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第4話 潔癖

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「まぁ、とりあえず今の状況を確認するぞ。
 ここは大陸一の勢力を持つ帝国。シャルデール。
 そして俺はシャルデール帝国の第八皇子。
 レイゼル・ファル・シャルデールという認識で間違いないか?」

 ソファにふんぞり返りながら聞くとキルディスがコクリと頷いた。

「っていうか、なんで本人がいちいちそんな事を確認してくるんですか。
 ……って、おや」

 俺を見ていたキルディスが、声をあげて俺を見つめてきた。

「どうした?」

「どういうことですかね。
 魂がよく見るとぼんやりしてます。外側にまるで何かついているような」

「どういうことだ?」

「それはこちらがお伺いしたいのですが。
 性格といい、能力といい、強さといい、もう別人じゃないですか。
 帝国皇子の中でも魔力が弱くて一番操りやすそうなのを選んだつもりだったのに、こんなコテンパンにやられるなんて思ってもみませんでしたよ」

 キルディスがトホホと肩を落としながら言う。
 まぁ、キルディスにしてみたら、半魔と馬鹿にする魔族たちを見返したくて帝国の皇子を操って功績をあげるつもりだったのに、逆にやられたのは屈辱でしかないだろう。

「安心しろよ。お前達を馬鹿にした魔族たちは俺が、生まれたことを後悔するほどの屈辱と苦痛を味合わせて滅ぼしてやるから。俺の部下になったことを後悔はさせないさ」

 俺の言葉にキルディスが頬をひきつらせた。

「奴隷紋って心まで読めるわけですか?」

「まさか、俺の鋭い推理力だ」

「推理力って、私が馬鹿にされているとか、どこでわかったんです」

「半魔な時点で確定だろ。
 魔族が人間の血のはいった奴を快く受け入れるわけがない。
 そして極めつけは俺だ。皇子を操るならもっと立場の強い人間を操るべきだ。
 俺だったら、第二皇子とその周辺の護衛の神官騎士達を複数人でのっとり操る。
 だがお前は単身乗り込んできて大して力のない俺を操ろうとした。
 お前が俺を選んだ理由は、護衛の神官騎士がいないため、魔族に操られてるのをさとられないため。つまり、協力してくれる仲間がいない。上からの命令じゃなくてお前の単独行動なんだろう? そしてそんな無謀な事をしたのは、見返したいやつがいるからだ」

 俺の言葉にキルディスは目を細める。

「なるほど。噂のような無能な方ではないらしい」

 きりっと背を伸ばしまっすぐに俺を見つめるキルディスに俺はにぃっと笑う。

「っていう推理は嘘で実は、俺は未来を知っている!」

「もう何なのこの人めんどくせぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 キルディスが絶叫を上げた。



「というわけで、今後の方針だな」

 俺が肘をついて部屋にあった固くてまずい菓子をばりばり食いながら言うと、キルディスが死んだ目で「そうですね」と頷いた。
 あのあと、キルディスにはここはゲームの世界だと説明してやった。
 そして俺が転生者ということも。俺の知っているおおまかな知識は伝えたつもりだ。奴隷紋で縛られているので俺の許可なく他言することはないだろう

「キルディスの話を聞いた限り、俺の知るゲームの知識とこの世界は全く同じだ。
 そして今この時代は魔王が復活する直前の時代だ。
 すでにお前が動いているように、魔族たちは魔王を復活させるために、眠りから覚め各々活動している。そうだろう?」

「はい。その通りです。魔族は魔王様の復活に備え、光の選定人、エルフの大賢者に存在がばれぬよう各地で行動を起こしています」

 キルディスが床に「の」の字を書きながら頷いた。

 この世界には、魔王が復活しそうになると魔王復活を防ぐために神の使徒である「エルフの大賢者」が阻止するために動き出す。
 エルフの大賢者は1000年生きており、ある時は勇者とともに魔王を封印したり復活を阻止する使命がある。
 魔王は倒されても封印扱いで定期的に復活する。基本的に選ばれし子「勇者」しかダメージを与えられない。その勇者ですら封印が手一杯なのだ。そのため、大賢者は勇者の生まれていない世代は魔王の復活を阻止するのだ。
 そしてこの時代は残念なことに勇者の生まれない年代。
 勇者が生まれてくるのはゲームでは500年後となる。

 ゲーム上では、この時代魔王は復活してしまい、大賢者は命と引き換えに魔王を封印した。エルフの大賢者VS魔王の戦いは苛烈さを極め、結局世界はほぼ崩壊する。
 わずかに生き残った人間やエルフたちが世界を再興していくのである。
 そして500年後。その封印した魔王と戦うためにプレイヤー(勇者)が、この時代に魔王と戦った英霊達、エルフの大賢者や騎士達を召喚して魔族と戦いながら冒険の旅にでるのである。

 ゲームの500年後の世界も一度世界が滅んだのが厳しかったらしく、あまり文明は発達していない。それだけこの時代の被害が大きかったということだろう。

 ちなみに裏ボスであるレイゼルは最強の【深淵の迷宮】のボスとして君臨するものの、魔王との闘いは結局両者ともダメージを与えられずに、イーブンのまま、魔王に迷宮事別次元の飛ばされてしまい、追放。結果レイゼルは破れてしまうことになる。

 時系列にすると 魔王復活→魔王VS裏ボスレイゼル→ 裏ボスレイゼル、魔王に迷宮事異空間に飛ばされ強制退場 → エルフの大賢者VS魔王 → エルフの大賢者が魔王を封印するも戦いの余波で世界ほぼ崩壊 → 残ったわずかな人類が世界再興→ 500年後勇者(プレイヤー)誕生 という形だ。
 
「なんとか魔王の復活を防がないと世界がほぼ崩壊するってことだよな」

 ばりっと菓子をかみ砕いていうと、キルディスはふふんと笑う。

「その通りです。いっそのこと全部滅んでしまえば小気味いいのに」

「なんで嬉しそうなんだよ。滅んだら俺達だって死ぬんだぞ」

「正直人間も魔族も嫌いだからです」

「虐げられていたからか?」

 俺が聞くとキルディスが皮肉めいた笑みを浮かべる。

「そうですよ。私は父も母もどちらからも酷い扱いを受け殺されました。それも惨いやり方で。私という存在を残したばかりにです。どちらも憎くて仕方ないからせめて殺せるほうと魔族側を選んだんじゃないですか。まさか慰めてくれるんですか?」

「いんや。お前の言う通りだ。お前は間違っていない、復讐は正当な権利だ」

「へ?」

「虐げてくれた連中に陰湿な復讐を。絶え間ない絶望と後悔を。
 俺はレイゼルを虐げていた他皇子を必ず名声もプライドもへし折ったうえで地獄に堕とす。世界のためでもなんでもなく、俺自身の気晴らしのために!!!
 やっぱり虐めてきたやつは滅ぼすべきだよなっ!?
 世界を救うなんてたいそうな目的はそのあとだ!」

 俺がガッツポーズを取りながら目を輝かせて言うと。

「……貴方に肯定されるとなぜか間違った意見に聞こえてくるのはなんででしょうかね。感情が乱気流すぎて気持ちが追い付かないんですけど」

 ツンデレみたいなことを言いだすキルディス。

「なんでだ!?全肯定しただろう!?」

「いや、本当なんでですかね。自分でもよくわからないです」

「ツンデレが可愛いのは二次元の眼鏡女子か幼女のみだ、ツインテールも捨てがたい。もちろん異論は認める。だが男がツンデレでも可愛くないぞ。
 まぁ、いい。俺の部下になった以上、退屈はさせないさ。どうせついでだ、お前を虐げていた魔族連中もまとめて、俺が屠ってやる。黙って俺についてこい」

 そう言って俺がにかっと笑って手を差し出すと、キルディスは驚いた顔をしたあと、ふぅっとため息をつくと……俺の手をハンカチで拭き始めた。

「手にお菓子がついてる人と握手はちょっと」

「潔癖か」

 俺がすかさず突っ込むのだった。
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