審美眼持ちの青年貴族は、筋肉の檻に閉じ込められる

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束の間の休日編

小さな恋のはじまり

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※今回はエズメくんが主役です


 ディアスとガルテオが丸一日休暇を楽しんでいる間、行商団メンバーは口々に主人とガルテオの関係性をウワサしていた。
 ずっと側にいたダリオにすらどこかよそよそしく、誰も懐に入れなかったディアス様が、唯一オーガの従者だけは手元に置き、離そうとしない。
 オーガの見た目も、幌馬車の護衛として働いていた頃は気付かなかったが、とんでもない美形だと。
 大きくて威圧感のあるオーガをまじまじ見る者は今までいなかったのだが、荷物番をする彼らをじっと見つめる視線もかなり増え、当の本人たちはとても困惑していた。
 
 特に女性陣の口は止まることがなく、今は昨夜のディアスとガルテオが並んで夜空を見上げていたシーンをロマンティックに語っていた。

「今まで異種族とは簡単な意思疎通しか出来ないと思ってたのに、お互いに愛を伝えあえるなんて、だめよ、禁断のラブよ。」

 それを同じ屋根の下で観察していたエズメは、なぜか隣について離れないダリオの姿に少し迷惑していた。
 店長だけならともかく、この騎士サマまで側にいるとちょっと暇だから下半身いじります~♡というわけにもいかず、……先程から悶々しっぱなしだ。
 ウワサ話に耳を傾けているのも暇つぶしにはいいが、先程からディアスとガルテオの熱いラブストーリーが展開されているので、愛を肉欲に全振りしてきたエズメには刺激が強い。

(うっらやましいな~!聞く感じ、しょっちゅうイチャついてるみたいだし、俺の手伝い必要だった?今頃は実践中だろうし、あー、俺も誰かひっかけたい!)

「ねー、てんちょ」「エズメ殿」

 タイミング被っちゃった。

「ダリオ様、お先にどうぞ。」

 店長は無慈悲にもダリオに会話の主導権を渡してしまう。はあ、とエズメはため息をついた。
 エズメは早くに両親を失い、生活費のために歓楽街へ身を売らざるを得なかった。シェルヴィアに孤児を養う施設などないからだ。
 だから、こんな身綺麗な騎士サマに側にいられると困る。自分がいかに汚れてしまったか、比較してしまうから。

「急に店を追われ大変なところ申し訳ないのですが、私の部下があなたと話したい、と申しておりまして。」

「み、ミレクと申します!その、少しだけお時間をいただいてもよろしいでしょうかっ!」

 ダリオの後ろに控えていたのは、いかにも初心そうな青年騎士だ。しかも室内だというのに頬まで隠す重苦しい兜を装着したままで、堅苦しさも感じる。
 エズメは、はぁぁ……、と先ほどより深いため息をついた。
 そんなことお構いなしにミレクは熱い視線を投げかけてくる。

「その、頂いたお時間分はきちんとお支払いするので……。」

 ダリオにまでお願いされたら逃げようがないではないか。

「エズメも溜まってんだろ、いっちょ遊んでやれば?」

「てんちょ、勝手に話進めないでよ……!ここは店の外でしょ。」

 めんどくさそうなエズメを見ながら店長は思った。
 夜の世界が長いと、恋の始まりなんてものもたくさん見てきた。エズメは諦めちゃいるが、まだまだ恋を始めるには若い年齢だ。だが男娼としては既にとうがたっている。このままじゃ危ないプレイもさせないと稼げなくなっていくが、小さい頃から知ってるせいでそれも心苦しい。
 ところがどっこい、男爵領の騎士とはいえ、立派な身分がある相手なら安心して預けられるってもんだ。

「本来なら就業時間だろ。ほら、とっとと稼いでこい!」

 その無慈悲な命令に逆らう気力もなく、エズメはミレクと共に外へ消えていった……。

 
 
 ロマンスの香りを嗅ぎ取った女商人はこっそり後をつけていった。
 かたやディアス様と表れた花街の美青年、かたや行商団でも美形と名高いがカタブツで変人なミレク!ちなみに彼女もミレクが兜はおろか鎧も脱いだところを見たことがない。
 
「ガルテオ殿と並び歩く貴方なら、私の秘密も打ち明けてよいかと思いまして……。」

 そう言ってミレクが兜に手をかける。
 ばさりと長い髪が流れ落ちて、しかしそこには、しなやかに流れる髪の流れをさえぎるような長い耳が飛び出していた。

 「エルフ……、はじめてみた。」

 エズメが驚いたように声を絞り出すのに、彼女もうんうんと頷いた。
 正確にはずっと見てきたのに、まったく気が付かなかった。

 「耳……、ちょっと触ってみていい?」

 「どうぞ……。」

 「ふふ、人の耳と変わんないね。」

 と、とうとーーーーーい!
 女商人はその場に崩れ落ち、そしてこの秘密は墓まで持っていくことを誓った。
 商人は秘密を守れてこそ一人前なのである。

 エズメはミレクの容姿に安堵していた。
 ガルテオに友好を示したとはいえ、まだ客としてオーガを相手にするには恐怖が勝つ。
 しかし、エルフの見た目は耳以外、ほぼ人間と変わりなかった。
 肌色は若干白っぽく感じるが許容範囲だし、長い耳はうさぎみたいでかわいいし、背格好も男娼である自分とそんなに変わらない。男としては華奢な部類だ。

「でさ、こんな大事な秘密を打ち明けて俺とどうなりたかったの?」

「え?あの、お、お友達に……っ。」

 純情なミレクにエズメは舌なめずりする。
 これは……、ディアスちゃんさまが異種族にぞっこんになる理由がわかるかもしれない。
 ちょっと警戒心を解いただけでこんな無垢な真心を向けられたら、そりゃ可愛くって仕方ないよね♡

 ミレクはその晩、ちょっとだけ大人の階段を登った――。
 
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