1 / 32
序章
勝手にオカズにしていたら本人バレしました
しおりを挟むガルテオはその日、ディアスの後ろで護衛の任務に就いて始終幸せなまま夜を迎えた。
あの細身で美しい男は、オーガの嗅覚を満たす甘くスパイシーな香りを身に纏っている。だが、彼はこの行商団をとり仕切る男爵家の跡取り息子で、いわゆる高嶺の花だった。
護衛だとしても、遠目から馬車に揺られる姿をみれるだけで、接触なんてもってのほか。ガルテオは、行商団に属する一兵士に過ぎないからだ。任務は個人を守護することではなく荷の管理で、ディアスの身の守りは専門の騎士の仕事だ。
「あー……今日もいい香りだったな。ディアス様……。」
ガルテオは緩めた下履きから大きなものを取り出し、ゆっくり上下させながら記憶を辿っていく。皮もなく立派なそれは、太さも長さも人間のそれとは比較にならない。出っ張りが大きく、この段差で擦られたものは誰でもその魅力に落とせそうな勢いだ。
だが、彼は童貞である。
その立派な逸物をいまだ誰かの柔らかいところに受け入れてもらえたことのない、童貞なのだ。
そして、20代でこの行商団で兵士として働き始めて以来、ずっとディアスの後ろ姿で抜き続けている筋金入りの変態でもあった。
「今日のおかずはディアス様の姿絵!っていつもこれだよな……、はー、一度でいいから正面からお顔拝見したい、視界の端に映って邪険にされたい~っ♡」
馬車の後ろからついていくばかりなので、まともに声を聞いたこともなければ、顔も見たことはない。ただ、遠くからフワリと香る匂いが好みなだけだ。
この姿絵も彼の部下が戯れに描き殴ったもので、酒場に置きっぱなしになったものをこっそり持ち帰ったものだ。つまり、似ている保証すらない。
「でもこのキンとした冷たい目元、きっと部下にも厳しくて……♡はぁっ♡オレのこともなじってくれないかな……♡」
ちゅこちゅこと右手から間抜けな音が鳴っている。先端からはどぷっと透明な雫が溢れ、部屋の湿度をぐんぐんあげていった。
視界の端にキラリと光るものがあったが、特に気にせず行為に没頭していく。
「あー……あっ♡あっ♡あっ♡イグ……っ~――、ふぅぅうう……♡」
頂点に辿り着くと同時に手のひらで亀頭を覆い、飛び散るのを防ぐ。花街を覚える前にディアスを知ってしまったから、こんなことばかり上手くなってしまった。
「はー、くそ、片付けめんどくせぇ……」
「ふ、まだ片付けなくていいぞ♡もっと見せてくれ、貴様の無様な手コキをな」
突如響いた声にガルテオは盛大に驚いた。思わず右手で息子を握りしめてしまい、痛みにのけ反った。
「うぐぉ……!!」
「なんだ、マゾか貴様?そのデカい図体で難儀な性癖だな……」
「さっきからなんなんだ!?何処にいる!隠れてないで出てこい!」
と、虚空に叫んでみたものの部屋の中に自分以外の気配はない。
「隠れてなどいないさ。今日の任務で配られたバッチがあるだろう?そこから観ているだけだ」
そういえば、追加報酬だとかいって金の入った袋とは別に記念品をもらった気がする。何気なくカバンにつけたことを思い出し、ばっとカバンごと手に取る。
「あぁ、それそれ。ふむ、貴様なかなかいい顔ではないか。その顔で女のひとりもいないのか、もったいないなぁ」
「さっきからなんなんだよアンタ!人の憩いの時間邪魔したり勝手に容姿言及したり!!てかプライベートのぞくな!」
ガルテオは声を荒げるが、バッチ……通信魔法具の一種だろうか?行商団の取扱品の中にそういった商品もあった気がする。その向こうの人物はクスクス笑うばかりで。
「あぁ、この道具な、位置の特定効果もあるんだ。今そちらに向かっている。もうすぐ辿り着くから、灯りくらいつけておけよ」
ガルテオは慌てて下履きを整えようとしたが、同時に部屋の扉がガチャ、と開く。自分のような異種族の低所得者御用達の安宿なので、鍵なんてものは端からついていない。
「おい、待て、急に開ける奴があるかよ……!」
その瞬間、ぶわ、と部屋中の籠った空気の代わりに、甘くて辛い不思議な香りが流れ込んでくる。
「……この、匂い、そんな!まさか……!」
この香りは嫌というほど記憶に刻んでいる。
任務のたびに、鼻腔いっぱいお土産に持ち帰るほど愛している香り。
ズカズカとブーツの踵を鳴らして部屋に入り込んでくるこの人は、まさか……!
「さて、今度は生で見物させてもらうぞ、ガルテオとやら」
どか、と安物のベッドに腰掛けたその人は、ガルテオの憧れであり未だ顔も知らぬ人……、高嶺の花、ディアスだった。
初めて絡んだ視線に鼓動が跳ね上がる。濃い香りに脳みそが焼けそうだ。姿絵より意地の悪そうな目つきに紫の瞳、ああ、なんてことだ、そこにはガルテオの痴態が写し取られているではないか。
「や、やめ、オレをみるな……!こんな、初めてなのに丸出しだなんて!!」
羞恥に染まったガルテオは慌ててカバンで下半身を隠し、顔を背けてしまう。
ディアスは手元のバッチを見下ろすとわぁ、と声を上げた。
「ガルテオ……カバンで隠したのは失敗だったな。貴様の大きいの……♡アップで写ってるぞ♡」
ほら、と笑顔で見せびらかしてくるディアスの手元には、鏡面の中に写った自分のモノの一部がアップで写しだされていた。
「ばっ!んなもん見るな!いや、み、見ないでください!」
「……ふん、では生でみせろ」
ディアスが簡単な呪文を唱えると、ガルテオはその場で身動きが取れなくなってしまった。初歩の拘束魔法で、身分のある者は護身術として身につける呪文である。
悲しいかな、魔法抵抗力の低いオーガには効果的面な魔法でもあった。
「う、うぅ……!」
「私でヌいてる奴がいるらしい、とはちょっとしたウワサになっていてな。夜な夜な宿から甘く私の名を呼ぶ声が聞こえると……。まさか、こんな可愛らしいオーガが犯人だとは思ってもみなかったな……♡」
ディアスの細指がガルテオの輪郭をなぞる。
オーガの証である額のツノをちょん、と突かれてガルテオは震えた。
「あぁ~カッコいい……♡こういう整った顔を歪めるのはさぞ楽しかろうなぁ。よし、きめた。貴様、私のものになれ。その身体を使って私を満足させるんだ。こんな顔のいいやつが私の名で自慰に耽るとこ、すごく興奮する。毎日見たい♡」
ディアスの顔が愉悦と支配欲で歪んでいく。
ガルテオにはそれが、この世でいちばん美しいものに見えた。
こうして、ガルテオはしがない護衛からディアス専属奴隷に……成り下がったのか、それとも格上げなのか。
とにかく、その時ガルテオは震えて見上げるしか出来なかったのだった。
52
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
忘れられない君の香
秋月真鳥
BL
バルテル侯爵家の後継者アレクシスは、オメガなのに成人男性の平均身長より頭一つ大きくて筋骨隆々としてごつくて厳つくてでかい。
両親は政略結婚で、アレクシスは愛というものを信じていない。
母が亡くなり、父が借金を作って出奔した後、アレクシスは借金を返すために大金持ちのハインケス子爵家の三男、ヴォルフラムと契約結婚をする。
アレクシスには十一年前に一度だけ出会った初恋の少女がいたのだが、ヴォルフラムは初恋の少女と同じ香りを漂わせていて、契約、政略結婚なのにアレクシスに誠実に優しくしてくる。
最初は頑なだったアレクシスもヴォルフラムの優しさに心溶かされて……。
政略結婚から始まるオメガバース。
受けがでかくてごついです!
※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも掲載しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる