215 / 419
第10話
しおりを挟む
足元がふらつく。もう、限界だった。身体の影響だけではなく、精神も朽ちてしまいかけている。このまま倒れてしまいそうだ。
その前に、この男はだけは......
人を躊躇なく撃ち、なにより、八幡西警察署の惨劇を作り上げた、この男だけは仲間を危険に晒さない為に、殺さなければいけない。
自らを鼓舞するように、肺にまで空気を送った。
全力で殴って、首を踏んで骨を折る。それで終わりだ。
安部の怯えた表情が僅かしか残されていない視界に入り、彰一は口内で含んだように唇をあげた。
敵討ちなど、祐介の親父は望んではいないだろう。けれど、許してくれなくても良い。大切なことを教えてくれた。俺に足りなかったものを補ってくれた。俺を人間でいさせてくれた。そんな家族のような奴等を守れたのだから、それで良い。
彰一は、右拳に、残っているだけの力をいれた。左肩から血が噴き出す。
「う......うおああああああ!」
咆哮をあげ、彰一は拳を振るった。
安部の頬に、拳頭が当たり、そのまま横倒しになるはずだったのだが、彰一は腹部に違和感を覚え、動きを止め、視線を落とす。
「......あ?」
違和感の正体、それは、柄の部分が折れ、刃しか残っていない包丁だった。その先を辿れば、右手を精一杯伸ばした安部がいる。素手で掴んでいるのだ。出血量からしても、骨まで達している。それでも、安部は力強く握っていた。
なるほど、銃を捨てたのも、後ずさったのもこの為かよ……
安部が、この包丁を発見したのは、全くの偶然という訳ではない。
安部と東が、中間のショッパーズモールを占拠した時に作らせた武器の一部だったものだ。小金井の行動により、反旗を翻された安部は、この南口まで逃げてきた。その時に、安部の策略に陥った集団が持っていたものだ。彰一の傷の度合いや目の焦点、それらを観察し、気づかれないように銃を放り、その後に蹴りを見舞われ仰向けに倒れる。床に両手を着けたまま、起き上がった時には、既に包丁を手にしていた。
必ず、どこかにあると信じていたそれは、彰一に肩を捕まれ、頭突きを喰らい、顔を揺らした際に、涙で滲んだ視界の端に写った。距離がとれないのなら、経験で負けるのなら、安部がとれる最善手はこれしかなかった。
尋常ではないほどの吐血を頭から被り、安部はこの死闘の勝利を予感する。
覆い被さるように、彰一は安部に寄りかかった。自然と笑い声が洩れ、ようやく肺に空気を満たした時、彰一の左手が安部の後頭部を握った。
その前に、この男はだけは......
人を躊躇なく撃ち、なにより、八幡西警察署の惨劇を作り上げた、この男だけは仲間を危険に晒さない為に、殺さなければいけない。
自らを鼓舞するように、肺にまで空気を送った。
全力で殴って、首を踏んで骨を折る。それで終わりだ。
安部の怯えた表情が僅かしか残されていない視界に入り、彰一は口内で含んだように唇をあげた。
敵討ちなど、祐介の親父は望んではいないだろう。けれど、許してくれなくても良い。大切なことを教えてくれた。俺に足りなかったものを補ってくれた。俺を人間でいさせてくれた。そんな家族のような奴等を守れたのだから、それで良い。
彰一は、右拳に、残っているだけの力をいれた。左肩から血が噴き出す。
「う......うおああああああ!」
咆哮をあげ、彰一は拳を振るった。
安部の頬に、拳頭が当たり、そのまま横倒しになるはずだったのだが、彰一は腹部に違和感を覚え、動きを止め、視線を落とす。
「......あ?」
違和感の正体、それは、柄の部分が折れ、刃しか残っていない包丁だった。その先を辿れば、右手を精一杯伸ばした安部がいる。素手で掴んでいるのだ。出血量からしても、骨まで達している。それでも、安部は力強く握っていた。
なるほど、銃を捨てたのも、後ずさったのもこの為かよ……
安部が、この包丁を発見したのは、全くの偶然という訳ではない。
安部と東が、中間のショッパーズモールを占拠した時に作らせた武器の一部だったものだ。小金井の行動により、反旗を翻された安部は、この南口まで逃げてきた。その時に、安部の策略に陥った集団が持っていたものだ。彰一の傷の度合いや目の焦点、それらを観察し、気づかれないように銃を放り、その後に蹴りを見舞われ仰向けに倒れる。床に両手を着けたまま、起き上がった時には、既に包丁を手にしていた。
必ず、どこかにあると信じていたそれは、彰一に肩を捕まれ、頭突きを喰らい、顔を揺らした際に、涙で滲んだ視界の端に写った。距離がとれないのなら、経験で負けるのなら、安部がとれる最善手はこれしかなかった。
尋常ではないほどの吐血を頭から被り、安部はこの死闘の勝利を予感する。
覆い被さるように、彰一は安部に寄りかかった。自然と笑い声が洩れ、ようやく肺に空気を満たした時、彰一の左手が安部の後頭部を握った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる