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Ⅰ 豚王子、覚醒す
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「大丈夫! まだ生きている!」
腰の革鞄からすかさずエリクサーを2本取り出す。歯で栓を抜きながら、片方は口へ突っ込み、もう片方は肩の大穴に直接かける。
「ここで彼女を助けられなきゃ、何のための神まがいのスキルだ! 頼む!」
肩の穴がみるみるふさがっていく。そして……
「──ぶふっ!?、げほっ、げほっ」
ササメは突っ込んでいた小瓶を、勢いよく吹き飛ばした。
間一髪、何とか命を繋いだ。だけど今は秒も気が抜けない。
「ササメさん、立って! 今すぐ闘技場を出ます!」
「貴殿は……。私は、いったい……」
「早く! 絶対に僕の手を離さないで!」
【絶界】にいようとも、見えないだけで存在はある。何の拍子で察知されるかわからない。彼女の手を取り、砂地を飛び出した。
その僕らのすぐそばをかすめながら、次々に赤い光線が飛んでくる。コレストンが、魔銃を乱射しているらしい。仕留めたと思った相手が急に姿を消したからか。
「ぐほぉっ!?」
「きゃあああ──!?」
流れ弾が観客に当たった。クレストンめ、滅茶苦茶なやつだ。後先をまったく考えていない。
目の前で凶弾に倒れた人を見るなり、ササメが僕の手を振り切った。
「──! ササメさん!?」
「すまん! やつが私を狙っている以上、このまま逃げるわけにはいかんのだ! おいぃ! 私はここだ! よく狙えクソ野郎!」
砂地へ再び降り、コレストンを煽る。勇ましいにもほどがある。
彼女の行動がどうにも予定外で、焦ってばかりだったが……猛省すべきは僕だ。そう、彼女が正しい。このまま関係ない人たちを巻き込んで逃げて、何が「城を取り戻す」だ、エルヴィン!
撃たれた人にエリクサーを飲ませ、起き上がらせる。これで残りは無くなった。
「さあ、早く外へ出て!」
ササメが真ん中で気を引いている間に、僕は外周を走り、反対側のコレストンの客席へ向かう。
まだ騒ぎが周知されきっておらず、半分以上の客は呑気に座っている。僕は走りながら煙石に魔力を流し、あちこちに転がしていく。一瞬で派手に立ち上がる煙に、どこからともなく叫び声が上がる。
「うわあ、煙が! 火事だあ~!」
誰か知らないが、ご協力ありがとう。おかげで場内全員の重い腰に思いっきり火が点いた。みんな飛び跳ねるように出口へと向かっていく。
よし、コレストンの席までもう少し。魔銃を奪って【反転】してしまえば、後は……
ササメは砂地で剣を振るい、次々に襲い掛かる手下どもをなぎ倒している。
コレストンが再び狙いを定め、撃とうとしている。僕があと一歩、そこへ手が届くというところ。コレストンはぎゅるっとこちらに向かって銃を展開した。
「──なっ!」
銃口が赤く光る。だめだ、間に合わ──
「ぐぉっ!?」
撃ち抜かれると思ったその時。高速に回転する何かがコレストンの腕にぶち当たった。鉄の剣だ。飛んできた方を一瞥すると、ササメが投げたようだ。
た、助かった。だけどなぜ。チラの【絶界】が効いていない……?
状況はわからない。ひとまず床に転がった魔銃を拾い上げ、コレストンへと向けた。
「動くなっ! お前の身体にも風穴が開くぞ!」
初めて手に取った魔銃。だけど使い方は王城でも見たから知っている。僕は魔力を込め、銃口に赤い光を宿した。
歯を剥きだしながら両手を挙げるコレストン。その後方でフォークスが、キツネ目を見開いて僕を見ている。
「おやおやあ? まさかの、『覚えやすい顔の人』じゃないですか。こんなところで、驚きですねえ」
──しまった! 仮面を外したままだった。思いっきり素顔を晒しての再会というわけか。
「何だこいつは。知り合いか」
「例の鉱山関係で邪魔をした人ですよ。……ああ、そういえばあの時、カミナの民らしい娘も一緒でしたね。なるほどなるほど、それでササメさんを。私たちはずいぶんと御縁があるみたいですねえ」
「てっきり牢獄だと思っていたのに。ディナーの約束を覚えてくれていたみたいだな」
油断ならない男だ。早くもヒナとササメを結び付けて、辻褄を合せようとしている。いっそのこと、ここで二人とも撃つべきなのか。
「しかし不思議ですねえ。ササメさんと邸で会った時はこうなる素振りさえなかったのに。君、何か特殊なスキルを持っていますね? それで私の呪術結界に入るまで気づかなかったわけですか」
呪術だって? ひょっとしてそれで【絶界】が無効になったのか。
……いや、それより。こいつにもはや猶予を与えてはいけないと、僕の直感が激しく警鐘を鳴らしている。この期に及んで飄々としながら、確実にこちらの手の内をつかもうとしている。
「おい、大丈夫か!」
乱闘にケリをつけて駆け上がってきたササメに、ふと気を取られた瞬間。フォークスはコレストンを僕のほうへと突き飛ばした。
「悪いですが。お先に失礼しますよ!」
フォークスは懐から取り出した木偶をぐっと握りしめると、ふうっと姿を消した。
「ち、畜生がああああっ!」
置き去りにされたコレストン。顔をめちゃくちゃに歪め、破れかぶれでつかみかかってくる。そこへ、走ってきたササメがその顔面を思いっきりなぐり飛ばした。
「ぐぎゅぇえっ!」
勢いあまって壁まで飛ばされると、潰れたようなひと声をあげて、ばたりと倒れた。拳を軽く回しながら、気を失ったコレストンを見下ろすササメ。
「ふん、スッキリした。エルヴィン殿、怪我はないか」
「かすり傷ひとつないです。一人逃がしたのは残念ですけど」
すっかり静まり返った闘技場内に、何も動く気配は感じられない。なんだか助けて助けられてとバタバタとしたものの、予定通りササメの救出は何とかなった。
手近のロープをササメに託し、しっかりとコレストンを縛り上げてもらう。
「こいつはどうするのだ?」
「放置して衛兵に任せるしかありませんね。すぐに釈放されるかもしれませんけど……そのほうがこの男には酷かもしれません」
「そう言えば、こいつの本拠に侵入したと言っていたな。何かしたのか」
「先にヒナたちと合流しましょう。詳しくはその時に」
ササメの手を取り、闘技場を後にする。早く三人を引き合わせてあげたい。今はそれで頭がいっぱいだった。
──ササメ──────
カミナの民 女性 23歳
剣闘士
カミナ剣舞、カミナ相撲
長剣、小剣、拳闘、解体
───────────
◆
正門横、夜間の衛兵出入口を【絶界】でこっそりと抜け……僕とササメは町の外を走っていく。
〝城〟の前まで戻ってくると、ヒナとフキが、僕たちを見るなり駆け寄ってきた。どうやらずっと外で待っていたようだ。
「エル様……──! さ、ササメっ?」
「姐さん!」
「ヒナ様! フキ! ああ、本当に……まぼろしではないのか」
泣きながらすがる二人を、ひしと抱え込むササメ。その頬にきらりと、静かに涙が伝う。
肩でもらい泣きみたいな鳴き声をあげるチラ。その背中をそっと撫でながら、僕は彼らの気が済むまで、ずっと見守っていた。
やがて……ヒナを先頭に、三人は僕の前にひざまずいた。
「エル様。三度にわたってわたしたち部族をお救いいただいたこと、もはや礼などで返すことはできません。どうかわたしたち三人、この命尽きるまでお側にいることを、お赦しくださいませ」
六つの瞳が、一斉に僕を見つめる。月明りを煌めかせながら、淀みなく、ただ真っすぐと。そして伝わってくる、大きな、頼れる力。
まさしく、覚悟を共にできる同志たち。どうやら僕にも、胸の内を明かす時が来たようだ。
「三人とも、顔を上げて。聞いてほしいことがあるんだ──」
腰の革鞄からすかさずエリクサーを2本取り出す。歯で栓を抜きながら、片方は口へ突っ込み、もう片方は肩の大穴に直接かける。
「ここで彼女を助けられなきゃ、何のための神まがいのスキルだ! 頼む!」
肩の穴がみるみるふさがっていく。そして……
「──ぶふっ!?、げほっ、げほっ」
ササメは突っ込んでいた小瓶を、勢いよく吹き飛ばした。
間一髪、何とか命を繋いだ。だけど今は秒も気が抜けない。
「ササメさん、立って! 今すぐ闘技場を出ます!」
「貴殿は……。私は、いったい……」
「早く! 絶対に僕の手を離さないで!」
【絶界】にいようとも、見えないだけで存在はある。何の拍子で察知されるかわからない。彼女の手を取り、砂地を飛び出した。
その僕らのすぐそばをかすめながら、次々に赤い光線が飛んでくる。コレストンが、魔銃を乱射しているらしい。仕留めたと思った相手が急に姿を消したからか。
「ぐほぉっ!?」
「きゃあああ──!?」
流れ弾が観客に当たった。クレストンめ、滅茶苦茶なやつだ。後先をまったく考えていない。
目の前で凶弾に倒れた人を見るなり、ササメが僕の手を振り切った。
「──! ササメさん!?」
「すまん! やつが私を狙っている以上、このまま逃げるわけにはいかんのだ! おいぃ! 私はここだ! よく狙えクソ野郎!」
砂地へ再び降り、コレストンを煽る。勇ましいにもほどがある。
彼女の行動がどうにも予定外で、焦ってばかりだったが……猛省すべきは僕だ。そう、彼女が正しい。このまま関係ない人たちを巻き込んで逃げて、何が「城を取り戻す」だ、エルヴィン!
撃たれた人にエリクサーを飲ませ、起き上がらせる。これで残りは無くなった。
「さあ、早く外へ出て!」
ササメが真ん中で気を引いている間に、僕は外周を走り、反対側のコレストンの客席へ向かう。
まだ騒ぎが周知されきっておらず、半分以上の客は呑気に座っている。僕は走りながら煙石に魔力を流し、あちこちに転がしていく。一瞬で派手に立ち上がる煙に、どこからともなく叫び声が上がる。
「うわあ、煙が! 火事だあ~!」
誰か知らないが、ご協力ありがとう。おかげで場内全員の重い腰に思いっきり火が点いた。みんな飛び跳ねるように出口へと向かっていく。
よし、コレストンの席までもう少し。魔銃を奪って【反転】してしまえば、後は……
ササメは砂地で剣を振るい、次々に襲い掛かる手下どもをなぎ倒している。
コレストンが再び狙いを定め、撃とうとしている。僕があと一歩、そこへ手が届くというところ。コレストンはぎゅるっとこちらに向かって銃を展開した。
「──なっ!」
銃口が赤く光る。だめだ、間に合わ──
「ぐぉっ!?」
撃ち抜かれると思ったその時。高速に回転する何かがコレストンの腕にぶち当たった。鉄の剣だ。飛んできた方を一瞥すると、ササメが投げたようだ。
た、助かった。だけどなぜ。チラの【絶界】が効いていない……?
状況はわからない。ひとまず床に転がった魔銃を拾い上げ、コレストンへと向けた。
「動くなっ! お前の身体にも風穴が開くぞ!」
初めて手に取った魔銃。だけど使い方は王城でも見たから知っている。僕は魔力を込め、銃口に赤い光を宿した。
歯を剥きだしながら両手を挙げるコレストン。その後方でフォークスが、キツネ目を見開いて僕を見ている。
「おやおやあ? まさかの、『覚えやすい顔の人』じゃないですか。こんなところで、驚きですねえ」
──しまった! 仮面を外したままだった。思いっきり素顔を晒しての再会というわけか。
「何だこいつは。知り合いか」
「例の鉱山関係で邪魔をした人ですよ。……ああ、そういえばあの時、カミナの民らしい娘も一緒でしたね。なるほどなるほど、それでササメさんを。私たちはずいぶんと御縁があるみたいですねえ」
「てっきり牢獄だと思っていたのに。ディナーの約束を覚えてくれていたみたいだな」
油断ならない男だ。早くもヒナとササメを結び付けて、辻褄を合せようとしている。いっそのこと、ここで二人とも撃つべきなのか。
「しかし不思議ですねえ。ササメさんと邸で会った時はこうなる素振りさえなかったのに。君、何か特殊なスキルを持っていますね? それで私の呪術結界に入るまで気づかなかったわけですか」
呪術だって? ひょっとしてそれで【絶界】が無効になったのか。
……いや、それより。こいつにもはや猶予を与えてはいけないと、僕の直感が激しく警鐘を鳴らしている。この期に及んで飄々としながら、確実にこちらの手の内をつかもうとしている。
「おい、大丈夫か!」
乱闘にケリをつけて駆け上がってきたササメに、ふと気を取られた瞬間。フォークスはコレストンを僕のほうへと突き飛ばした。
「悪いですが。お先に失礼しますよ!」
フォークスは懐から取り出した木偶をぐっと握りしめると、ふうっと姿を消した。
「ち、畜生がああああっ!」
置き去りにされたコレストン。顔をめちゃくちゃに歪め、破れかぶれでつかみかかってくる。そこへ、走ってきたササメがその顔面を思いっきりなぐり飛ばした。
「ぐぎゅぇえっ!」
勢いあまって壁まで飛ばされると、潰れたようなひと声をあげて、ばたりと倒れた。拳を軽く回しながら、気を失ったコレストンを見下ろすササメ。
「ふん、スッキリした。エルヴィン殿、怪我はないか」
「かすり傷ひとつないです。一人逃がしたのは残念ですけど」
すっかり静まり返った闘技場内に、何も動く気配は感じられない。なんだか助けて助けられてとバタバタとしたものの、予定通りササメの救出は何とかなった。
手近のロープをササメに託し、しっかりとコレストンを縛り上げてもらう。
「こいつはどうするのだ?」
「放置して衛兵に任せるしかありませんね。すぐに釈放されるかもしれませんけど……そのほうがこの男には酷かもしれません」
「そう言えば、こいつの本拠に侵入したと言っていたな。何かしたのか」
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ササメの手を取り、闘技場を後にする。早く三人を引き合わせてあげたい。今はそれで頭がいっぱいだった。
──ササメ──────
カミナの民 女性 23歳
剣闘士
カミナ剣舞、カミナ相撲
長剣、小剣、拳闘、解体
───────────
◆
正門横、夜間の衛兵出入口を【絶界】でこっそりと抜け……僕とササメは町の外を走っていく。
〝城〟の前まで戻ってくると、ヒナとフキが、僕たちを見るなり駆け寄ってきた。どうやらずっと外で待っていたようだ。
「エル様……──! さ、ササメっ?」
「姐さん!」
「ヒナ様! フキ! ああ、本当に……まぼろしではないのか」
泣きながらすがる二人を、ひしと抱え込むササメ。その頬にきらりと、静かに涙が伝う。
肩でもらい泣きみたいな鳴き声をあげるチラ。その背中をそっと撫でながら、僕は彼らの気が済むまで、ずっと見守っていた。
やがて……ヒナを先頭に、三人は僕の前にひざまずいた。
「エル様。三度にわたってわたしたち部族をお救いいただいたこと、もはや礼などで返すことはできません。どうかわたしたち三人、この命尽きるまでお側にいることを、お赦しくださいませ」
六つの瞳が、一斉に僕を見つめる。月明りを煌めかせながら、淀みなく、ただ真っすぐと。そして伝わってくる、大きな、頼れる力。
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