24 / 28
それぞれのエンディング アリーナの決意・1
しおりを挟む
アリーナの新しい婚約者は、思っていたよりもあっさりと決まった。
第三王子のジェラルドが、兄のルキーノのほうが王太子にふさわしいと言って、自ら勝負を下りたからだ。
まさかあの野心家の彼がそんなことを言うとは思わず、それを聞いたときはアリーナも驚いた。でも彼は長兄のリベラートならともかく、次兄のルキーノと争うつもりはなかったようだ。
たしかにルキーノは優秀な人間で、彼を支持する者も多い。アリーナの父であるインサーナ公爵も、ルキーノを推していた。もしジェラルドが本気で王位を争っても、彼に勝ち目はなかったのかもしれない。その言葉がジェラルドの本心かどうかはわからないが、最初から勝てない争いをして無駄に国を荒らすよりも、兄が王となったあとの保身を考えたのだろう。
こうしてジェラルドの辞退によって王太子はルキーノに決まり、彼の希望もあって、アリーナは再び王太子の婚約者となった。
思っていたよりもあっさりと復帰できたことに、少し拍子抜けした。
だが、アリーナの父が彼の後押しをしていたことを考えると、これは自然なことなのかもしれない。彼はアリーナを望んだのではなく、自分を支持してくれた父に報いるために、その娘を選んだのだ。
どのみち、アリーナが望んでいた通りになったことには変わりはない。
ルキーノの婚約者となってから、王城に行く機会も増えた。
妃教育が再開されたこともあるが、ルキーノがアリーナを頻繁に王城に呼ぶからだ。
人の意見を聞くのが好きだと、彼は語っていた。その言葉通り、ルキーノの周囲にはいつも大勢の人間がいた。アリーナはルキーノの傍にいて、さまざまな意見を交わす彼らの話を静かに聞いている。
こうして彼らの意見を聞いていると、視野が広がっていく思いがする。
いくら数多くの情報を集めていても、公爵家の令嬢であるアリーナには、こうして本人から直接意見を聞くことはほとんどなかった。だが王太子の婚約者となったことで、こうした機会が増えたのは、喜ぶべきことなのかもしれない。
ルキーノは穏やかで思慮深く、本当にリベラートと兄弟なのかと何度も思った。一見、ただ優しいだけに見えるが、話してみると彼の思考はアリーナが驚くほど深く、時には冷たく思えるほど冷静だった。
そんなルキーノは彼らが帰ったあとに、その意見についてアリーナに質問をすることがあった。
「サリジャーンの意見は、どう思う?」
ルキーノの質問に、アリーナはしばらく考える。たしか、辺境の農地改革についての意見だったはずだ。
「素晴らしいご意見だと思いますが、やや理想が高すぎるかと。実地調査をして、もう少し下方修正をしたほうが、将来的には長続きすると思います」
正直に思ったことを言うと、ルキーノは頷いた。
「そうだね。その方がいい。それと、女性を文官に採用することについては、どう思う?」
「もちろん、賛成です」
アリーナは大切な友のことを思い浮かべて、すぐにそう言った。
「仕事をする女性が増えているのは、この国だけではありません。将来的にはもっと増えていくでしょう。人は性別ではなく、能力で判断するべきだと思っています」
ルキーノはアリーナの意見に頷いた。
「たしかに、あなたの言う通りだ。この件については、ロッセリーニ伯爵の意見も聞いてみようと思っている」
ロッセリーニ伯爵は、ルチアの父だ。アリーナよりもずっと、説得力のある意見を出してくれるだろう。
「はい」
安心したところで、そろそろ帰る時間だ。アリーナは退出の挨拶をしようとしたが、彼はそれを遮る。
「すまないが、今日はもう少し付き合ってもらうよ」
ルキーノはそう言うと、手を差し伸べる。
「はい」
アリーナは迷わずに彼の手を取った。彼がそう望むなら、アリーナはそれに従うだけだ。
レムス王国のエドガルドと戦うと決めたとき、アリーナは王太子妃という地位を欲した。そのためなら、相手がルキーノであろうとジェラルドであろうと、どちらでもかまわないと本気で思っていた。
だが、こうして何度もルキーノと会ううちに、それを楽しみにしていることに気が付いた。
彼はアリーナに、今まで知らなかった世界を見せてくれる。アリーナの考えを聞いてくれる。新しい婚約者が彼でよかった。今では本気でそう思っていた。
「君に、会わせたい人がいる。君の友人の知り合いだから、彼女にも来てもらっている」
「友人?」
「ああ。会えばわかるよ」
そう言ったルキーノに連れられて向かった先には、ラメッラ侯爵令嬢であるカルロッタがいた。
「カルロッタ?」
「アリーナ様」
カルロッタと一緒にいたのは、ふたりの女性と、ひとりの男性だった。ルキーノが会わせたいと言っていたのはきっと、この人たちだろう。
カルロッタはアリーナとルキーノに挨拶をしたあと、彼女たちを紹介してくれた。
ひとりは、レムス王国に住んでいるカルロッタの従姉。他のふたりは、その従姉の友人らしい。
「まさか……」
以前、彼女から聞いていた話を思い出して、アリーナはその男性を見た。彼は王太子争いでエドガルドに敗れた、第二王子のニコラスだった。
第三王子のジェラルドが、兄のルキーノのほうが王太子にふさわしいと言って、自ら勝負を下りたからだ。
まさかあの野心家の彼がそんなことを言うとは思わず、それを聞いたときはアリーナも驚いた。でも彼は長兄のリベラートならともかく、次兄のルキーノと争うつもりはなかったようだ。
たしかにルキーノは優秀な人間で、彼を支持する者も多い。アリーナの父であるインサーナ公爵も、ルキーノを推していた。もしジェラルドが本気で王位を争っても、彼に勝ち目はなかったのかもしれない。その言葉がジェラルドの本心かどうかはわからないが、最初から勝てない争いをして無駄に国を荒らすよりも、兄が王となったあとの保身を考えたのだろう。
こうしてジェラルドの辞退によって王太子はルキーノに決まり、彼の希望もあって、アリーナは再び王太子の婚約者となった。
思っていたよりもあっさりと復帰できたことに、少し拍子抜けした。
だが、アリーナの父が彼の後押しをしていたことを考えると、これは自然なことなのかもしれない。彼はアリーナを望んだのではなく、自分を支持してくれた父に報いるために、その娘を選んだのだ。
どのみち、アリーナが望んでいた通りになったことには変わりはない。
ルキーノの婚約者となってから、王城に行く機会も増えた。
妃教育が再開されたこともあるが、ルキーノがアリーナを頻繁に王城に呼ぶからだ。
人の意見を聞くのが好きだと、彼は語っていた。その言葉通り、ルキーノの周囲にはいつも大勢の人間がいた。アリーナはルキーノの傍にいて、さまざまな意見を交わす彼らの話を静かに聞いている。
こうして彼らの意見を聞いていると、視野が広がっていく思いがする。
いくら数多くの情報を集めていても、公爵家の令嬢であるアリーナには、こうして本人から直接意見を聞くことはほとんどなかった。だが王太子の婚約者となったことで、こうした機会が増えたのは、喜ぶべきことなのかもしれない。
ルキーノは穏やかで思慮深く、本当にリベラートと兄弟なのかと何度も思った。一見、ただ優しいだけに見えるが、話してみると彼の思考はアリーナが驚くほど深く、時には冷たく思えるほど冷静だった。
そんなルキーノは彼らが帰ったあとに、その意見についてアリーナに質問をすることがあった。
「サリジャーンの意見は、どう思う?」
ルキーノの質問に、アリーナはしばらく考える。たしか、辺境の農地改革についての意見だったはずだ。
「素晴らしいご意見だと思いますが、やや理想が高すぎるかと。実地調査をして、もう少し下方修正をしたほうが、将来的には長続きすると思います」
正直に思ったことを言うと、ルキーノは頷いた。
「そうだね。その方がいい。それと、女性を文官に採用することについては、どう思う?」
「もちろん、賛成です」
アリーナは大切な友のことを思い浮かべて、すぐにそう言った。
「仕事をする女性が増えているのは、この国だけではありません。将来的にはもっと増えていくでしょう。人は性別ではなく、能力で判断するべきだと思っています」
ルキーノはアリーナの意見に頷いた。
「たしかに、あなたの言う通りだ。この件については、ロッセリーニ伯爵の意見も聞いてみようと思っている」
ロッセリーニ伯爵は、ルチアの父だ。アリーナよりもずっと、説得力のある意見を出してくれるだろう。
「はい」
安心したところで、そろそろ帰る時間だ。アリーナは退出の挨拶をしようとしたが、彼はそれを遮る。
「すまないが、今日はもう少し付き合ってもらうよ」
ルキーノはそう言うと、手を差し伸べる。
「はい」
アリーナは迷わずに彼の手を取った。彼がそう望むなら、アリーナはそれに従うだけだ。
レムス王国のエドガルドと戦うと決めたとき、アリーナは王太子妃という地位を欲した。そのためなら、相手がルキーノであろうとジェラルドであろうと、どちらでもかまわないと本気で思っていた。
だが、こうして何度もルキーノと会ううちに、それを楽しみにしていることに気が付いた。
彼はアリーナに、今まで知らなかった世界を見せてくれる。アリーナの考えを聞いてくれる。新しい婚約者が彼でよかった。今では本気でそう思っていた。
「君に、会わせたい人がいる。君の友人の知り合いだから、彼女にも来てもらっている」
「友人?」
「ああ。会えばわかるよ」
そう言ったルキーノに連れられて向かった先には、ラメッラ侯爵令嬢であるカルロッタがいた。
「カルロッタ?」
「アリーナ様」
カルロッタと一緒にいたのは、ふたりの女性と、ひとりの男性だった。ルキーノが会わせたいと言っていたのはきっと、この人たちだろう。
カルロッタはアリーナとルキーノに挨拶をしたあと、彼女たちを紹介してくれた。
ひとりは、レムス王国に住んでいるカルロッタの従姉。他のふたりは、その従姉の友人らしい。
「まさか……」
以前、彼女から聞いていた話を思い出して、アリーナはその男性を見た。彼は王太子争いでエドガルドに敗れた、第二王子のニコラスだった。
0
あなたにおすすめの小説
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない
あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。
王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。
だがある日、
誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。
奇跡は、止まった。
城は動揺し、事実を隠し、
責任を聖女ひとりに押しつけようとする。
民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。
一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、
奇跡が失われる“その日”に備え、
治癒に頼らない世界を着々と整えていた。
聖女は象徴となり、城は主導権を失う。
奇跡に縋った者たちは、
何も奪われず、ただ立場を失った。
選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。
――これは、
聖女でも、英雄でもない
「悪役令嬢」が勝ち残る物語。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。
しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。
それを指示したのは、妹であるエライザであった。
姉が幸せになることを憎んだのだ。
容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、
顔が醜いことから蔑まされてきた自分。
やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。
しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。
幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。
もう二度と死なない。
そう、心に決めて。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる