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それぞれのエンディング ルチア編
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友人のアリーナに頼まれ、メリーギ男爵について調査をしていたルチアは、手にしていた書類を見て思わず深い溜息をついた。
どうやらメリーギ男爵は、レムス王国のある貴族と共謀し、グロリアを使って王太子たちを篭絡しようとした。そこに、自分の婚約者であったオルランドの名前を見つけてしまったのだ。
「ああ、それ。異母兄さんもターゲットだったみたいだね」
そう言ったのは、ルチアの向かい側に座っていたひとりの青年だった。
ルチアの婚約者だったオルランドの異母弟で、今はザニーニ伯爵家の跡継ぎになっているテーオだ。ザニーニ伯爵家がルチアに支払う慰謝料や、オルランドの処遇について話し合っているうちに、いつしか友人と言えるくらいには親しくなっていた。
テーオはオルランドとは比べものにならないほど誠実な男で、ルチアが王城勤めを目指していることも、素直に賞賛して応援してくれている。
最初はルチアも、婚約を解消したばかりなのに、その異母弟と仲良くしているのはさすがに世間体が悪いのではないかと思っていた。だがザニーニ伯爵家が思いのほかあっさりとオルランドを切り捨て、自分たちの非を認めて慰謝料の支払いまできっちりとしてくれたので、それほど騒ぎにはならなかった。もっとも、王太子や宰相の息子などの破談が続いたので、オルランドのことは、世間でもすぐに忘れられたのかもしれない。
「知っていたの?」
「うん。ルキーノ殿下から聞いていたよ。まぁ、僕の異母兄だからね」
ルキーノはこの国の第二王子で、王太子であるリベラートが廃位されることがほぼ確定している以上、次の王太子候補でもある。アリーナの父であるインサーナ公爵が彼を推しているので、最有力候補だと言われていた。
そんなルキーノと、テーオがそれほど親しいとは思わなかった。
「親しいの?」
「まぁ、それなりに。同学年だからね」
そう言われてみれば、王太子のリベラートも婚約者だったオルランドも、自分と同じ年だった。彼らは二歳ほど年下だったと思い出す。
「年下は嫌い?」
「いいえ。人の価値に、年齢も性別も関係ないわ」
「あなたのそういう考えを、僕はとても尊敬している。これからも友人として、傍で学ばせてもらえると嬉しいよ」
もし異性として見てほしいと言われたら、すぐに断っていただろう。
文官を目指すルチアは、今のところ結婚するつもりはなかった。だけど尊敬していると言われ、友人として学ばせてほしいと言われたら、断ることなどできない。
「ええ。こちらこそよろしくね」
そう答えると、テーオは嬉しそうに微笑んだ。
アリーナにからかわれるくらい、テーオの外見はルチアの好みなのだ。その笑顔から、ルチアは慌てて視線を反らす。
「この件ね。おそらく黒幕はレムス王国の第三王子だよ」
そんなルチアに気が付かない様子で、テーオは書類を見ながらそう言った。
「第三王子?」
「そう。エドガルドと言う。とにかく評判のよくない男だ。王太子を狙っているらしいけど、もし即位したら間違いなく暴君になるよ。正直に言うと、君たちには関わってほしくない」
真剣な顔でそう言われて、ルチアは俯く。
たしかに、自分たちが関わるには相手が大きすぎると思っていた。しかも相手は手段を選ばない危険な男だ。
「……でもアリーナ様のためなら、私はやるわ」
アリーナはもちろん、メリッサもカルロッタも大切な仲間だ。
最初は婚約者に裏切られた者同士という、あまり外聞のよくない集まりだったのかもしれない。でも今では全員が大切な仲間であり、親友だと思っている。危険だからといって、自分ひとりが逃げたすわけにはいかない。
「そっか。それなら僕を、護衛として傍に置いて。あの男に興味を持たれたら、大変なことになる。常識の通用しない男だからね」
「護衛?」
「うん。もし君に危害を加えようとするなら、僕はあの男を殺すよ」
「……っ」
いつもと変わらない穏やかな表情で、そんな物騒なことを言ったテーオに、ルチアは思わず怯えた視線を向けた。
危険なのは、テーオも同じではないか。そんなふうに考えてしまう。
「相手は、一国の王子よ? もしかしたら王太子になるかもしれないのに」
「むしろ向こうの国では喜ぶと思うけど。まぁ、でもこっちから喧嘩を売るような真似はしないよ。僕はあくまで護衛だから」
だが一番狙われるのは、きっとアリーナだ。そのことに気付き、ルチアは青い顔をして、テーオを見上げる。
「お願い、守るならアリーナ様にして。私は大丈夫だから」
「うん、たしかに彼女が一番狙われやすいかもしれない。でも、心配はいらないよ。彼女のことは、ルキーノ殿下が守ってくれる」
「ルキーノ殿下が?」
たしかに彼は聡明だと評判だったが、争いごとが得意そうには見えない。不安そうな顔をしたルチアに、テーオは言った。
「君たちは傍にいた男たちが揃いも揃ってクズばかりだったから、自分たちだけで戦おうとしている。でも、それじゃあ危険だよ。もっと僕たちを頼ってほしい」
そう熱心に言われても心が動かないのは、彼の言うように周囲の男たちが酷すぎたのかもしれない。オルランドとの婚約を解消することができて、むしろ良いことばかりだと思っていたが、彼はこんな後遺症を残していたようだ。
いつか男性を信用することができるようになるか、今はわからない。
ルチアにとって大切なのはアリーナたち仲間であり、文官になるという自分の夢だから。
だから今は、軽く頷くだけに留めておいた。
これから先のことはわからない。いつか彼も、ルチアが心から信用していないと悟って離れていくかもしれない。
でも、ルチアにはアリーナとカルロッタ、そしてメリッサがいる。彼女たちがいるなら、それでいい。
「君の信頼を勝ち取れるように、頑張るよ」
そんなルチアの心境に気付いているのか、テーオはそう言って笑みを向けた。
どうやらメリーギ男爵は、レムス王国のある貴族と共謀し、グロリアを使って王太子たちを篭絡しようとした。そこに、自分の婚約者であったオルランドの名前を見つけてしまったのだ。
「ああ、それ。異母兄さんもターゲットだったみたいだね」
そう言ったのは、ルチアの向かい側に座っていたひとりの青年だった。
ルチアの婚約者だったオルランドの異母弟で、今はザニーニ伯爵家の跡継ぎになっているテーオだ。ザニーニ伯爵家がルチアに支払う慰謝料や、オルランドの処遇について話し合っているうちに、いつしか友人と言えるくらいには親しくなっていた。
テーオはオルランドとは比べものにならないほど誠実な男で、ルチアが王城勤めを目指していることも、素直に賞賛して応援してくれている。
最初はルチアも、婚約を解消したばかりなのに、その異母弟と仲良くしているのはさすがに世間体が悪いのではないかと思っていた。だがザニーニ伯爵家が思いのほかあっさりとオルランドを切り捨て、自分たちの非を認めて慰謝料の支払いまできっちりとしてくれたので、それほど騒ぎにはならなかった。もっとも、王太子や宰相の息子などの破談が続いたので、オルランドのことは、世間でもすぐに忘れられたのかもしれない。
「知っていたの?」
「うん。ルキーノ殿下から聞いていたよ。まぁ、僕の異母兄だからね」
ルキーノはこの国の第二王子で、王太子であるリベラートが廃位されることがほぼ確定している以上、次の王太子候補でもある。アリーナの父であるインサーナ公爵が彼を推しているので、最有力候補だと言われていた。
そんなルキーノと、テーオがそれほど親しいとは思わなかった。
「親しいの?」
「まぁ、それなりに。同学年だからね」
そう言われてみれば、王太子のリベラートも婚約者だったオルランドも、自分と同じ年だった。彼らは二歳ほど年下だったと思い出す。
「年下は嫌い?」
「いいえ。人の価値に、年齢も性別も関係ないわ」
「あなたのそういう考えを、僕はとても尊敬している。これからも友人として、傍で学ばせてもらえると嬉しいよ」
もし異性として見てほしいと言われたら、すぐに断っていただろう。
文官を目指すルチアは、今のところ結婚するつもりはなかった。だけど尊敬していると言われ、友人として学ばせてほしいと言われたら、断ることなどできない。
「ええ。こちらこそよろしくね」
そう答えると、テーオは嬉しそうに微笑んだ。
アリーナにからかわれるくらい、テーオの外見はルチアの好みなのだ。その笑顔から、ルチアは慌てて視線を反らす。
「この件ね。おそらく黒幕はレムス王国の第三王子だよ」
そんなルチアに気が付かない様子で、テーオは書類を見ながらそう言った。
「第三王子?」
「そう。エドガルドと言う。とにかく評判のよくない男だ。王太子を狙っているらしいけど、もし即位したら間違いなく暴君になるよ。正直に言うと、君たちには関わってほしくない」
真剣な顔でそう言われて、ルチアは俯く。
たしかに、自分たちが関わるには相手が大きすぎると思っていた。しかも相手は手段を選ばない危険な男だ。
「……でもアリーナ様のためなら、私はやるわ」
アリーナはもちろん、メリッサもカルロッタも大切な仲間だ。
最初は婚約者に裏切られた者同士という、あまり外聞のよくない集まりだったのかもしれない。でも今では全員が大切な仲間であり、親友だと思っている。危険だからといって、自分ひとりが逃げたすわけにはいかない。
「そっか。それなら僕を、護衛として傍に置いて。あの男に興味を持たれたら、大変なことになる。常識の通用しない男だからね」
「護衛?」
「うん。もし君に危害を加えようとするなら、僕はあの男を殺すよ」
「……っ」
いつもと変わらない穏やかな表情で、そんな物騒なことを言ったテーオに、ルチアは思わず怯えた視線を向けた。
危険なのは、テーオも同じではないか。そんなふうに考えてしまう。
「相手は、一国の王子よ? もしかしたら王太子になるかもしれないのに」
「むしろ向こうの国では喜ぶと思うけど。まぁ、でもこっちから喧嘩を売るような真似はしないよ。僕はあくまで護衛だから」
だが一番狙われるのは、きっとアリーナだ。そのことに気付き、ルチアは青い顔をして、テーオを見上げる。
「お願い、守るならアリーナ様にして。私は大丈夫だから」
「うん、たしかに彼女が一番狙われやすいかもしれない。でも、心配はいらないよ。彼女のことは、ルキーノ殿下が守ってくれる」
「ルキーノ殿下が?」
たしかに彼は聡明だと評判だったが、争いごとが得意そうには見えない。不安そうな顔をしたルチアに、テーオは言った。
「君たちは傍にいた男たちが揃いも揃ってクズばかりだったから、自分たちだけで戦おうとしている。でも、それじゃあ危険だよ。もっと僕たちを頼ってほしい」
そう熱心に言われても心が動かないのは、彼の言うように周囲の男たちが酷すぎたのかもしれない。オルランドとの婚約を解消することができて、むしろ良いことばかりだと思っていたが、彼はこんな後遺症を残していたようだ。
いつか男性を信用することができるようになるか、今はわからない。
ルチアにとって大切なのはアリーナたち仲間であり、文官になるという自分の夢だから。
だから今は、軽く頷くだけに留めておいた。
これから先のことはわからない。いつか彼も、ルチアが心から信用していないと悟って離れていくかもしれない。
でも、ルチアにはアリーナとカルロッタ、そしてメリッサがいる。彼女たちがいるなら、それでいい。
「君の信頼を勝ち取れるように、頑張るよ」
そんなルチアの心境に気付いているのか、テーオはそう言って笑みを向けた。
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