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初恋 レオナード
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あいつに初めて会った時のことは、覚えていない。だって、まだ3つだったんだぞ。覚えている訳ないだろう。
あいつはいつも鬱陶しい。ボクのことがどれだけ好きなのか知らないが、いっつもべったりひっついて、そのくせ文句ばっかり言って。
どんなに怒鳴りつけようと、応えた風さえない!ボクのことが好きなら、怒鳴られたら悲しいだろう⁉︎無視されたらつらいだろう⁉︎なのに、いつもあいつは涼しい顔をしている。
姉上の婚約者に文句を言ってやろうとした時だって、無理やり着いて来て邪魔したし!ボクはもっと言いたいことがあったし、姉上を守ってあげる筈だったのに!!
いつからか、ボクはあいつを泣かせたくてたまらなくなっていた。いっつも澄ましているその顔を、変えてやりたかった。
それが、色々な表情を見たい、というただの願望だと気づかないまま。
▼△▼△
「はあ⁉︎姉上のお披露目にあいつが出る⁉︎」
「アナスタシア殿下は寝込んでおられますので」
「だからって、あいつに姉上の代わりなど務まる筈がない!!」
何で、こんなにイライラするんだろう。
あいつが姉上の代わりになるから?ボクの知らないところで話が進んだから?
あ、そうだ!
「あいつが出るんなら、パートナーはボクだよな⁉︎ボクもダンスの練習……」
「いえ、ランディアのエルヴァート王太子殿下がいらっしゃるので、フロリアーナさまに代わりを務めていただくのです。殿下は、お出になられません」
何故だ!あいつの婚約者はボクだろう!!エルヴァート王太子なんかじゃない!
「何で……!」
怒鳴ろうとした時には、侍従が目配せをした護衛に抱えられていた。そのまま部屋に戻され、鍵を閉められる。
「……そんなに、あいつの方が大事なのか」
いつもそうだ。あいつがなんか言うたび、みんなあいつの方を見る。こっちを見て欲しくて大声を出しても、みんな困った顔をするだけで。
今閉じ込められたのだって、きっとあいつの邪魔をしないため。
「……ふん!だったら、とことん邪魔してやる!あいつにいい思いなんてさせるものか」
扉に鍵を掛けたって、ちゃんと出口はあるんだからな!
ボクは偶然見つけた秘密通路から、部屋を抜け出した。
▼△▼△
「多分、この通路から広間に行く筈……」
ボクは、見つからないようカーテンの影に隠れた。あいつが来たら、思いっきり突き飛ばしてやる。それで怪我でもすれば、もうお披露目なんて出来ない。
「あ、来た!」
あいつ、姉上のドレス着てる!姉上が着る筈だったのに、図々しい!!
「よし、突き飛ばして……」
颯爽とカーテンの影から出ていく筈だったのに、動けなかった。
白いドレスで髪を結い上げ、化粧をしているあいつが、まるで別人に見えたから。
「……誰……?」
エルヴァート王太子と微笑み合いながら、エスコートされていくあいつ。
ボクはフラフラと、その後をついて行った。
カーテシーをして、踊り出すあいつ。微笑んだまま、楽しそうにエルヴァート王太子を見るあいつ。
ボクはいつの間にかいた護衛に、会場に入らないよう、肩を押さえられていたことさえ気づかなかった。
「何だよあいつ……あんなに楽しそうに……ボクには笑ったことなんて、ないじゃないか」
そうだ。いつだってあいつは笑わない。あれは淑女の微笑みって言うのよ、と姉上が言ってたけれど、いつだって同じ顔して、ボクだけに笑ったことなんかないじゃないか!
ダンスを終えて、戻って来るあいつ。何で楽しそうにエルヴァート王太子と話してるんだよ!ボクには楽しそうにしないじゃないか!!
気がつくと、ボクは自分の部屋の中にいた。護衛たちに連れ戻されたみたいだ。
ボクはその日、寝る時間になっても、あいつのドレス姿が目に焼きついて離れなかった。
▼△▼△
「……と、いう訳だ。ひどいと思わないか、ライナス」
「……あー、レオン、悪いが何がひどいのか判らん」
ボクは、昨日のことをライナスに話した。納得してくれると思ったのに、顔を顰められた。
「だって!あいつはエルヴァート王太子に笑ったんだぞ!」
「そりゃ、他国の王太子殿下に仏頂面、する訳にはいかないからな」
「楽しそうに話してたし!」
「つまらなくても笑うだろう、他国の王太子殿下に対して」
「ずっとダンスしてて!」
「そのための代役だろう」
全部に言い返され、ムッとする。と、ライナスが溜息を吐いた。
「あのなぁ、レオン。フロリーに笑って欲しければ、優しくしたらどうだ。いつも怒鳴るか無視するかしかしない相手に、楽しそうに笑う訳ないだろう」
「なっ!!」
「フロリーは、君のために努力をしている。君に歩み寄るための努力をね。対してレオン、君はどうだ?フロリーの努力を踏みにじり、無駄にしている」
「ふっ、不敬罪だぞっ!!」
「……それは、申し訳ございません」
大きく溜息を吐き、ライナスが詫びる。違う、そういうことを言って欲しいんじゃなくて。
「違う、そうじゃなくて、……だって、あいつは」
「……申し上げても宜しければ、殿下。せめて名前でお呼びいただけませんか」
「あっ、あいつに名前なんか呼ばれたくない!!」
だって、恥ずかしいから!
言い方を間違えた、と思ったのは、次の瞬間だった。
スッと、ライナスの雰囲気が変わった。いつも仕方ないなー、というように浮かべていた笑みが消えたのだ。
「……ライナス?」
「左様でございますか。殿下におかれましては、我が妹に名を呼ばれるのさえお嫌だ、と。……覚えておきましょう」
ニッコリ、と笑った表情は、もういつものものじゃなかった。
あいつが浮かべているのと、同じような笑み。
この時、既にライナスは、ボクを見限っていたのかもしれない。
この時、その顔に反発しないで、ちゃんと訳を話していたら、何か変わったのかもしれない。
もう……意味のない仮定だけれど。
あいつはいつも鬱陶しい。ボクのことがどれだけ好きなのか知らないが、いっつもべったりひっついて、そのくせ文句ばっかり言って。
どんなに怒鳴りつけようと、応えた風さえない!ボクのことが好きなら、怒鳴られたら悲しいだろう⁉︎無視されたらつらいだろう⁉︎なのに、いつもあいつは涼しい顔をしている。
姉上の婚約者に文句を言ってやろうとした時だって、無理やり着いて来て邪魔したし!ボクはもっと言いたいことがあったし、姉上を守ってあげる筈だったのに!!
いつからか、ボクはあいつを泣かせたくてたまらなくなっていた。いっつも澄ましているその顔を、変えてやりたかった。
それが、色々な表情を見たい、というただの願望だと気づかないまま。
▼△▼△
「はあ⁉︎姉上のお披露目にあいつが出る⁉︎」
「アナスタシア殿下は寝込んでおられますので」
「だからって、あいつに姉上の代わりなど務まる筈がない!!」
何で、こんなにイライラするんだろう。
あいつが姉上の代わりになるから?ボクの知らないところで話が進んだから?
あ、そうだ!
「あいつが出るんなら、パートナーはボクだよな⁉︎ボクもダンスの練習……」
「いえ、ランディアのエルヴァート王太子殿下がいらっしゃるので、フロリアーナさまに代わりを務めていただくのです。殿下は、お出になられません」
何故だ!あいつの婚約者はボクだろう!!エルヴァート王太子なんかじゃない!
「何で……!」
怒鳴ろうとした時には、侍従が目配せをした護衛に抱えられていた。そのまま部屋に戻され、鍵を閉められる。
「……そんなに、あいつの方が大事なのか」
いつもそうだ。あいつがなんか言うたび、みんなあいつの方を見る。こっちを見て欲しくて大声を出しても、みんな困った顔をするだけで。
今閉じ込められたのだって、きっとあいつの邪魔をしないため。
「……ふん!だったら、とことん邪魔してやる!あいつにいい思いなんてさせるものか」
扉に鍵を掛けたって、ちゃんと出口はあるんだからな!
ボクは偶然見つけた秘密通路から、部屋を抜け出した。
▼△▼△
「多分、この通路から広間に行く筈……」
ボクは、見つからないようカーテンの影に隠れた。あいつが来たら、思いっきり突き飛ばしてやる。それで怪我でもすれば、もうお披露目なんて出来ない。
「あ、来た!」
あいつ、姉上のドレス着てる!姉上が着る筈だったのに、図々しい!!
「よし、突き飛ばして……」
颯爽とカーテンの影から出ていく筈だったのに、動けなかった。
白いドレスで髪を結い上げ、化粧をしているあいつが、まるで別人に見えたから。
「……誰……?」
エルヴァート王太子と微笑み合いながら、エスコートされていくあいつ。
ボクはフラフラと、その後をついて行った。
カーテシーをして、踊り出すあいつ。微笑んだまま、楽しそうにエルヴァート王太子を見るあいつ。
ボクはいつの間にかいた護衛に、会場に入らないよう、肩を押さえられていたことさえ気づかなかった。
「何だよあいつ……あんなに楽しそうに……ボクには笑ったことなんて、ないじゃないか」
そうだ。いつだってあいつは笑わない。あれは淑女の微笑みって言うのよ、と姉上が言ってたけれど、いつだって同じ顔して、ボクだけに笑ったことなんかないじゃないか!
ダンスを終えて、戻って来るあいつ。何で楽しそうにエルヴァート王太子と話してるんだよ!ボクには楽しそうにしないじゃないか!!
気がつくと、ボクは自分の部屋の中にいた。護衛たちに連れ戻されたみたいだ。
ボクはその日、寝る時間になっても、あいつのドレス姿が目に焼きついて離れなかった。
▼△▼△
「……と、いう訳だ。ひどいと思わないか、ライナス」
「……あー、レオン、悪いが何がひどいのか判らん」
ボクは、昨日のことをライナスに話した。納得してくれると思ったのに、顔を顰められた。
「だって!あいつはエルヴァート王太子に笑ったんだぞ!」
「そりゃ、他国の王太子殿下に仏頂面、する訳にはいかないからな」
「楽しそうに話してたし!」
「つまらなくても笑うだろう、他国の王太子殿下に対して」
「ずっとダンスしてて!」
「そのための代役だろう」
全部に言い返され、ムッとする。と、ライナスが溜息を吐いた。
「あのなぁ、レオン。フロリーに笑って欲しければ、優しくしたらどうだ。いつも怒鳴るか無視するかしかしない相手に、楽しそうに笑う訳ないだろう」
「なっ!!」
「フロリーは、君のために努力をしている。君に歩み寄るための努力をね。対してレオン、君はどうだ?フロリーの努力を踏みにじり、無駄にしている」
「ふっ、不敬罪だぞっ!!」
「……それは、申し訳ございません」
大きく溜息を吐き、ライナスが詫びる。違う、そういうことを言って欲しいんじゃなくて。
「違う、そうじゃなくて、……だって、あいつは」
「……申し上げても宜しければ、殿下。せめて名前でお呼びいただけませんか」
「あっ、あいつに名前なんか呼ばれたくない!!」
だって、恥ずかしいから!
言い方を間違えた、と思ったのは、次の瞬間だった。
スッと、ライナスの雰囲気が変わった。いつも仕方ないなー、というように浮かべていた笑みが消えたのだ。
「……ライナス?」
「左様でございますか。殿下におかれましては、我が妹に名を呼ばれるのさえお嫌だ、と。……覚えておきましょう」
ニッコリ、と笑った表情は、もういつものものじゃなかった。
あいつが浮かべているのと、同じような笑み。
この時、既にライナスは、ボクを見限っていたのかもしれない。
この時、その顔に反発しないで、ちゃんと訳を話していたら、何か変わったのかもしれない。
もう……意味のない仮定だけれど。
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