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第二章 政略結婚。身体の相性はやっぱり大事!

絶倫皇女、初デートを楽しむ

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「きゃ~~~~、可愛い♡」

 目の前のぬいぐるみのような真っ白なアザラシの赤ちゃんに私はもう釘付けだった。

 黒いつぶらな瞳で私を見つめてくるのが、堪らなく愛おしい。時々、母を求めて鳴く姿には母性本能をくすぐられたが、この子達が母親と一緒にいられるのはたった二週間。ある程度、子供が泳げるようになれば母親達は北の海を目指して去っていくのだという。

 二週間しか一緒にいられないなんて、自然ってやっぱり厳しいなぁ……。

 授乳中のアザラシ親子を側で見つめながら「頑張って生き抜くんだよ」とエールを送っていると、皇太子がいきなりうつ伏せになった。

「姫様もうつ伏せになってみて下さい」
「うつ伏せに?」

 皇太子に言われて素直に流氷の上にうつ伏せになって寝てみると、母親を一匹で待っている赤ちゃんアザラシが鳴きながらこちらに近付いて来るではないか!

「うわぁ……近い近い近いっ!」
「そのままジッとして……」

 後、数ミリでキスされちゃう寸前で私の匂いをフンフンと嗅いだ後、自分の母親ではないと気が付いたのか方向転換し、元の場所へと帰っていく赤ちゃんアザラシ。

「本当に可愛い……」

 溜息が漏れるくらいに可愛い。それくらい私は赤ちゃんアザラシに夢中になっていた。

「この姿を見られるのも冬の時期だけなんですよ」
「詳しいのですね」
「亡くなった母がアザラシが好きだったんですよ。よく赤ちゃんアザラシを抱っこして私に見せに来る度、甘えて来る所が私に似てると言われたものです」

 そう言った彼の横顔は少し寂しげに見えた。

 そうか……ここはグレン様のお母様との思い出がたくさん詰まった思い出の地なのか。そんな所に連れてきて頂けるなんて。

 私なんかで良いのかしら……とそう思っていると「もし、私がサクリファイス帝国に行く事がありましたら、イングリッド姫様の思い出の地を紹介して下さいね」と私が返事に困らないようにすかさずフォローしてくれた。

 そして「恋人じゃなくても約束ですよ? 」と言いながら小指を差し出されたので、私は少し躊躇いながら「……はい」と笑って答え、小指を絡めたのだった。

◇◇◇

 生まれて初めてのデートは怖々と流氷乗り、アザラシ親子を観察したり、うつ伏せになって赤ちゃんアザラシと同じ目線になってみたりと楽しくて仕方がなかった。

 でも、もうそろそろ帰らなければならない。すっかり日は落ちかけていて、空はオレンジ色から薄らと紺色のカーテンが落ち始めている。遥か遠くで星達が白銀に輝きを放っているのを見て、私は座ったまま空を見続けていた。

「いかがですか? 近隣諸国からは血染めの国なんて言われてますけど、サンクチュアリ帝国も悪い所ではないでしょう?」
「はい……ここはとても素敵な国です。戦争がなければ、世界はもっと平和に穏やかにいられるのに。何故、私達は戦争をしているのでしょう?」

 それは本心だった。政治や経済等の意見の食い違い、誤解などの積み重ねで簡単に戦争が起こってしまう。

 そして、いつも犠牲になるのは一般市民達。いつまでもお互い歪みあっていては何も始まらない。先ずは歩み寄る事から始めないと。

「……っ」

 殿下の指がちょんと触れた。少し考えた後、私も少しだけ殿下の指に触れてみる。すると、私達はどちらからともなく手を取った。指を絡ませて優しく握り、優しい眼差しで見つめ合う。

 この瞬間、私達は必ず分かり合えると悟った。これからは今の私達のように手を取り合い、相手を思いやり生きていかねばならないのだ。

「……イングリッド姫様。どうか正式に私と婚約して頂けませんか? 実は私も戦争は懲り懲りなのです。人の命を容易く奪って良いものだとは思っていません」
「殿下……」

 非常に迷った。この話、個人的には凄く受けたい。

 私は視線を落とし、考えた。何故、迷うのか……その理由を。

 ……あぁ、そうか。自分の体質を理由にこの話は受けない方が良いと思っていたけど、私の体質を知ってドン引きされたり、敬遠されるのが嫌だから受けたくないのか。

 そっか……私、彼に嫌われたくないんだわ。

 猫神様に『ヤッてヤッてヤリまくれ!』という指示を真に受けて、色々調子乗ってたけどそれは間違いなんだと今更気付いた。

 改めて殿下の目を見つめる。真剣な表情。真っ直ぐな目……どうやら今までの言葉に偽りはなさそうだ。

 この人に嫌われるのは怖い。怖いし、自分の身体の事で不安な事は沢山あるけれど国の為に、自分の為に、未来の為にも、この話を受けてみよう……そう思えたのである。

「殿下」
「はい」
「その話、お受けしても良いですか?」
「それは……婚約して頂けるという事ですか?」

 彼の声が震えていた。繋がれた手に一層力が入り、彼の口角が嬉しそうに上がった。

「都合が良いかもしれませんが、昨日までの私はどうか忘れて欲しいです。これからは貴方だけを見つめて生きていきます」
「……私もです、殿下」

 あ……良い雰囲気。

 そう思った私はギュッと目を瞑った。ファーストキスは好きな人と出来るなんてとても嬉しい。出来ることなら初めてはロメオじゃなくて貴方に捧げたかったなぁ。

 徐々に彼の体温が近くなっているのが分かる。唇が後もう少しで触れる寸前で『ニォォォォ!』という変わった鳴き声が足元から聞こえてきた。

 …………なんだ、今の声は? 今のアザラシの鳴き声じゃないよね?と思いつつ、私は薄らと目を開けてみた。

 すると、一匹の赤ちゃんアザラシが私達を見上げながらこちらを見つめていたのだが、何かがおかしい。

 顔がとっても不細工ねぇ……って、猫神様かよ! 何故、こんな所にいるのだ! 良い雰囲気の時に邪魔するな!と言って追い払いたかったが『ニォォォォッ!』と猫神様が一際大きな声で鳴くと、グレンも鳴き声を気になり出したのか「参りましたね……」と苦笑いしたのだった。

 あぁ~~~~ん、せっかくのファーストキスのチャンスがぁぁぁぁッ! 私に何の用か知らないけど、覚えてなさい! この良い雰囲気をぶち壊しにした代償は大きいんだからね!
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