世界終わろう委員会

初瀬四季[ハツセシキ]

文字の大きさ
53 / 85
世界終わろう委員会

怨嗟の言葉 

しおりを挟む
「なんなんですか! あんた!」

 思わず叫ぶ。危険信号が鳴り響いていた。
 小動物が天敵を威嚇するように、弱い自分を強く見せるように、相手を睨みつける。
 しかし、頭の中ではどうやって逃げ出すかをしきりに考えていた。

「あ? なんだお前? 泣いてんのかよ? 怖くてぶるっちまったのか? あ?」

 男は、右手に持っていた刃渡十五センチ程度の厚手のナイフをこれみよがしに振りながら、せせら嗤うように近づいてくる。

 思わず、涙を拭おうと左手を上げかける。
 それを見越していたのか男は、体勢を低く保って僕の懐目掛けてナイフを突き出す。

「っ!」

 それを間一髪で左に避ける。しかし、そこには行手を遮るようにビルの壁面が立ち塞がっていた。

 壁際に追い詰められる。

 男は、ジリジリと間合いを詰めながら、ぶつぶつと呟く。

「・・・・・・? なんて?」

 その言葉は、最初はよく聞き取れなかった。しかし、徐々に大きくなるその声は、

「・・・・・・死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね!」

 その怨嗟の言葉とともに男がナイフを突き立てる。
 それは、僕の心臓目掛けて真っ直ぐ進んできた。

「ぐっ⁉︎」

 思わず声が漏れる。

「あっ?」

 ガチッと金属質な音を立てながら僕の心臓目掛けて突き立てられたナイフはしかし、僕の心臓に突き刺さる事はなかった。
 
 代わりに、僕の左の胸ポケットに入っていたスマホがケースごと御臨終してしまったようだ。

 呆気にとられている男の一瞬の隙をついて、ナイフを持つ右手に掴みかかる。

「なっ⁉︎ てめぇっ‼︎」

 意外にも、男の腕力はそこまで強くなかった。
 僕が右手のナイフを奪い取ろうとするのに抵抗出来ていない。

 このまま武器を奪えればーーそれが油断だった。

「いっつっ⁉︎」

 右の脇腹に軽い衝撃を受ける。その後、熱く鋭い痛みが走る。

「はぁっ、はぁっ」

 男の荒い息遣いが聞こえる。

 男を突き飛ばす。それだけの動作でも、脇腹に強い痛みが走る。

 恐る恐る脇腹に視線を移すとそこには、バタフライナイフのような形状の柄が刺さっていた。

 傷を自覚した事で、一気に気分が悪くなる。全身から脂汗が吹き出し、吐き気を催す。

 ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。危険信号が鳴り止まない。
 
 どうする? これ、抜いた方がいいのか? いや、でも抜いたら血がーー頭の中がパニックになり、思考がまとまらない。
 
 目の前では、突き飛ばした男が立ち上がろうとしていた。

「いってぇなぁ! くそがっ‼︎」

 男は右手のナイフを持ち直すと、また、こちらに向かってくる。

 迷っている暇はなかった。細く短く息を吸う。そうすることで痛みが紛れる気がした。

 道路に放置されていた瓶ビールの籠から一本を抜き出し、男に向かって投げつける。

 男は、それに大袈裟に反応して左に避ける。

 その隙に男に背を向け、路地の入り口まで走る。脇腹に振動が伝わるたびにズキズキと痛む。

「逃すわけねぇだろ!」

 走る足元に何かを投げつけられ、それに足を取られて前のめりに転ぶ。
 右脇腹を庇って倒れたため、左半身を盛大に地面に打ち付けた。

 衝撃で肺から息が漏れる。

「ーーっぅ⁉︎」

 それでもなんとか立ち上がろうと、四つん這いになったところで、右の脇腹を男が蹴り上げる。

「がぁっ⁉︎」

 痛みと衝撃で、芋虫のように転がり仰向けになる。

 男は、僕に馬乗りになると、ナイフを振り上げる。

 その男の顔を月明かりが照らす。

「ーーっお前⁉︎」

 僕は、その顔を知っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました【完結】

日下奈緒
恋愛
10年付き合った恋人と別れ、恋に臆病になっていた30歳の千尋。そんな彼女に、取引先で出会った御曹司・神楽木律が突然のプロポーズ。「交際0日で結婚しよう」なんて冗談でしょ?──戸惑いながら始まった新婚生活。冷めた仮面夫婦のはずが、律の一途な想いに千尋の心は少しずつほどけていく。

訳あり冷徹社長はただの優男でした

あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた いや、待て 育児放棄にも程があるでしょう 音信不通の姉 泣き出す子供 父親は誰だよ 怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳) これはもう、人生詰んだと思った ********** この作品は他のサイトにも掲載しています

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...