【新選組】異世界転移×『最短の突き』で双月世界を駆け上がる

紳士わん。

文字の大きさ
6 / 7
第1章 蒼月の街で、新たな誓い

第6話 記録庫で導素路と月潮暦に触れる

しおりを挟む
朝。塔の影は短い。空は澄んでいる。

ファルコに連れられ、石造りの大きな建物に着いた。柱の上に丸い輪の印。入口には小さく「記録庫」。



「月満ちて」

出迎えた女性が、胸に手を当てて礼をした。

「引きと共に。記録庫書記官のミレイユと申します。本日は私がご案内します」



「望月廉と申します。よろしくお願いします」



中は涼しく、紙の匂い。羽根ペンの音がかすかに続く。

壁一面に、薄く光る地図。塔と塔を細い線が結び、ときどき格子になっている。



「まずは導素路どうそろの地図(=導素の道の地図)をご覧ください」

ミレイユの指が、光る線をなぞる。

「この線は力の通り道です。私たちは線の灯り(線灯)で強め、影の化け物が通れる道をしぼります」



(まっすぐ。最短。俺の刀と同じだ)



「次は月潮暦げっちょうれきです。大事な点は三つ」

机の上の板で、二つの月の印が静かに動く。



「一、蒼が強い夜は集中と精密が上がります。

二、緋が強い夜は速度・回避・直感が上がります。

三、二つが交じる夜(合月ごうげつ)は不安定ですが、使いこなせれば大きく伸びます」



(合月……危ない。でも、伸びる)

胸の奥が熱くなり、喉が少し詰まった。息を一つ、深く吐く。



――



「昨夜の赤橋については、こちらに記録があります」

ミレイユが薄い束を出す。表紙に「赤橋の巡回記録」。

中には見取り図、足の運びの小さな絵、そして号令のタイミング印。

(この世界では、出来事を文字と絵図、合図で残す。――こうしたやり方を、この街で教わった)



ページをめくる。“薄衣の剣士”の欄。

小さな人形図が、半歩で消え、別の位置にふっと現れる。薄い残像が二重三重に重なる線も引かれている。

(――霞だ)



「指導の合図はここです。“S式の間ま”と注記」

ミレイユが、指導者の位置の小さな「S」と、不自然に長い“間”の符を指す。



(この“間”の取り方――どこかで見た。沖田さんの“間”に似ている?)

胸の奥がざわりと揺れた。息を整えて尋ねる。

「S式の出どころは?」



「不明です。写し(写し取り)だけが各所に残る伝わり方です。余白に薄い紫の印が滲む写しが多い、とも聞きます」



小さな棘が胸の奥を刺した。紫…



――



「昨夜分は以上です。……もう一件、望月様が探しておられる“目印の品”について、記録庫の規定により照会いたします」

ミレイユが分厚い台帳を開く。表紙には「落とし物の記録」。

「ここでは、『断面落ち』――あの白い石の輪の裂け目から落ちてきた方のことをそう呼びます――が言及した品は、拾得台帳を先に照会する決まりでして。……ありました。右半月札みぎはんげつふだ(青い縁)。保管庫の七段目。『図書塔の階段で拾う。持ち主不明』」



(右半分。青い縁。――霞は左半分、赤い縁。二つが合えば満月になる)

その時、胸の奥で小さく「コト」と何かが鳴った。



「……なぜ、こちら側に札が?」思わず口に出る。

ミレイユはうなずく。

「対の札は“縁”が強いため、朔望環さくぼうかん(あの白い石の輪)が共鳴して引き寄せることがございます。持ち主ご本人ではなく、片割れだけが現れる事例は、まれですが記録にあります」



(引き寄せられた――理屈は後でいい。今は確保だ)

「申請用紙を出していただければ、閲覧と受け取りの確認ができます。身分の証明を一つお願いします」

「分かりました。手続きをお願いします。準備して、また来ます」



ミレイユは短くうなずいた。所作は正確で、無駄がない。ギルド受付のセリナの柔らかさとは、また違う静けさだ。



――



地図の前に戻る。線が街を支えている。

ミレイユが白い粉で、弱っている格子に印をつけた。

「ここが薄いです。合月前に補強したいですね」



ファルコが腕を組む。「巡回の手を増やす。廉、見えるか?」



余計な力を捨てる。呼吸を合わせる。最短を探す。

補強の順番が浮かぶ。巡回の順路も。休む間も。

「――ここから始めます。油は多めに。角は二重に結びます」



ファルコが小さく笑う。「言い切ったな。蒼の線の仕事だ」



――



出口で、ミレイユが小さな包みを渡した。

「蒼の見習いバッジです。記録庫に入れる印と、図や写しの閲覧許可がつきます。……それから、“薄衣の剣士”の図と合図(拍)の写し。練習にどうぞ」



「ありがとうございます」



胸に留める。軽いのに、不思議と重い。

外へ出ると、空の色が少し緋へ寄っていた。風の匂いも変わる。



(霞。俺は蒼の線で強くなる。そっちは緋の曲で速くなる。

その先で、きっと――交じる)



「ファルコさん」

「ん?」

「合月までに、線灯が弱い区画を全部まわります。お願いします」

「任せろ。ただ無茶はするな。それと分かっているな?線は跨ぐなよ」



うなずく。

誠を背に、最短で守り、最短で届かせる。

合月の夜までに、できることを全部やる。

――第1部完 第2部へつづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

処理中です...