世界終わろう委員会

初瀬四季[ハツセシキ]

文字の大きさ
15 / 85
世界終わろう委員会

幕間:初デート後半 

しおりを挟む
 ホームセンターでテントを購入した、その帰り道、どこかでお昼ご飯を食べようという事になった。

 なにを食べるか、話し合ってるところへ、

「へっへっへ綺麗なねぇちゃん連れてデートたぁみせつけてくれるじゃあねぇか?」

「俺達にもちょっと付き合ってくれよ?」

 明るい髪色の男と背の低い坊主頭が、頭の悪い台詞を吐きつつ目の前に立ちはだかってきた。

「あなたたち、・・・・・・いや、何でもないわ」

 少女は、一度何かを言おうとするが、首を振ると口を噤む。
 その様子を不思議に思い見つめると、

「昔ね、学んだのよ」

 と少女は呟く。

「学んだ?」

「小学生の頃、隣の席に明日葉君っていう男の子がいたの」

 少女は訥々と話し出す。

「その子はあまり勉強ができない子だったわ」

「まあ、尾張さんと比べたらだいたいの人は勉強出来ないでしょうけど」

「えぇ、そうね。私は昔からお利口さんだったもの」

 謙遜って知ってますか?

「ある日、明日葉君が先生に当てられて掛け算を解いたんだけど答えが間違っていたのよ。だから私、そこの答え間違ってるわよ? こんなに簡単なのもわからないなんて、あなた馬鹿なの? って明日葉君に言ったの」

「それで?」

 なんとなく次の展開を予想しながら、先を促す。

「彼、一瞬真顔になったと思ったら私の頭をたたいてきたわ。私、本当にいきなりだったからびっくりしちゃって、少し涙目になっちゃったわ」

「尾張さんが?」

 疑わしげな顔をする僕に、有無を言わせぬ笑顔を向ける少女。

「なにか?」

「いえ」

 その圧力に口を噤む。

「その時は、先生が明日葉君に注意してその場をおさめたんだけど・・・・・・。衝撃の事実だったわ。頭の悪い人にあなた頭が悪いのねっていうと怒るのよ」

「そりゃあ、明日葉君もいきなり罵倒されたら怒りますよ」

 明日葉君に同情しつつそう返す。

「別に私は事実を言っただけなのだけれど?」

「むしろ事実を言われちゃうと明日葉君に逃げ場ないですから。心が叫びたがっちゃいますから」

 やれやれと肩をすくめる少女は、

「だからといって、矛先をこちらに向けないで欲しいわよね」

 ため息を吐く。

「むしろ、原因に向かうだけましなのでは?」

「いいえ、原因は彼の頭の悪さよ?」

 そう言いきる少女。

「だから、私はそういう人や場面に出くわしたら、この人は頭がかわいそうな人なんだなぁって哀れに思いつつ何も言わずにその場を去ることにしているわ」

 そういうと、少女は、きびすを返して来た道を歩きだそうとする。
 それを目の前の男たちは、慌てて遮ると、

「おい、なんかよくわからんが、俺たちのこと馬鹿にしてない?」

「まて、確かにこいつは馬鹿だが、そこに俺を含んでもらっては心外だな」

 明るい髪色の男が、坊主を指差す。

「んだとてめぇ?」

「やんのかこら?」

 いきなり始まった争いに困惑しながら、

「なんか、喧嘩はじめましたね」

「目標に対してすぐ脇道に逸れる。頭がかわいそうな人たちの典型ね」

 会話する僕達の声がどうやら聞こえたらしい頭がかわいそうな人たち。

「「あぁ⁉︎?」」

 彼らは、経験則からか自らへのネガティブな発言には敏感なようで、

「あんまり調子こいてっといてこましたるぞわれぇ!」

 等と発言しつつ、こちらとの距離をはかっている。
 いてこましたるって意味わかって使ってるのかなこの人?

「落ち着いてくださいよ。尾張さんもあんまり挑発しないで」

 僕は、まあまあと宥めるように両手をあげる。

「私は、事実しか言ってないわ」

「真実は時に人を傷つけるんですよ」

 その発言が気に障ったのか、坊主が食ってかかる。

「おいこら! 俺らを無視してんじゃねぇ!」

「ちょっと待った!」

 掴みかかろうとする坊主を制す。

「あぁ⁉︎」

「その辺にしておいた方がいいですよ? でなければ、僕の最終兵器を出さなければならなくなります」

 首をコキリと鳴らすとそう啖呵をきる。

「あぁ? 出してみろや!」

 ふぅ、やれやれ。これだから、頭がかわいそうな人たちは。

「仕方がないですね。あなたたちは、これで終わりです」

 そう言うと、僕は両膝を曲げ、内股に立ち、両手を顔の前に構える。

「それは⁉︎ サンチンの構え⁉︎ てめえ、武術家か!」

 頭のかわいそうな人たちは、僕の構えを見てそう思ったようだった。しかし、それは間違いだった。

 僕は、大きく息を吸うと、一瞬で目の前の二人を叩きのめす。

 ということは、全くなく、いつのまにか離脱している少女が呼んできた、警察官に二人のかわいそうな人たちはお持ち帰りされていった。

「サンチンの構えなんて、よく知ってたわね紀美丹君」

「サンチンの構えってなんですか?」

 僕のその発言に、呆れながら返す少女。

「さっき自分でしてたじゃない」

「いえ、あれはただ、お巡りさんを呼ぼうとして口の前に手を当てていただけです」

 だいたい、ただのゲーマーに武道経験を期待する方が間違っている。

「そんなことより、ご飯食べません?」


 ファミレスに入り、注文を済ませた後、何の気なしに話し出す。

「ファストフードってあったかいとそれなりに美味しいですけど、冷めると何この残飯・・・・・・てなりますよね」

「冷めたファーストフードなんて、食べたことないわね」

 フライドポテトを摘む。

「さすが、お嬢様」

「やめてちょうだい」

 少女は嫌そうにアイスティーのストローに口をつける。

「そんなお嬢様なら、世界で一番美味しいものにも一家言お持ちとみました」

「なによいきなり」

 フライドポテトを指し棒のように持つ。

「ほら、世界で一番売れているから、世界で一番美味しいものはハンバーガーだって話があるじゃないですか」

「資本主義の犬の言いそうなことね」

 少女は、フライドポテトに手を伸ばしケチャップをつけ、口に運ぶ。

「でも、ハンバーガーって、あったかいとそれなりに美味しいけど、冷めると美味しくないんですよ。だから、僕は思ったわけです。冷めても美味しいものが一番美味しいものだと」

 ドヤ顔をしながら完璧な理論を展開する。

「何故そうなったかはともかく、その理屈だと、アイスクリームが一番ね」

 完璧な理論にも一部の隙があったようだ。

「待って」

「待たない」

 にべもない。ならば、

「三秒ルール」

「もう三秒経ったわ」

 馬鹿な!

「待った」

「待ったは一回までよ。今から、使っても戻れないわ」

 将棋ルールでもダメだった。

「聞いてない」

「これで、世界で一番美味しいものはアイスクリームにきまったわね」

 デザートのアイスクリームにスプーンを入れながら少女は結論を出す。

「それはおいといて。世界で一番美味しいものは、温度が変化しても味が落ちないものだと僕は思うわけですよ」

「宇宙食ね」

 食べ終わったアイスクリームのスプーンを置く少女。

「待って」

 おかしい完璧な理論だったはずなのに。

「待ったは一回までと言ったでしょう」

 往生際悪く食い下がろうとする。

「聞いてな・・・・・・」

「言いました」

「はい」

 すっかりぬるくなったジンジャーエールに口をつける。

「つまり、宇宙食のアイスクリームが世界で一番美味しいものということね」

 少女が最終的な結論を出す。

「何ですかそれ? 食べたことないです」

「以外と美味しいのよ?」

 空になったドリンクバーのコップを見ながら、そろそろ出ましょうか、とどちらからともなく席をたつ。

 その後、購入したテントを学校に持ち込み、旧文芸部室に置いて、そこで尾張さんと別れた。

 ちょっとした用事を済ませて、その帰り道、何の気なしにハンバーガーショップの横を通ると、見知った顔がレジに並んでいた。

 ちょっと頬が赤く染まっていたのを見て、ニヤニヤしていると、ぷいっと視線を外された。

 その日に食べた夕ご飯はいつもより美味しく感じた。

「やっぱり世界で一番美味しいものは、おふくろの味ですね」

 と呟くと、母親がシラッとした顔で、

「マッサマンカレーだよ」

 などと言うのでミシュランの犬がと心の中で毒づいた。

 僕が、生きている少女と会ったのはこの日が最後だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

Blue Moon 〜小さな夜の奇跡〜

葉月 まい
恋愛
ーー私はあの夜、一生分の恋をしたーー あなたとの思い出さえあれば、この先も生きていける。 見ると幸せになれるという 珍しい月 ブルームーン。 月の光に照らされた、たったひと晩の それは奇跡みたいな恋だった。 ‧₊˚✧ 登場人物 ✩˚。⋆ 藤原 小夜(23歳) …楽器店勤務、夜はバーのピアニスト 来栖 想(26歳) …新進気鋭のシンガーソングライター 想のファンにケガをさせられた小夜は、 責任を感じた想にバーでのピアノ演奏の代役を頼む。 それは数年に一度の、ブルームーンの夜だった。 ひと晩だけの思い出のはずだったが……

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...