75 / 85
世界の終わりを君に捧ぐ
世界の終わりを君に捧ぐ 序 1
しおりを挟む
血と硝煙の臭いが鼻をつく。この臭いにはいつまでも慣れない。
わざと泥で汚した服を着て、誰にも見つからないように物陰に身を潜める。
一時的に静かになっていた戦場に乾いた破裂音が鳴り響く。
「始まったわね」
少女が、そう零す。
泥で汚れた青年は、その声に頷くと、倒れていく人々にカメラのレンズを向ける。
数日前。青年と少女は、日本を飛び立った。
空港で、スーツを着こなしたキャリアウーマンのような女性に渡されたお守りを首から下げて、青年は飛行機の機内へ歩いていく。
飛行機に乗るときに貰った新聞を広げる。流し見でタイトルのみを見ていくと、一つの記事に興味を惹かれ、目を留める。
「現代に現れた切り裂きジャックですって。あの殺人犯、未だに捕まってないみたいですよ?」
「おかしいわね? 見かけるたびに通報してたはずなのに」
僕達はあれからしばらくの間、止むに止まれずーー度々連続殺人犯の犯行現場を予想してはその瞬間を見る。ーーという不謹慎といえば不謹慎なデバガメのような行動を繰り返した。
ある種の追っかけである。
その度に市民の義務として、通報していたのだが、どうやら警察はいつも彼らを取り逃がしてしまうようだった。
「というか、切り裂きジャックって流石に安直過ぎませんかね? そもそもあの殺人犯のターゲットって完全ランダムだし、日付もバラバラでしたよね?」
「そっちの方が見出しとして映えるからでしょう? 切り裂きジャックに全く掠ってなくても、とりあえず目立てばいいと思ってるのよ」
情報化社会の闇ね。と尾張さんが辛辣な事を言う。
そんなことを話しているうちに、機内にシートベルトの着用を促すアナウンスが流れる。
尾張さんはそれを聞くと、いつものことだとでもいうように、前髪を顔の前に垂らして、下を向く。
「お客様ーー安全のため御着席願えますでしょうか?」
1人の若いキャビンアテンダントが尾張さんに声をかける。
どうやら、彼女には尾張さんが見えるようだ。
周囲の客が不審な目を向けるなか、僕もそれに倣う。
「あの、お客様?」
尾張さんは無言で下を向いている。
不審に思ったのか、他のキャビンアテンダントが近づいてきて、何事か話している。
「えっ⁉︎ だってそこに!」
若いキャビンアテンダントの困惑したような声を、ベテランの様に見えるキャビンアテンダントが制止し、
「よくあることよ」
とだけ言って、奥へと連れて行った。
離陸が終わり、飛行機が安定飛行に入る。
尾張さんは、アナウンスが流れるまでそのままの状態をキープしていたが、どうにも笑いが堪えられないようで、
「・・・・・・フフ、フ」
と、不気味さに拍車をかけていた。
シートベルトを外し、提供された少し味が濃い目の機内食に口をつけながら、
「いつものことですけど、やっぱり尾張さんの分もチケット購入した方がいいんでしょうかねぇ?」
と何の気なしに呟く。それに対して尾張さんは、
「チケット購入したとしても、私の事を見える人が必ず居るわけでもないじゃない。それに、私がそこに座ることで本当に必要な人が乗れなくなる方が問題じゃないかしら?」
それにお金の無駄だし。と付け足す。
「まぁ、そうですけど。毎回キャビンアテンダントの方に無駄なトラウマ植え付けるのは忍びないというか」
幽霊扱いは嫌がるくせに、こういうドッキリみたいな事は嬉々としてやり始めるのはどうなんだろう。
乙女心は複雑である。
機内サービスの白ワインに手をつける。酸味が強く独特のアルコールの匂いが鼻をついた。
「お酒って美味しいの?」
「美味しくないです」
尾張さんはジーっと白ワインの入ったカップを見つめている。
「尾張さんは未成年だからダメですよ?」
「未成年とかいう前に、物理的に飲めないわよ」
知ってます。とのたまう少年に少女は、
「この酔っ払いどうしてくれようかしら」
と不穏な台詞を吐くのだった。
わざと泥で汚した服を着て、誰にも見つからないように物陰に身を潜める。
一時的に静かになっていた戦場に乾いた破裂音が鳴り響く。
「始まったわね」
少女が、そう零す。
泥で汚れた青年は、その声に頷くと、倒れていく人々にカメラのレンズを向ける。
数日前。青年と少女は、日本を飛び立った。
空港で、スーツを着こなしたキャリアウーマンのような女性に渡されたお守りを首から下げて、青年は飛行機の機内へ歩いていく。
飛行機に乗るときに貰った新聞を広げる。流し見でタイトルのみを見ていくと、一つの記事に興味を惹かれ、目を留める。
「現代に現れた切り裂きジャックですって。あの殺人犯、未だに捕まってないみたいですよ?」
「おかしいわね? 見かけるたびに通報してたはずなのに」
僕達はあれからしばらくの間、止むに止まれずーー度々連続殺人犯の犯行現場を予想してはその瞬間を見る。ーーという不謹慎といえば不謹慎なデバガメのような行動を繰り返した。
ある種の追っかけである。
その度に市民の義務として、通報していたのだが、どうやら警察はいつも彼らを取り逃がしてしまうようだった。
「というか、切り裂きジャックって流石に安直過ぎませんかね? そもそもあの殺人犯のターゲットって完全ランダムだし、日付もバラバラでしたよね?」
「そっちの方が見出しとして映えるからでしょう? 切り裂きジャックに全く掠ってなくても、とりあえず目立てばいいと思ってるのよ」
情報化社会の闇ね。と尾張さんが辛辣な事を言う。
そんなことを話しているうちに、機内にシートベルトの着用を促すアナウンスが流れる。
尾張さんはそれを聞くと、いつものことだとでもいうように、前髪を顔の前に垂らして、下を向く。
「お客様ーー安全のため御着席願えますでしょうか?」
1人の若いキャビンアテンダントが尾張さんに声をかける。
どうやら、彼女には尾張さんが見えるようだ。
周囲の客が不審な目を向けるなか、僕もそれに倣う。
「あの、お客様?」
尾張さんは無言で下を向いている。
不審に思ったのか、他のキャビンアテンダントが近づいてきて、何事か話している。
「えっ⁉︎ だってそこに!」
若いキャビンアテンダントの困惑したような声を、ベテランの様に見えるキャビンアテンダントが制止し、
「よくあることよ」
とだけ言って、奥へと連れて行った。
離陸が終わり、飛行機が安定飛行に入る。
尾張さんは、アナウンスが流れるまでそのままの状態をキープしていたが、どうにも笑いが堪えられないようで、
「・・・・・・フフ、フ」
と、不気味さに拍車をかけていた。
シートベルトを外し、提供された少し味が濃い目の機内食に口をつけながら、
「いつものことですけど、やっぱり尾張さんの分もチケット購入した方がいいんでしょうかねぇ?」
と何の気なしに呟く。それに対して尾張さんは、
「チケット購入したとしても、私の事を見える人が必ず居るわけでもないじゃない。それに、私がそこに座ることで本当に必要な人が乗れなくなる方が問題じゃないかしら?」
それにお金の無駄だし。と付け足す。
「まぁ、そうですけど。毎回キャビンアテンダントの方に無駄なトラウマ植え付けるのは忍びないというか」
幽霊扱いは嫌がるくせに、こういうドッキリみたいな事は嬉々としてやり始めるのはどうなんだろう。
乙女心は複雑である。
機内サービスの白ワインに手をつける。酸味が強く独特のアルコールの匂いが鼻をついた。
「お酒って美味しいの?」
「美味しくないです」
尾張さんはジーっと白ワインの入ったカップを見つめている。
「尾張さんは未成年だからダメですよ?」
「未成年とかいう前に、物理的に飲めないわよ」
知ってます。とのたまう少年に少女は、
「この酔っ払いどうしてくれようかしら」
と不穏な台詞を吐くのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
12年目の恋物語
真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。
だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。
すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。
2人が結ばれるまでの物語。
第一部「12年目の恋物語」完結
第二部「13年目のやさしい願い」完結
第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中
※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
君が見た春をもう一度
sika
恋愛
高校時代、ひとつの誤解で離れた二人。
十年後、東京で再会した彼女は、もう誰かの「恋人」になっていた。
置き去りにした想い、やり直せない時間、そしてそれでも止まらない心。
恋と人生のすれ違いを描く、切なくも温かい再会ラブストーリー。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる