【新選組】異世界転移×『最短の突き』で双月世界を駆け上がる

紳士わん。

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第1章 蒼月の街で、新たな誓い

第2話 ギルドの扉と蒼い適性

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夜明け前の風はひんやりして、石畳の上をするすると流れていった。

双月はまだ高い。冷たい青の蒼月そうげつと、赤く息づく緋月ひづき。塔の輪紋が、その二つを額縁みたいに切り取っている。



「ここが冒険者ギルドだ」

案内してくれた市衛兵隊長、ファルコが、鉄と木でできた大きな扉を叩いた。扉の上には、剣と杖と秤を組み合わせた看板。人の出入りが多いのか、敷居はすり減って丸くなっている。



「ありがとうございます。その……登録というのは、何をすれば」

「身分の聞き取りと、導素どうそ(この世界での“力の流れ”)の適性を測る。あとは武具の確認だな」

ファルコは口の端を上げた。「月満ちて」

通りがかりの書記官が、胸に手を当てて返す。「引きと共に」

(昨日、教わった掛け合いの挨拶だ。街では一息で「月満ち引きと共に」って言うらしいけど、ここは作法が生きてるのか)



扉が開くと、朝の匂いと、人の声と、紙をめくる音が押し寄せた。

広間には長い受付台。壁には依頼書がずらりと貼られ、テーブルでは地図を広げて相談する人たち。肩に淡い蒼の肩章をつけた者もいれば、腰に緋の帯を巻いた傭兵もいる。みんな胸に手を当てて軽く礼を交わしていた。



「登録の方?」

受付の女性が顔を上げた。きびきびした目だが、声は柔らかい。

「はい。望月廉と申します。……初めてで、勝手がわからず」

「大丈夫ですよ。ひとつずついきましょう。私はセリナと申します。ここでは、名前、出身、得意なことを聞いて、導素の適性を測ります。あと、“言の加護ことのかご”は感じていますか?」



「言の……加護?」

「今、私の言葉が耳では異国語なのに、頭では母国語に変わって聞こえる、という感覚はありません?」

図星だった。頷くと、セリナは微笑む。

「それが“言の加護”です。断面落ち――裂さけ目から落ちて来た旅人には、よくある現象なんですよね。会話は助けますけど、読み書きは別。文字は少しずつ覚えてくださいね」



「承知しました。勉強します」



セリナが帳面にさらさらと書き込み、次に木箱を持ってきた。中には透明な石が嵌まった輪。

「これは導素石どうそせきです。手を当てると、体に合う月の流れが光ります。深呼吸して、構えてみて」



言われるまま、正眼に立つ。息を落とし、余計な力を捨てる。

掌に輪の冷たさ――次の瞬間、石の芯が静かな蒼に灯った。水面を撫でる風のような、細くまっすぐな感覚が、腕から胸に通る。



「これほど純粋な蒼の線は……滅多に見ません」

セリナの目がわずかに見開かれる。

「線、ですか?」

「導素の流れ方には“線”と“曲”があるんです。線は最短でまっすぐ届かせる力。曲はずらしと巡り。蒼月は線を、緋月は曲を得意にする人が多い。あなたは蒼寄りです」



「最短……」

(沖田さんの言葉が、ここでもつながるのか)



「武具の確認もしますね。ヨルン!」

呼ばれて現れたのは、髭面だが目の優しい武具査定係だった。

「ほう、見ない造りだな。鞘から少しだけ見せてくれ」

「はい」

少し抜いて、すぐ納める。

ヨルンは唸った。「片刃で、反りがある……こっちじゃ見ない形だ。鍛冶屋が図面を見たがるだろうが、許可なく分解はしない。それでよければ登録に通すぞ」



「ありがとうございます。ただ……形を崩すのは、できればご遠慮いただけますか」

「分かった。なら、研ぎと油だけは相談しに来い。こっちの油は粘るから、合うものを探してやる」



短い会話の間にも、広間は動いていた。

壁の依頼板の前では、蒼の肩章の一団が相談している。遠目でも、動きに無駄がない。

反対側では、緋の帯の傭兵が冗談を飛ばし合い、笑い声が上がる。(蒼=秩序と線、緋=情熱と曲。ファルコの言っていた“色”が、空気に出ている)



登録が終わると、セリナが封蝋の押された紙片を渡してきた。

「仮身分票です。市内ではこれを見せれば大体通れます。通貨は銅貨ブランが基本。パンが1ブラン、干し肉が3ブランくらい。小銅こどうはブランの半分の価値で、細かい支払いに使います」



「なるほど。……あと、この街の決まりごとを少し」

ファルコが代わって口を開く。

「胸に手を当てて軽く礼。これはだいたいの場所で通用する。蒼の役所では“月満ちて”、緋の市棚(市場)では“引きと共に”が好まれる。迷ったら“一息”で『月満ち引きと共に』と言えば中立だ」



「月満ち引きと共に。……なるほど」

言いながら胸に手を当てると、セリナも笑って同じ所作を返した。



「よし、正式判定が出るまで街を一回りしようか」

ファルコの案内で外に出る。露店が並び始め、焼きたてのパンの匂いが漂ってきた。

「朝食はどうだ」

「いただきます」

黒パンとスープを小銅で支払いながら、周りの会話を耳で追う。耳は異国語、頭では日本語。言の加護が働いている。



「ところで、霞という女を探しているのですが。薄い着物で、動きが速くて」

「おお、そうだったな。ギルドで確認しておいたぞ。そいつか分からないが『薄衣の剣士』と言われているやつがいるらしい。運河の向こう。緋の巡回が増えてる区域だな。――緋の力を使うらしい」

(霞もやはりこの世界に?…そして緋月側……やっぱり、そっちに)

胸の奥が少しざわつく。けれど、迷いは足を鈍らせるだけだ。



「そろそろ戻ろう。適性の正式判定が出ているだろう」

再びギルド。今度は受付奥の小部屋に通された。壁に丸い盤が掛かり、細い針がいくつも中心へ向かっている。

セリナが導素石を盤の窪みに置くと、針がかすかに震え、ひとつ、またひとつと蒼の方向へ寄っていく。胸の内を流れる“線”に、盤が呼応しているようだった。



「結果が出ました」

セリナが、先ほどよりも真剣な声で言った。

「望月さん――あなたの適性は、稀に見るものです。蒼の“線”が極端に整っている。訓練次第で、都市級の要職も狙えますよ」



息を飲んだ。

(“凡庸”だった俺に、そんな言葉が向けられる日が来るなんて)



「ただし」

セリナの目がやわらぐ。

「最短で届く力は、最短で折れることもあります。体と心を削る使い方は、しないと約束してください」

「……約束します」

自然と背が伸びた。羽織の背の「誠」が、日向みたいに温かくなる。



ファルコが腕を組む。

「廉、蒼月騎士団のスカウトが今日、顔を出すかもしれん。興味があるなら会ってみろ。街を守る仕事だ」

「考えさせてください。ただ――霞を探さないと…」



窓の外、蒼月が少し薄くなり、緋月が強くなっていく。

二つの光が、床に青と赤の縁を作って重なった。

その境界線が、まるで運命の分かれ道を示しているように見えた。



(最短の礼。迷いは、進む足で払え)

ここで立ち止まるわけにはいかない。



つづく (蒼月勢力の使者、そして“薄衣の剣士”の噂は運河の向こうへ――)
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