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第4章「母であり、姉であり、相棒であり……」
第38話「コンコンピシャリ」
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「……クシュッ」
木陰から這い出した少年は、震えが止まらない身体を自分の両手で抱きしめた。朝日はようよう顔を見せたところ。
夜半過ぎから降り始めた雨は夜明け前にピークを迎え、けたたましい轟音と稲光を伴っていたのだが、朝日が昇る頃にはすっかり上がっていたのは幸運といえたかも知れない。
しかし空きっ腹を抱えている少年にとっては、命の水よりも雨の中での野宿で体力を消耗してしまった方が問題だった。
――3日? 4日?
最後に食べ物を口にしたのはいつだっただろうか、と考えるが、空腹が過ぎると思考が纏まらない。
人間が生きていられる時間は、空気がなければ数分、水がなければ数日、食料は30日弱といわれているのだが、それは成人が尋常な場合の話だ。
3日の断食は、子供の身には尋常な事態ではない。
倒れ込みたくなる身体を、何とか座り込む程度に抑えるが、それまでだった。
ただ少年は一人ではなく――、
「わふ、わふ……」
少年に寄り添うように一匹の犬がいた。狼と見間違えるのは、猟犬として狼と交配させた歴史のある犬種だからだ。
「あぁ、大丈夫……大丈夫だよ」
犬の首に手を回して抱き寄せる少年。その時、腹の虫が鳴く音を犬も聞いていたかも知れない。
「食べ物がなくなって3日だもんな。ホッホも、お腹、空いてるよな」
自分ばかりが苦しい訳ではない、と少年はもう一度、強く愛犬・ホッホの首を抱こうとしたのだが、ホッホの方はするりと少年の手をすり抜けると、スタスタと茂みの方へ歩いて行く。
「ホッホ?」
首を傾げる少年に対し、ホッホは――、
「わふ! わふ!」
幾分、か細くはあるがハッキリした吠え声は、まるで少年にこちらへ来いといっているようだった。
「ホッホ? 何があるんだ?}
立つのも億劫になってしまっているが、少年は膝を叩いて足を立たせ、ホッホの後を追う。
ホッホが示した茂みの先には――、
「木イチゴ!」
ホッホの鼻が探し当てたのだった。しかも木イチゴならば、3日も固形物を口にしていない少年の胃腸でも食べられる。
「魔法の鼻だな、ありがとう!」
文字通り貪る。時々、気管に入って咽せてしまうが、そんな事を気にしてはいられなかった。誰かが世話をしている訳ではなく、ただ野になっているだけの木イチゴであるから味らしい味などないが、それでも十分だ。
「ハーッ」
すっかり食べ尽くしたところで、少年は仰向けに寝転がった。
腹が朽ちると思い出すのは、こんな森を彷徨う羽目になった事件と、失った家族。
「クッ」
涙が出そうになり、目を拭おうと腕を伸ばす少年だったが、それよりもホッホが頬を舐めるのが早かった。
「くーん?」
心配するというよりも、涙をこぼさないようにしたというのが正解だろう。もう老犬といっていいホッホにとって、少年は息子のような存在だ。
「ありがとうな、ごめんな」
少年も、愛犬の言葉はわからずとも、心はわかる。
目を瞑って涙を堪え、身体を起こす。
「街へ行こう。街まで行けば、食べ物もあるし、宿だって……」
体力が戻ったとはいい難いが、歩く気力は補給できた。
「いや……お金は……足りないかも知れないけど……」
その気力を萎えさせてしまう事とてあるのだが、
「街で宿が取れなくても、街道に出られれば、あとは何とでもなる!」
「わふ!」
少年の芯は折れない。
芯が折れてないからかも知れない。
ファンと出会うのは。
木陰から這い出した少年は、震えが止まらない身体を自分の両手で抱きしめた。朝日はようよう顔を見せたところ。
夜半過ぎから降り始めた雨は夜明け前にピークを迎え、けたたましい轟音と稲光を伴っていたのだが、朝日が昇る頃にはすっかり上がっていたのは幸運といえたかも知れない。
しかし空きっ腹を抱えている少年にとっては、命の水よりも雨の中での野宿で体力を消耗してしまった方が問題だった。
――3日? 4日?
最後に食べ物を口にしたのはいつだっただろうか、と考えるが、空腹が過ぎると思考が纏まらない。
人間が生きていられる時間は、空気がなければ数分、水がなければ数日、食料は30日弱といわれているのだが、それは成人が尋常な場合の話だ。
3日の断食は、子供の身には尋常な事態ではない。
倒れ込みたくなる身体を、何とか座り込む程度に抑えるが、それまでだった。
ただ少年は一人ではなく――、
「わふ、わふ……」
少年に寄り添うように一匹の犬がいた。狼と見間違えるのは、猟犬として狼と交配させた歴史のある犬種だからだ。
「あぁ、大丈夫……大丈夫だよ」
犬の首に手を回して抱き寄せる少年。その時、腹の虫が鳴く音を犬も聞いていたかも知れない。
「食べ物がなくなって3日だもんな。ホッホも、お腹、空いてるよな」
自分ばかりが苦しい訳ではない、と少年はもう一度、強く愛犬・ホッホの首を抱こうとしたのだが、ホッホの方はするりと少年の手をすり抜けると、スタスタと茂みの方へ歩いて行く。
「ホッホ?」
首を傾げる少年に対し、ホッホは――、
「わふ! わふ!」
幾分、か細くはあるがハッキリした吠え声は、まるで少年にこちらへ来いといっているようだった。
「ホッホ? 何があるんだ?}
立つのも億劫になってしまっているが、少年は膝を叩いて足を立たせ、ホッホの後を追う。
ホッホが示した茂みの先には――、
「木イチゴ!」
ホッホの鼻が探し当てたのだった。しかも木イチゴならば、3日も固形物を口にしていない少年の胃腸でも食べられる。
「魔法の鼻だな、ありがとう!」
文字通り貪る。時々、気管に入って咽せてしまうが、そんな事を気にしてはいられなかった。誰かが世話をしている訳ではなく、ただ野になっているだけの木イチゴであるから味らしい味などないが、それでも十分だ。
「ハーッ」
すっかり食べ尽くしたところで、少年は仰向けに寝転がった。
腹が朽ちると思い出すのは、こんな森を彷徨う羽目になった事件と、失った家族。
「クッ」
涙が出そうになり、目を拭おうと腕を伸ばす少年だったが、それよりもホッホが頬を舐めるのが早かった。
「くーん?」
心配するというよりも、涙をこぼさないようにしたというのが正解だろう。もう老犬といっていいホッホにとって、少年は息子のような存在だ。
「ありがとうな、ごめんな」
少年も、愛犬の言葉はわからずとも、心はわかる。
目を瞑って涙を堪え、身体を起こす。
「街へ行こう。街まで行けば、食べ物もあるし、宿だって……」
体力が戻ったとはいい難いが、歩く気力は補給できた。
「いや……お金は……足りないかも知れないけど……」
その気力を萎えさせてしまう事とてあるのだが、
「街で宿が取れなくても、街道に出られれば、あとは何とでもなる!」
「わふ!」
少年の芯は折れない。
芯が折れてないからかも知れない。
ファンと出会うのは。
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