1 / 8
初恋 ルパート
しおりを挟む
「よく来てくれた」
「伯父上、お久しぶりです。……いや、父上とお呼びするべきですか?」
「それは、どちらでも構わない。……スタンから息子を取り上げたい訳ではないからな」
この国の筆頭公爵、カルディール・ティアール閣下は、私の伯父──つまり、父上の兄である。
少し前に我が国の元王太子がやらかしたせいで、私にティアール公爵家の後継の座が回って来た。
従兄のライ兄上が王籍を賜って王太子となり、従妹のフロリアーナは王家の養女となって隣国に嫁いだからだ。
……うん。まあ、仕方ないかなーとは思うけど、何で自分ちの後継、みんな放出したかな。私は2人の従兄弟であっても、しがない伯爵子息なんだぞ。
整えてもらった部屋に落ち着き、思わず溜息を吐く。
いや、公爵家の後継となるのは仕方ないとしても──上の兄上はうちの伯爵家の後継だし、下の兄上は騎士として領軍に入ってるから、無理──ここにいると、黒歴史を突きつけられるんだよね!!
あああ……ホント、公爵家と王宮には近づきたくなかったのに……(泣)
▼△▼△
ティアール公爵家次男だったうちの父は、伯父上よりだいぶ早く結婚して、とっとと領地に引っ込んだ。
ぽやんとふわふわしてる母を、社交界に関わらせたくなかったらしい。
いや、ちゃんと伯爵令嬢だったんだけどね?とにかくおっとり……といえば聞こえはいいが、騙されやすく利用されやすい母を守るためには、物理的に距離を空けるのが1番だと思ったんだと。
それでも手紙で追っかけてきた、っていうからよっぽど使いやすかったんだろうなぁ。
ちなみに、母の結婚前の渾名は、『無垢な阿婆擦れ』だった。
……まあ、それだけ当て馬として利用されて、強制的に浮名を流されてたんだろう。
無垢な、とつくのは、本人が全くそれを把握してなかったからだろうな。話してみればすぐ判るくらいに。
で、引っ込んだ父が次に領地から出て来たのは、何と子どもが3人生まれてからだった。
今から思えばあの時は、ティアール公爵家の分家として、正式にティアール伯爵家を起こすための手続きだったんだな。
だから、王宮に行ったんだ。
▼△▼△
もう、衝撃だった。一目惚れだった。あんな綺麗な子、領地にはいなかった。
キラキラと輝く赤みがかった金髪、ちょっと吊り上がった大きな緑色の瞳、何も塗らなくても赤い唇。
薄紅のシンプルなドレスがすごく似合ってて、ものすっごく可愛かった。
男が惚れたらどうする?そりゃもう、プロポーズでしょ!!
私はその子に走り寄り、跪こうとして、護衛に止められた。
ああ、身分もあるんだね!!……だって、誰か知らなかったから!!
だから、ちょっと離れた所に跪いて、大きな声で言ったんだよ。言っちゃったんだよぉ……。
「お嬢さん、あなたに一目惚れしました!どうかぼくと婚約してください!!」
「無理です」
「無礼者!」
「……え?」
「だあぁ、ルパート!何やってんだお前は!!」
下の兄上に思いっきり殴られた……慌てて謝罪する父の話を聞いていれば、その子……その方は、隣国の王太子殿下とご婚約なさっているアナスタシア王女殿下でした(泣)
まだお披露目前の子ども──その時もう10歳だったけど、まだお披露目してなかった──だし、好意を伝えただけだから、と大目に見てもらって、何とか公爵家に戻れた。
その間中、ずっと小声で上の兄上に説教されてたけど。
▼△▼△
その日は部屋から出してもらえず、従兄妹たちに会ったのは次の日だった。
天使だー!!天使がいるー!!昨日のアナスタシア殿下もすっごく可愛かったけど、この子の方がずっと可愛い!!
ふわふわの金髪に、透けるような水色の瞳、可愛いピンクの唇。薄いピンクのフリルたっぷりのドレスで、ほんとに可愛いぃぃー!!
従妹ならいいよね?結婚出来るもんね?これこそ一目惚れ、昨日のは間違いさ!
「フロリアーナ、ボクの婚約者になってくださいっ!!一目惚れしたからっっ!!」
「お前は全く懲りてないんかーっっ!!」
また、下の兄上に殴られた。でも、そんなの効かないもんね!!
フロリアーナはボクより3つ歳下だからまだ7歳の筈だし、それなら婚約だってしてないだろ!
跪いてニコニコ手を差し伸べてると、フロリアーナは非常に気まずそうな表情を浮かべていた。
そりゃそうだ。
「あの……ごめんなさい、無理です」
「え⁉︎何で⁉︎ボクのことキライ⁉︎」
「そういうことではなく……わたくし、もう婚約しておりますの」
……いやね、ここで諦めておけば、そこまで黒歴史でもなかったんだよ。『そうなんだ、不躾にごめんね』、とでも言って、握手でもすれば。
だが、その時の私は昨日理不尽な恥をかいた(と思っていた)ストレスと、みんなの前で再び恥をかいたというストレスが重なり、甘えん坊の3男の本領を発揮し、……泣き喚いたのである。思いっきり。
「いやだぁ、フロリアーナの婚約者になるぅ!ボクと結婚してぇー、フロリー!!」
「…………」
「やぁだぁー!ボクがフロリーと結婚するのぉーっっ!!!」
……ああ、はい、ごめんなさい。我儘だったんです、兄たちと歳の離れた甘えん坊だったんですー!
そうやって泣けば大抵のことは叶ったんですよ!
どれくらい泣き喚いていたのか、気がついた時には何故かライ兄上しかいなくなっていた。
「そんなにフロリーがいい?」
「……うん!」
「フロリーのためなら努力する?」
「うん!!」
……ああはい、馬鹿ですね。判ってますとも。
私はそのあと何故か王太子教育を受けさせられ、『この国の王太子になれば、フロリーをお嫁さんに出来るよ?』というライ兄上の言葉に乗せられて、撃沈するまで頑張ったのだった。
チクショー!何でライ兄上も王太子殿下も、あんなに頭いいんだよ!
3ヶ月で投げ出したよ!悪かったな!!
ああ、黒歴史……。
まあね。今、それが役に立たない訳じゃないから、人生無駄なことってないんだけどね!
公爵家の後継教育を受けながら、今日も叫びたくなるのだった。
フロリーが他国に嫁いでるだけ、マシなのかもしれない……。
「伯父上、お久しぶりです。……いや、父上とお呼びするべきですか?」
「それは、どちらでも構わない。……スタンから息子を取り上げたい訳ではないからな」
この国の筆頭公爵、カルディール・ティアール閣下は、私の伯父──つまり、父上の兄である。
少し前に我が国の元王太子がやらかしたせいで、私にティアール公爵家の後継の座が回って来た。
従兄のライ兄上が王籍を賜って王太子となり、従妹のフロリアーナは王家の養女となって隣国に嫁いだからだ。
……うん。まあ、仕方ないかなーとは思うけど、何で自分ちの後継、みんな放出したかな。私は2人の従兄弟であっても、しがない伯爵子息なんだぞ。
整えてもらった部屋に落ち着き、思わず溜息を吐く。
いや、公爵家の後継となるのは仕方ないとしても──上の兄上はうちの伯爵家の後継だし、下の兄上は騎士として領軍に入ってるから、無理──ここにいると、黒歴史を突きつけられるんだよね!!
あああ……ホント、公爵家と王宮には近づきたくなかったのに……(泣)
▼△▼△
ティアール公爵家次男だったうちの父は、伯父上よりだいぶ早く結婚して、とっとと領地に引っ込んだ。
ぽやんとふわふわしてる母を、社交界に関わらせたくなかったらしい。
いや、ちゃんと伯爵令嬢だったんだけどね?とにかくおっとり……といえば聞こえはいいが、騙されやすく利用されやすい母を守るためには、物理的に距離を空けるのが1番だと思ったんだと。
それでも手紙で追っかけてきた、っていうからよっぽど使いやすかったんだろうなぁ。
ちなみに、母の結婚前の渾名は、『無垢な阿婆擦れ』だった。
……まあ、それだけ当て馬として利用されて、強制的に浮名を流されてたんだろう。
無垢な、とつくのは、本人が全くそれを把握してなかったからだろうな。話してみればすぐ判るくらいに。
で、引っ込んだ父が次に領地から出て来たのは、何と子どもが3人生まれてからだった。
今から思えばあの時は、ティアール公爵家の分家として、正式にティアール伯爵家を起こすための手続きだったんだな。
だから、王宮に行ったんだ。
▼△▼△
もう、衝撃だった。一目惚れだった。あんな綺麗な子、領地にはいなかった。
キラキラと輝く赤みがかった金髪、ちょっと吊り上がった大きな緑色の瞳、何も塗らなくても赤い唇。
薄紅のシンプルなドレスがすごく似合ってて、ものすっごく可愛かった。
男が惚れたらどうする?そりゃもう、プロポーズでしょ!!
私はその子に走り寄り、跪こうとして、護衛に止められた。
ああ、身分もあるんだね!!……だって、誰か知らなかったから!!
だから、ちょっと離れた所に跪いて、大きな声で言ったんだよ。言っちゃったんだよぉ……。
「お嬢さん、あなたに一目惚れしました!どうかぼくと婚約してください!!」
「無理です」
「無礼者!」
「……え?」
「だあぁ、ルパート!何やってんだお前は!!」
下の兄上に思いっきり殴られた……慌てて謝罪する父の話を聞いていれば、その子……その方は、隣国の王太子殿下とご婚約なさっているアナスタシア王女殿下でした(泣)
まだお披露目前の子ども──その時もう10歳だったけど、まだお披露目してなかった──だし、好意を伝えただけだから、と大目に見てもらって、何とか公爵家に戻れた。
その間中、ずっと小声で上の兄上に説教されてたけど。
▼△▼△
その日は部屋から出してもらえず、従兄妹たちに会ったのは次の日だった。
天使だー!!天使がいるー!!昨日のアナスタシア殿下もすっごく可愛かったけど、この子の方がずっと可愛い!!
ふわふわの金髪に、透けるような水色の瞳、可愛いピンクの唇。薄いピンクのフリルたっぷりのドレスで、ほんとに可愛いぃぃー!!
従妹ならいいよね?結婚出来るもんね?これこそ一目惚れ、昨日のは間違いさ!
「フロリアーナ、ボクの婚約者になってくださいっ!!一目惚れしたからっっ!!」
「お前は全く懲りてないんかーっっ!!」
また、下の兄上に殴られた。でも、そんなの効かないもんね!!
フロリアーナはボクより3つ歳下だからまだ7歳の筈だし、それなら婚約だってしてないだろ!
跪いてニコニコ手を差し伸べてると、フロリアーナは非常に気まずそうな表情を浮かべていた。
そりゃそうだ。
「あの……ごめんなさい、無理です」
「え⁉︎何で⁉︎ボクのことキライ⁉︎」
「そういうことではなく……わたくし、もう婚約しておりますの」
……いやね、ここで諦めておけば、そこまで黒歴史でもなかったんだよ。『そうなんだ、不躾にごめんね』、とでも言って、握手でもすれば。
だが、その時の私は昨日理不尽な恥をかいた(と思っていた)ストレスと、みんなの前で再び恥をかいたというストレスが重なり、甘えん坊の3男の本領を発揮し、……泣き喚いたのである。思いっきり。
「いやだぁ、フロリアーナの婚約者になるぅ!ボクと結婚してぇー、フロリー!!」
「…………」
「やぁだぁー!ボクがフロリーと結婚するのぉーっっ!!!」
……ああ、はい、ごめんなさい。我儘だったんです、兄たちと歳の離れた甘えん坊だったんですー!
そうやって泣けば大抵のことは叶ったんですよ!
どれくらい泣き喚いていたのか、気がついた時には何故かライ兄上しかいなくなっていた。
「そんなにフロリーがいい?」
「……うん!」
「フロリーのためなら努力する?」
「うん!!」
……ああはい、馬鹿ですね。判ってますとも。
私はそのあと何故か王太子教育を受けさせられ、『この国の王太子になれば、フロリーをお嫁さんに出来るよ?』というライ兄上の言葉に乗せられて、撃沈するまで頑張ったのだった。
チクショー!何でライ兄上も王太子殿下も、あんなに頭いいんだよ!
3ヶ月で投げ出したよ!悪かったな!!
ああ、黒歴史……。
まあね。今、それが役に立たない訳じゃないから、人生無駄なことってないんだけどね!
公爵家の後継教育を受けながら、今日も叫びたくなるのだった。
フロリーが他国に嫁いでるだけ、マシなのかもしれない……。
271
あなたにおすすめの小説
王宮勤めにも色々ありまして
あとさん♪
恋愛
スカーレット・フォン・ファルケは王太子の婚約者の専属護衛の近衛騎士だ。
そんな彼女の元婚約者が、園遊会で見知らぬ女性に絡んでる·····?
おいおい、と思っていたら彼女の護衛対象である公爵令嬢が自らあの馬鹿野郎に近づいて·····
危険です!私の後ろに!
·····あ、あれぇ?
※シャティエル王国シリーズ2作目!
※拙作『相互理解は難しい(略)』の2人が出ます。
※小説家になろうにも投稿しております。
婚約破棄と言われても、どうせ好き合っていないからどうでもいいですね
うさこ
恋愛
男爵令嬢の私には婚約者がいた。
伯爵子息の彼は帝都一の美麗と言われていた。そんな彼と私は平穏な学園生活を送るために、「契約婚約」を結んだ。
お互い好きにならない。三年間の契約。
それなのに、彼は私の前からいなくなった。婚約破棄を言い渡されて……。
でも私たちは好きあっていない。だから、別にどうでもいいはずなのに……。
【完結】理想の人に恋をするとは限らない
miniko
恋愛
ナディアは、婚約者との初顔合わせの際に「容姿が好みじゃない」と明言されてしまう。
ほほぅ、そうですか。
「私も貴方は好みではありません」と言い返すと、この言い争いが逆に良かったのか、変な遠慮が無くなって、政略のパートナーとしては意外と良好な関係となる。
しかし、共に過ごす内に、少しづつ互いを異性として意識し始めた二人。
相手にとって自分が〝理想とは違う〟という事実が重くのしかかって・・・
(彼は私を好きにはならない)
(彼女は僕を好きにはならない)
そう思い込んでいる二人の仲はどう変化するのか。
※最後が男性側の視点で終わる、少し変則的な形式です。
※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。
私と貴方の報われない恋
梨丸
恋愛
田舎の男爵家の少女、アーシャには好きな人がいた。
家族同然の幼馴染を好きになってしまったアーシャの恋は報われない……。
主な登場人物
アーシャ 本作の主人公
フェルナン アーシャの初恋
※アーシャ編とフェルナン編の二編を投稿します。
※完結後も番外編を追加するかもしれないです。
11/3 完結いたしました。
11/4HOTランキング入りしました。ありがとうございます。
さよなら 大好きな人
小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。
政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。
彼にふさわしい女性になるために努力するほど。
しかし、アーリアのそんな気持ちは、
ある日、第2王子によって踏み躙られることになる……
※本編は悲恋です。
※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。
※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。
【完結】16わたしも愛人を作ります。
華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、
惨めで生きているのが疲れたマリカ。
第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる