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俺、思い出したんだけど(2)
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いや、そこからの記憶も蘇った。
雲に包まれたエンタシスの柱に囲まれた神殿のようなところであの爺さんに会ったわけだ。
——ここはどこだ? この爺ぃさんはだれだ? あっ、わかった。かめ仙人だ——
爺さんは禿げ頭を光らせながら長い白髭をまさぐった。
ハテナマークのような長い杖をトントンと突きながら言った。
「わしは神様じゃ」
自分に様を付けるとは、なんとも怪しい爺ぃだ。詐欺師かもしれん。神様詐欺かもしれん……だが、俺から搾り取れるものなどもはやないはずだが。
「詐欺師ではない。いいか、わしはお前の心の声も聞こえる。余計なことは考えん方がいい。心証が悪くなるぞ」
——何が心証だ。いまさら心証が悪くなってどうなる?——
そこで俺はその爺さんから正式に死んだことを告げられた。
——死んだ? 俺が……するとここは天国?——
「天国ではない。途中といったところか」
「途中……?」 しかし、すぐに怒りが込み上げた。「俺は二十三ですよ。この年で、殺すなんてひどいじゃないですか」
「仕方あるまい。運命じゃ」
「そんなことでごまかされませんよ」
「わしがお前の運命を変えたとでもいいたいのか。運命とはお前自身の成り行きなんじゃ。神とて生物一個一個に干渉できるものではない。すべては相互関係による成り行きじゃて」
「でも、このままじゃ死んでも死に切れんのだけど。せめてポイントだけでも使い切りたいんだけど」
「なんじゃポイントとは……まあ、その気持ちがあるのならそれを糧にするがよい」
「どういう意味ですか?」
「これからお前にはちょっと働いてもらおうと思うておる。そのまま異世界へ転生してもらう。そこでじゃ……」
「ちょっと待って、爺ぃさん」
「わしは神様じゃ」
「異世界転生? 働く?」
「そうじゃ」
「異世界転生というのはなんとなくわかるけど、働いてもらうというのは?」
「働くのは当然じゃ。誰でも働く」
「誰でも働くのは当然なのにあえて言うのはおかしくないですか、神様」
「もっともじゃな。まんざらバカではなさそうじゃな……とにかく、働いてもらう。探してもらいたい物があるのじゃ。あまり先のことは知らん方がいいと思うので詳しくは言えんが……」
「そんないい加減な……。だったらお断りします」
「そうじゃろうな。で、何も知らんでは働けんじゃろ、ということでちょっとだけ話すが、探してもらいたいというのは……」
「探してもらいたいというのは?」
「それはじゃな……」 神様は某司会者張りに溜を作った。「それはじゃな……『罪業の柩』じゃ」
「ザイゴウのヒツギ? 棺桶ですか。死体が入ってる?」
「詳しくは言えんが、……これからお前が行く世界を根底から覆す箱じゃ」
「わけがわからんのですけど。それだけでは探しようがないでしょ。どこにあるんですか」
「それがわからんから探せと言っておる。わかっておったらお前になぞ頼むか」
——なんかムカつく。頼んでおいてその言い方はなんだ——
「どどどどんな物ですか? 形とか、色とか、大きさとか……」
「さあ、わからん。実はよく覚えておらんのじゃ。古い記憶じゃからな」
神様は口を尖らせると大げさに首を振る。
「それじゃあ、探しようがないでしょ」
「お前の手に鍵が握られておるじゃろ。それが教えてくれる」
「鍵?」
いつの間にか、俺の手に鍵が握られていた。鍵と言っても鍵の形ではなく丸いペンダントのようなもの。
「これがその柩の鍵?」
「そうじゃ」
「たったそれだけで探せと?……だいたいあんたは神様でしょ。それくらいのことは自分できるでしょ。お断りさせていただきます。……やっぱり、僕を元の世界へ返してください」
「それは無理じゃな。……だから、言ったじゃろ。運命には干渉せんとな。しかもお前さんの肉体は既に荼毘に付されておって骨になっておる。一枚の書類だけが日本の親もとへ帰っておる頃じゃ。親御さんは悲しんでおったぞ。……ここでのお前の体は記憶によるわしの一時的な創作にすぎん。元の世界に戻ればただの霊魂じゃ」
「だだだ荼毘とかほほほほ骨とかれれれ霊魂とか……」
俺は呆然としながら爺ぃの顔を見つめていたが、しばらくして我に返った。
「バカな……霊魂でもいい。元の世界へ返せ。この詐欺爺ぃめ」
「霊魂は七日で消滅するが、それでも良いか?」
「七日で消滅……」
「お前、前の世界で生きていて、これからいいことがあったと思うか?」
「神様がそんなこと言っていいのか。努力すれば道は開けるもんだ」
「お前、努力したことがあるのか?」
神は徹底的に侮辱の手段を駆使するつもりらしい。
俺のプライドを切り刻んで貶めて這い上がれなくして、そこでちょっと手を差し伸べる気だ。
神のすることか?
「いつか改心して努力するようになるかもしれないじゃないか」
「ないない」
「お前、疫病神だろ。爺ぃ」
「やめんか、弁えろ。もしこのまま受け入れれば、次の世界では新しい肉体をくれてやる。前よりイケメンだぞ。モテるぞ」
「イケメン? モテる?」
「そうじゃ。モ・テ・る・ぞ」
神様は薄ら笑った。
雲に包まれたエンタシスの柱に囲まれた神殿のようなところであの爺さんに会ったわけだ。
——ここはどこだ? この爺ぃさんはだれだ? あっ、わかった。かめ仙人だ——
爺さんは禿げ頭を光らせながら長い白髭をまさぐった。
ハテナマークのような長い杖をトントンと突きながら言った。
「わしは神様じゃ」
自分に様を付けるとは、なんとも怪しい爺ぃだ。詐欺師かもしれん。神様詐欺かもしれん……だが、俺から搾り取れるものなどもはやないはずだが。
「詐欺師ではない。いいか、わしはお前の心の声も聞こえる。余計なことは考えん方がいい。心証が悪くなるぞ」
——何が心証だ。いまさら心証が悪くなってどうなる?——
そこで俺はその爺さんから正式に死んだことを告げられた。
——死んだ? 俺が……するとここは天国?——
「天国ではない。途中といったところか」
「途中……?」 しかし、すぐに怒りが込み上げた。「俺は二十三ですよ。この年で、殺すなんてひどいじゃないですか」
「仕方あるまい。運命じゃ」
「そんなことでごまかされませんよ」
「わしがお前の運命を変えたとでもいいたいのか。運命とはお前自身の成り行きなんじゃ。神とて生物一個一個に干渉できるものではない。すべては相互関係による成り行きじゃて」
「でも、このままじゃ死んでも死に切れんのだけど。せめてポイントだけでも使い切りたいんだけど」
「なんじゃポイントとは……まあ、その気持ちがあるのならそれを糧にするがよい」
「どういう意味ですか?」
「これからお前にはちょっと働いてもらおうと思うておる。そのまま異世界へ転生してもらう。そこでじゃ……」
「ちょっと待って、爺ぃさん」
「わしは神様じゃ」
「異世界転生? 働く?」
「そうじゃ」
「異世界転生というのはなんとなくわかるけど、働いてもらうというのは?」
「働くのは当然じゃ。誰でも働く」
「誰でも働くのは当然なのにあえて言うのはおかしくないですか、神様」
「もっともじゃな。まんざらバカではなさそうじゃな……とにかく、働いてもらう。探してもらいたい物があるのじゃ。あまり先のことは知らん方がいいと思うので詳しくは言えんが……」
「そんないい加減な……。だったらお断りします」
「そうじゃろうな。で、何も知らんでは働けんじゃろ、ということでちょっとだけ話すが、探してもらいたいというのは……」
「探してもらいたいというのは?」
「それはじゃな……」 神様は某司会者張りに溜を作った。「それはじゃな……『罪業の柩』じゃ」
「ザイゴウのヒツギ? 棺桶ですか。死体が入ってる?」
「詳しくは言えんが、……これからお前が行く世界を根底から覆す箱じゃ」
「わけがわからんのですけど。それだけでは探しようがないでしょ。どこにあるんですか」
「それがわからんから探せと言っておる。わかっておったらお前になぞ頼むか」
——なんかムカつく。頼んでおいてその言い方はなんだ——
「どどどどんな物ですか? 形とか、色とか、大きさとか……」
「さあ、わからん。実はよく覚えておらんのじゃ。古い記憶じゃからな」
神様は口を尖らせると大げさに首を振る。
「それじゃあ、探しようがないでしょ」
「お前の手に鍵が握られておるじゃろ。それが教えてくれる」
「鍵?」
いつの間にか、俺の手に鍵が握られていた。鍵と言っても鍵の形ではなく丸いペンダントのようなもの。
「これがその柩の鍵?」
「そうじゃ」
「たったそれだけで探せと?……だいたいあんたは神様でしょ。それくらいのことは自分できるでしょ。お断りさせていただきます。……やっぱり、僕を元の世界へ返してください」
「それは無理じゃな。……だから、言ったじゃろ。運命には干渉せんとな。しかもお前さんの肉体は既に荼毘に付されておって骨になっておる。一枚の書類だけが日本の親もとへ帰っておる頃じゃ。親御さんは悲しんでおったぞ。……ここでのお前の体は記憶によるわしの一時的な創作にすぎん。元の世界に戻ればただの霊魂じゃ」
「だだだ荼毘とかほほほほ骨とかれれれ霊魂とか……」
俺は呆然としながら爺ぃの顔を見つめていたが、しばらくして我に返った。
「バカな……霊魂でもいい。元の世界へ返せ。この詐欺爺ぃめ」
「霊魂は七日で消滅するが、それでも良いか?」
「七日で消滅……」
「お前、前の世界で生きていて、これからいいことがあったと思うか?」
「神様がそんなこと言っていいのか。努力すれば道は開けるもんだ」
「お前、努力したことがあるのか?」
神は徹底的に侮辱の手段を駆使するつもりらしい。
俺のプライドを切り刻んで貶めて這い上がれなくして、そこでちょっと手を差し伸べる気だ。
神のすることか?
「いつか改心して努力するようになるかもしれないじゃないか」
「ないない」
「お前、疫病神だろ。爺ぃ」
「やめんか、弁えろ。もしこのまま受け入れれば、次の世界では新しい肉体をくれてやる。前よりイケメンだぞ。モテるぞ」
「イケメン? モテる?」
「そうじゃ。モ・テ・る・ぞ」
神様は薄ら笑った。
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