【価値反転 ⇄】豚王子は覚醒スキルで、呪われた運命を全てひっくり返す! ~謎の美少女とちびモフモフも、一緒に立ち向かいます!~

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Ⅰ 豚王子、覚醒す

1-11.

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 セントルの町にやってきた。
 遠くからも見えていた、寒々しい灰一色の防壁。間近で見ると、城塞のように分厚い、重々しい石造りに目を奪われる。

「初めて来た人は皆びっくりしてるねえ。大昔、この国が南北に分かれていたとき、北の最前線だったそうだ。立派なもんだろう。おかげで魔獣も近づかねえのさ」
 
 旅人相手に何度繰り返したかわからない話を、楽しそうにしてくれる門番。ただ、僕にとってはあまり良い印象ではなかった。僕の帰る場所──王城を思い出してしまうから。

 通行税は二人で100ゴルド。銀貨一枚。平均的な一日の生活費ぐらいだから、結構高い。立場が変われば、こんなにも価値観が変わるものなんだ。社会的に死んでみて、初めてわかったことがいっぱいある。

 門をくぐるなり、ごった返す人の群れが目に飛び込んでくる。僕とヒナは、同時におよそ感動的でない言葉を口にした。

「うるさい!」
 
 顔を見合わせ、思わず笑う。にぎやかとは違う。とにかく目に耳に、騒がしい。
 
 立ち並ぶ露店からは香ばしい串焼きのにおいと、呼び込みの声。それがすぐ、鎧を着た男たちの臭気や忙しなく走る馬車のほこりでかき消される。

<<……ふぁ……くきゅんっ!>>
「あれ、チラがくしゃみをしてるよ。珍しい」
「森の瘴気の次ぐらいに空気が悪いかもしれません」
「はは、人間が集まると、ろくなものじゃないね」
 
 彼方で、カバンにロール状の紙を詰め込んだおじさんが、何やら繰り返し叫んでいる。
 
「市街図、あるよ! 一部50ゴルドだ! 町で迷いたくなきゃ買っといで~!」
「二部ください」

 串焼きも買って、人混みを避けたところで地図を見る。

「……あった、商業ギルド。他のギルドに……銀行も近いな。王都なみに施設が揃っているんじゃないか」
「酒場と宿もいっぱい書いてありますよ」
「よし。ひとまずポーションを換金して、今日はお泊りで贅沢しよう!」
「えへへ! やったあ!」

 ヒナ、ひょっとして狙って言ったのかな。僕も気分転換になって嬉しいのは同じ。ともあれ、旅の苦労へのご褒美だな、今日は。

 地図に従って歩いていくと……チラが僕の頭の上でひと鳴きした。

<<きゅっ!>>
 
 同時に、商業ギルドの印である天秤の看板が目に入る。チラはかなり目がいい。
 間口の広い、石造りの立派な建物の前に立つ。少し気圧されつつ……入る前にヒナと二人してチュニックの裾を引っ張って整える。笑ってしまうぐらい行動が一緒になっている。

 ホールの中は表通りからさらに人であふれていた。奥まで伸びた長机ごしに、職員がそれぞれ訪れた人に対応している。
 僕らは、ちょうど空いた女性職員の前に付いた。

「すみません、ポーションを買い取ってもらいたいんですけど、こちらでいいですか」
「──! え、ええ……」

 赤茶の髪の女性は、僕を見るなり言葉を詰まらせ、ぐっと目を見開いた。そして……ふうっと首を傾けながら、眠る前のようなとろんとした目つきに変わっていく。
 そこへ、ヒナが鋭く斬りこんだ。

「あの! ポーションの買取をしてもらえますか!」
「──はいっ!? あ、ああ、ポーションね。んじゃあ、まず現物と身分証の確認を。それからこちらの申告書に、内容の記載とサインをお願いね!」
 
 急にあわてて、畳みかけるように用件を言い出す職員さん。背嚢はいのうからポーションを出して検品をしてもらう。その横で、ヒナが妙にピリピリし始めた。
 
 職員さんは試験薬らしきものでひと通り検品を終え、価格を掲示した。

「良質なものをたくさん、ありがとうございま~す! 買取価格はこれね。よければサインを」

 ヒナと顔を突き合わせ、明細をよく見る。
 
「傷用36、毒消し16、中級16。計68本、以上で約3万1千。そこから取引税の一割を引いて2万8千か。今まで直接取引だったから、税金に違和感があるなあ」
「でも、卸価格でこれですから、かなりいいですよ! たぶん、この町でも不足してるんじゃないでしょうか」
「なるほど……価格からも情勢が見られるわけだね。さすがユノ」
「えへへ。頭を撫でてください、アル様」

 人前での〝役〟の切り替えも、もう慣れたもの。
 申告書にサインをして渡すと、すぐに金貨が用意された。受け取ろうとしたとき、職員さんはそっと僕の手に触れた。

「ねえ、アルヴァンは、まだポーションを持ってるの?」
「今日は下見も兼ねて来たんですけど……在庫はまだありますよ」
「少し上乗せするから、いくつでも持ってきて。あと、その時は必ず、私に声をかけてね~」

 満面の笑みで手を握る職員さんの手を、ぐいっと引き離すヒナ。

「空いていたら、でいいですよね。今日は急ぎますので、失礼します! ……まったくもう、油断禁物ですっ」

 よく聞き取れないことをブツブツ言いながら、ヒナはそのまま僕を引っ張るようにして出ていく。こんな彼女は珍しい。まあ、まとまったお金も入ったし……少し早いけど、夕食をごちそうして、機嫌を直してもらおう。

 
 道往く人に聞き込みをして見つけた、おすすめの酒場へ向かう。地図を片手に、近道ができそうだと、路地裏に入ったときだった。

「この物乞いのガキがっ! よくも俺様の服を汚しやがったな!」

 小太りの男が怒声を浴びせながら、ボロをまとった少年をひたすら蹴りつけている。やせ細った手足を、折らんばかりに容赦なく。
 無意識に、ただ反射的に。僕は男へ体当たりをして、突き飛ばした。

「やめろ! こんな子供に……人の痛みもわからない、恥知らずが!」

 腰の『聖樹の木剣』をすらりと抜いた。男は立ち上がって僕の得物を見るなり、鼻で笑った。

「がはは! 何だそりゃ。子供の玩具で俺様を斬ろうってのか、ぁあ?」

 僕の怒りに呼応するように、木剣が光る。それを、男の足元めがけて振り下ろすと……バキバキとすさまじい音を立て、石畳を深くえぐった。

「ひぎゃあああ!」
「次は、当てるぞ。命が惜しくないなら、この玩具に向かってこい!」
「わ、わる、悪かっ……ひぃええええ──っ!」

 男は両手両足をばたつかせながら逃げていった。
 木剣を収め、ひとまずは安心と振り返る。すると……ヒナが少年を抱きしめながら、号泣していた。

「ああ、フキ……よく、よくぞ生きて……」
「そんな……本当に、ヒナ様……?」
 
 少年も、みるみる内に目が涙でいっぱいになり、こぼれ落ち始める。
 今、確かに聞いた。彼が「ヒナ〝様〟」と敬称を付けたのを。
 同じ黒髪に、黒い瞳。さらに僕は、むき出しになった左肩を凝視した。そこには、ヒナが持つものと同じ、奴隷紋が刻まれていた。
 
 僕が立ち入れない、感傷的な場。だけど、いつまでもここにはいられない。

「ヒナ。ひとまずこの子を連れて、どこかの宿へ入ろう」
「ぐすっ……は、はい」
「フキと言ったね。君は僕が抱きかかえる。行くぞっ」

 躊躇ちゅうちょする彼を強引に抱き上げる。骨ばった、うそみたいに軽い身体。ヒナを見つけた時のことを思い出して、胸が激しく痛む。

「チラ、頼む!」
<<きゅきゅ! きゅぅぅ~……きゅっ!>>

 チラを中心に、球状の光の幕がフキを覆う。スキル【絶界】。これに覆われると、誰からも見えなくなる。これでひとまず目立たず動ける。

 ヒナが地図を片手に、適当な宿屋に当たりをつける。そこへ駆け込み……主の言い値をすぐに支払うと、空き部屋へと滑り込んだ。
 フキをベッドへおろし、背嚢からここぞという時用に携帯しているエリクサーを取り出した。

「さあ、これを飲んで。ゆっくり休むんだ。気になることは後で教えてあげるから、今は僕とヒナを信じて」

 ヒナに目線を向けるフキ。彼女がうなずくのを見て、エリクサーをゆっくりと飲み干す。支えながら寝かしつけると、そのまま、気を失ったように深く眠った。

 泣きはらして真っ赤な目をしたヒナ。床に正座して、ずっとうつむいている。
 僕は彼女の前に座り、そっと肩に手をやった。
 
「話して……くれるかい?」

 ヒナは一度僕の瞳をしっかり捉え、こくりとうなずく。そして、言葉を選びながら、訥々とつとつと話し始めた。
 
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