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4.最終章
11.危険察知
しおりを挟む――身体が動かない。
コロネは何故自分がこのような状況になったのかもわからず、視線を動かした。
何故か白い空間のようなものに、全身黒い鎖でグルグル巻きにされた状態で宙に浮いているのだ。
わからない。猫とは離れていなかった。
4人で普通に稽古をしていたはずだったのだ。
時折シルビアから嫉妬の視線を投げかけられたりはしたが、特に怪しい動きもなかった。
猫もすぐ隣にいたはずなのに、何故自分はこのような状態になっているのだろう?
目の前には憎悪の目でこちらを睨む全身黒い身体の女が立っている。
その背に生える黒い羽は――まるで神話の魔族を彷彿とさせた。
コロネはその女性の顔に見覚えがあった。
いや、そっくりというわけではないのだが、どことなく似ていたのだ。
そう、先ほど稽古をしていた相手に。
「なんで、あんたなんだ」
女が問う。
「……なにが……」
コロネが答えようとした瞬間。
「あっ……がっ……!?」
黒い鎖がみしみしと音をたてコロネを縛り上げ、激痛にコロネが悲鳴をあげた。
「どう?苦しい?でも私の方がもっと苦しかった。あの人の事が好きなのに! いつもいつも隣にいるのはあんたでっ!!」
ギシギシと鎖がさらに食い込んでいく。
あまりの激痛にコロネは声をあげることすらできず、痛みに悶えた。
「あんたさえ、居なければ、あの人は自分のものなのに!?
あんたさえいなければいい!!そうだ死ねっっ!!」
女が叫んだその瞬間。女の身体はまっぷたつに切り裂かれた。
そう、猫の手によって。
猫の姿を確認すると――コロネはそのまま意識を失った。
△▲△
「ごめん。油断していた」
気がつくと、なぜ自宅のベットで猫に抱きしめられていた。
「ここは……」
「もう家についた。気がつかなったらどうしようかと思った」
言う、猫の声は震えていて、コロネを抱きしめるその手もこころなしか震えていた。
「……何があったのでしょうか?」
コロネが問えば、
「魔族に精神世界に連れ込まれていた。まさかグレイが魔族に乗っ取られているとは思わなかった。
本当にごめん」
――そう、女性の顔はシルビアではなく、グレイに似ていた。人懐っこい顔に憎悪を浮かべていたのだ。
魔族は巧妙に神力と自分の魔力を似せ、その気を気づかれないようにし、シルビアと一緒にいることで、グレイの嫉妬を猫に気付かせないようにしていた。
けれど、神力のある相手に魔族が手出しできる事はそうそうない。
グレイのコロネへの嫉妬が魔族に利用されたのだ。
神力を魂の奥底に封じ込め、自分の気を巧妙に神力に似せて、その姿を隠していた。
グレイの内包していた力が他の者より、少なかったこと。
そしてグレイの嫉妬心。
乗取った魔族が、かなり上位の魔族だったからこそできた事だった。
「相手がエルギフォスな時点で、魔族に警戒するべきだったんだ。
それなのに物理的な相手にばかり気を取られていた。
自分のミスだ」
「……でも、こうして助けてくれました」
「でも、もう少しで死ぬところだった」
言って、更に強く抱きしめられる。
その声が彼らしくなく、震えていて、猫でもこんな声を出すことがあるのかとコロネは内心驚く。
「猫でもそんな声を出す時があるのですね」
「……茶化すなよ」
「……すみません」
猫が言う声がいつになく怖くて、コロネはそのまま押し黙った。
抱きしめられているため、猫の顔は自分の後ろで顔は確認できないが、もしかしたら泣いているのかもしれない。
何と声をかけていいのかわからなくて、コロネは結局そのままの状態で天井を見上げた。
――未来の自分ならもっと気の利いた事がいえたのだろうか?
そして、コロネも彼を神格化しすぎていたことを反省する。
彼も神力があるだけでベースは普通の人間なのだ。
あの時一瞬感じた悪寒を猫に伝えていれば、猫も異変を察知できていたかもしれない。
猫なら自分が言わなくてもわかっているだろうという勝手な思い込みが、今回の事態を招いたのだ。
コロネは彼に頼りすぎていた。
ああ、もっと強くならないと――せめて自分の身は自分で守れるくらいに。
猫に抱きしめられながら、コロネはそう誓うのだった。
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