冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

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地下牢

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俺がカイウスの場所に行っていいという事は、神がいるところにカイウスはいない。
俺と神を会わせるのを凄く嫌がっていたし、だとしたらローベルト卿の言う通りにした方がいい。
カイウスに会うまで、それまで我慢すればいいんだ。
まだ薬は使わない事になったみたいで、ローベルト卿に腕を引っ張られて立たされた。

そのまま扉まで引っ張られるように連れて行かれた。
扉を開くと、知らない兵士が立っていてローベルト卿は俺の背中を押した。

「悪魔のところに連れて行け」

ローベルト卿は来ないのか、それだけ命令して扉が閉ざされた。
兵士は無言で俺の腕を引っ張り強引に引きずられる。

優遇とはなんだったのか、全く変わってないじゃないか。
それとも、ローベルト卿に逆らったのを扉の向こう側から聞いていたのか?

何であれ、俺にはどうでもいい事には変わりがないけど…
どんな事をされても、俺はもう諦めない…それがローベルト家に生まれた宿命だと言うならそれを乗り越えてみせる。
カイウスと共に…

連れてこられたのは城の中ではなく、庭だった。
庭に地下があるなんて知らなかった、きっと一人で探していたらずっと見つけられなかったかもしれない。

兵士が足を止めた地面には、四角い蓋が見えた。
その蓋に鍵を差し込んで、開けるとまた蓋が現れた。
かなり頑丈にしているのか、三回繰り返すと地下に続く階段が見えた。

兵士は俺の背中を押して先に降りるようにと指示した。
突然引っ張るから階段を滑りそうになりながらも、慎重に降りる。

暗いから油断するとすぐに滑り落ちそうになり、後ろでも兵士に早くしろと背中を押されるから「もっとゆっくり!」と声を上げそうになった。

その声は、大きな爆発音が聞こえて飲み込んだ。
ずるっと足を滑らせて転がりそうになって、痛みに身構えた。

しかし、来る筈の痛みがなくてギュッと瞑っていた目蓋を開いた。
俺の体はゆらゆらと揺れていて、床から足を離して浮いていた。

呆然とする俺の後ろで、兵士は悲鳴を上げながら物凄い速さで階段を上っていった。
いきなりどうしたのかと、後ろを見ていたらゆっくりと体は床に降ろされた。

真っ暗な視界の中、はっきりと声だけが聞こえた。

「ライム」

「かっ…ど、何処にいるの!?」

「ここだよ」

ついカイウスの名前を呼ぼうとしたが、何処に兵士がいるのか分からないから言い直した。
声は聞こえるが、姿が見えないから何処にいるのか分からない。

しかも、さっきの兵士…扉までご丁寧に閉めやがって自分の姿すら分からない。
手を伸ばして手探りで探すしかないと思ったが、すぐに見つける事が出来た。

俺の手をギュッと握る手は、間違いなくカイウスのものだった。
両手でカイウスの手を掴むと、強い力で引き寄せられた。

抱きしめられた温もりに、再会出来た喜びで涙が出そうだった。
あの状態のカイウスはどうなったのか、ローベルト卿達に酷い事されていないか、不安で怖かった。

カイウスのいつものにおいに混ざって、嫌なにおいがする。
なんだろう、焦げくさいような…カイウスからもにおいがする。
ローベルト卿達が悪魔だと思っているカイウスを手当てするとは思えない。

まだカイウスは怪我をしているんじゃないかと思って、俺は自分の服を脱いだ。
カイウスは暗がりでも俺が見えているのか、クスッと笑っていた。

「ライム、どうした?こんなところで」

「えっ!?ち、違うよ!傷の手当てしようと思って」

「傷?もう大丈夫だよ」

カイウスは俺の頭を撫でて俺の手を自分の脇腹に移動させた。
すぐに治るのかと半信半疑で恐る恐るそこに触れた。

気絶する前、大量の血が流れるほどの大怪我だったのにそこは傷一つもない綺麗な脇腹だった。
ローベルト家の誰かが手当てしてくれたのかな、そんな優しい人がいるのか疑問だ。

カイウスに傷の事を聞くと「元々リーズナの傷だから、リーズナを吸収したら治った……人間が与える傷なんて大した事はない」と言っていた。
悪魔と呼んでいたから元のカイウスに戻ってはいないとは思っていた。
でも、あの見た事がない暴走は胸をざわつかせていた。

目の前にいるカイウスは、俺が知っているカイウス…だよね。

カイウスが怪我をしていないなら、この嫌な焦げくささはいったいなんなんだ?

「なんか焦げくさくない?」

「ライム、風邪引くよ」

「あ、ありがとう…じゃなくて」

「俺はライムに会いたかっただけなのに、邪魔してきたから」

「えっ…それって」

「気にしなくていいよ、ライムと会えたから」

カイウスは穏やかな声で話しているが、ここでカイウスがどんだけ人を殺したのか分かる。
もっと早く会いに行けば良かった、とカイウスの服を握る。

今、キスをするべきじゃない…ここでカイウスを戻したら危険だ。

とりあえず、ここから出ようとカイウスの腕を引っ張った。
人の嫌なにおいが充満したこの場所に長時間いたら気が可笑しくなる。
でもカイウスは一歩も動かず、俺を抱きしめてきた。
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