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第27話 麻薬
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「獣人の国ドベルが麻薬を栽培し、帝国に密輸していた証拠があがった。討伐に向かう」
皇帝の招集で謁見の間に集められた貴族達が皇帝の言葉に静まり返る。
皇子の俺も当然ながらここにいるのだが、先の戦いでだいぶ皇子が減ってしまってそこそこいい位置にいれるようになった。俺は皇帝の様子にやれやれと内心ため息をつく。
ここに集められた連中も、皇帝が兵士達を集めていたことからどこかしら戦争を仕掛けるということは察していただろう。
だが、西の獣の国というのはかなりの人物にとっては想定外だったはずだ。
双璧であるカンドリア辺境伯と親睦のある国なのだ。
カンドリアに友好的な彼らがいるからこそ西からの侵略がなく、帝国は安寧を謳歌できたともいっていい。
その西の獣の国に侵略するのは、通常の者なら愚行だと進言するだろう。
そもそも西の獣の国で麻薬が栽培できるわけなどない。気候と魔力の質が栽培に向いていない。それでもだれも異議を唱えない。帝国はもうすでに皇帝の絶対的支配下だ。
誰も逆らえる者がいないのである。皇帝が白い鳥を黒と主張すれば黒になる状態。
戦争は確実に始まるだろう。
ゲーム上ではこの戦いは辺境伯カンドリアとその娘のラシューラの死にイベントでもあった。
『皇帝のやることがえげつなくなってますね』
脳内でキルディスが話しかけてくる。
『そりゃな、エルフの大賢者がダウンしているうちにやれることをやっておきたいんだろ』
俺が皇帝の方を見ると、皇帝はゆっくりと立ち上がり、錫杖を持ち上げる。
「獣人の国を侵略し、支配下におく」
皇帝の声が響くのだった。
★★★
「お父様!!!」
カンドリア領の執務室で、辺境伯に娘のラシューラが詰め寄った。
「なんの用だ。ラシューラ」
頬杖をついて、カンドリア辺境伯が言うと、娘のラシューラはばんっと机を叩く。
「獣人の国ドベルに侵略に向かう帝国軍をわが領地に受け入れるなど本気で言っているのですか!? 西の獣の国は我が国と親睦もありとても謀反をおこすような国ではありません!!」
「だが、密輸をしていたのは事実だ。麻薬をわが領土に卸していた」
「それが捏造だといっているのです!!大体皇帝が育てていたと主張していた麻薬はあそこの気候で育つわけがない!!父上ならそんな簡単な事わからないわけじゃないでしょう!!」
ラシューラの言葉に、辺境伯は立ち上がる。
「ラシューラを下がらせろ」
同室にいた部下に命令をすると、ラシューラに背を向けた。
「お父様!!」
その背にラシューラが叫ぶが、ラシューラは辺境伯の部下に部屋の外に連れ出されてしまう。
しばらくラシューラが扉の前で叫んでいるのが聞こえたが、中に入れないと悟ったのか、その声が聞こえなくなり、辺境伯はため息をついた。
とたん、ぐらりと空間が揺れた。
そして――ピンク髪の美女。魔族ペルシが笑いながら現れる。
「お前の言う通りにしてやった。帝国兵を迎え入れる。本当に娘と領地には手をださないと約束するのだろうな」
辺境伯の言葉に、ペルシは「もちろんよ♡」と微笑んだ。
★★★
「いまなら間に合います。帝国軍がこの領地につく前に獣人たちを獣人の国ドベルの砦までを避難させましょう」
騎士団の宿舎でラシューラが地図を広げながら、自らが結成した私設騎士団に告げる。
そう、カンドリアと獣人の国ドベルは長らく平和だったため、カンドリアから獣人の国ドベルの防御の要である要塞まで、いくつか獣人たちの村が存在する。
もし何も伝えぬまま、帝国がカンドリア領にきて、進軍してしまったら、点在する村の住人は嬲り殺されてしまう恐れがある。
「しかしそんなことをしたら我が領地が関与していたと罰せられます」
騎士の一人の言葉に他の騎士もうなずいた。
「変装をしてこっそりやります。父には迷惑をかけません」
騎士達に告げるラシューラ。その瞳にははっきりと決意が見て取れる。
「お嬢様」
騎士たちの目がラシューラに向いた。
「目の前の弱きものを救うそれが我々の正義のはずですわっ!このような戦争法違反の帝国のやり方に目をつぶっていたら我らの正義はどうなります?」
ラシューラの言葉に押し黙る騎士達。そう彼らも帝国のやり方に不満を感じていた。そしてなにより正義を最も誇りにしていたはずのカンドリア辺境伯が皇帝の横暴に何一つ抗議しない事への失望も大きかったのだ。
ここでやすやすと帝国を招きいれてしまったら、彼らは一生後悔するだろう。
「……わかりました」
会議に参加した騎士達は全員頷くのだった。
★★★
「それでは第二皇子に先陣をまかせ、第八皇子はそれに続いてもらう」
帝国の謁見の間で、皇帝がにやりと俺達に告げる。
――そう、皇帝はここで邪魔な皇子を一掃するつもりだ。
皇帝に跡継ぎなどいらないのだ。彼が不老不死を手に入れる予定なのだから。
むしろ暴君の代わりにと祭り上げられる可能性がある皇子は邪魔だ。
成人していない皇子達を残しておいたほうが都合がいいのだろう。
まぁゲーム上でもレイゼルは見殺しにされそうになるが闇の紋章の力で生き残るのだが。
「かしこまりました」
第二皇子と俺が皇帝に頭を垂れる。
「カンドリア辺境伯の娘が獣人の国ドベルの住人達に我らの進軍を密告した。それを理由に辺境伯を殺してこい」
そう言って、皇帝が持っていた水晶に映ったのは、獣人の国の民を砦に避難させるラシューラの姿が映っていた。
皇帝の招集で謁見の間に集められた貴族達が皇帝の言葉に静まり返る。
皇子の俺も当然ながらここにいるのだが、先の戦いでだいぶ皇子が減ってしまってそこそこいい位置にいれるようになった。俺は皇帝の様子にやれやれと内心ため息をつく。
ここに集められた連中も、皇帝が兵士達を集めていたことからどこかしら戦争を仕掛けるということは察していただろう。
だが、西の獣の国というのはかなりの人物にとっては想定外だったはずだ。
双璧であるカンドリア辺境伯と親睦のある国なのだ。
カンドリアに友好的な彼らがいるからこそ西からの侵略がなく、帝国は安寧を謳歌できたともいっていい。
その西の獣の国に侵略するのは、通常の者なら愚行だと進言するだろう。
そもそも西の獣の国で麻薬が栽培できるわけなどない。気候と魔力の質が栽培に向いていない。それでもだれも異議を唱えない。帝国はもうすでに皇帝の絶対的支配下だ。
誰も逆らえる者がいないのである。皇帝が白い鳥を黒と主張すれば黒になる状態。
戦争は確実に始まるだろう。
ゲーム上ではこの戦いは辺境伯カンドリアとその娘のラシューラの死にイベントでもあった。
『皇帝のやることがえげつなくなってますね』
脳内でキルディスが話しかけてくる。
『そりゃな、エルフの大賢者がダウンしているうちにやれることをやっておきたいんだろ』
俺が皇帝の方を見ると、皇帝はゆっくりと立ち上がり、錫杖を持ち上げる。
「獣人の国を侵略し、支配下におく」
皇帝の声が響くのだった。
★★★
「お父様!!!」
カンドリア領の執務室で、辺境伯に娘のラシューラが詰め寄った。
「なんの用だ。ラシューラ」
頬杖をついて、カンドリア辺境伯が言うと、娘のラシューラはばんっと机を叩く。
「獣人の国ドベルに侵略に向かう帝国軍をわが領地に受け入れるなど本気で言っているのですか!? 西の獣の国は我が国と親睦もありとても謀反をおこすような国ではありません!!」
「だが、密輸をしていたのは事実だ。麻薬をわが領土に卸していた」
「それが捏造だといっているのです!!大体皇帝が育てていたと主張していた麻薬はあそこの気候で育つわけがない!!父上ならそんな簡単な事わからないわけじゃないでしょう!!」
ラシューラの言葉に、辺境伯は立ち上がる。
「ラシューラを下がらせろ」
同室にいた部下に命令をすると、ラシューラに背を向けた。
「お父様!!」
その背にラシューラが叫ぶが、ラシューラは辺境伯の部下に部屋の外に連れ出されてしまう。
しばらくラシューラが扉の前で叫んでいるのが聞こえたが、中に入れないと悟ったのか、その声が聞こえなくなり、辺境伯はため息をついた。
とたん、ぐらりと空間が揺れた。
そして――ピンク髪の美女。魔族ペルシが笑いながら現れる。
「お前の言う通りにしてやった。帝国兵を迎え入れる。本当に娘と領地には手をださないと約束するのだろうな」
辺境伯の言葉に、ペルシは「もちろんよ♡」と微笑んだ。
★★★
「いまなら間に合います。帝国軍がこの領地につく前に獣人たちを獣人の国ドベルの砦までを避難させましょう」
騎士団の宿舎でラシューラが地図を広げながら、自らが結成した私設騎士団に告げる。
そう、カンドリアと獣人の国ドベルは長らく平和だったため、カンドリアから獣人の国ドベルの防御の要である要塞まで、いくつか獣人たちの村が存在する。
もし何も伝えぬまま、帝国がカンドリア領にきて、進軍してしまったら、点在する村の住人は嬲り殺されてしまう恐れがある。
「しかしそんなことをしたら我が領地が関与していたと罰せられます」
騎士の一人の言葉に他の騎士もうなずいた。
「変装をしてこっそりやります。父には迷惑をかけません」
騎士達に告げるラシューラ。その瞳にははっきりと決意が見て取れる。
「お嬢様」
騎士たちの目がラシューラに向いた。
「目の前の弱きものを救うそれが我々の正義のはずですわっ!このような戦争法違反の帝国のやり方に目をつぶっていたら我らの正義はどうなります?」
ラシューラの言葉に押し黙る騎士達。そう彼らも帝国のやり方に不満を感じていた。そしてなにより正義を最も誇りにしていたはずのカンドリア辺境伯が皇帝の横暴に何一つ抗議しない事への失望も大きかったのだ。
ここでやすやすと帝国を招きいれてしまったら、彼らは一生後悔するだろう。
「……わかりました」
会議に参加した騎士達は全員頷くのだった。
★★★
「それでは第二皇子に先陣をまかせ、第八皇子はそれに続いてもらう」
帝国の謁見の間で、皇帝がにやりと俺達に告げる。
――そう、皇帝はここで邪魔な皇子を一掃するつもりだ。
皇帝に跡継ぎなどいらないのだ。彼が不老不死を手に入れる予定なのだから。
むしろ暴君の代わりにと祭り上げられる可能性がある皇子は邪魔だ。
成人していない皇子達を残しておいたほうが都合がいいのだろう。
まぁゲーム上でもレイゼルは見殺しにされそうになるが闇の紋章の力で生き残るのだが。
「かしこまりました」
第二皇子と俺が皇帝に頭を垂れる。
「カンドリア辺境伯の娘が獣人の国ドベルの住人達に我らの進軍を密告した。それを理由に辺境伯を殺してこい」
そう言って、皇帝が持っていた水晶に映ったのは、獣人の国の民を砦に避難させるラシューラの姿が映っていた。
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