【新選組】異世界転移×『最短の突き』で双月世界を駆け上がる

紳士わん。

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第2章 線と曲、合月の前で

第7話 赤橋のすれ違い

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朝いちばんで、記録庫へ向かった。

昨日頼んでいた受け取りの手続きを済ませ、薄い木の小箱を受け取る。中には右半月札――青い縁の札が入っている。

この札は、対になる左半月(赤い縁)が近くにないと、刻まれた文の全部は読めない細工だと聞いた。だから、いまは小箱のまま胸元にしまう。



「巡回に出るぞ、廉」

ファルコが手招きする。今日は東区の境界線まで――赤橋の手前だ。



橋へ近づくほど、通りはにぎやかになる。蒼の見回りが、白い粉で地面に細い筋を引いていく。緋の荷車はそれをまたがず、大回りに流れを作り直していた。

(止める“線”、回す“曲”。この街は、やっぱり二つで動いている)



空気が、すっと冷えた。薄い白い霧が足もとから立ちのぼる。

その足もとに、赤っぽい粉が点々と残っていた。鼻に、金属みたいな匂い。

「赤い粉――俺たちは紅粉って呼んでる。霧を濃くする連中の痕跡だ」

ファルコが低く言う。「視界と耳を鈍らせる。言の加護もザラつく。気をつけろ」



ちょうどそのとき、指笛が鳴った。

短く二度。少しおいて、もう一度。

(昨日、教わった境界合図だ。二連+一拍)



橋のたもと、蒼と緋の境目に白い粉のラインが引かれている。俺たちはそこで止まる。線は越えない。

向こう側――赤橋の上では、緋の教練士が何人かを並ばせて、拍で“間”を切っていた。指先で合図を送る。

(この間の取り方……沖田さんだ。あの、一拍だけ長い“間”)

胸の奥が冷たく縮む。呼吸が細く伸びる。足が、前へ出そうになる。

――だめだ。線は越えない。



霧が揺れ、橋の中央に、薄衣の影が現れた。

霞だ。半歩で消え、半歩で現れる。残像が二重、三重に見える。教練士の合図に合わせ、踏み替えの拍をずらしていく。

胸の小箱が、じんわり温かくなった。(近い)



「動くなよ」ファルコが小さな声で釘をさす。

「はい。ここからは見ているだけにします」



霞が一度だけ足を止め、こちらへ目を向けた。

風が、すっと通り抜ける。

「――無事で」

たしかに、そう聞こえた。

俺も、同じくらい小さな声で返す。「お前も」



その瞬間、小箱の中で札が小さく「コト」と鳴った。

線は越えない。けれど、声は届く。

霞はすぐに視線を戻し、緋の列へ溶けていく。教練士の指先が空で“一拍”を切った。



霧はまだ薄く残っている。白い粉のラインの外側、石畳に紅粉の粒がかすかに光った。

「最近、境界を狙うやつらがいる。霧と紅粉、それからあの笛。覚えとけ」

ファルコが粉を指で弾き、靴裏で払う。「蒼の粉は白だ。これで霧を落として、線に寄せる。向こうは、線をぼかして曲で回す。やり口が違う」



俺はうなずく。「線は越えません。けど……届かせます」

ファルコは少しだけ笑った。「それでいい」



教練が終わったのか、橋の向こうの人波が崩れはじめる。霞の姿は、もう見えない。

風が吹く。さっきの一言が、記憶の中で繰り返された。――無事で。

胸の小箱の温かさは、まだ消えなかった。



巡回の戻り道、白い粉のラインが夕日に淡く光る。

(次は、言葉を交わす。線は守る。けれど、声は届かせる)

俺は鞘の位置を確かめ、歩調を合わせた。

――つづく
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