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第7章「白刃は銀色に輝く」
第109話「あの日鉄の雨にうたれ」
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フミの「遊んでおけ」という声は、ファンたちに届けるには遠い。その二人にこそ向けられているにも関わらず。
ただ指しているのは、今、前線はファンとヴィーが描いた通りの絵図面になっている事だ。
不意を突いて奇襲を成功させたため、今ばかりは死傷者を出していないが、このまま無傷で一方的な展開を続けられるはずがない。
だからこそ、フミはこの展開を「遊び」と表現し、椅子に深々と腰を下ろした姿は観劇でもしているかのよう。
「死者がでるまでもない。怪我人が出たら? そこからが本番だぞ?」
フミにとっては喜劇である。怪我人が出た時、その衝撃を皆が受け流せるかどうか――それを考えると、フミは自分にとって愉快な事しか思い浮かべない。
兵士ならば、怪我人や死人が出たショックを、ある程度以上、受け流せる。また効率的に負傷者を下がらせる術を知っているし、それを指揮できる将帥がいるのだから。
簡単な事だが、ファンたちが出来ていると思っていないのがフミだ。
「まともな軍師がいないのか?」
フミが嘲笑を向けるその先で、インフゥはバウンティドッグを縦横に振るっている。
――撹乱! 兎に角、撹乱!
インフゥはバウンティドッグを一閃させると共に、空中で身体を捻って着地位置を整えた。バウンティドッグによってホッホの感覚を得られるインフゥには、首が絶対の急所となっている死人は格好の獲物といえる。
元より犬の狩りとは、敵の喉元に食いつくもの。
着地と同時に切っ先で弧を描き、二人目の首を断つ。手足と違い、首は筋肉も骨も太いのだが、今やインフゥはファンの高弟だ。断つ力は十分、身についている。
確実に急所を捉え、捉えられないならば徹頭徹尾、逃げる。
そうする事で敵陣に乱れが生じていくのだから、インフゥにも分かった。
――指揮されてる訳じゃない!
フミの精剣ヘロウィンは死人を復活させるが、その死人は大半が意識らしい意識を持っていない。目立つ者に殺到するしか能がなく、ただ押しつぶそうとしてくるだけ。
――戦える!
年少であるインフゥは首を断つには跳躍する必要があるのだが、これもホッホの感覚が完全に補弼してくれる。顎を上げる、身体を捻る、腕を振る……そんな動作で着地位置を巧みに変え、着地直後の硬直を狙わせない。
そしてインフゥへ死人が集中すると、コバックの投じるライジングムーンが纏めて狩っていく。
投擲して宙を飛翔させるライジングムーンは、剣士を丸腰にしてしまうのが、そこを狙おうともコバックは人間ではなくオーク。男オークに比べて肉が付きにくいとはいえ、体脂肪率は14%以下と並の人間よりも優れた体躯を持つコバックは怪力だ。
「ッ」
流石にコバックも首を捥ぎ取るような事はできないが、肘打ちの一発で頸椎をへし折り、周囲に戦闘不能にした敵を山と積み上げていく。
インフゥとコバックの奮戦は勢いづかせる。
「押せ! 押せ!」
誰からともなく、村人が声を張り上げていた。
ファンの狙いは功を奏している。ワールド・シェイカーで目眩まし、精剣スキルではなく矢で攻撃、オーラバードで薙ぎ倒し、そこへインフゥとコバックを投入――村人が負ったのは軽傷のみ。
しかし熱狂のまま押そうとするのは、それで勝てるという確信から来るものではない。
恐怖だ。
戦場である。何が起きるかなど、分かったものではない。事実、村人は複数の精剣を備えているにもかかわらず、村を奪われ、ここまで後退させられていたのだ。
早く済ませられるならば早く済ませたい――そんな重圧が、短いとしかいいようのない「押せ」という単語に込められている。
***
戦場に木霊している、押せ、止まるな、仕留めろ、という悲鳴のような短い言葉は、後方のファンやヴィーには聞こえていない。
前戦の悲鳴より、指揮を執るヴィーは気にしなければならない事がある。
「血路が開かない」
ヴィーの口調に苛立ちが滲んだ。危うい傾向である。まだ戦端が開いて、いくらも経っていないにも関わらず、焦っているのだ。
陽の高さは角度を殆ど変えておらず、これは場合によっては数日にも及ぶ事のある野戦の常識からいえば、一瞬に等しい。
落ち着けというファンだが……、
「一瞬で血路が開く訳がないッスよ」
そういう言葉が出るのは、ヴィーが苛立った声を出してくれたが故だ。もしヴィーが苛立ち任せにいなければ、ファンの方がいっていた。
ファンとヴィーも、早く終わらせたいという気持ちは強い。そんなものは逃避に過ぎないと分かっているが、その上でも感じる。
奇襲は成功し、インフゥとコバックを前線に投入した。
混乱し、インフゥとコバックに集中した死人共が遺跡への一本道を開けてしまえば、そこへファンとヴィーが滑り込み、一気にフミのところへ斬り込む手筈だが、こんなものは作戦とも呼びがたい。
縋るならば、逃避以外の何物でもないのだ。
祈るように視線を送るファンだったが、
――頼む、インフゥ……!
その期待のインフゥが足を止めてしまう。
「!?」
インフゥは我が目を疑った。
――ミョン・イルラン……!
眼前に現れた死人の顔を、インフゥは憶えている。
上覧試合で戦った剣士だ。
――精剣!
手にしている武器も、見覚えがあった。
「ッ!」
警戒は停止を呼んでしまう。ホッホの感覚が教えてくれたのは、警告が最も強かったのだから。
「バカメ」
ミョンはそういった。
停止したインフゥへ振るった剣は精剣ではない。形こそ同じだが、ただの剣だ。
――見てたのに!
受け止めたインフゥは、グッと唸った。鍔迫り合いの形になってしまえば、体格で劣るインフゥが不利だ。鍔迫り合いが弱いのでは話にならないと、キン・トゥからもファンからも教えてもらっているにしても、だ。
斥候に出たインフゥは、ここにフミ以外の人間がいない事を見ていた。
ミョンの精剣を宿している女はいない。そして精剣は、鞘となっている女性の死亡で消滅する。
「来ぉーい!」
ミョンが叫ぶように声を張り上げると、上空から耳を劈く雄叫びが聞こえた。
「翼竜!」
誰ともなく出て来た言葉は、フミが呼び出せる死人が人だけでなく、魔物も含まれる事を知らせてきた。
逃げろという声もあがったが、鍔迫り合いになっているインフゥは逃げられない。
「俺は、また戻ってこられる。そういう最上級のスキルを持つ方がいるからな」
ミョンが目と口を開き、嗤った。
「お前は、どうなんだ!? ファン・スーチン・ビゼンのノーマルに、そんなものがあるのか!?」
いうが早いか、翼竜は一斉に火球を吐き出し、頭上から降らせる。
フミのいう遊びの時間が終わった事を告げる炎だ。
「ぎゃあああ!」
「うわあああ!」
上がっているのは悲鳴だけでなく、断末魔も含まれている。
「おい、おい!」
怪我で済んだ者も、重傷を負った隣人を抱きかかえて声を掛けてしまう。
それは隙だ。
隙以外の何物でもない。
停止してしまった前線へ、炎が、火球が、浴びせかけられる。
「ユージン、あの手で行く!」
それを見たパトリシアがワールド・シェイカーを構えた。
「ああ!」
ユージンも同様に帝凰剣を構える。
「タービュランス!」
前線の大地を隆起させるパトリシア。壁を作るのではなく、鋭い切っ先を思わせる岩だ。
「オーラバード!」
その切っ先から飛び立つオーラバードは、上空を旋回している魔物を狙う。
「繰り返す!」
帝凰剣を握るユージンは、脂汗を浮かべながらオーラバードを飛翔させた。翼竜も首を落とさなければ消えない。この数を正確に操るのは、ユージンも限界がある。
その光景は、ヴィーが眉間に刻んでいる皺を一層、深くさせた。
「ファン、これじゃフミの所まで辿り着けないぞ」
元々、戦力差が存在する上、ミョンがいった通り、フミの軍勢は復活する。精剣スキルによるものなのだから。
「まずは退いたらどうだ? 幸い、死人は頭が悪い。おびき寄せる事だって――」
「いいや、ダメだ」
ヴィーの言葉を遮ったファンの口調は、剣士のものだった。
そして剣士ファンの決断は一つである。
「斬り込む!」
それしか有り得ない。
しかしヴィーは、それこそ顔を青くしてしまう。
「無茶だぞ!」
仮にファンが讃州旺院非時陰歌を自在に使えるとしても、そのスキルは大火力でも大規模でもないのだから。
それでも、とファンは兄弟弟子を見返す。
「ヴィーのいってた、俺たちは帥ではないっていうの、よくわかった。将帥は、兵士を駒だとするんだろう」
ファンは、全戦で戦っている者を駒として扱えない。
「俺は旅芸人だ。一座だ。ダチと家族は見捨てられねェ」
ファンはヴィーから前線へと視線を移していた。
大して親しくなる理由も状況もなかったはずだ、という者もいるだろう。事実、ファン自身、いわれた記憶もある。
だが、それがファンの気性であり、気質だ。
「苦難なら、みんなで戦う」
大将が全戦へ出てきたらフミも動くはず、というのは目のない賭けかも知れないが、ファンは前線へ出ると決めた。
ヴィーも、この期に及んで止める言葉はない。
「ドラゴンスケイル」
ヴィーがスキルを発動させた。ヴィーの身体を鎧が覆い、左手に盾が現れる。
「俺も行く」
ヴィーは強く鼻を鳴らし、右手でファンの胸を突いた。
「戦うだけじゃない。みんなで生き残る。みんなで帰るんだろ」
ファンとエルの三人で暮らしていきたかったというヴィーなのだ。
兄弟弟子に対し、ファンは――、
「……もし全部、終わった後、俺が死んでたら、エルを頼むぜ」
ファンはフッと笑い、そんな事をいった。
ヴィーが求めて止まなかったエルと非時を托すといわれても、ヴィーが返す言葉は、実に短い。
「アホか」
確かにエルがヴィーの元に来て、ファンの思い出は永遠に二人と共にあるのかも知れないが、それで丸く収まるはずもない。
「俺が望んでるのは、お前とエルと俺の三人で、この世界の全ての人を笑顔にする事だ」
ファンが望んでいる事を、ヴィーも望んでいる。
「俺がいいたかった一番の文句は、なんで俺も誘わなかったのかって事と、宛てのねェ旅にエルを連れていくなって事だ」
ヴィーはドンッと、ファンの胸を心持ち強く叩いた。
「死なずに生き残れ。みんなで帰るっていっただろう。そしてみんなで、俺が話を付けてきた大公殿下の理想を成す旅に出るんだよ」
「すまん!」
そういうと、ファンは前線へと駆け出す。
ただ指しているのは、今、前線はファンとヴィーが描いた通りの絵図面になっている事だ。
不意を突いて奇襲を成功させたため、今ばかりは死傷者を出していないが、このまま無傷で一方的な展開を続けられるはずがない。
だからこそ、フミはこの展開を「遊び」と表現し、椅子に深々と腰を下ろした姿は観劇でもしているかのよう。
「死者がでるまでもない。怪我人が出たら? そこからが本番だぞ?」
フミにとっては喜劇である。怪我人が出た時、その衝撃を皆が受け流せるかどうか――それを考えると、フミは自分にとって愉快な事しか思い浮かべない。
兵士ならば、怪我人や死人が出たショックを、ある程度以上、受け流せる。また効率的に負傷者を下がらせる術を知っているし、それを指揮できる将帥がいるのだから。
簡単な事だが、ファンたちが出来ていると思っていないのがフミだ。
「まともな軍師がいないのか?」
フミが嘲笑を向けるその先で、インフゥはバウンティドッグを縦横に振るっている。
――撹乱! 兎に角、撹乱!
インフゥはバウンティドッグを一閃させると共に、空中で身体を捻って着地位置を整えた。バウンティドッグによってホッホの感覚を得られるインフゥには、首が絶対の急所となっている死人は格好の獲物といえる。
元より犬の狩りとは、敵の喉元に食いつくもの。
着地と同時に切っ先で弧を描き、二人目の首を断つ。手足と違い、首は筋肉も骨も太いのだが、今やインフゥはファンの高弟だ。断つ力は十分、身についている。
確実に急所を捉え、捉えられないならば徹頭徹尾、逃げる。
そうする事で敵陣に乱れが生じていくのだから、インフゥにも分かった。
――指揮されてる訳じゃない!
フミの精剣ヘロウィンは死人を復活させるが、その死人は大半が意識らしい意識を持っていない。目立つ者に殺到するしか能がなく、ただ押しつぶそうとしてくるだけ。
――戦える!
年少であるインフゥは首を断つには跳躍する必要があるのだが、これもホッホの感覚が完全に補弼してくれる。顎を上げる、身体を捻る、腕を振る……そんな動作で着地位置を巧みに変え、着地直後の硬直を狙わせない。
そしてインフゥへ死人が集中すると、コバックの投じるライジングムーンが纏めて狩っていく。
投擲して宙を飛翔させるライジングムーンは、剣士を丸腰にしてしまうのが、そこを狙おうともコバックは人間ではなくオーク。男オークに比べて肉が付きにくいとはいえ、体脂肪率は14%以下と並の人間よりも優れた体躯を持つコバックは怪力だ。
「ッ」
流石にコバックも首を捥ぎ取るような事はできないが、肘打ちの一発で頸椎をへし折り、周囲に戦闘不能にした敵を山と積み上げていく。
インフゥとコバックの奮戦は勢いづかせる。
「押せ! 押せ!」
誰からともなく、村人が声を張り上げていた。
ファンの狙いは功を奏している。ワールド・シェイカーで目眩まし、精剣スキルではなく矢で攻撃、オーラバードで薙ぎ倒し、そこへインフゥとコバックを投入――村人が負ったのは軽傷のみ。
しかし熱狂のまま押そうとするのは、それで勝てるという確信から来るものではない。
恐怖だ。
戦場である。何が起きるかなど、分かったものではない。事実、村人は複数の精剣を備えているにもかかわらず、村を奪われ、ここまで後退させられていたのだ。
早く済ませられるならば早く済ませたい――そんな重圧が、短いとしかいいようのない「押せ」という単語に込められている。
***
戦場に木霊している、押せ、止まるな、仕留めろ、という悲鳴のような短い言葉は、後方のファンやヴィーには聞こえていない。
前戦の悲鳴より、指揮を執るヴィーは気にしなければならない事がある。
「血路が開かない」
ヴィーの口調に苛立ちが滲んだ。危うい傾向である。まだ戦端が開いて、いくらも経っていないにも関わらず、焦っているのだ。
陽の高さは角度を殆ど変えておらず、これは場合によっては数日にも及ぶ事のある野戦の常識からいえば、一瞬に等しい。
落ち着けというファンだが……、
「一瞬で血路が開く訳がないッスよ」
そういう言葉が出るのは、ヴィーが苛立った声を出してくれたが故だ。もしヴィーが苛立ち任せにいなければ、ファンの方がいっていた。
ファンとヴィーも、早く終わらせたいという気持ちは強い。そんなものは逃避に過ぎないと分かっているが、その上でも感じる。
奇襲は成功し、インフゥとコバックを前線に投入した。
混乱し、インフゥとコバックに集中した死人共が遺跡への一本道を開けてしまえば、そこへファンとヴィーが滑り込み、一気にフミのところへ斬り込む手筈だが、こんなものは作戦とも呼びがたい。
縋るならば、逃避以外の何物でもないのだ。
祈るように視線を送るファンだったが、
――頼む、インフゥ……!
その期待のインフゥが足を止めてしまう。
「!?」
インフゥは我が目を疑った。
――ミョン・イルラン……!
眼前に現れた死人の顔を、インフゥは憶えている。
上覧試合で戦った剣士だ。
――精剣!
手にしている武器も、見覚えがあった。
「ッ!」
警戒は停止を呼んでしまう。ホッホの感覚が教えてくれたのは、警告が最も強かったのだから。
「バカメ」
ミョンはそういった。
停止したインフゥへ振るった剣は精剣ではない。形こそ同じだが、ただの剣だ。
――見てたのに!
受け止めたインフゥは、グッと唸った。鍔迫り合いの形になってしまえば、体格で劣るインフゥが不利だ。鍔迫り合いが弱いのでは話にならないと、キン・トゥからもファンからも教えてもらっているにしても、だ。
斥候に出たインフゥは、ここにフミ以外の人間がいない事を見ていた。
ミョンの精剣を宿している女はいない。そして精剣は、鞘となっている女性の死亡で消滅する。
「来ぉーい!」
ミョンが叫ぶように声を張り上げると、上空から耳を劈く雄叫びが聞こえた。
「翼竜!」
誰ともなく出て来た言葉は、フミが呼び出せる死人が人だけでなく、魔物も含まれる事を知らせてきた。
逃げろという声もあがったが、鍔迫り合いになっているインフゥは逃げられない。
「俺は、また戻ってこられる。そういう最上級のスキルを持つ方がいるからな」
ミョンが目と口を開き、嗤った。
「お前は、どうなんだ!? ファン・スーチン・ビゼンのノーマルに、そんなものがあるのか!?」
いうが早いか、翼竜は一斉に火球を吐き出し、頭上から降らせる。
フミのいう遊びの時間が終わった事を告げる炎だ。
「ぎゃあああ!」
「うわあああ!」
上がっているのは悲鳴だけでなく、断末魔も含まれている。
「おい、おい!」
怪我で済んだ者も、重傷を負った隣人を抱きかかえて声を掛けてしまう。
それは隙だ。
隙以外の何物でもない。
停止してしまった前線へ、炎が、火球が、浴びせかけられる。
「ユージン、あの手で行く!」
それを見たパトリシアがワールド・シェイカーを構えた。
「ああ!」
ユージンも同様に帝凰剣を構える。
「タービュランス!」
前線の大地を隆起させるパトリシア。壁を作るのではなく、鋭い切っ先を思わせる岩だ。
「オーラバード!」
その切っ先から飛び立つオーラバードは、上空を旋回している魔物を狙う。
「繰り返す!」
帝凰剣を握るユージンは、脂汗を浮かべながらオーラバードを飛翔させた。翼竜も首を落とさなければ消えない。この数を正確に操るのは、ユージンも限界がある。
その光景は、ヴィーが眉間に刻んでいる皺を一層、深くさせた。
「ファン、これじゃフミの所まで辿り着けないぞ」
元々、戦力差が存在する上、ミョンがいった通り、フミの軍勢は復活する。精剣スキルによるものなのだから。
「まずは退いたらどうだ? 幸い、死人は頭が悪い。おびき寄せる事だって――」
「いいや、ダメだ」
ヴィーの言葉を遮ったファンの口調は、剣士のものだった。
そして剣士ファンの決断は一つである。
「斬り込む!」
それしか有り得ない。
しかしヴィーは、それこそ顔を青くしてしまう。
「無茶だぞ!」
仮にファンが讃州旺院非時陰歌を自在に使えるとしても、そのスキルは大火力でも大規模でもないのだから。
それでも、とファンは兄弟弟子を見返す。
「ヴィーのいってた、俺たちは帥ではないっていうの、よくわかった。将帥は、兵士を駒だとするんだろう」
ファンは、全戦で戦っている者を駒として扱えない。
「俺は旅芸人だ。一座だ。ダチと家族は見捨てられねェ」
ファンはヴィーから前線へと視線を移していた。
大して親しくなる理由も状況もなかったはずだ、という者もいるだろう。事実、ファン自身、いわれた記憶もある。
だが、それがファンの気性であり、気質だ。
「苦難なら、みんなで戦う」
大将が全戦へ出てきたらフミも動くはず、というのは目のない賭けかも知れないが、ファンは前線へ出ると決めた。
ヴィーも、この期に及んで止める言葉はない。
「ドラゴンスケイル」
ヴィーがスキルを発動させた。ヴィーの身体を鎧が覆い、左手に盾が現れる。
「俺も行く」
ヴィーは強く鼻を鳴らし、右手でファンの胸を突いた。
「戦うだけじゃない。みんなで生き残る。みんなで帰るんだろ」
ファンとエルの三人で暮らしていきたかったというヴィーなのだ。
兄弟弟子に対し、ファンは――、
「……もし全部、終わった後、俺が死んでたら、エルを頼むぜ」
ファンはフッと笑い、そんな事をいった。
ヴィーが求めて止まなかったエルと非時を托すといわれても、ヴィーが返す言葉は、実に短い。
「アホか」
確かにエルがヴィーの元に来て、ファンの思い出は永遠に二人と共にあるのかも知れないが、それで丸く収まるはずもない。
「俺が望んでるのは、お前とエルと俺の三人で、この世界の全ての人を笑顔にする事だ」
ファンが望んでいる事を、ヴィーも望んでいる。
「俺がいいたかった一番の文句は、なんで俺も誘わなかったのかって事と、宛てのねェ旅にエルを連れていくなって事だ」
ヴィーはドンッと、ファンの胸を心持ち強く叩いた。
「死なずに生き残れ。みんなで帰るっていっただろう。そしてみんなで、俺が話を付けてきた大公殿下の理想を成す旅に出るんだよ」
「すまん!」
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