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4.夫婦編
4.宣戦布告
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「私、立派な聖女になりますわ」
私に用意された神官長婦人用の豪華な部屋で聖女様に告げられる。
はい。どういう風の吹き回しかは知りませんが、神官長が仕事に出かけた途端、聖女様が私と話をさせろと押しかけてきた次第でして。
フランツをチラリと睨めば、申し訳ないと言わんばかりに頭を下げられる。
どうやら彼も止められなかったらしい。
「それはご立派な事で。
ですが何故それを私に?」
いつものようにテーブルに用意されたお菓子をぱくつきつつ、私は尋ねた。
もう地位的には神官長の妻という事であまり聖女様と大差ない位置に居るはずです。
遠慮することもないでしょう。
と、いうか。こういうわずわらしい事は全部フランツが片付けてくれる約束だったので、多少不遜な態度をとった所で怒られる事もないでしょうし。
「宣戦布告です。
神官長に振り向いていただけるような立派な聖女になって、必ず貴方から奪ってみせます。
神官長と貴方が別れれば、不倫にはなりません」
と、告げられる。
はい。なかなか面白い事を言うお嬢様ですね。
この間神官長に不倫はいけないと怒られた事を気にしているのでしょうか。
「それで、聖女様は私にどんな反応をしてほしいのでしょう?」
クッキーをぱくつきつつ聞けば、聖女様はにっこり笑い
「何も言っていただかなくても結構です。ただ私が言いたかっただけですから」
言って、そのまま立ち上がる。
その瞬間に少しだけ聖女様の記憶が見えてしまい、少し同情する。
彼女は本当に神官長を愛していたのでしょう。
小さい時から、親と引き離されて、夜中に泣いていれば必ず神官長が絵本を読んで寝かしつけてくれて。
シスターリゼリアに理不尽な要求をされれば、全力で神官長が守ってくれた姿が彼女を通してみえてきます。
神官長はよほど彼女の事を気にかけていたようで、悲しいときや側に居て欲しいとき、必ず彼女の側で支えていたようです。
これで惚れるなという方が無理からぬことかもしれません。
将来は神官長のお嫁さんになると修行を頑張っているところに、どことも知れぬ女騎士に急に横取りされたわけで。
彼女が意固地になるのもわかる気がします。
「絶対に、貴方を越える強い女性になって、振り向かせてみませます。
覚悟していてください」
そう言う彼女の顔は。
何故かいつもの幼い顔ではなく、大人の女性の顔に見えました。
――はい。とてもメンドクサイです。
凛とした表情でそれだけ言って立ち去る彼女の背を、眺めながら、私はクッキーをぱくついた。
少し胸にちくりとしたものを感じながら。
***
「何故、貴方は私を選んだのでしょう?」
寝室で。彼の腕枕の中で聞いてみる。
「……はい?」
「今日、聖女様が私の部屋に訪ねてきました。
何故、何年も一緒だった彼女ではなく、私を選んだのか不思議に思いまして」
「あの子がですか……?
何かされたのでしょうか?」
「いえ、特には。
ただ、立派な聖女になると宣言されていきました」
「……そうですか。
いつもあの子が迷惑をかけてすみません」
言って、神官長は私の髪を指で遊ぶかのようにからめとり
「――そうですね。初めて会った時。
あなたがあまりにも幸せそうに食事をしている姿を見てから、気になっていたような気がします」
「食事ですか?」
「はい。遠征前に皆で食事をとっていたとき、凄く幸せそうに食べている貴方を見て、この人と食事をしたら楽しいだろうなと」
言って顔を赤くして微笑む彼に、私は思い出した。
そう、神官長をはじめて護衛した時、遠征隊には神官長より食事が用意され、その食事は貧乏騎士には豪華すぎる内容でした。
いまでは普通に食べていますが、庶民なら口にできないようなフルーツや肉などが振舞われたのです。
ああ、いま思い出しても確かに至福の時間でしたね。
口に広がる甘いフルーツの味も、柔らかく口の中でとろけるような肉も、とても美味しくて。
隣の騎士の分まで分捕ろうか本気で考えたほどでした。
「……にしても、私はそんなに幸せそうな顔をしていましたか?」
「はい。とても。
レイナが食事をしているときの幸せそうな顔が好きです」
と、ニコニコ顔で言う。
なるほど。いつも朝食と夕食は意地でも私と一緒にと仕事を切り上げてくるのはそういう理由でしたか。
にしても、旨そうに食べる顔に負けたなどと聖女様には説明しにくい理由ですね。
「もちろん、それだけではありませんが」
言って私のおデコにキスを落とす。
――はい。平日は私が手をださない事を知っているせいか、神官長がやや積極的になるのが可愛いですね。
最近は休日と休日前はいつ私が手をだすかとびくびくするようになりました。
少し虐めすぎてしまったようです。
こう、予定ではもうすこしナチュラルに彼をMにする予定だったのですが、最初から飛ばしすぎた感はあります。
ちょっとハードなプレイを強要してしまったので、警戒するようになってしまいました。
とても悔しいですが少し自重すべきでしょうか?
私が真剣に悩んでいると、怒っていると勘違いしたのか神官長が、困った顔をして
「……そんな理由ではいけなかったでしょうか?」
「いえ、そんな事はありませんよ」
言って微笑む。
はい、どうやって神官長を自然にセックスに誘えるかなどと考えていたなどと、とてもじゃないですが言えません。
「私も、何故プロポーズを受けていただけたのか聞いてもいいでしょうか?」
「聞きたいですか?」
私が悪戯っぽい笑を浮かべれば、神官長が困った顔になる。
どうやら彼も気づいたようです。
このような顔をするときは、大抵あまりよろしくない未来が待っているということを。
「今日はやめておきます」
と、苦笑いを浮かべた。はい。賢明な判断ですね。
聞かれていたら、そのまま喘がせてみたかったと襲いかかる所でした。
平日は自重しないといけませんね。
それは残念ですねと、微笑めば神官長は少し焦った顔をして、さて、そろそろ寝ましょうかと、明かりを消す。
「おやすみなさい。レイナ」
言って彼は私の頭を優しく撫でるのだった。
私に用意された神官長婦人用の豪華な部屋で聖女様に告げられる。
はい。どういう風の吹き回しかは知りませんが、神官長が仕事に出かけた途端、聖女様が私と話をさせろと押しかけてきた次第でして。
フランツをチラリと睨めば、申し訳ないと言わんばかりに頭を下げられる。
どうやら彼も止められなかったらしい。
「それはご立派な事で。
ですが何故それを私に?」
いつものようにテーブルに用意されたお菓子をぱくつきつつ、私は尋ねた。
もう地位的には神官長の妻という事であまり聖女様と大差ない位置に居るはずです。
遠慮することもないでしょう。
と、いうか。こういうわずわらしい事は全部フランツが片付けてくれる約束だったので、多少不遜な態度をとった所で怒られる事もないでしょうし。
「宣戦布告です。
神官長に振り向いていただけるような立派な聖女になって、必ず貴方から奪ってみせます。
神官長と貴方が別れれば、不倫にはなりません」
と、告げられる。
はい。なかなか面白い事を言うお嬢様ですね。
この間神官長に不倫はいけないと怒られた事を気にしているのでしょうか。
「それで、聖女様は私にどんな反応をしてほしいのでしょう?」
クッキーをぱくつきつつ聞けば、聖女様はにっこり笑い
「何も言っていただかなくても結構です。ただ私が言いたかっただけですから」
言って、そのまま立ち上がる。
その瞬間に少しだけ聖女様の記憶が見えてしまい、少し同情する。
彼女は本当に神官長を愛していたのでしょう。
小さい時から、親と引き離されて、夜中に泣いていれば必ず神官長が絵本を読んで寝かしつけてくれて。
シスターリゼリアに理不尽な要求をされれば、全力で神官長が守ってくれた姿が彼女を通してみえてきます。
神官長はよほど彼女の事を気にかけていたようで、悲しいときや側に居て欲しいとき、必ず彼女の側で支えていたようです。
これで惚れるなという方が無理からぬことかもしれません。
将来は神官長のお嫁さんになると修行を頑張っているところに、どことも知れぬ女騎士に急に横取りされたわけで。
彼女が意固地になるのもわかる気がします。
「絶対に、貴方を越える強い女性になって、振り向かせてみませます。
覚悟していてください」
そう言う彼女の顔は。
何故かいつもの幼い顔ではなく、大人の女性の顔に見えました。
――はい。とてもメンドクサイです。
凛とした表情でそれだけ言って立ち去る彼女の背を、眺めながら、私はクッキーをぱくついた。
少し胸にちくりとしたものを感じながら。
***
「何故、貴方は私を選んだのでしょう?」
寝室で。彼の腕枕の中で聞いてみる。
「……はい?」
「今日、聖女様が私の部屋に訪ねてきました。
何故、何年も一緒だった彼女ではなく、私を選んだのか不思議に思いまして」
「あの子がですか……?
何かされたのでしょうか?」
「いえ、特には。
ただ、立派な聖女になると宣言されていきました」
「……そうですか。
いつもあの子が迷惑をかけてすみません」
言って、神官長は私の髪を指で遊ぶかのようにからめとり
「――そうですね。初めて会った時。
あなたがあまりにも幸せそうに食事をしている姿を見てから、気になっていたような気がします」
「食事ですか?」
「はい。遠征前に皆で食事をとっていたとき、凄く幸せそうに食べている貴方を見て、この人と食事をしたら楽しいだろうなと」
言って顔を赤くして微笑む彼に、私は思い出した。
そう、神官長をはじめて護衛した時、遠征隊には神官長より食事が用意され、その食事は貧乏騎士には豪華すぎる内容でした。
いまでは普通に食べていますが、庶民なら口にできないようなフルーツや肉などが振舞われたのです。
ああ、いま思い出しても確かに至福の時間でしたね。
口に広がる甘いフルーツの味も、柔らかく口の中でとろけるような肉も、とても美味しくて。
隣の騎士の分まで分捕ろうか本気で考えたほどでした。
「……にしても、私はそんなに幸せそうな顔をしていましたか?」
「はい。とても。
レイナが食事をしているときの幸せそうな顔が好きです」
と、ニコニコ顔で言う。
なるほど。いつも朝食と夕食は意地でも私と一緒にと仕事を切り上げてくるのはそういう理由でしたか。
にしても、旨そうに食べる顔に負けたなどと聖女様には説明しにくい理由ですね。
「もちろん、それだけではありませんが」
言って私のおデコにキスを落とす。
――はい。平日は私が手をださない事を知っているせいか、神官長がやや積極的になるのが可愛いですね。
最近は休日と休日前はいつ私が手をだすかとびくびくするようになりました。
少し虐めすぎてしまったようです。
こう、予定ではもうすこしナチュラルに彼をMにする予定だったのですが、最初から飛ばしすぎた感はあります。
ちょっとハードなプレイを強要してしまったので、警戒するようになってしまいました。
とても悔しいですが少し自重すべきでしょうか?
私が真剣に悩んでいると、怒っていると勘違いしたのか神官長が、困った顔をして
「……そんな理由ではいけなかったでしょうか?」
「いえ、そんな事はありませんよ」
言って微笑む。
はい、どうやって神官長を自然にセックスに誘えるかなどと考えていたなどと、とてもじゃないですが言えません。
「私も、何故プロポーズを受けていただけたのか聞いてもいいでしょうか?」
「聞きたいですか?」
私が悪戯っぽい笑を浮かべれば、神官長が困った顔になる。
どうやら彼も気づいたようです。
このような顔をするときは、大抵あまりよろしくない未来が待っているということを。
「今日はやめておきます」
と、苦笑いを浮かべた。はい。賢明な判断ですね。
聞かれていたら、そのまま喘がせてみたかったと襲いかかる所でした。
平日は自重しないといけませんね。
それは残念ですねと、微笑めば神官長は少し焦った顔をして、さて、そろそろ寝ましょうかと、明かりを消す。
「おやすみなさい。レイナ」
言って彼は私の頭を優しく撫でるのだった。
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