二度転生令嬢の落ち着く先

蒼黒せい

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第15話

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 窓からあまり状況が見えない。
 しかし、馬車は完全に停止し、親衛隊の注意は前方に向けられている。

「何事ですか?」

 近くにいた親衛隊に声を掛ければ、目は前を向いたまま、緊張した声で答えてくれた。

「待ち伏せです」
「………」

 嫌な予感が現実になってしまった。
 このまま馬車の中にいる場合ではない。
 そう判断し、私は馬車のドアを勢いよく開け、外に飛び出した。

「シセリア様!?」

 飛び出した私に、周囲の面々が驚きの声を挙げる。
 もう忘れたのかしら?
 目の前にいる令嬢が、かつての同僚だったことを。

「危険です。馬車の中にお戻りください」
「断るわ」

 制止されそうなのを無視し、周囲を見渡す。

 完全に取り囲まれていた。
 数は50はいる。
 服装は山賊のようだが、構えに隙が無い。
 …どう見ても、訓練された兵士だ。

(『あの時』と同じ…)

 16年前の悲劇が脳裏をよぎる。

 こちらは護衛の親衛隊が10人。

 あの時は、護衛を二手に分けた。
 戦えない殿下を、絶対に巻き込まないよう逃がすために。
 結果、『グリエ』を含めた5人で50人を足止めすることとなった。

 …その結果が、足止めした5人全員の戦死。

 けど、今度は違う。

「相手の要求は?」

 私は副隊長の元まで歩み寄る。

「…貴女の身柄です」

(やっぱり…ね)

 訓練された兵士で、精鋭の親衛隊を襲うというリスクを背負ってまで、私を狙う。
 そんなことをする人物は限られてくる。

 だが、今は犯人捜しをするときじゃない。

 今は……

「あなたがこの『部隊』の隊長かしら?」

 一切の隙を見せない、険しい表情の男。
 真正面に陣取り、その体躯は鍛え上げられている。
 その風貌からも、隊長で間違いないだろう。

「…何故『部隊』と分かった?」
「馬鹿ね。規律正しさが抜けてないわよ?ただの山賊なら統率が取れすぎてるわ」
「何者かの手引き…ということですか」

 副隊長の言葉にこくりと頷く。

「私をさらい、親衛隊面々は皆殺し…という筋書きかしら?」
「そうだ、護衛には全員死んでもらう」

 あの時と全く同じだ。
 …どうやら真犯人もあの時と同じ、かもしれない。

「この数だ。貴様らに勝ち目はない」

 その表情には数による優位性、そして油断が見えた。
 確かに10対50。
 普通なら絶対優位だ。

 …『あの時』は確かに負けた。
 けど、あの時は5対50だった。
 そして……相討ち。

 だから……

「なっ…!」

 その油断が命取り。
 敵隊長との間合いを一瞬で詰め、同時に抜いた細剣は既に敵隊長の肩を貫いた。

 その私の一瞬の行動を、敵味方ともに唖然と見ていた。

(『今度は』死なない!)

 殺し合いに礼儀など不要。
 皆殺しを予告する相手に何をためらうか。

 貫かれた、その事実を相手に認識される前に剣を抜き、返す剣で隣にいた男の足を刺す。

「ぐあぁ!」

 刺されて叫び声を上げ、倒れた男の背中を足蹴にし、包囲網から一人脱出。

 ここに来てようやく全員が再起動した。

「全員構えろ!」
「殺せぇ!」

 一気に乱戦となっていく。
 私は包囲されないよう、外周を周り、適宜敵の手足を刺し、離脱。
 敵は私を連れていかなければならない。
 だから、迂闊に剣を向けるわけにはいかず、私への対処が遅れる。
 かといって、私へ集中しようとすれば、背にするのは精鋭の親衛隊。
 その隙を、親衛隊が見逃すはずがない。

「ぎゃあぁ!」
「ぐふっ!」

 一人、また一人敵は地に沈んでいく。
 圧倒的数の劣勢にある親衛隊は、まだ一人も失っていない。

「女を捕らえろ!剣を奪え!」

 隊長の指示が飛び、一気に10人が私を取り囲もうとしてくる。

 後ろに飛び退くと同時に、剣でスカートにばっさり切込みを入れる。
 もちろん下にはズボン着用済み。

(これで少しは動きやすくなる!)

 すぐさま、10人の一番端にいる敵に向かって駆ける。

「このぉ!」

 命令を忘れたのか、まっすぐに剣が振り下ろされてくる。
 それを易々とかわし、すれ違い様に腕に一閃。
 そのまま走り抜け、囲まれる前に脱出。

 その間にも、数の差が少なくなった親衛隊はまた一人、敵を地に沈めていく。

 包囲の外側を常に動き回り、牽制に一突きだけして離脱する私に、中から確実に敵を仕留めていく親衛隊。

 しかし敵もさるもの。
 腕から血が流れても全力の一撃を放ってくる。
 それによって血が吹き出ようとも、任務の為に命を懸けている。

 それに、私も動き続けることで徐々に疲弊していた。

 今ここで私が捕まることだけは絶対に避けなければならない。
 私が捕まっていないからこそ、親衛隊はただ敵の排除にだけ務めることができるのだから。

「はーっ、はーっ……」

 その疲弊が、一瞬の油断を招いた。

「ぐっ!このぉ!」
「!?」

 敵の腕に細剣を突き刺す。
 そしてすぐに抜く。そして離脱。
 そのはずだったのに、疲れで一瞬遅れたことで、敵は剣が刺さったままの腕を振り回した。
 その振り回しにあらがえず、剣を手放すしかなかった。

「くっ!」

 素手で戦い続けるのは危険すぎる。
 体術で戦えなくもないが、1対1ならともかく、この乱戦ではあっという間に捕まる。
 一旦包囲から距離をとるしかなく、後退した。
 しかし、私という脅威がなくなり、一気に親衛隊に敵が襲い掛かる、
 注意散漫だった状態から一気に集中され、ついに親衛隊の一人が倒れた。

(このままじゃ…!)

 逃げることしかできない私。
 そのもどかしさを感じるも、どうすることもできない。

 しかしその瞬間、この場にいるはずのない声が聞こえた。

「シセリア!」

 声の方向に振り向くと同時に、何かが飛んでくるのが分かった。
 細長いそれを掴み、何なのかを理解する。

(これは…!)

 それは紛れもない、『グリエ』の愛剣だった。
 けれど懐かしむ余裕はない。
 すぐさま鞘から抜き放つ。
 柄の感触、剣の重さ、磨き抜かれた剣身の輝き。
 あの頃に戻ったかのような錯覚がした。

「はっ!」
「ぎゃあ!」

 剣の切れ味には一切の衰えが無く、易々と敵の腕を貫き通す。
 再び剣を手にした私に、そして剣を渡した人物に敵味方が気づいた。

「へ、陛下!?」

 その人物は、紛れもなく陛下だった。
 大柄の黒馬にまたがり、その威風堂々とした立ち姿はまさに王の威厳を存分に見せつけていた。

「はぁっ!」

 そして、すぐさまこの乱戦へと駆けてきた。

 そこからはあっという間だった。
 騎士団長すら上回る力量を存分に見せつけ、敵は包囲の内と外から崩壊した。
 さらに遅れて駆け付けた騎士団が、状況不利とみなして逃走したものたちも全員捕縛した。

「シセリア…」

 負傷者の手当てと敵の後始末が行われる中、陛下がゆっくりと歩み寄る。
 何故陛下がこの場に現れたのか。
 何故この剣を持ってきて、私に貸したのか。
 色々な『何故』が巡り、言葉が出てこない。

 しかし、陛下はそれを気にすることも無く、目前まで歩み寄ってきた。
 それが文字通り目の前だったために、あまりの近さで私は思わず一歩後ずさろうとした。
 けれど、その前に陛下の腕が伸びてきて……その腕の中に抱きしめられた。

「陛…!」
「生きていて…よかった…」

 その声は普段の威厳ある重々しいものではなく、まるで捨てられた子供がようやく母親を見つけたかのような……とても安堵したような響き。

 抱きしめる力の強さが、どれほど私を心配したのかを物語っている。

(どうして…そこまで……)

 考えないようにしていた。
 陛下の行動の意味を。

 視察で私に恋人役を要求したこと。
 私を騎士団から親衛隊に異動させたこと。
 私を追いかけまわしたこと。

 …そして、その行動を意味を、決して陛下が口にしなかったこと。

 それは、もしかしたら私の思い違いかもしれない。
 けれど、それ以外に答えは思いつかず……

 だから………


 その答えは受け入れてはならない。
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