1 / 28
プロローグ
しおりを挟む
公爵家の美しい庭園には、薔薇が咲き乱れていた。今まさに見頃を迎えているその薔薇がよく見えるように配置されたテーブルでは、四人の令嬢が優雅にお茶会をしている。
その中心に居るのは、公爵令嬢のアリーナ。銀色のまっすぐな髪に、青い瞳。凛とした雰囲気の美しい少女で、高貴な身分にふさわしい優雅さと気高さを兼ね揃えていた。
その隣にいる金色の髪をした少女は、侯爵令嬢のカルロッタ。優しげな雰囲気の温和な少女で、穏やかな笑みを浮かべていた。
アリーナの向かい側に座っているのは、伯爵令嬢のルチア。黒髪にすらりとした身体つきの、真面目そうな少女だ。背筋をぴんと伸ばし、まっすぐな目をしていた。
最後のひとりは、子爵令嬢のメリッサ。茶色の髪をした活発そうな少女で、好奇心の強そうな瞳は、美しい薔薇を見たり、他の令嬢たちの装いを見つめて感嘆の溜息をついたりしている。
身分の違う彼女たちには、共通点があった。
それはそれぞれの婚約者が、ひとりの女性に夢中になっているということ。
公爵令嬢アリーナの婚約者は、王太子であるリベラート。
侯爵令嬢カルロッタの婚約者は、宰相の息子であるマウロ。
伯爵令嬢ルチアの婚約者は、騎士団長の息子であるオルランド。
そして子爵令嬢の婚約者は、大商会の次男であるセストだ。
彼女たちもその婚約者も、王立魔法学園に通い、魔法を学んでいる最中だ。
学園には魔法の素質を持った者なら誰でも入学できるが、市民に魔法の素質を持つ者が少なく、ほとんどが貴族の令息と令嬢である。それでも学園では身分を持ち込まないことが規則であり、市民だからといって差別することは禁止されている。
もちろん彼女たちに、市民を差別するような意識はない。だが、それぞれの婚約者が夢中になっている少女は、身分の枠がないのをいいことに、学園ではやりたい放題だった。
彼女の名前は、グロリア。
いちごのような真っ赤な髪の、かわいらしい少女だった。
もっとも、婚約者のいる男性とふたりきりになってはいけないなど、市民の彼女が知らないのも無理はない。知らないのなら仕方ないと思ってそれを伝えると、なぜか彼女は泣き出してしまい、タイミングよく誰かの婚約者が駆け込んできて、グロリアを庇う。
注意しただけだと言っても、彼らは信じない。挙句の果てに、グロリアに嫉妬して彼女をいじめたことにしたがる。
「どうしてわたくしが、嫉妬などしなければならないのでしょう」
そう言って溜息をついたのは、侯爵令嬢のカルロッタだ。
「婚約など、お父様が決めたこと。わたくしは別に、マウロが何をしようと関心がありません。ただ、家同士の取り決めである婚約を軽視されるのは、不愉快です。そうお伝えしただけですわ」
それがなぜ、嫉妬などという言葉に結びつくのか。
「私もオルランド様に言われました。嫉妬心でか弱い少女を苛めるなど、恥を知れと。何のことですかとお尋ねしたら、とぼけるのかと怒鳴られて。言いがかりで相手を恫喝するオルランド様のふるまいのほうが、よほど恥ずかしいことですのに」
伯爵令嬢のルチアはそう言って、溜息をついた。
「私は、父に婚約解消を申し入れようと思います。あのように人前で怒鳴りつけるような品位のない方などと、結婚したくありません」
「わたしも、そうするつもり」
子爵令嬢のメリッサが、同意するように大きく頷いた。
「セストとは幼馴染で、それなりに仲良しだと思っていたけど。何もしていないのに、君には失望したよ、なんて言われて、黙っているわけにはいかないもの。もちろん、証拠もきっちりと集めたわ。セストの商会への援助も、もうやめる」
「そう。皆さまはもう、決意していらっしゃるのね」
そう言って頷いたのは、公爵令嬢のアリーナだ。
「私の婚約者は王太子であるリベラート殿下ですから、少し時間が掛かってしまうかもしれません。でも、この婚約は必ず破棄していただくつもりです。ですから皆様は、先に計画を実行してください。準備はもう、よろしいですか?」
「わたくしは、もう少し掛かりそうです」
そう言ったのは、侯爵令嬢のカルロッタだ。婚約者が宰相の息子であるため、少し揉めそうだということだ。
「私はまだ、これからです。ですが父にさえ話を通せば、すぐに実行できるかと。もともと父は、この婚約に反対でしたから」
伯爵令嬢のルチアがそう言うと、子爵令嬢のメリッサが手を上げる。
「じゃあ、わたしからやらせていただきます。もう準備はすべて終わっていますから」
「ええ、よろしくね。もし何か困ったことがあったら、遠慮なく言ってね。私たちが全力で、あなたを支援するわ」
アリーナがそう言うと、他の令嬢たちも頷いた。
こうして、令嬢たちの断罪が始まった。
その中心に居るのは、公爵令嬢のアリーナ。銀色のまっすぐな髪に、青い瞳。凛とした雰囲気の美しい少女で、高貴な身分にふさわしい優雅さと気高さを兼ね揃えていた。
その隣にいる金色の髪をした少女は、侯爵令嬢のカルロッタ。優しげな雰囲気の温和な少女で、穏やかな笑みを浮かべていた。
アリーナの向かい側に座っているのは、伯爵令嬢のルチア。黒髪にすらりとした身体つきの、真面目そうな少女だ。背筋をぴんと伸ばし、まっすぐな目をしていた。
最後のひとりは、子爵令嬢のメリッサ。茶色の髪をした活発そうな少女で、好奇心の強そうな瞳は、美しい薔薇を見たり、他の令嬢たちの装いを見つめて感嘆の溜息をついたりしている。
身分の違う彼女たちには、共通点があった。
それはそれぞれの婚約者が、ひとりの女性に夢中になっているということ。
公爵令嬢アリーナの婚約者は、王太子であるリベラート。
侯爵令嬢カルロッタの婚約者は、宰相の息子であるマウロ。
伯爵令嬢ルチアの婚約者は、騎士団長の息子であるオルランド。
そして子爵令嬢の婚約者は、大商会の次男であるセストだ。
彼女たちもその婚約者も、王立魔法学園に通い、魔法を学んでいる最中だ。
学園には魔法の素質を持った者なら誰でも入学できるが、市民に魔法の素質を持つ者が少なく、ほとんどが貴族の令息と令嬢である。それでも学園では身分を持ち込まないことが規則であり、市民だからといって差別することは禁止されている。
もちろん彼女たちに、市民を差別するような意識はない。だが、それぞれの婚約者が夢中になっている少女は、身分の枠がないのをいいことに、学園ではやりたい放題だった。
彼女の名前は、グロリア。
いちごのような真っ赤な髪の、かわいらしい少女だった。
もっとも、婚約者のいる男性とふたりきりになってはいけないなど、市民の彼女が知らないのも無理はない。知らないのなら仕方ないと思ってそれを伝えると、なぜか彼女は泣き出してしまい、タイミングよく誰かの婚約者が駆け込んできて、グロリアを庇う。
注意しただけだと言っても、彼らは信じない。挙句の果てに、グロリアに嫉妬して彼女をいじめたことにしたがる。
「どうしてわたくしが、嫉妬などしなければならないのでしょう」
そう言って溜息をついたのは、侯爵令嬢のカルロッタだ。
「婚約など、お父様が決めたこと。わたくしは別に、マウロが何をしようと関心がありません。ただ、家同士の取り決めである婚約を軽視されるのは、不愉快です。そうお伝えしただけですわ」
それがなぜ、嫉妬などという言葉に結びつくのか。
「私もオルランド様に言われました。嫉妬心でか弱い少女を苛めるなど、恥を知れと。何のことですかとお尋ねしたら、とぼけるのかと怒鳴られて。言いがかりで相手を恫喝するオルランド様のふるまいのほうが、よほど恥ずかしいことですのに」
伯爵令嬢のルチアはそう言って、溜息をついた。
「私は、父に婚約解消を申し入れようと思います。あのように人前で怒鳴りつけるような品位のない方などと、結婚したくありません」
「わたしも、そうするつもり」
子爵令嬢のメリッサが、同意するように大きく頷いた。
「セストとは幼馴染で、それなりに仲良しだと思っていたけど。何もしていないのに、君には失望したよ、なんて言われて、黙っているわけにはいかないもの。もちろん、証拠もきっちりと集めたわ。セストの商会への援助も、もうやめる」
「そう。皆さまはもう、決意していらっしゃるのね」
そう言って頷いたのは、公爵令嬢のアリーナだ。
「私の婚約者は王太子であるリベラート殿下ですから、少し時間が掛かってしまうかもしれません。でも、この婚約は必ず破棄していただくつもりです。ですから皆様は、先に計画を実行してください。準備はもう、よろしいですか?」
「わたくしは、もう少し掛かりそうです」
そう言ったのは、侯爵令嬢のカルロッタだ。婚約者が宰相の息子であるため、少し揉めそうだということだ。
「私はまだ、これからです。ですが父にさえ話を通せば、すぐに実行できるかと。もともと父は、この婚約に反対でしたから」
伯爵令嬢のルチアがそう言うと、子爵令嬢のメリッサが手を上げる。
「じゃあ、わたしからやらせていただきます。もう準備はすべて終わっていますから」
「ええ、よろしくね。もし何か困ったことがあったら、遠慮なく言ってね。私たちが全力で、あなたを支援するわ」
アリーナがそう言うと、他の令嬢たちも頷いた。
こうして、令嬢たちの断罪が始まった。
12
あなたにおすすめの小説
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない
あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。
王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。
だがある日、
誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。
奇跡は、止まった。
城は動揺し、事実を隠し、
責任を聖女ひとりに押しつけようとする。
民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。
一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、
奇跡が失われる“その日”に備え、
治癒に頼らない世界を着々と整えていた。
聖女は象徴となり、城は主導権を失う。
奇跡に縋った者たちは、
何も奪われず、ただ立場を失った。
選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。
――これは、
聖女でも、英雄でもない
「悪役令嬢」が勝ち残る物語。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。
しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。
それを指示したのは、妹であるエライザであった。
姉が幸せになることを憎んだのだ。
容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、
顔が醜いことから蔑まされてきた自分。
やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。
しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。
幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。
もう二度と死なない。
そう、心に決めて。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる