どうやら俺は、魔王を倒した英雄の両親より強いらしい。~オリハルコンを斬ってくっつけたら試験無しで王立学園に入学、いろいろやらかすハメに

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Ⅱ 黒い石のようなもの

2-14.

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 良いことがあれば、必ず悪いことが起こる。

 思った以上の大きな収入。これは前者だ。当面、俺が想う諸々への活動費には困らない。聞けば1千万クロンは爵位を買える額らしい。個人的には100クロンでも要らないが、今の俺には、暴力以外に金の力がそこそこ備わったということを理解しておくべきだ。
 武器や手段は多いほうがいい。何せ玄晶に関わっている相手は、さらに権力を持っている可能性が高いのだから。

 そして後者は……最悪だ。生徒が7名、行方不明になっている。各学年に満遍なく。その人数と男女の比率は、七番街で捕まえた男の証言と符合してしまった。そこにはクッカの知り合いも含まれている。
 詳細を知っているのは、俺と、学園長並びに教員全員。しかし、生徒たちの間で行方不明者の話が共有さるのは時間の問題だろう。

 休み明け、臨時の全校集会が開かれた。
 学園長は玄晶について大っぴらにはせず、現在起こっている不穏な事象について、可能な限り言葉を濁しながら話した。そして、生徒たちに、一人での登下校、外出は極力控えること。知人以外の人間と深く接触しないようにすること。それだけの注意喚起に留められた───

 
 中間試験をいよいよ明日に控えた今日、ユスティが復学した。
 
 HRホームルーム前に突然現れた彼女に、教室は一瞬にして静まり返った。無言で座り、静かに本を開いて読み始める。そして、誰も彼女に声をかけない。実は以前と何ひとつ変わらない光景。

 だが、内心は違う。誰も表立って言わないものの……あの時いなかった生徒たちにも、彼女がどうなったかは周知されている。なのに、誰も面と向かって聞けない。彼女の普段の冷たい態度、それ以上に、背負う「家」───法典院の圧がそうさせるのだ。

(そういえば彼女、騎士団の聴取を受けたんだった。その辺り学園長は何も言わなかったが。入手経路については俺のほうが知っているものの……イマイチ釈然としない)

 しばらくして、アガ先生がやってきた。いつも通りHRを始めながら、ユスティへ体調への気遣いなど簡潔に声掛けをする。そして、皆にもサポートを頼むよう促した。

「ケイ、後で学園長室へ来てくれ。10分後ぐらいでいい」
「……? わかりました」

 俺の近くにふっと寄って、小声で話しかけるアガ先生。なぜか少し遅れてくるように指示される。俺はしばらくやりすごすと、言われた通りに教室を出た。

「───待って」

 出るなり、呼び止める声が。振り向くと、ユスティが立っていた。

「何だ? 俺、ちょっと急いでるんだが」
「お礼……お礼をっ、言わなければいけないから」

 うつむきながら、小刻みに肩を震わせて、絞り出すように言う。
 人にお礼など言ったことなどないんだろう。彼女なりに精一杯なのだけは伝わった。俺にはそれで十分だったし、ねぎらいを声に出す必要は感じなかった。
 
「俺はもう忘れた。だから君も忘れればいい」

 去ろうとした俺の背中に、彼女は声を荒げて、気持ちをぶつけてきた。

「何よっ、どこまでも君子ぶって! 私が化け物に飲まれて、さぞかし、いい気味だったでしょうね!」

 俺は足を止めた。
 
「気楽に生きているくせにっ。背負うものが違う私に、上から憐れみをかけないでよっ!」
「憐れみ?」

 気が付けば、きびすを返していた。ゆっくりと廊下を踏みしめて、彼女へ近づく。
 
「な、何よ……ひぃっ!」

 彼女を端へと追い込むと、顔の真横、壁に向かって手のひらを強く叩きつけた。
 
「俺が憐れむのは、余裕があるからだ。誰であろうと、手が届く限り助ける。君がどれだけ俺を嫌おうと憎もうと、また同じことがあったら助けてやる。その程度だ。だから、黙ってろ」
 
 俺を凝視したまま、力なく床へと崩れ落ちるユスティ。俺はそのまま放って、足早に学園長室へと向かった。余裕を失った足音だけを、廊下に響かせて。
 

 何度来たかわからない学園長室。通常の学園生活で立ち寄ることのないこの部屋を訪れるたび、俺の日常は皆とズレていく。今日もまた、そんな日じゃないかと思った。

 扉の前でひと呼吸して落ち着き、ノックをする。
 
「ケイです。失礼いたします」

 中へ入ると、学園長以外に二人。背筋を伸ばして立っているのは、あの短気で堅物の騎士団長、レザレッテ。そしてソファに腰掛けていたもう一人───オールバックの中年男性が立ち上がった。

「ジァージ=コデクスだ」
「───! 初めまして」

 ユスティの父親で、法典院・主席審議官。事実上、レジクス王国の法における頂点を担う人物だ……が。このタイミングで会うことになろうとは。

「黒髪……なるほど、剣帝とかいう〝流れ者〟の血を引く人間か。我々の世界に居座る不要物め」

 なん……だ?
 眉ひとつ動かさず、俺の方に目を向けながら、まったく、瞳に俺が映っていない。それに、何だって。今、何て言ったんだ、〝こいつ〟。

「娘に関わったそうだな。まったく、あの出来損ないは、私の邪魔でしか機能せんとは」
「お礼なら、別に構いません、たまたま居合わせただ───」
「口を、閉じろ」
「ぐっ……」
 
 強烈な威圧。いや、有無を言わさぬ〝何か〟を発している。気圧されているわけではない、何か。

「会話などせん。〝警告〟だ。玄晶の件について今後、法典院・特務査察部が全てを執り行う。学生ごときが出る幕などない。以上だ」

 冷徹そのもので一方的に言い放つと、学園長に挨拶することさえなく、出て行った。
 
 動かない空気の中で、秒ごとに、あらゆる感情が次から次へと沸き起こり、めちゃくちゃに混乱している。俺は今、どう体現して振る舞えばいいのか、まったくわからない。
 
「……ケイよ、済まぬ。あやつが動くであろうことは想定内ではあった。それを……お主をかばいきれず会わせてしまったこと、ただただ、申し訳ない」
「陛下たっての希望で連絡員の命を受け、ケイ様のお役に立とうと意気揚々として参ったというのに。まさかあの男がいるとは」

 胸が……苦しい。
 学園長とレザレッテが何か言っているが……あんなやつの格上げは、どうでもいいんだ!

「───! ケイっ」
「ケイ様っ!?」
 
 二人の声を背中に聞き、部屋を走り出る。
 目の前の窓へ飛び込み……どんっと地面に足をめりこませて着地する。そこから強く蹴りだし───デタラメに駆けた。足の裏が焼けるほどに走って、走りまくった。
 
 
 気がつけば、海だった。防波堤の上で、潮風が頬を叩き、少し我に返った。
 尊厳を傷つけられた? そんな安いものじゃない。
 俺と両親の血。俺たち親子をこの世界に結び付ける生。それそのものを、踏みにじられたんだ。
 
 なぜ……なぜ。何の権利があって、おとしめられなければならない?

「ぐくっ……ぅおあああああ──────っ!」

 ありったけ叫んだ。調ととのえることができないほど流気を爆発させ、海を削るほどに。
 その直後、ふっと、目の前が真っ暗になった。

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