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束の間の休日編
最後に笑うのがノクシア流
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後日。ディアスとガルテオがようやく部屋から出てくると、いつも通りダリオが駆けつけてきた。
団員たちも思い思いに過ごせたようで、3日も逃走劇を繰り広げてきたわりには明るい表情だった。
そして、見慣れない光景がひとつ。
騎士の中でも一番最近加入したはずのミレクが、エズメに張り付かれていた。
「……どういう状況だ?」
「その、お試しというか、」
「俺がミレクのこと好きになったら、身請けしてもらう約束なの!今はお試し期間ってワケ。」
とはいえすでにこの距離感になっているのなら、もう確定したも同然だなと思いガルテオの方を見る。エズメの幸せそうな表情に釣られたのかほわほわと嬉しそうに笑っていた。
「嬉しいです。ディアス様ともっと仲良くなってほしいなと思っていたので。ミレク様に着いていくため行商団に加わるってことですよね?」
一応本人たちはまだお試しのつもりだし、男娼の身請けにはそれなりにまとまった金額が必要だからまだまだ気が早いぞ、とディアスは胸の内でツッコミしておいた。
だが、素直な感想も可愛くて仕方ない。我慢しくれなくなったディアスが大声で笑うと、お試しカップルも釣られて笑い始めたのだった。
「ご歓談中のところ、失礼致します!」
護衛騎士のひとりが乱入してきて空気が変わった。
ディアスはキツい目つきを更に鋭くさせ、発言を許可した。
「急ぎのようだな。このまま話せ。」
「は!ベルグロンが中央へ向けてディアス様の手配書発行依頼を出したとのこと、罪名は"人間の聖性汚染"、異種族との交合をした疑いがある……とのことです。」
自分が先導してやっていることのくせに、よく人の罪としてあげられもんだな、とディアスは感心を通り越して呆れてしまった。シェルヴィアの地下にエルフを繋いでいて、それを1時間なんぼで貸し出しているとはもっぱらのウワサのくせに。
しかし手配書が中央に届けられてしまった以上、選択肢は2つ。
このまま逃げ惑うか、正面切って戦いを挑むか。どちらが好みかと言えば圧倒的に後者だが、男爵と侯爵では立場が違いすぎる。裁判に持ち込まれたら圧倒的に不利だ。
「……状況が変わった。エズメ、店長と歓楽街に戻るときはポータルを使うなよ。2人で慰安旅行に行ってきたことにするんだ。ダリオ、私とガルテオは、……行商団とはもう関係ない。個人の都合で貴族の責務から逃げ出した逃亡者だと思え。」
「そんな……!ディアス様、あまりに決断が早過ぎます!みなで知識を持ちよれば何か手の打ちようが……っ!」
ダリオは必死に主人を説得しようと試みた。
だが、どれだけ食い下がっても主人は横に首を振るばかりで、聞き入れてはくれない。
「ダリオ、異端尋問となれば、私は神の前で真実の告白をしなくてはならない。……その時に、嘘でもガルテオを愛してない、とは言いたくないんだ。」
ディアスは女神のような微笑みを浮かべた。
その微笑みは彼の母親――ダリオの初恋の相手にそっくりで、よりいっそうダリオの涙を誘った。
「……っ、ディアス、さま……。」
泣き崩れる騎士団長を、ミレクとエズメは側に寄り添って支えていた。
「さて、ガルテオ。出立の準備を急いで進めるぞ。長居すればするほどこの町にも、行商団にも迷惑がかかる。」
幸い、この地には魔石が売るほどある。
ありったけの財産で魔石を買い込み、領主を黙らせれば当座はしのげるはずだ。
急いで荷をまとめ、宿を出ると、行商団の面々が並んでいた。
ダリオは涙を湛えながら声をあげた。
「ディアス様の無事をお祈りしております……!これは、私たちのせめてもの誠意ですっ!」
行商団の中でも特に付き合いのあった商人たちが、手に余るほどの魔石を抱えている。流石先読みのプロたちだ。長年の付き合いもあるせいか、ディアスの思考も読まれていたのだろう。
「貴様らとはビジネスパートナーで、こんなことをされる関係ではないはずだが……。しかし、助かる!必ず無事に戻る!だからそれまで行商団は潰すなよっ!」
ディアスも腹から声を出し、それは団の全員に届いた。ほとんどが泣き崩れてしまったのを見て、ガルテオもつられて泣いてしまう。
「ふ!ふははは!貴様ら、笑え!こんな時こそ笑うのがノクシア流だ!」
その声はわずかに震えていたが、それでも強い意志のこもった堂々とした笑い声だった。
ガルテオは、その震えと強い寂しさを漂わせる香りを一生忘れない、と心に誓った。
そして、こんな優しい人々の元に戻れるように、全力でこの方を守り抜くとも。
「ガルテオ。俺はバルドだ。馬車の警護をしてたから、顔くらいは知ってるよな。」
壮年の、少しカサついた低い声が声をかけてきた。その瞳は真剣で、ガルテオは思わず身体に力を込めた。
「ディアス様を守るのは当然だが、お前も必ず帰ってこいよ。絶対に身を挺して死のうなんて思うな。」
「ひとりが死ねばどうなるか、簡単にわかるだろぉ?そういうことだから、お前は死なないのも仕事。この短剣やるよ。武器は1つでも多い方がいいぜ。」
横からひょっこり現れた騎士は、確かセレノという名だったはずだ。
「我々のような騎士のなり損ないを、ダリオ団長もディアス様も重宝してくれた。俺たちにはもったいないくらい良い主君なんだ。」
「ディアス様の幸せも、しっかり守ってくれよ~?」
「……はい!必ず2人で帰還してみせます。」
何かあれば死ぬ覚悟も決めていたが、ずっとディアスを警護してきた先輩方の声には逆らえない。ガルテオは素直に覚悟を改め、そしてディアスの手をひいた。
「……さらばだ。お前たち。」
ディアスの声は小さく、並び立つガルテオだけに届いていた。
団員たちも思い思いに過ごせたようで、3日も逃走劇を繰り広げてきたわりには明るい表情だった。
そして、見慣れない光景がひとつ。
騎士の中でも一番最近加入したはずのミレクが、エズメに張り付かれていた。
「……どういう状況だ?」
「その、お試しというか、」
「俺がミレクのこと好きになったら、身請けしてもらう約束なの!今はお試し期間ってワケ。」
とはいえすでにこの距離感になっているのなら、もう確定したも同然だなと思いガルテオの方を見る。エズメの幸せそうな表情に釣られたのかほわほわと嬉しそうに笑っていた。
「嬉しいです。ディアス様ともっと仲良くなってほしいなと思っていたので。ミレク様に着いていくため行商団に加わるってことですよね?」
一応本人たちはまだお試しのつもりだし、男娼の身請けにはそれなりにまとまった金額が必要だからまだまだ気が早いぞ、とディアスは胸の内でツッコミしておいた。
だが、素直な感想も可愛くて仕方ない。我慢しくれなくなったディアスが大声で笑うと、お試しカップルも釣られて笑い始めたのだった。
「ご歓談中のところ、失礼致します!」
護衛騎士のひとりが乱入してきて空気が変わった。
ディアスはキツい目つきを更に鋭くさせ、発言を許可した。
「急ぎのようだな。このまま話せ。」
「は!ベルグロンが中央へ向けてディアス様の手配書発行依頼を出したとのこと、罪名は"人間の聖性汚染"、異種族との交合をした疑いがある……とのことです。」
自分が先導してやっていることのくせに、よく人の罪としてあげられもんだな、とディアスは感心を通り越して呆れてしまった。シェルヴィアの地下にエルフを繋いでいて、それを1時間なんぼで貸し出しているとはもっぱらのウワサのくせに。
しかし手配書が中央に届けられてしまった以上、選択肢は2つ。
このまま逃げ惑うか、正面切って戦いを挑むか。どちらが好みかと言えば圧倒的に後者だが、男爵と侯爵では立場が違いすぎる。裁判に持ち込まれたら圧倒的に不利だ。
「……状況が変わった。エズメ、店長と歓楽街に戻るときはポータルを使うなよ。2人で慰安旅行に行ってきたことにするんだ。ダリオ、私とガルテオは、……行商団とはもう関係ない。個人の都合で貴族の責務から逃げ出した逃亡者だと思え。」
「そんな……!ディアス様、あまりに決断が早過ぎます!みなで知識を持ちよれば何か手の打ちようが……っ!」
ダリオは必死に主人を説得しようと試みた。
だが、どれだけ食い下がっても主人は横に首を振るばかりで、聞き入れてはくれない。
「ダリオ、異端尋問となれば、私は神の前で真実の告白をしなくてはならない。……その時に、嘘でもガルテオを愛してない、とは言いたくないんだ。」
ディアスは女神のような微笑みを浮かべた。
その微笑みは彼の母親――ダリオの初恋の相手にそっくりで、よりいっそうダリオの涙を誘った。
「……っ、ディアス、さま……。」
泣き崩れる騎士団長を、ミレクとエズメは側に寄り添って支えていた。
「さて、ガルテオ。出立の準備を急いで進めるぞ。長居すればするほどこの町にも、行商団にも迷惑がかかる。」
幸い、この地には魔石が売るほどある。
ありったけの財産で魔石を買い込み、領主を黙らせれば当座はしのげるはずだ。
急いで荷をまとめ、宿を出ると、行商団の面々が並んでいた。
ダリオは涙を湛えながら声をあげた。
「ディアス様の無事をお祈りしております……!これは、私たちのせめてもの誠意ですっ!」
行商団の中でも特に付き合いのあった商人たちが、手に余るほどの魔石を抱えている。流石先読みのプロたちだ。長年の付き合いもあるせいか、ディアスの思考も読まれていたのだろう。
「貴様らとはビジネスパートナーで、こんなことをされる関係ではないはずだが……。しかし、助かる!必ず無事に戻る!だからそれまで行商団は潰すなよっ!」
ディアスも腹から声を出し、それは団の全員に届いた。ほとんどが泣き崩れてしまったのを見て、ガルテオもつられて泣いてしまう。
「ふ!ふははは!貴様ら、笑え!こんな時こそ笑うのがノクシア流だ!」
その声はわずかに震えていたが、それでも強い意志のこもった堂々とした笑い声だった。
ガルテオは、その震えと強い寂しさを漂わせる香りを一生忘れない、と心に誓った。
そして、こんな優しい人々の元に戻れるように、全力でこの方を守り抜くとも。
「ガルテオ。俺はバルドだ。馬車の警護をしてたから、顔くらいは知ってるよな。」
壮年の、少しカサついた低い声が声をかけてきた。その瞳は真剣で、ガルテオは思わず身体に力を込めた。
「ディアス様を守るのは当然だが、お前も必ず帰ってこいよ。絶対に身を挺して死のうなんて思うな。」
「ひとりが死ねばどうなるか、簡単にわかるだろぉ?そういうことだから、お前は死なないのも仕事。この短剣やるよ。武器は1つでも多い方がいいぜ。」
横からひょっこり現れた騎士は、確かセレノという名だったはずだ。
「我々のような騎士のなり損ないを、ダリオ団長もディアス様も重宝してくれた。俺たちにはもったいないくらい良い主君なんだ。」
「ディアス様の幸せも、しっかり守ってくれよ~?」
「……はい!必ず2人で帰還してみせます。」
何かあれば死ぬ覚悟も決めていたが、ずっとディアスを警護してきた先輩方の声には逆らえない。ガルテオは素直に覚悟を改め、そしてディアスの手をひいた。
「……さらばだ。お前たち。」
ディアスの声は小さく、並び立つガルテオだけに届いていた。
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