【価値反転 ⇄】豚王子は覚醒スキルで、呪われた運命を全てひっくり返す! ~謎の美少女とちびモフモフも、一緒に立ち向かいます!~

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Ⅰ 豚王子、覚醒す

1-13.

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 ──フキ───────
 カミナの民 男性 12歳
 エルヴィンの従者(加護)
 小剣、解体
 猫目、猫脚、犬耳、犬鼻
 ───────────

 ヒナの話によると、フキは獲物探しにかけては部族一で、天才的だという。スキルからしても、五感の強化に長けている。騎士団だと斥候せっこう役として、引く手数多あまただろう。
 
 ただ、カミナの民はヒナも含め、多くは不穏の察知に優れているはず。それを悟られずに近づき制圧できたとは……。彼が元気になったら、もっといろいろ聞かなければいけない。敵は計り知れない強大な連中だ。

 
 宿で過ごした翌朝。僕たちは一旦セントルの町近くの林に〝城〟を出し、そこで生活することにした。フキの療養のためになんだけど、さすがに三人と一匹が生活するには一部屋では狭すぎる。で、前から思っていた〝ある計画〟を実行に移した。

 ヒナにも手伝ってもらい、木と石を集め、城に沿って大まかに配置し、雑に組み上げていく。大工が見たら呆れるか怒るかどちらかの、子供の工作だ。
 寝袋で横になっているフキが、声をかけてきた。
 
「エル様ぁ、いったい何やってんっすか」
「黙って見てなさい。これからきっと、すごいことが起こるんだから」
「さっきチラがこの〝城〟を出した時もびっくりしましたっすけどね。まだ何かあるんすか」
「わたしもわからないけど……とにかくすごいの!」
「──よし。ひとまずこれでいいかな。さあ、うまく行ってくれよ!」

 森で見つけて以来の、大物の【価値反転】にとりかかる。壁に手を当て、スキルを発動した。

[聖樹の小屋 >>> 聖樹の家]

 どぉんっと、低く響く音とともに、風圧が僕たちの全身を包み込む。
 
「ええええ!? い、家……小屋が、でっかい家になった!」
 
 フキがいい反応で驚く。目の前には、以前の四倍ほどの大きさの、新たな〝城〟がそびえ立っていた。そしてヒナはまた、戸惑うことなく、意匠まで凝らされた扉を開けて入っていく。

「わあ~! すごっく広くなってる。お部屋が四つもある!」
「入口際の部屋が食堂。あ、炉と流し台も意図せず格が上がってる。後は寝室が二つと、物置兼貯蔵庫だね」
「この扉は……あ! トイレですね。隣に湯桶がある! すごい。ますますお城らしくなりましたね!」

「家らしく」が正解なのに、僕の気持ちに寄り添ってくれて、なんだか嬉しい。
 小走りで入ってきたチラが、僕の肩へと駆け上がる。

「あらためて聞くけど……この大きさでも、また【格納】できるのかい? チラ」
<<きゅきゅう~!>>

 任せておけとばかりに胸を張る。いったい、彼のスキルはどうなっているんだろう。まあ僕のも人のことを言えた類じゃないけど。
 入口に影がゆらり。フキが、ふらふらとしながら入ってきた。

「ああ、ごめんね。後で見せてあげるつもりだったのに。でもちょうどいい。奥にベッドがあるから、寝かせてあげるよ」
「ほんと……何なんっすか。これ、マジで、何なんっすか。こんなの、神様のすることっすよ……」

 しばらく、口をぽかんと開けたまま見入っていたものの……突然、がばっとひざまずいた。

「エル様ぁ! この神のお力でどうか、おれの頼みを聞いてやってくれませんか!」
「ええ? どうしちゃったの、いったい」

 慌てて寄り添うヒナに構わず、フキはひたすらに頭を下げる。

「実はもう一人、助けて欲しい人がいるんっすよ。ヒナ様、言いそびれてましたけど……実は、ササメ姐さんも、セントルの町にいるんっす」
「──ええっ! それは本当なの?」
「間違いねっす。ただ……いるところが、おれじゃどうにもならない場所で」

 ぶるぶると身体を震わせている。弱っているからじゃない。悔しさからくるものだ。
 ヒナといい……カミナの民は、本当に義に厚い人たちだ。

「とにかく、話を聞かせてくれないか。落ち着いて、情報を分け合おう。まずはそこからだ」

 ひとまずフキをベッドへ寝かせる。
 元気になった分を端から燃やし尽くすように、懸命に話すフキ。僕はそこで、あの活気にあふれた大きな町の、まさしく暗闇に隠された部分を知ることになった──



 ヒナとフキをお城で待機させる。今日はチラを連れて、フキから聞いた話の裏を取るべく、町での聞き込みに費やすことにした。
 
 とにかく情報が足りない。ひとまずポーションの買取も兼ね、一番情報が集まっていそうな商業ギルドへ。入るなり、先日の赤茶髪の女性職員が僕を目ざとく見つけ、走り寄ってきた。

「アルヴァン! 毎日来るかな、来るかなって待っていたのよ! さあ、こっちにどうぞ!」

 前から思っていたけどこの人、ものすごく人懐っこいというか、慣れ慣れしいな。ヒナとはまた違う押しの強さを感じる。
 ポーションを前回と同じ本数だけ卸す。予告の通り、買取価格は少し上乗せされていた。

「ありがとうございます。あと……今日はいろいろ聞きたいことがあって」
「マーラよ。これからも取引するんだから、名前を覚えてね」
「わかりましたマーラさん。ポーション以外の買取品リストを見せてください」
「んもう、こんなに男前なのに、色気が無いんだから。え~っと……これが薬関係。こっちは食材。で……今いちばん取引の割りがいいのは、魔核や魔銀なんかの魔法関係ね」

 二つとも、便利な魔法道具や強力な武器に欠かせないもの。その一方で、使用済みのものは汚染度が高く、ミドゥンの森のように人里から離れた場所に廃棄しなければならない。こうして森や山、湖が汚染されていく循環は、今やどこの国でも大きな問題だ。
 代償を含む、貴重な触媒や魔力源。だけどリストの価格は、王城で勉強した時よりも、どれもずいぶんと異なる。

「……どれも重量当たり、驚くほどの高値がついてますね」

 マーラさんはぐっと顔を寄せて、小声で話し始めた。

「今はすごく高騰してるの。戦争の噂が出ているせいで」
「この国が、ですか」
「そうよ。相手はお隣のラグジャラスって言われてる。商業ギルドならではの情報よ」
「──!」
 
 頭の中は真っ白に、全身が凍り付く感覚に包まれる。細かいことはわからない。だけどマーラさんのひと言が、僕が追放されたことと、避けようもなく結びつこうとしている。
 
 心臓がばくばくとして、呼吸が落ち着かなくなる。今は表に出すのはまずい。腹に力を入れて、平静を装うことに集中した。

「戦争はともかく、単純に、供給が足りてないか、偏ってるかじゃないんですか」
「噂は東隣りのゼアニス自由連合にまで広まってる。魔法関係はあっちに頼ってるものが多いの。だから警戒されて流通が絞られてるってわけ」
「なるほど……」
 
 ここに来るまでの十数日、立ち寄った村でも噂を聞くことがなかった。ネイバラス王国内では、相当に情報を抑えているように思う。それをあっさりと僕に漏らしているマーラさんが心配になるけど、ここで聞くのをやめるわけにはいかない。
 
「そうなると、裏取引が起こりがちですよね、商業ギルドを通さずに」
「アルヴァン鋭い。それが今、ウチで抱えてる大きな問題なんだけどぉ~……聞きたい?」
「ええ、ぜひ」

 マーラさんは僕の手をまたぎゅっと握った。

「私、今日この後、飲みに行きたい気分なんだけどなあ」

 しっとりとした感じで、上目遣いに僕を見る。何だろう……ひょっとして僕に男性的なものを求めているんだろうか。まさか、この元、豚だった僕に? とりあえず、正直に返すことにした。
 
「マーラさん、それはまたの機会に。今、身内に病人を抱えているので、なるべく近くにいてあげたいんです」
「あらら……ごめんね。じゃあ、落ち着いた頃に。約束したわよ!」

 済まなそうにしたかと思えば、握った手を嬉しそうにぶんぶんと振る。くるくると表情を変えて、楽しい人だ。フキが元気になった頃に、みんなで行きたいな。きっと盛り上がると思う。
 
 
 小声で周りを気にしながらで、傍目はために不審な感じだったけど……マーラさんから「大きな問題」の方も滞りなく聞くことができ、商業ギルドを後にする。

「『コレストン商会』か……いろいろと、つながっていくな」

 フキの奴隷紋を鑑定したときに見えた商会の名だ。そして、それが今、セントルの町での物資高騰──「大きな問題」に、深く関わっているという。僕とヒナたちの関係は、その点を線でつなごうとしている。
 
 危険しかない。それなら、僕だけで動いたほうがよさそうだ。チラがいれば逃げ切るのだけは可能だし。
 自分でも驚くほど、胆がすわっている。地図を片手に、僕の足は臆することなく、コレストン商会へと向かっていた。
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