余儀なくされている(胡蝶の命令には誰も逆らえない)。
西尾は、インスタントの珈琲を飲んでいた。ブラックで、砂糖はなし。淹れる湯の温度にも気を配るから、インスタントとはいえ、本当にコーヒーが好きなのであろう。それか、インスタント珈琲を極めたいのかもしれない。
優兎は、最近本屋大賞をとったとテレビで流れていた単行本に黒い革のブックカバーをつけて美虎の横で読んでいた。
それぞれがぞれぞれの好きなことをして寛ぐ。まるで、尚虎の時の様な雰囲気だった。
しかし、それを一本の電話に遮られる。
鳴ったのは、煉の赤いスマホだった。
物凄い音量で鳴った為、美虎はビクッと飛び上がり、本を落とした。それに怒った胡蝶が煉に向かって扇子をダーツの様に投げ、額に的中させた。
「どうした?」
煙草の火を消し、赤くなった額を押さえながら、煉は電話に出た。顔は苦痛に歪んでいる。それを見て、ケケケッと昔話に出そうな妖怪の様に笑う胡蝶。
「…河原で喧嘩?…しょうがねぇ、行ってやるよ」
電話を切った後、
「美虎嬢、河原で喧嘩が始まったっす。飛び火しないうちに消したほうがいいと思いますが」
「わっちらの縄張りで争うなんて、命知らずでありんすなぁ。まぁ、ステゴロなら許しんす」
ステゴロとは、素手で喧嘩をすることだ。
ここで優兎が失態を犯してしまう。
「美虎嬢、どうされますか?」
その言葉に美虎の心臓はきゅうっと辛くなった。
(2人でいる時が本当の優兎?それとも、私はただの組長?)
「…胡蝶姐さん、一緒に行こう。煉兄、車を出して」
美虎は八つ当たり気味に、冷たい声を出して、優兎を置いておくことにした。
「じゃ、行きんすか。煉、ちゃんと運転してくんなんし」
胡蝶が小さな鞄を持ち、最低限必要なものを持った煉とスマホだけ持った美虎が事務所を出る時、傷ついた顔をした優兎の顔を見てしまい、さっきよりもっと心が辛くなった。
「はあああああああー…」
「美虎嬢、しっかりしてくんなんし。旦那を放って出かけるぐらい、何処の女でもすることでありんす」
後部座席に座った、正確にいうと横に乗っている胡蝶に寄りかかって、美虎は項垂れていた。
「ダメだよ、もう彼女失格だよ、だって突き放して置いてったんだよ?優兎はなにも悪くないのに…ちょっとヘマしただけなのに…そのヘマを許せないなんて、彼女失格だよ…」
「大丈夫でありんす、優兎はそんな小さいタマじゃありんせん。…そこに惚れたんでありんしょう?」
「…………うん」
「…だいぶ沈黙が長かったでありんすねぇ」
「美虎嬢は、本当に優兎が好きなんすねー」
信号待ちで止まっているベンツの運転席で煉があははと笑う。
「煉、当たり前でありんしょう。美虎嬢、わっちらが事務所に帰ってもまだ優兎が失態を犯したらわっちが優兎を殴りんす。女子の心を知ればいい」
「胡蝶姐さんは、やっぱり殺気が凄いっすねー」
飄々としている煉に運転席の後ろに座っていた胡蝶が扇子で煉の頭を叩いた。
胡蝶は、どうやら、扇子が武器の様だ。
しばらくすると、近所の河原が見えてきた。
「お、あいつらか」
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