【価値反転 ⇄】豚王子は覚醒スキルで、呪われた運命を全てひっくり返す! ~謎の美少女とちびモフモフも、一緒に立ち向かいます!~

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Ⅰ 豚王子、覚醒す

1-4.

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 ボロをまとった小柄な人間が、端切れ板の上でうつ伏せになっている。ぎりぎり浮かんでいる状態で、川に浸かったか細い手足が、流れに合わせてゆらゆらと動いている。

「──生きてる。鼓動が聞こえてくる」

 幸いにも川べりで助かった。泳いだことがない僕だけど、板を引き上げることなら何とかできる。
 実際は「何とか」どころじゃなかった。思いのほか力も上がってしまっていて、板の端をつかんで思いっきり引っ張ったら、乗っていた人が空を舞った。

「ああ、やばいっ……っと。ふう。 危なかった」

 ふう、じゃない。上手く抱きかかえられたものの、危うく地面に落としてしまうところだった。
 珍しい黒髪の、おかっぱ……顔つきからして、どうやら女の子だ。しかし、骨かと思うほど痩せている上に、身体が冷たい。このままじゃ助けた意味が無くなる。
 
 いったん地面に寝かせ、僕は慌てて川の水を手ですくい、エリクサーへと反転。彼女の口元へ注いだ。

「……だめだ。口の端からこぼれていく。どうしよう」

 僕自身も変わったからと思い、この子自体の「弱体化」を反転できないかと思ったけど……それは無理なようだ。もっと検証が必要──じゃなくて! せっかく泥水をエリクサーにできようが、このままじゃまた役立たずだ。

「……仕方がない。どうか〝覚えていないで〟くれよ!」

 今一度すくい上げた水を、自分の口に含む。彼女の頭を起こし、小さな唇をやさしく指で押し開くと……僕はそっと口づけをして、水を注ぎこんだ。

 心臓の鼓動が強くなり、彼女の身体が少しずつ熱を帯びいくのが、抱きかかえる腕に伝わってくる。
 青ざめた顔にも、その頬にふっと赤みが差し始めた。

「よかった。何とかなった……」

 命を繋ぎ止めた。その実感で、ぐうっと目頭が熱くなる。思わず、彼女の額に涙をぽたりと落としてしまった。

「……ぅ、ぅうん……」
「あ、気が付いた! 君、気をしっかり。もう大丈夫だよ」

 うっすらとまぶたを開けると、黒真珠のような美しい瞳が覗き、僕の目を捉えた。
 
「神……さま?」

 ひと言、それだけぽそりとつぶやくなり、再び目を閉じてうなだれた。

「よかった、眠っただけのようだ。さて……これから忙しくなるぞ!」

 彼女が軽すぎるのか、僕の力が強くなったのか。ふわっと抱きかかえると、そのまま〝城〟へと走り戻った。



「──さあ~、どうかなあ~……頭の中の情報と見よう見まねで、どこまで調ととのうか」

〝城〟に戻り、シチューを作っている。
 生きていく上で最低限必要なもの、その2──「塩」の確保は、思いのほか上手くいった。 
 
 まず、川の泥水を反転濃度の調整で、海水に変える。そこから「塩の結晶」と、より価値の高い方向へ持って行くわけだ。一度この〝流れ〟を組んでおけば、次は泥水から一発で塩の結晶にできる。この過程づくり、なかなか面白い。
 
「豚王子だった頃に【収集】で触れたものが、情報として頭の中に入っていたおかげだな」

 腐らずに、癖のようにやっていたことが功を奏した。本当にありがたい。下手をすれば、図書室の書物や帝王学より役に立っているかもしれない。こんな極端な場においては。

 後はその辺のきのこや木の実を食べられるものに、草を香草に変え、バラバラにしてとにかくごった煮。味はわからないけど……きっと、栄養はあると思う。鍋は調理スキル付きのミスリル製だしね。ダメなら当分毎日エリクサーだ!

 ぐつぐつと煮えるたびに、何とも言えない……きのこと香草が利いた、いい香りが室内に漂いはじめる。これは本当に、イケてるんじゃないでしょうか。あはは。

「……あの」
「うわあっ! びっくりしたっ!」

 モフモフ敷布に寝かせていた女の子が、上半身を起こしてこちらを見ている。急に話しかけられて、レードルおたまを思わず飛ばしてしまった。
 取り繕いつつ、脅かさないように、おだやかに。

「やあ、目が覚めたんだね……うんうん。すっかり顔色が良くなったよ。さすがはエリクサー」
「ここは、いったい」
「お城だよ。小さいけど、僕のお城。君は初めての招待客さ」

 女の子は、少しきょとんとした顔をしている。だろうね。僕も、今の返しは自分でもどうかと思った。

「君はね、近くの川で倒れていたんだよ。たまたま見つけてね」
「そう……ですか。わたし、助かったんだ……」

 ほっとしたような、それでいて不安げな。複雑な表情に、あのボロの格好だ。きっと何か事情がある。だけど僕からは訊かない。それが紳士というものだ。

「服はあまりにもボロボロだったので、直しておいたよ。それを着ているだけでも、弱った身体にはいいはずだから」

 そう言われて彼女は、自分がまとう白無垢のワンピースを恐る恐る、そっと撫でた。

「こんな、上等なお召し物を、ありがとうございます」
「ああ、気にしないで。それは元々君が着ていたものだから」
「え?」
「……よし。煮えたみたいだぞ。味は……どれどれ……うっ!」

 お客様へ提供する前に、先ずは自分で味見してみたところ……こ、これは!
 とにかく誰かの感想を聞きたい。作っておいた木のボウルにいそいそとよそい、木のスプーンと一緒に彼女へ手渡した。

「熱いから、ゆっくり食べてみて。気に入ってくれるといいけど」

 彼女は頬にかかるおかっぱの毛を耳の後ろへ流し、スプーンのひと口を、ふうふうと冷ます。マナー違反はわかっているけど、ついついじっと見てしまう。
 彼女はそっと口の中へ入れて味わうなり、目玉をこぼれそうなぐらい開いて、僕を見た。

「おっ……おいしい! こんなにおいしいきのこのシチュー、初めて食べました!」
「ふふ、それはよかった。じゃあ僕も、お相伴しょうばんにしようかな」
 
 初めての手料理を自分ではなく他人に振る舞うなんて、勇者だよな。しかも元・王族だし。
 一応、手渡す前に【鑑定】に掛けてみたら、

[神のきのこシチュー:神々に奉納可能なシチュー。病魔根絶、肉体構築、疲労回復、美肌効果]
 
 ……なんて、そのまま言ったらデタラメにもほどがある内容だったけど。単純に味として、僕だけじゃなく他人もおいしさを共有してくれたわけだから、結果が全てだ。

「おかわりもあるよ。好きなだけ食べてい──あ、きのこは胃にもたれやすいから、ほどほどに」
「ありがとう、ございます……」

 涙がシチューに落ちている。僕は見ないふりをして、静かにシチューを口に運んだ。

「んぁっ! あっつ! あちちち。舌をやけどしちゃった」
「うふふふ、うふ……ぐすん」

 ちょっと恥ずかしかったけど……泣きながらも、やっと笑顔を見せてくれた。かわいらしい子だ。痩せているのが戻れば、きっと、もっと美少女だろう。
 それはそうと、パンが欲しくなるな、これ──


 エリクサー効果か、すっかり元気な様子でシチューを二杯、きれいに食べ終えた彼女。僕はボウルをまとめながら、あらためて自己紹介をした。

「僕はエルヴィン。エルとでも呼んでくれればいいよ」
「わたしは……ヒナと言います、神……んんっ、エルヴィン様」
「様はいらないよ。ただの森の住人だからね」

 ヒナは身体をきゅっと強張こわばらせて、真剣な眼差しを向けた。

「いえ。すべてを失った上、命までも打ち消されようとしていた身。それをお救いいただいた方に、無礼はできません」
(すべてを、失った……?)

 その一言を聞いて、僕は彼女にしっかりと向き直った。

「じゃあ、僕と同じだね」
「それは……どういう」
「ヒナは、もし行くところが無いのなら、ここにいてもいいよ。ただし、僕のことは気楽に呼んで欲しい。それが条件かな」

 ぐいいっと。ヒナは前のめりになり、目をきらきらと輝かせた。
 
「はい! 一生懸命はたらいて、死ぬまでご恩をお返しいたします! でもせめてエル様と、お呼びさせてください」
「う、うん……わかったよ。じゃあそれで」

 目力と圧に負けた。歳はおそらく12~3ぐらいだというのに。
 
 真面目というか、不思議な子だな。いつか話してくれるまで待つけど……この左肩の図案は確か、奴隷紋だ。その割には受け答えがしっかりしているし。それにこの辺では見かけない、黒髪に黒い瞳。

 まあ、僕も似たようなものだ。詮索し合うよりは、まずは未知の世界をきちんと生きること。そのスタートに、隣人が一人増えた。それだけだ。
 
 僕にはやるべきことがある。その力をつけるまでは、ありのままを受け入れて──
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