世界終わろう委員会

初瀬四季[ハツセシキ]

文字の大きさ
54 / 85
世界終わろう委員会

俺の方が 

しおりを挟む
 その男は獲物を追い詰めた獣のように舌舐めずりをすると、ニヤニヤと笑いながら勿体つけるように言う。

「よお、やっと気づいたのかよ。紀美丹ぃ君?」

「水、城⁉︎」

 それは、見知ったクラスメイトの顔だった。

「なん、で?」

「なんで? なんで? はぁ?」

 水城は馬鹿にしたようにその言葉を繰り返す。

「なんでじゃねぇだろうが⁉︎ てめぇが悪いんじゃねぇか‼︎ 全部! 全部! てめぇが‼︎」
 
 そして怒気を含んだ口調で僕を糾弾する。

 水城は、ナイフを握りしめると、僕の顔に向けて振り下ろす。
 それを左の掌で受け止める。指の間が切れて、そこから血が溢れ出す。

「っつ!」

 水城は、ナイフにさらに力を込めて、眼前の獲物を切り裂こうとする。

「お前が。お前が。お前が! お前が‼︎ お前さえいなければ‼︎!」

 その爆発した感情にあてられて、僕はたまらず叫ぶ。

「何の話だよ‼︎」

「決まってるだろうが‼︎ 尾張さんの事だ‼︎」

 尾張さん? 何でここで彼女の名前が?

「お前なんかより俺の方が‼︎ 俺の方が尾張さんの事が好きだったのに‼︎ 何でお前なんかが‼︎ 彼女の隣に‼︎」

 その言葉には、憎悪と嫉妬。そして、隠しきれない悲しみが見てとれた。

「ふざけんな! ふざけんな! ふざけんな! お前なんかに‼︎ お前なんかがいたから‼︎ 尾張さんは死んだんだ‼︎」

 その言葉にたまらず反論する。

「ふざけてんのはどっちだ⁉︎ あんたに尾張さんのなにがわかる‼︎ 尾張さんと僕がどんな気持ちで‼︎」

「うるせぇ‼︎ お前の話になんか興味ねぇんだよ‼︎ お前がいなければ尾張さんだって俺に振り向いてくれたはずなんだ‼︎ 俺が尾張さんの隣にいられたんだ‼︎‼︎ お前なんか‼︎ お前なんかが生まれてくるべきじゃなかったんだ‼︎」

 だから、死ね‼︎ そう叫んで、水城はナイフにさらに力を込める。ナイフの切っ先が頬に触れ、血が流れる。

「あんたの、勝手な都合でーー殺されて、たまるか!」

 痛みに顔をしかめながら、左手のナイフを押し戻す。

「うぜぇんだよ‼︎ お前もあいつみたいにさっさと死ねよ‼︎ 俺の思い通りにならねぇやつなんて俺の世界にはいらねぇんだよ‼︎」

 あいつ?

「ーーなにが、尾張さんが好きだよ! さっきから、好き勝手なこと言ってくれてますけど、あんたのそれは、ただの所有欲じゃないですか。ーー気持ち悪いんですよ。童貞野郎!」

 その言葉に水城は、怒気を強めて言い放つ。

「殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す! あの女と同じ事言いやがって! お前も絶対に殺す‼︎」

 水城の先程からの発言には、聞き逃す事のできない違和感があった。

「ーーさっきから『あいつみたいに』とか『お前も』ってどういうことですか?」

 自然と声のトーンは低くなっていた。

 先程までは、僕が尾張さんの死を招いたのだ考えて、水城が僕に復讐をしようとしているのだとそう思っていた。

 しかし、これが水城の初めての犯行ではないのだとしたら。ーー僕以外もその手にかけているのだとしたら。

 想像してしまった内容を確かめるように、質問を投げかける。

「ーーあんた、他にも誰か殺してるんですか?」

 ナイフを持つ手にピクリと反応があった。

「察し悪いなぁ。お前」

 先程までの怒りの表情から、ニヤニヤと気持ち悪い表情へ変化していく水城の顔を見る事で、僕の疑念は確信に変わっていく。

「尾張さんを殺したのって」

 その時の感情を僕は生涯忘れることはないだろう。

「俺だよ」

 感情が弾けた。


 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました【完結】

日下奈緒
恋愛
10年付き合った恋人と別れ、恋に臆病になっていた30歳の千尋。そんな彼女に、取引先で出会った御曹司・神楽木律が突然のプロポーズ。「交際0日で結婚しよう」なんて冗談でしょ?──戸惑いながら始まった新婚生活。冷めた仮面夫婦のはずが、律の一途な想いに千尋の心は少しずつほどけていく。

訳あり冷徹社長はただの優男でした

あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた いや、待て 育児放棄にも程があるでしょう 音信不通の姉 泣き出す子供 父親は誰だよ 怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳) これはもう、人生詰んだと思った ********** この作品は他のサイトにも掲載しています

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

処理中です...