6 / 43
俺、思い出したんだけど(2)
しおりを挟む
いや、そこからの記憶も蘇った。
雲に包まれたエンタシスの柱に囲まれた神殿のようなところであの爺さんに会ったわけだ。
——ここはどこだ? この爺ぃさんはだれだ? あっ、わかった。かめ仙人だ——
爺さんは禿げ頭を光らせながら長い白髭をまさぐった。
ハテナマークのような長い杖をトントンと突きながら言った。
「わしは神様じゃ」
自分に様を付けるとは、なんとも怪しい爺ぃだ。詐欺師かもしれん。神様詐欺かもしれん……だが、俺から搾り取れるものなどもはやないはずだが。
「詐欺師ではない。いいか、わしはお前の心の声も聞こえる。余計なことは考えん方がいい。心証が悪くなるぞ」
——何が心証だ。いまさら心証が悪くなってどうなる?——
そこで俺はその爺さんから正式に死んだことを告げられた。
——死んだ? 俺が……するとここは天国?——
「天国ではない。途中といったところか」
「途中……?」 しかし、すぐに怒りが込み上げた。「俺は二十三ですよ。この年で、殺すなんてひどいじゃないですか」
「仕方あるまい。運命じゃ」
「そんなことでごまかされませんよ」
「わしがお前の運命を変えたとでもいいたいのか。運命とはお前自身の成り行きなんじゃ。神とて生物一個一個に干渉できるものではない。すべては相互関係による成り行きじゃて」
「でも、このままじゃ死んでも死に切れんのだけど。せめてポイントだけでも使い切りたいんだけど」
「なんじゃポイントとは……まあ、その気持ちがあるのならそれを糧にするがよい」
「どういう意味ですか?」
「これからお前にはちょっと働いてもらおうと思うておる。そのまま異世界へ転生してもらう。そこでじゃ……」
「ちょっと待って、爺ぃさん」
「わしは神様じゃ」
「異世界転生? 働く?」
「そうじゃ」
「異世界転生というのはなんとなくわかるけど、働いてもらうというのは?」
「働くのは当然じゃ。誰でも働く」
「誰でも働くのは当然なのにあえて言うのはおかしくないですか、神様」
「もっともじゃな。まんざらバカではなさそうじゃな……とにかく、働いてもらう。探してもらいたい物があるのじゃ。あまり先のことは知らん方がいいと思うので詳しくは言えんが……」
「そんないい加減な……。だったらお断りします」
「そうじゃろうな。で、何も知らんでは働けんじゃろ、ということでちょっとだけ話すが、探してもらいたいというのは……」
「探してもらいたいというのは?」
「それはじゃな……」 神様は某司会者張りに溜を作った。「それはじゃな……『罪業の柩』じゃ」
「ザイゴウのヒツギ? 棺桶ですか。死体が入ってる?」
「詳しくは言えんが、……これからお前が行く世界を根底から覆す箱じゃ」
「わけがわからんのですけど。それだけでは探しようがないでしょ。どこにあるんですか」
「それがわからんから探せと言っておる。わかっておったらお前になぞ頼むか」
——なんかムカつく。頼んでおいてその言い方はなんだ——
「どどどどんな物ですか? 形とか、色とか、大きさとか……」
「さあ、わからん。実はよく覚えておらんのじゃ。古い記憶じゃからな」
神様は口を尖らせると大げさに首を振る。
「それじゃあ、探しようがないでしょ」
「お前の手に鍵が握られておるじゃろ。それが教えてくれる」
「鍵?」
いつの間にか、俺の手に鍵が握られていた。鍵と言っても鍵の形ではなく丸いペンダントのようなもの。
「これがその柩の鍵?」
「そうじゃ」
「たったそれだけで探せと?……だいたいあんたは神様でしょ。それくらいのことは自分できるでしょ。お断りさせていただきます。……やっぱり、僕を元の世界へ返してください」
「それは無理じゃな。……だから、言ったじゃろ。運命には干渉せんとな。しかもお前さんの肉体は既に荼毘に付されておって骨になっておる。一枚の書類だけが日本の親もとへ帰っておる頃じゃ。親御さんは悲しんでおったぞ。……ここでのお前の体は記憶によるわしの一時的な創作にすぎん。元の世界に戻ればただの霊魂じゃ」
「だだだ荼毘とかほほほほ骨とかれれれ霊魂とか……」
俺は呆然としながら爺ぃの顔を見つめていたが、しばらくして我に返った。
「バカな……霊魂でもいい。元の世界へ返せ。この詐欺爺ぃめ」
「霊魂は七日で消滅するが、それでも良いか?」
「七日で消滅……」
「お前、前の世界で生きていて、これからいいことがあったと思うか?」
「神様がそんなこと言っていいのか。努力すれば道は開けるもんだ」
「お前、努力したことがあるのか?」
神は徹底的に侮辱の手段を駆使するつもりらしい。
俺のプライドを切り刻んで貶めて這い上がれなくして、そこでちょっと手を差し伸べる気だ。
神のすることか?
「いつか改心して努力するようになるかもしれないじゃないか」
「ないない」
「お前、疫病神だろ。爺ぃ」
「やめんか、弁えろ。もしこのまま受け入れれば、次の世界では新しい肉体をくれてやる。前よりイケメンだぞ。モテるぞ」
「イケメン? モテる?」
「そうじゃ。モ・テ・る・ぞ」
神様は薄ら笑った。
雲に包まれたエンタシスの柱に囲まれた神殿のようなところであの爺さんに会ったわけだ。
——ここはどこだ? この爺ぃさんはだれだ? あっ、わかった。かめ仙人だ——
爺さんは禿げ頭を光らせながら長い白髭をまさぐった。
ハテナマークのような長い杖をトントンと突きながら言った。
「わしは神様じゃ」
自分に様を付けるとは、なんとも怪しい爺ぃだ。詐欺師かもしれん。神様詐欺かもしれん……だが、俺から搾り取れるものなどもはやないはずだが。
「詐欺師ではない。いいか、わしはお前の心の声も聞こえる。余計なことは考えん方がいい。心証が悪くなるぞ」
——何が心証だ。いまさら心証が悪くなってどうなる?——
そこで俺はその爺さんから正式に死んだことを告げられた。
——死んだ? 俺が……するとここは天国?——
「天国ではない。途中といったところか」
「途中……?」 しかし、すぐに怒りが込み上げた。「俺は二十三ですよ。この年で、殺すなんてひどいじゃないですか」
「仕方あるまい。運命じゃ」
「そんなことでごまかされませんよ」
「わしがお前の運命を変えたとでもいいたいのか。運命とはお前自身の成り行きなんじゃ。神とて生物一個一個に干渉できるものではない。すべては相互関係による成り行きじゃて」
「でも、このままじゃ死んでも死に切れんのだけど。せめてポイントだけでも使い切りたいんだけど」
「なんじゃポイントとは……まあ、その気持ちがあるのならそれを糧にするがよい」
「どういう意味ですか?」
「これからお前にはちょっと働いてもらおうと思うておる。そのまま異世界へ転生してもらう。そこでじゃ……」
「ちょっと待って、爺ぃさん」
「わしは神様じゃ」
「異世界転生? 働く?」
「そうじゃ」
「異世界転生というのはなんとなくわかるけど、働いてもらうというのは?」
「働くのは当然じゃ。誰でも働く」
「誰でも働くのは当然なのにあえて言うのはおかしくないですか、神様」
「もっともじゃな。まんざらバカではなさそうじゃな……とにかく、働いてもらう。探してもらいたい物があるのじゃ。あまり先のことは知らん方がいいと思うので詳しくは言えんが……」
「そんないい加減な……。だったらお断りします」
「そうじゃろうな。で、何も知らんでは働けんじゃろ、ということでちょっとだけ話すが、探してもらいたいというのは……」
「探してもらいたいというのは?」
「それはじゃな……」 神様は某司会者張りに溜を作った。「それはじゃな……『罪業の柩』じゃ」
「ザイゴウのヒツギ? 棺桶ですか。死体が入ってる?」
「詳しくは言えんが、……これからお前が行く世界を根底から覆す箱じゃ」
「わけがわからんのですけど。それだけでは探しようがないでしょ。どこにあるんですか」
「それがわからんから探せと言っておる。わかっておったらお前になぞ頼むか」
——なんかムカつく。頼んでおいてその言い方はなんだ——
「どどどどんな物ですか? 形とか、色とか、大きさとか……」
「さあ、わからん。実はよく覚えておらんのじゃ。古い記憶じゃからな」
神様は口を尖らせると大げさに首を振る。
「それじゃあ、探しようがないでしょ」
「お前の手に鍵が握られておるじゃろ。それが教えてくれる」
「鍵?」
いつの間にか、俺の手に鍵が握られていた。鍵と言っても鍵の形ではなく丸いペンダントのようなもの。
「これがその柩の鍵?」
「そうじゃ」
「たったそれだけで探せと?……だいたいあんたは神様でしょ。それくらいのことは自分できるでしょ。お断りさせていただきます。……やっぱり、僕を元の世界へ返してください」
「それは無理じゃな。……だから、言ったじゃろ。運命には干渉せんとな。しかもお前さんの肉体は既に荼毘に付されておって骨になっておる。一枚の書類だけが日本の親もとへ帰っておる頃じゃ。親御さんは悲しんでおったぞ。……ここでのお前の体は記憶によるわしの一時的な創作にすぎん。元の世界に戻ればただの霊魂じゃ」
「だだだ荼毘とかほほほほ骨とかれれれ霊魂とか……」
俺は呆然としながら爺ぃの顔を見つめていたが、しばらくして我に返った。
「バカな……霊魂でもいい。元の世界へ返せ。この詐欺爺ぃめ」
「霊魂は七日で消滅するが、それでも良いか?」
「七日で消滅……」
「お前、前の世界で生きていて、これからいいことがあったと思うか?」
「神様がそんなこと言っていいのか。努力すれば道は開けるもんだ」
「お前、努力したことがあるのか?」
神は徹底的に侮辱の手段を駆使するつもりらしい。
俺のプライドを切り刻んで貶めて這い上がれなくして、そこでちょっと手を差し伸べる気だ。
神のすることか?
「いつか改心して努力するようになるかもしれないじゃないか」
「ないない」
「お前、疫病神だろ。爺ぃ」
「やめんか、弁えろ。もしこのまま受け入れれば、次の世界では新しい肉体をくれてやる。前よりイケメンだぞ。モテるぞ」
「イケメン? モテる?」
「そうじゃ。モ・テ・る・ぞ」
神様は薄ら笑った。
6
あなたにおすすめの小説
なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!
日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」
見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。
神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。
特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。
突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。
なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。
・魔物に襲われている女の子との出会い
・勇者との出会い
・魔王との出会い
・他の転生者との出会い
・波長の合う仲間との出会い etc.......
チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。
その時クロムは何を想い、何をするのか……
このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流
犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。
しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。
遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。
彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。
転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。
そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。
人は、娯楽で癒されます。
動物や従魔たちには、何もありません。
私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!
転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?
スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。
女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!?
ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか!
これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。
元構造解析研究者の異世界冒険譚
犬社護
ファンタジー
主人公は持水薫、女30歳、独身。趣味はあらゆる物質の立体構造を調べ眺めること、構造解析研究者であったが、地震で後輩を庇い命を落とす。魂となった彼女は女神と出会い、話をした結果、後輩を助けたこともあってスキル2つを持ってすぐに転生することになった。転生先は、地球からはるか遠く離れた惑星ガーランド、エルディア王国のある貴族の娘であった。前世の記憶を持ったまま、持水薫改めシャーロット・エルバランは誕生した。転生の際に選んだスキルは『構造解析』と『構造編集』。2つのスキルと持ち前の知能の高さを生かし、順調な異世界生活を送っていたが、とある女の子と出会った事で、人生が激変することになる。
果たして、シャーロットは新たな人生を生き抜くことが出来るのだろうか?
…………………
7歳序盤まではほのぼのとした話が続きますが、7歳中盤から未開の地へ転移されます。転移以降、物語はスローペースで進んでいきます。読者によっては、早くこの先を知りたいのに、話が進まないよと思う方もおられるかもしれません。のんびりした気持ちで読んで頂けると嬉しいです。
…………………
主人公シャーロットは、チートスキルを持っていますが、最弱スタートです。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる