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魔王様の執着から逃れたいっ
どこに、いるの? 隠れてないで、出てきてっ
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「ねえ、魔王様。ちょっとお手洗いに行ってもいいかな?」
「いいよっ。ついてく」
「えぇ~、ちょっと恥ずかしいから、ついてこないで!!」
その瞬間、心臓が跳ねた。今しかない。今しかないんだ。走らないと。
「なんで走るの? 待って。一緒にいるって言ったでしょ?」
背後から軽い声が追いかけてくる。あの優しい、でもどこか冷たい声。足音がする。けど、全然、息が乱れてない。走ってるのに、あの人はまるで空気みたいに軽い。
こっちはもう息が上がってるのに。
(どうしよう、どうしよう、どこに行けばいい?)
頭の中でぐるぐると焦りが回る。そうだ、隠れよう。逃げ続けてもきっとすぐ追いつかれる。でも、街の中なら――。
魔王様は街では魔法を使わないようにしてるみたいだし、ここなら、もしかしたら。きっと、魔王様にとっては、鬼ごっこみたいなものなんだ。まさか、俺が本気で逃げようとしてるなんて、思ってないはず。
「少し遊びたいんでしょ?」くらいにしか、考えてない。
(ここ……この路地裏なら……)
狭くて暗くて、人の気配もない。建物の影に身を滑り込ませる。心臓の音がうるさい。息をひそめて、耳を澄ます。
「ユキー、どこにいるの? 隠れても無駄だよ。それとも、俺と遊びたいの? そうなら、魔王城で言ったらよかったのに」
ほら、やっぱり。やっぱり遊びだと思ってる。俺が本気で逃げようとしてるなんて、微塵も思ってない。……でも、今のうちに。
今はまだ、魔王様の機嫌がいいうちに、できるだけ遠くへ。
「ユキー、出ておいで。かくれんぼしたいなら言ってくれればいいのに」
やめて、その声。あの声を聞くと、足が止まりそうになる。優しくて、温かくて、全部包み込むみたいで――でも、底が見えない。
少しでも遠くに行かなくちゃ。あの人の視界から、完全に消えなくちゃ。
「ユキー。今出てきたら、許してあげるよ? おいで。俺もあんまり待つのは好きじゃないんだよね」
(許して……あげる?)
ゾクリと背筋が冷える。あの言い方。あれは命令だ。優しく聞こえても、従わなければいけない響き。もし逆らったら、何が起こるのか……知ってる。もう、何度も見た。
ど、どうしよう。
ちょっと怒ってきてる気がする。あの声のトーン、笑ってるのに、目はきっと笑ってない。
今ここで、魔王様に魔法を使われたら、この計画は終わり。本当に、すぐに終わっちゃう。だから、走れって。走るしかない。
「ユキー。本当にどこにいるの? 聞こえてるんでしょ? 早く出てきて」
まだ、聞こえる。距離を取らなきゃ。もっと先へ。もっと遠くへ。
「ユキー。本当に怒るよ。イタズラはこれくらいにして、もう帰るよ。それとも俺を怒らせたいの? 早く帰ってきて……」
だんだん、声が遠くなっていく。……いけるかもしれない。息を整える暇もなく、全力で走った。魔王城が見えなくなるまで、ただ、がむしゃらに。
♢♢♢
ふぅ……ふぅ……ここまで来れば、大丈夫……かな? 体中が痛い。足も、喉も、もう限界。でも、ようやく少しだけ息ができる。
(魔王様が今、魔法を使っても……たぶん、もう届かない距離)
そう思いたい。魔王様だって、万能じゃない。俺が人間の街にいる限り、魔法は使わないと思う。だって、魔法を使うには姿を変える魔法を解かなくちゃいけないから。
でも、怖い。魔法を使わなくたって見つかるかもしれないし。もし見つかったら――なにをされるかわからない。さっきまで笑ってた顔が、一瞬で変わるのを、知ってるから。
許されるはずがない。
絶対に、逃げ切らないと。
(でも……ここはどこ?)
見慣れない街並み。石畳が続いて、見たことのない店や建物ばかり。魔王城の周りなんて、ほとんど来たことなかった。人間の世界と魔族の世界の境なんて、曖昧で。ここがどっちなのかも、わからない。どこに行ったって魔王様に見つかる未来しかできない。
(どうしよう……これから、どこへ行けばいい?)
逃げることだけ考えてて、その先のこと、何も考えてなかった。食べ物も、水も、何も持ってない。このままじゃ――。
その時。
「きみ、大丈夫? 何かあったの?」
え……?
突然、声をかけられて、びくっと肩が跳ねた。反射的に振り返る。そこには――。
「だ、だれ?」
「ごめんね。きみがうずくまってたから、なんかあったんじゃないかって思って、つい声かけちゃった」
柔らかい声。
見上げた先には、爽やかそうな男の人が立っていた。髪は少し乱れてるけど、優しそうな笑顔。陽の光みたいな人。魔王様、とは正反対。
「……実は、ある人から逃げてて、家に帰れないんです」
言葉が自然と出てた。嘘をつく力も、もう残ってなかった。恐怖と疲れで、声が震える。
「えぇ、それは大変だね。もしよかったら、僕の家にくる? 少しだけなら、大丈夫だよ」
「え……?」
優しい。あまりにも、優しすぎる。こんな人、本当にいるんだろうか。
目の奥に光がある。あたたかくて、まっすぐで、魔王様とは違って支配を感じない。
(この人についていけば、魔王様から逃げられるかもしれない……)
善意に甘えちゃいけないってわかってる。でも、もう、立っていられない。このままだと、またあの人に捕まる。
あの冷たい手に、腕を掴まれて――
「見つけた」って囁かれてしまう。
「できるなら、お願いしたいです」
「わかった。おいで」
その瞬間、胸の奥がじんわり温かくなった。差し出された手を、そっと掴む。大きくて、あたたかい手。
(……大丈夫。きっと、大丈夫)
心のどこかで、そう信じた。けれど同時に、頭の奥に焼き付いて離れない声がある。
――“ユキー、どこにいるの?”
風の音にまぎれて、微かに聞こえた気がした。錯覚だと、自分に言い聞かせる。だけど、背筋がぞくりとした。まるで、見られているような。
遠くのどこかから、あの金色の瞳が、静かにこちらを見ているような――。
「いいよっ。ついてく」
「えぇ~、ちょっと恥ずかしいから、ついてこないで!!」
その瞬間、心臓が跳ねた。今しかない。今しかないんだ。走らないと。
「なんで走るの? 待って。一緒にいるって言ったでしょ?」
背後から軽い声が追いかけてくる。あの優しい、でもどこか冷たい声。足音がする。けど、全然、息が乱れてない。走ってるのに、あの人はまるで空気みたいに軽い。
こっちはもう息が上がってるのに。
(どうしよう、どうしよう、どこに行けばいい?)
頭の中でぐるぐると焦りが回る。そうだ、隠れよう。逃げ続けてもきっとすぐ追いつかれる。でも、街の中なら――。
魔王様は街では魔法を使わないようにしてるみたいだし、ここなら、もしかしたら。きっと、魔王様にとっては、鬼ごっこみたいなものなんだ。まさか、俺が本気で逃げようとしてるなんて、思ってないはず。
「少し遊びたいんでしょ?」くらいにしか、考えてない。
(ここ……この路地裏なら……)
狭くて暗くて、人の気配もない。建物の影に身を滑り込ませる。心臓の音がうるさい。息をひそめて、耳を澄ます。
「ユキー、どこにいるの? 隠れても無駄だよ。それとも、俺と遊びたいの? そうなら、魔王城で言ったらよかったのに」
ほら、やっぱり。やっぱり遊びだと思ってる。俺が本気で逃げようとしてるなんて、微塵も思ってない。……でも、今のうちに。
今はまだ、魔王様の機嫌がいいうちに、できるだけ遠くへ。
「ユキー、出ておいで。かくれんぼしたいなら言ってくれればいいのに」
やめて、その声。あの声を聞くと、足が止まりそうになる。優しくて、温かくて、全部包み込むみたいで――でも、底が見えない。
少しでも遠くに行かなくちゃ。あの人の視界から、完全に消えなくちゃ。
「ユキー。今出てきたら、許してあげるよ? おいで。俺もあんまり待つのは好きじゃないんだよね」
(許して……あげる?)
ゾクリと背筋が冷える。あの言い方。あれは命令だ。優しく聞こえても、従わなければいけない響き。もし逆らったら、何が起こるのか……知ってる。もう、何度も見た。
ど、どうしよう。
ちょっと怒ってきてる気がする。あの声のトーン、笑ってるのに、目はきっと笑ってない。
今ここで、魔王様に魔法を使われたら、この計画は終わり。本当に、すぐに終わっちゃう。だから、走れって。走るしかない。
「ユキー。本当にどこにいるの? 聞こえてるんでしょ? 早く出てきて」
まだ、聞こえる。距離を取らなきゃ。もっと先へ。もっと遠くへ。
「ユキー。本当に怒るよ。イタズラはこれくらいにして、もう帰るよ。それとも俺を怒らせたいの? 早く帰ってきて……」
だんだん、声が遠くなっていく。……いけるかもしれない。息を整える暇もなく、全力で走った。魔王城が見えなくなるまで、ただ、がむしゃらに。
♢♢♢
ふぅ……ふぅ……ここまで来れば、大丈夫……かな? 体中が痛い。足も、喉も、もう限界。でも、ようやく少しだけ息ができる。
(魔王様が今、魔法を使っても……たぶん、もう届かない距離)
そう思いたい。魔王様だって、万能じゃない。俺が人間の街にいる限り、魔法は使わないと思う。だって、魔法を使うには姿を変える魔法を解かなくちゃいけないから。
でも、怖い。魔法を使わなくたって見つかるかもしれないし。もし見つかったら――なにをされるかわからない。さっきまで笑ってた顔が、一瞬で変わるのを、知ってるから。
許されるはずがない。
絶対に、逃げ切らないと。
(でも……ここはどこ?)
見慣れない街並み。石畳が続いて、見たことのない店や建物ばかり。魔王城の周りなんて、ほとんど来たことなかった。人間の世界と魔族の世界の境なんて、曖昧で。ここがどっちなのかも、わからない。どこに行ったって魔王様に見つかる未来しかできない。
(どうしよう……これから、どこへ行けばいい?)
逃げることだけ考えてて、その先のこと、何も考えてなかった。食べ物も、水も、何も持ってない。このままじゃ――。
その時。
「きみ、大丈夫? 何かあったの?」
え……?
突然、声をかけられて、びくっと肩が跳ねた。反射的に振り返る。そこには――。
「だ、だれ?」
「ごめんね。きみがうずくまってたから、なんかあったんじゃないかって思って、つい声かけちゃった」
柔らかい声。
見上げた先には、爽やかそうな男の人が立っていた。髪は少し乱れてるけど、優しそうな笑顔。陽の光みたいな人。魔王様、とは正反対。
「……実は、ある人から逃げてて、家に帰れないんです」
言葉が自然と出てた。嘘をつく力も、もう残ってなかった。恐怖と疲れで、声が震える。
「えぇ、それは大変だね。もしよかったら、僕の家にくる? 少しだけなら、大丈夫だよ」
「え……?」
優しい。あまりにも、優しすぎる。こんな人、本当にいるんだろうか。
目の奥に光がある。あたたかくて、まっすぐで、魔王様とは違って支配を感じない。
(この人についていけば、魔王様から逃げられるかもしれない……)
善意に甘えちゃいけないってわかってる。でも、もう、立っていられない。このままだと、またあの人に捕まる。
あの冷たい手に、腕を掴まれて――
「見つけた」って囁かれてしまう。
「できるなら、お願いしたいです」
「わかった。おいで」
その瞬間、胸の奥がじんわり温かくなった。差し出された手を、そっと掴む。大きくて、あたたかい手。
(……大丈夫。きっと、大丈夫)
心のどこかで、そう信じた。けれど同時に、頭の奥に焼き付いて離れない声がある。
――“ユキー、どこにいるの?”
風の音にまぎれて、微かに聞こえた気がした。錯覚だと、自分に言い聞かせる。だけど、背筋がぞくりとした。まるで、見られているような。
遠くのどこかから、あの金色の瞳が、静かにこちらを見ているような――。
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