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妖精の国編
いにしえの要塞
しおりを挟むディアスたちはポータルを開き、真っ先に異界へ逃げ込んだ。身を隠すのにここ以上にもってこいの場所はない。
同時にここ以上に危険な場所もそうないが。
「ディアスー」「すぐきた、うれしー」
「お前たち、身を隠すのに良い場所を知っているか?」
行きと同じように道案内を頼むと、妖精たちはにわかにはしゃぎだした。
時々聞き取れる単語を拾うと、やっと、チャンスなどの期待を示す言葉が聞こえてくる。
ガルテオは空恐ろしくなって、ディアスをぎゅっと抱きしめた。
「いいとこあるよ!」「でもその前に銀は外してー?」「せいれいさまに会おう!」「ディアスとガルテオはとくべつー」
「……私達をとって食う気か?」
ディアスは恐る恐る尋ねる。その昔攫われかけた恐怖が蘇ってきたが、ガルテオの力強い腕が心を強く保ってくれた。
「たべない!」「たべられない!」「お客様だいじにするよ!」
総じて悪意はないようで、ディアスは余計に難しい決断を迫られた。人間社会を捨てて妖精たちについていくのか?ひとりならできた。だが、ガルテオも巻き込んでしまう。しかしポータルを出たところで安全とも限らない。
「こら、お前たち。そんな片言では人の子もオーガの子も困ってしまうでしょう。」
圧倒的な存在感が、乳白色の世界を支配した。
妖精王とも、精霊とも言われる存在……、ケーニギン・デア・ナハトの降臨であった。だが、妖精たちとの交流をたっていた人間と、その人間に隷属させられてきたオーガである2人がその正体を分かるはずもない。
途端に夜の色に変わった世界に、2人は驚き身を竦めてしまう。
「あぁ、ごめんなさい、警戒させるつもりはなかったのです。……身を隠す場所を探しているのでしょう?私達の国は、こことも人の世界とも時間の流れが異なる場所です。危害を加えないと誓いますから、軽い気持ちで遊びにいらっしゃい?」
夜の女王の言葉は、不思議とディアスの不安を拭い去って軽い気持ちにしてくれる。過去にもこの声に従った事のあるような、妙な安心感。
それに、今まで見たこともないような妖精の登場に逃げきれない予感もあった。
「……わかった。どうせ行くまで執拗に誘い続けるのだろう?これまでもそのチビたちに何度となく誘いを受けているからな。」
「ふふふ、それは否定しません。それだけ貴方は世界に愛された存在なのですよ。」
ずっと妖精たちが口にしていた謎の言葉たち。その正体を確かめたいと願うのもまた、彼が承認たる所以であった。
……危険を承知で踏み込むしか、今はないようだ。
「ガルテオ、すまない、巻き込む。」
「俺はディアス様がいるところにいられたらそれで幸せですから、気を遣わないで。」
ふたりは銀の飾りを外し、乳白色のどこかへ投げ捨てた。
「では、案内しましょう。」
ぶわっ、と夜の世界が歪む。
視界が次々に色が変わったと思うと、最終的に現れたのは森の中に作られた堅牢な要塞のような建物であった。
「ここはかつて、貴方たちの世界を守るための前線基地だったところです。各地で作られた武器がここに集められ、種族の垣根を超えて何人もの戦士がここに集い、……そして魔物たちとの戦いで帰ってこなくなりました。今はエルフの末裔たちが管理をしているのですよ。」
ディアスが要塞の中に足を踏み入れると、中の人影が一斉にこちらを見た。
「人間!?うそ、どうやって入ってきたの?」
「まって、一緒にいるのオーガ……、よね?」
「オーガと人間だって?昔話みたいな組み合わせだな。」
妖精たちの話し方はここが震源地か?とディアスは訝しむ。妖精ならともかく、人の形をした異種族たちに遠巻きにされるのは、なんだか腹立たしい。
「ナハト、お前さんが連れてきたのだね。」
エルフの群れをかき分けて現れたのは、年嵩のエルフであった。腰も曲がり杖をついているが、美しさの残滓が所々に宿っており、ゆっくりと歩む姿は優雅に見えた。
「ええ、私が連れてきました。」
いつの間にか離れていたナハトは、今度は長のとなりに夜を連れてきた。
「紫の瞳……、お姿は大分かわられましたが、確かにあの方の生まれかわりでしょうね。よくぞ見つけてきてくれました。」
「本当はもっと早くに連れてこれたはずですが、人の子達はすっかり当時のことを忘れているようで、手間取りました。」
忘れている?
人間の歴史が歪んでいるのはなんとなく分かる。広大な国とはいえ、トップである枢機卿の目が行き届いていないのは行商の旅で散々目にしてきた。それが、中央の指針が揺れていることが原因であることも推測している。
そして何より、異種族の扱いが弾圧的すぎる。人が圧力で押さえ込もうとするのは、往々にして不都合な真実がそこに眠っているときだ。
だが、人間の歴史は何を忘れた……、いや、なにをもみ消したというのか。
「私が誰の生まれかわりで、貴様らの継承する歴史がなんなのか。きちんと情報を掲示してもらうぞ。」
ディアスは自分のルーツが思ったより壮大であることに驚きを隠せなかった。
紫の瞳は、かつてオーガと共に最前線を守り抜いた人間の巫子に由来する色らしい。長い歴史の中、同じ魂を持つものが現れることはなく、もしかして消滅してしまったのかと諦めかけていた頃、北の地に鮮やかな魔力の産声を感じたのだという。
「あの頃は焦っていて、何も知らない貴方を連れ去ろうとしたこと、本当に謝ります。人間たちに害される前に、なんとか守りたかった。だが結果的に怯えさせてしまった。」
確かに未だトラウマとして心に刻まれているが、数千年も待ち続けていればそうとなるか、とディアスは納得した。
また、小さな妖精たちに好かれるのも、人間にして妖精たちと交流する術を持つことが原因らしい。正しく修行すればエルフと同等、もしくはそれ以上に精霊術を使いこなせるといわれ、新技術入荷の気配にディアスは瞳を輝かせた。
「興味はある、が……、行商団の皆に帰ると約束した。そんなに長い時間はかけられない。」
「人の子、安心してください。ここは異界の奥、時の流れが異なると言ったでしょう?あちらでの時間の経過など些細なほど短いでしょう。」
ナハトが嬉しそうに微笑む。
「ずっと、私の感覚でも長い時間の中で、再び貴方に使役される日を待ち望んでいたのですよ。どうか、私達を使役する術を覚えていって。」
「ナハトの力は幻影と眠りを司るものです。いずれここを去るおつもりなら、必ず役に立ちます。」
長老の後押しもあり、ディアスはナハトの手を取った。身を隠す技を覚えらるのであれば、願ったり叶ったりだ。
「デメリットがないのなら、覚えてやろうではないか。」
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