侯爵令嬢ウルスラの愉快な復讐劇~開幕です~

蒼黒せい

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第二幕~あなたには友なんて要りませんわね?②~

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「まぁ」

 どうしてウルスラが諜報部を欲するのか。それを聞きたいというフェリクスに、ウルスラはつい楽しげな声を上げた。

 その目には黒きよどみが集まり始めている。ついさきほどまで4つ子の支払いに落ち着きが無かったり、フェリクスの挙動一つに慌てていた様子は消え去り、漆黒の闇を持つ復讐者としての顔を見せ始めた。

 口角は不気味に釣りあがり、細められた目はいかにも楽し気といった感じだ。

「よろしいのですか?聞いてしまっても」
「ああ、もちろん。私は聞きたくて聞きたくて、この3年間うずうずしていたんだ」
「それはそれは…ずいぶんとお待たせしてしまって、申し訳ありませんわ」

 3年前、ウルスラがぽつりと呟いたことを拾い、ウルスラのための諜報部を作り上げたフェリクス。

 全く学の無かった4人に、諜報技術と礼儀作法を叩き込んでくれた。その苦労は相当なものであっただろうに、それを一切感じさせない姿には感謝しかなかった。

 その彼になら、喋ってもいいとウルスラは思った。彼が諜報部の人間であり、止められるかもという懸念はもう無い。巻き込みたくないと思ったのも、もう忘れた。

 何より、楽しそうに自分の話を待ち望む彼を、もっと楽しませてあげたいと思っている。

(それに、いずれ4人も説明しないといけないと思っていたもの。だったら、一度に済ませたほうがいいわ)

「それではお話しましょう。理由を…」

 それからウルスラは、それはもう楽しそうに語った。

 モートンに復讐することが目的だということ。
 復讐すると考えるまでに至った経緯。5回もの死に戻りの全てを。
 ただの復讐ではなく、ウルスラを貶めようとする彼の策のことごとくを破り、その策を利用して彼を貶め、最後には殺す。そのために諜報部を欲したこと。

 全てを話し終え、紅茶を一口含んで喉を湿らせる。

 一息つき、目線を上げてフェリクスを見ると、彼は頭を抱えて震えていた。どうしてしまったのかとしばし待つと、彼は突然ガバッと顔を上げた。

「ふっ…ふふっ………素晴らしい……素晴らしいよ!」

 それにウルスラは驚き、少しのけぞった。

 彼は興奮冷めやらぬといった様子で、とてもうれしそうにしている。

「君の闇の深さはその死の回数から来ていたんだね。ああ、それじゃあ君ほど深い闇を見たことがないわけだ。死んだことも無い人間に、君の深さを出せるわけがない。最高だ、最高だよウルスラ嬢!」「信じていただけるのですか?」
「もちろんだとも。私は自分の直感を信じるタイプでね。君の話が嘘ではないことは、この沸き立つ心が証明している」
「ご満悦していただけたようで何よりです、殿下」
「ああ。これじゃあおつりが返しきれないほどだよ。ねぇ、君たちもそう思うだろう?」

 それに反応したのは、ウルスラの後ろに控えていた4つ子たちだ。

 振り返ったウルスラの目には、すまし顔のままの4つ子。だが、漂わせる雰囲気は変わっており、明らかに怒りの感情が感じ取れる。

「「「「はい。お嬢様がまだ殺したくないと思っていなければ、今すぐにでも始末したいほどです」」」」

 4人同時の殺害宣言に、ウルスラはニヤリと笑った。

(ああ、よかった。ちゃんと私の言うとおりにしてくれる子たちで安心したわ)

「ウルスラ嬢。とても楽しい話をありがとう。さっきもいったが、報酬としては支払いが多すぎておつりが返しきれないほどだ。だから、これからもぼくは君の復讐に手を貸すよ。何かあれば何でも頼ってくれていい」
「ふふっ。そんなこと言って、私の復讐を特等席で眺めたいからではありませんか?」
「バレちゃったか。その通りだよ。どうかな?」
「殿下が協力していただけるのなら、これ以上に心強いことはありませんわ」

 王子としても、諜報部トップとしても。何かあればフェリクスに頼りたいことはきっとあるだろう。これ以上ない味方の登場に、ウルスラの闇はますます深まる。

(モートン様、見ていてくださいね。あなたを地獄に叩き落すための布陣を)

 無事に諜報部を得たウルスラは早速4人を家族に紹介し、使用人たちにも周知した。

 基本的に4人はウルスラ専属の侍従ということであり、護衛も兼ねるという形にした。常にだれか一人はウルスラに付き、護衛をする。諜報部を兼ねるのを知っているのは、父と執事長のみ。

 普段は一人はウルスラの護衛に付き、一人はモートンの動向を監視。それをルーティーンでこなす。
 その体制で、モートンが何かを仕掛けてくるのを待った。


 ****


 それから2か月後。

 ウルスラは覚えがある事態に心を躍らせていた。

(ついに『これ』が起きたわね)

 その内容は茶会の誘いを断る文面の手紙が増えたこと。

 ウルスラは侯爵家の娘だ。しかも父は内務大臣であるため、本来茶会を断られることはない。それなのに断られるのだから、何かが起きているのは明白だ。

 しかしそれは、過去の死に戻りでも経験していたこと。想定内と言える。そして、それが起きたということは、別の事象も起き始めるはずだと確信していた。

 時を同じくして、モートンの動向報告に妙な内容が入っている。

「顔に包帯を、ね」
「はっ。一切傷が無いのに、包帯を巻いて騎士学校に出掛けております。傷を負ったのかと尋ねられても濁すばかりで、一体何の目的なのか測りかねます」
「ふふっ、ありがとう。引き続き監視してちょうだい」
「はっ」

 報告に来たラルフを下がらせ、ウルスラは椅子に座った。
 断られる茶会、傷が無いのに巻かれる包帯。

 この2つは過去の死に戻りでも起こったことだ。

 モートンは11歳のころから騎士学校に通い始めている。4年生の学校で、卒業すれば騎士として認められるため、騎士になりたいなら必ず通う学校だ。

 騎士になるために厳しい訓練が課せられるので、傷を負うこともある。だけど、傷が無いのに包帯を巻くような慣習は無い。

 だからこそ、モートンの行動には必ず意味がある。ウルスラを陥れるための意味が。

(さぁ、楽しませてもらうわよ)

 それからさらに一月が経った。
 ウルスラはほぼ茶会に呼ばれなくなり、開催もできなくなった。誘っても誰も参加してくれないからだ。

 そのことについて両親は触れようとはしないが、気遣っているのは分かる。もちろんウルスラはそんなことで心を病むようなことはない。むしろ、この状況が深まれば深まるほど、のちにウルスラにとって有利になると確信している。

 その原因が分かったであろう報告書をオーティスから受け取る。その彼の手には筋肉が浮き出ていた。よほど怒り心頭と言った感じの報告書になっているのが見て取れる。

「………やっぱりね」

 その内容を読んでウルスラは口角を上げた。
 報告書の中身は、モートンがこの一月ずっと顔に包帯を巻いていること。これは前回の報告の後にウルスラもモートンと何度かデートをし、その時にも顔に巻いていたので分かっている。

「モートン様、そのお顔の包帯はどうなさったのですか?」
「ああ、これね。大丈夫、大した傷じゃないから」

 デートのときに聞いても、彼は言葉を濁すばかりではっきりと答えなかった。

 報告書で問題なのは次だ。その顔に包帯を巻いている原因として、ウルスラが癇癪を起して彼の顔に傷を付けたからという噂が、まことしやかに流れているということ。

 それによってウルスラへの心証が下がり、茶会が断られる要因になっている。

(なるほど、こうやって昔の私は孤立させられていったわけね)

 過去の死に戻りでは、ウルスラはだんだん孤立させられ、社交界で浮いた存在となった。

 それでも、婚約者であったモートンはウルスラの傍を離れることはなかった。だが今思えば、ウルスラの味方となるような友人を作らせない彼の策だったのだと分かる。

 ウルスラは茶会が断られることとモートンの顔の傷を関連付けて考えることはしなかった。それどころか、顔に傷を負って大変なモートンがわざわざ元気づけてくれていたと喜んでいたくらいだ。

(本当に呆れるくらいにお花畑だったわ、昔の私は)

 だが今は違う。諜報部を得て、それぞれの裏を調べることができた。
 だが、これだけではまだ足りない。あと一つ情報が要る。

「噂の出所を調べてちょうだい。間違ってもその場で始末してはダメよ?」
「………はっ」

 一拍遅れたオーティスの返事にウルスラは苦笑した。ウルスラを敬愛し、邪魔者はすぐに始末しようとする部下をなだめるのはひと苦労である。
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