Lythrum

赤井 てる

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〜Machinery city〜

第七話「unknown」Part1

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「…ねぇ、ちょっと」

 …通路の曲がり角に差し掛かった時、アメリアは3人の生徒に囲まれた。

「言いたいことがあるから、来て」

 冷たく鋭い声。

「…分かった」


 ―――連れてこられたのは、格納庫から逆方向の通路端。

「…ねぇ、あなたアメリア・ヴィスティでしょ」

 声を震わせる。

「…そう」

「『大歪み』が起きた二年前、防衛部隊にいたあのっ…!」

「…そう」

「―――ッ!!」

 瞬間、周囲に頬を叩く音が響いた。

「……」

「あんたがッ…!!あの時『カリアの塔』をしなければ!!兄は…バカ兄貴は死ぬことはなかったんだよッ!!」

 女子生徒の声が涙混じりに変わる。

「………」

「…何か喋りなさいよッ!!」

 女子生徒はアメリアに詰め寄り、胸ぐらを掴む。

「……何であんたがここにいんのよ…」

 …だがずぐにその力は弱まり、その場に崩れ落ちた。

「……返してよ…まだ話したいことがあったのに…謝りたいことがあったのに……!!」

「………」

 …アメリアは何も言うことをしなかった。
 …彼女が言ったことは全部本当の事。だから言葉を発さない。…全て逃げの言葉にしかならないから。

「―――私含めここにいる三人だけじゃない」

 後ろで手を組み壁に寄りかかっていた女子生徒が言った。

「ここにいる殆どがお前が取った行動で何かを失っている」

 …彼女は崩れ落ちた女子生徒の前まで行くと、「ほら、行くぞ」と言って肩を持った。

「…自覚はしているようだが忘れるな。誰もお前の味方などしないぞ。…私も殺したいぐらいだ…」

 …アメリアの横にいた女子生徒が、涙目で睨み付ける。
 拳を強く握りしめるが、…何も言うことなく、その場を走り去っていった。
 …場が静まり返る。

「…っ」

 …駄目。…塞ぎ込んでは駄目。こうなることは分かってた。覚悟していた。…だから、全部受け止める。…そうすることしか出来ないから。

「……」

 …姉さん…



「んじゃあ少年。ちょっちここで待ってて!」

 …ユウキは女性教諭に引っ張られ、A35格納庫に連れてこられていた。
 教諭は集合している生徒の元まで走っていき、喋り始める。

「―――やぁ諸君お待たせ!っと後ろの人私見える?まぁ声だけ聞いてて」

 ユウキは生徒より離れた場所にいた。すぐ隣に扉がある。

「それじゃあ、皆事前に聞いてて知ってると思うけど、実際の戦闘では『ノーマル』と『異人』の混合で編成をさせてもらう」

 …教諭の声が聞こえる。

「場合にもよるけど、基本『ノーマル』は『異人』の援護、敵の陽動。『異人』は敵の本丸を叩く。だね」

 役割について話している。

「んで、今から各一人ずつ機体が割り当てられるんだけど、その前に全員にシミュレーションで演習をやってもらう」

『―――取り敢えずこれでシミュやってみろ』

「―――ッ!」

 瞬間、鋭い頭痛と共に頭の中に誰かの声が響く。

「まぁ演習つっても今の皆の力を見せてもらうだけだから気軽にね」

「あっ!因みに」と教諭は言葉を続ける。

「皆が目標にしている、と思う『赤付き』だけど、一週間後の適正試験も結構大きいから、日々の研鑽を忘れぬように!それとあと何だっけ…」

 しばらく静寂が続き、「あ、そうそう」と教諭が口を開く。

「…これだけは言っときたかったんだけど、私はまぁノーマルで異人を良く思わないのは分かる…?けど!崩壊に進むこの世界で敵がT.O.D.L.Fだけじゃないこの世の中で、そんなこと言ってる場合じゃないのはみんな分かってるはずーーー」

「ーーーッ!!」

 教諭が喋っていることを耳にしていたその時、激しい頭痛と、心臓が弾け飛びそうなまでの衝撃が襲った。

「ハァ…!!ハァ…!!」

 汗が止まらなくなる。その場に立っていられなくなり、壁に手をつき崩れ落ちた。

 ーーーーーーーー

 目の前に白い点滅が続く。ぼやけた光景が連続して切り替わる。

「ハァッ…!!ハァッ…!!」

 恐怖が広がる。徐々に光景が広がる感覚が速くなっていき、視界が暗くなるその瞬間、ーーー爛れた少年の顔が、一気にこっちに迫ってきた。

 ーーー

「ーーー!!」

 我に返ると、心臓が弾け飛びそうな衝撃も激しい頭痛も治まっていた。

「ハァ、ハァ…!」

「だがら、皆一人一人手を取り合って訓練に臨んでほしい」

 …教諭の声が聞こえてくる。

「……平気?」

 急に後ろから声が聞こえた。
 振り返ると、ユウキと同じ目線に赤髪の少女がいる。…背中に手の感触があった。

「……は…い…」

 消えかけの声で答え、よろよろと立ち上がる。

「……そうは―――」

「―――お、アーちゃん!少年の養護かい?ってうお!?どうしたのすごい汗!!顔も真っ青だけど!?」

 話を終えた教諭が戻ってきた。

「……多分反作用。一度休ませた方が良い」

「りょーかい。後は引き継ぐから、アーちゃんは演習行ってきな」

「……ン」

 二人で話している。

「…今んとこ大丈夫そ?」

 …ユウキに向けてではない。教諭は少女に向けて話す。

「…うん」

「…なら良かった」

 少女が去っていき、その場に二人だけが残ると教諭が言った。

「んじゃとりま飲み物持ってくるから、動けたらそこの洗面場にあるタオルで汗拭いてくるんだ少年!」

 そう言うと、早足で去っていく。

 ……

 …汗が床に滴り落ちる。
 ユウキはふらつきながら歩くと、洗面場に向かった。


 水が流れる音が響き、両手で掬って顔を洗う。

「……」

 …さっきの光景が頭から抜けない。一体何なのか疑問で仕方なかった。

「……ッ!」

 いや、だからなんだ。そんなこと俺には関係ない。
 ユウキは『タオル』と表示された機械のレバーを下げると、受け取り口に落ちてきたタオルを取った。
 …濡れた顔と汗を拭き、『使用済み』と表示された機械にタオルを入れる。
 …洗面場を出ると、教諭はまだいなかった。

「……」

 …立ってるのが辛い。
 ユウキは壁に背中を預け、座り込もうと―――

「―――あ、あの…

 急に聞こえた聞き覚えのない声。
 …『先輩』。誰に向けて言ったのか。
 すぐ横には整った小顔の黒髪の少女がいる。

「わ、私の事…覚えてますか…?」



 クソッ…の奴どこ行ったんだよ…!

 長ったらしい話が終わってからと言うもの、妹の姿が見えなかった。

 妙に落ち着かねぇ感じだったしよ…

 今思えば講義室でのロリ教諭の話が終わった後から変だった。

「クソッ…いねぇ…」

 端っこ辺りとかか?

 そう考えたその時、向こうに見覚えのある奴がいた。

「―――…なぁお前、ちょっといいか?」

 こっちから聞くんだ。口調に気を付けて喋るが、どうしても鋭くなりかける。

「…ん?あぁ、朝の。えっと…」

 カズト・ディヴァインと言ってたそいつは、俺を見るなり不自然に言葉を詰まらせる。

「…ああ、オレン。リュージ・オレンだ。俺の妹見なかったか?」

「いや、見かけてないけど、どうかしたの?」

「…いや、大した問題じゃねぇ。急に悪かったな」

 振り返りざま片手を上げ、その場を離れる。
 …嫌な予感がして頭から離れなかった。



「……っ!」

 少女は胸元で手を握りながら、自分を見ている。

 ……

 …その子に見覚えはなかった。いやあるはずがない。俺は昨日ここに飛ばされたんだから。

「………ごめん……知らない…」

 …目を背け、消えかけそうな声で喋る。
 …会ったことはない。それに、一人にしてほしかった。
 たが、その言葉に少女は衝撃を受けた表情をする。

「…わ、私です!3年前に『イルシス』にいた…!」

 ユウキに近づき、必死に訴えかける。

 ―――

 すると途端に、激しい動悸が起こった。

 ……!?

 緊張からではない。
『イルシス』という名前。この名前をどこかで―――

「―――………人違い…だと…思う…」

 …だがユウキは感情を奥にしまいこみ、そう呟く。

「……!」

 …すると、少女の目から涙が浮かんだ。

「……そう…ですか…」

 溢れ出た涙が頬をつたり、少女は何度も何度も涙を拭き取る。
 …ユウキはどうすればいいか分からなくなっていた。この場から逃げたいという気持ちが徐々に大きくなっていく。

 ………

 何も出来ず少女の姿を見ていると―――幼い女の子の姿がダブった。それと同時に、脳に電流が走ったかのような感覚が襲う。

「……ヒメ…カ…ちゃん……?」

 無意識に出た名前。

「……!先輩…?」

 …だがその時、ユウキは頭を手で押さえていた。
 一度治まったはずの頭痛が、再び襲う。

『―――どうせ私なんか…!!』

 冷えた洞窟。外の豪雨の音が響き、隣から声が届く。
 そして今回はこれだけじゃない。

『―――今から『――シス』の補給基地に向かうわ』

 映像が移り変わり、薄暗い金属の壁で囲まれた部屋にいる。そこで、前にも聞いた女性の声が―――

「は、ぁ…は…ぁ…」

 頭痛が治まり、視界が徐々に鮮明になる。だが、動悸だけは治まらなかった。

「兄さ―――」

 ―――少女の声が聞こえた瞬間、肩を掴まれ、体を壁に叩きつけられた。

「…っ!!」

 左肩に激痛が走る。

「おい…テメェ…どこで知ったッ…!!」

 敵意と殺意に満ちた男の声が響く。

「……」

「―――答えろッ!!それをどこで知ったッ!!」

 ユウキを押さえつける手が一段と強くなる。

「……ッ!!」

 …押し寄せる理不尽に歯を食い縛ったその時、押さえつけてる男は腕を上げ、ユウキの頬を殴ろうと―――

「―――やめて」

 だが寸前で少女が腕を掴み、動きを止める。

「この人に手を出さないで。傷付けたら絶対許さないから」

「…っ!?お前、今の聞いてたろ!?こいつは―――」

「それはっ!私が教えたから!この人をそんな人達と一緒にしないで」

 目尻に涙を浮かべながらも、真剣な眼差しで男を見る。

「っ…!?―――」

 男はユウキを鋭く睨み付けると、「……クソッ!」と吐き捨て乱暴に肩から手を離した。

「ちょっと!君―――」

「―――ちょいちょいちょいちょい少し外した隙に何起きちゃってンのーっ!?」

 一瞬他の青年の声が聞こえ、それを書き消して響いた教諭の声。

「ちょいとそこの大柄の青年!早速弱いものいじめとかどんだけ血に飢えてんのかねぇ!」

 男に指差し、大声で言う。

「俺一方的な悪者扱いかよ!!」

「そりゃあそこの彼の今の状態を考えてのと、それに、喧嘩を吹っ掛けるようには見えないからね」

「確かに先に手ェ出したのは俺に見えたかも知れねぇが!―――」

 男はユウキを見て言葉を続けようとするが、「ハァ」と冷静になるように息をつく。

「―――こいつが美乃に何か吹き掛けてるように見えて、それで今の有り様だ」

「…んま、詳しい話は後で聞こう。―――はいじゃあ皆!事態はこれで収束っ!演習に戻った戻ったァ!」

 両手を上げ、声を響かせる。
 …騒ぎに集まっていた生徒達は、何か話ながら戻っていった。

「…それで、俺は一体どんな罰則を食らうんです?」

 落ち着いた口調で、納得いかないような面持ちで青年が聞く。

「そーだねぇ…ってか正直、手出してないなら罰則ってもんはないよ。止めてくれた妹君?彼女?に感謝するんだね」

 腰に手を当てながら答える教諭。

「そーですか」

 青年はぶっきらぼうに言い、「行くぞ美乃」と言ってその場を離れようとする。

「―――理解しといてもらいたいんだけどさぁ」

 青年の後ろ姿に向けて、教諭が言った。

「本当に『吹き掛けてるように見えた』かは知んないけどさぁ、支部ここには何か訳ありだったり、を持った人がいる。そこんとこよろしくよ?」

「……そいつが敵だったとしても?」

 青年が立ち止まり、視線を変えないまま言う。

「敵だったら潰す。ただ早計に判断するのは大人じゃないよ」

「肝に銘じときますよ。…子供にしか見えねぇけど」

 最後にそう吐き捨て、その場を去る。

「おっしアイツ私の敵だねッ!?今すぐその高身長縮めて―――あり?君着いてかなくて良いの?」

「……い…いえ…」

 …少女は一瞬ユウキを見る素振りを見せるが、涙を拭うと青年の後ろを着いていった。

「大丈夫かい少年?」

 教諭の声にユウキは反応をしなかった。できなかった。

「まーんな訳ないよねぇー…とりま奢ったジュース飲んでさ、一息着いてよ」

 教諭は缶ジュースを差し出す。

 ……

 …喉が渇く。視界が揺れ、気を抜いたら倒れ込みそうになる。
 …ユウキは力ない動きで飲み物を受け取ると、フタを開け一気に飲み干した。

「お、良い飲みっぷりじゃーん。それにしても少年も隅におけないなぁ!見た感じザ・平凡(根暗)なのに、あんな小顔の美少女と話してるんだからっ!」

「………」

「…色々ツッこむ余裕とかないかそりゃそうか」

 気まずそうに呟く教諭。だがすぐに「コホン」と気持ちを切り替えると、「んじゃ少年!」と言った。

「ここにいても周りの目が向きそうだからね。早速だけどBA格納庫に来てもらう!」


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