Lythrum

赤井 てる

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〜Machinery city〜

「unknown」Part2

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『IDを認証しました』

 機械音声が聞こえ、扉が開くと格納庫内の電気が点いた。

「いやー、ちょっち散らかってるけど、まぁ、気にしないで」

 辺りには何かの工具、金属パーツ、ケーブル、書類がばらまかれている。

「言っちゃえばここ私専用の場所でさぁー、少年、何気にここに入るのめっちゃレアだよ?記念すべき2人目だからね」

 教諭は床に広がったケーブル類を避けながら進み、何か巨大なものを固定する機器の下まで行く。

「……」

 …ユウキは教諭の奥にある物を見ていた。

「ほら、少年もこっち―――お、気づいた?」

 教諭は両手を腰に当てこっちを向くと、「やっぱ気になるよねっ!」とウィンクしながら人差し指をユウキに向ける。

「この後ろのハンガーだけど、そこに私の愛機『T.B-I.P』が格納されてる。更にその後ろにもう一機あるんだけど、それは私の前の搭乗機。まぁ今は予備機だねっ」

 固定具の隙間から見える黒い人型の機動兵器。

 ―――

 またしても視界が白くぼやけ、鋭い頭痛が―――

「―――ほら少年!いつまでもそこで突っ立ってないで、もっと近くで見なよ!」

 教諭の声で我に返る。いつの間にか目の前にいて、興奮気味にユウキの腕を引っ張る。
 …今回は頭痛が襲ってこなかった。

「―――この子は全長約20mあってね!まぁこれは他のアームズとあんま変わんないだけど、私の機体はちょっと特殊でね!他にない仕掛けが―――」

 奥のハンガーに行き、そのまま固定具のリフタに入ろうとしたとき、教諭はの動きが徐々に遅くなり我に返ったように言った。

「…って、これはどうでも良いことだったね。に取り掛からないと」

「つい興奮しちゃった☆」と言いながら、最初のハンガーまで戻る。
 固定具のリフト部分に行き、上に上がる。

「よっし着いたね少年!」

 教諭は振り向き、格納庫全体を指し示すように手を広げて話す。

「改めてようこそ私の専用ラボへっ!今少年が対面するのは、…レデリカに止められてるから布被せてあるけど、急に現れた所属不明機ッ!」

 …教諭の後ろにあるのは、深緑の布で被され、天井から吊るされた状態の物体だった。

「一見「え、これが?」って思うけど、頭、四肢、背中とか殆ど欠損した状態で見つかったから、コクピット部分だけ無事だったのは奇跡としか言い様がないね」

『―――こうなるからさぁ!』

「っ…!」

 ノイズ混じりに少年の声が響く。…ユウキは咄嗟に頭を押さえた。

「…ちな、不思議なことにパイロットは不明でさぁ、というのもコクピットの中に誰もいなかったんだよねぇー」

 言いながら教諭は物体の目の前に行くと、布で覆われてない金属部分の場所に、横にあった端末のケーブルを差し込む。

「歪みに巻き込まれた時に消滅しちゃったのか、はたまたどっかで記憶失って生きているか。少年見たいにねっ」

 そう言って教諭は手に持った端末をユウキに向ける。

「まぁその仮説を試す訳じゃないけど、念のためってことでここに手置いてくれない?」

 教諭は目を輝かせる。

「………」

 …ユウキは言われるがまま、端末に手を置いた。

「何の躊躇いもなく…」

 そう言ってる間に、端末から電子音が響く。

「―――!」

 教諭は一瞬にやけると、端末を横に置く。

「りょーかい。協力ありがとう少年。多分もうそろそろ演習終わる頃だと思うから、先に講義室に戻ってな」

 そう言って教諭はユウキをリフトに入れ、腰まであるドアを締める。

「場所分かんなくなったら、レデリカからもらったと思う『M.I.D』見なよ。ついでにこの子の事『Unknown』って呼んでるけど、何か分かったら少年にも教えるよ!

 その言葉を聞いた瞬間、リフトが下に下がる。
 ーーー『当然』という引っかかる言葉。

「あ、そうそう!この後また移動あるけど、少年はそのまその場待機で!」

 最後に上から教諭の声が響き、リフトが1階に着く。

「………」

 ユウキは灰色の世界のまま、力無く歩き出した。



『―――敵撃破。総数46』

 システム音声が聞こえ、青年は笑みを浮かべる。

「結構倒せてる方だとは思うんだけど、今期は優秀な人が多いっぽいね…!」

 視界の端、コクピットモニターの右上に表示されているスコア表には、カズトと同じぐらいに『ユーリア』『アメリア』『リュージ』『美乃』という名がある。

 撃破数の平均は17ぐらいだが、この人達は軽々その平均を越している。

「これは、赤付き争い激化しそうだ―――なッ!!」

 言いながらカズトが操るアームズはT.O.D.L.Fに蹴りを入れ、両手に握らせたライフルで榴弾を撃ち込む。

『敵撃破。総数47』

 ―――残り45秒。せめてあと3体。

『―――』

 カズトの心情に呼応するかのように警報音がなる。

「気たッ!」

 半壊した建物からT.O.D.L.Fが飛び出す。
 カズトは直ぐ様機体を急速反転。姿勢制御はせず、銃口が敵に合う瞬間にトリガーを引き撃破する。

『敵撃破。総数48』

「次ッ!」

 機体が慣性でそのまま一回転し、微かに見えていたT.O.D.L.Fに狙いを着ける。

「当たれェ!!」

 銃を散弾モードから狙撃モードに切り替え、両方で速射しながら接近する。
 撃ち込んだ榴弾は殆どが命中し、T.O.D.L.Fは躍りながら崩れ落ちる。

『敵撃破。総数49』

 ―――残り23秒。十分。
 すると後方から警告音が鳴り響いた。

「おっとッ!」

 地面を蹴り横に回避する。直後伸びた腕がコクピットすれすれを通過し、前方の瓦礫に突き刺さった。
 カズトは瞬時に腕を脇に抱え、スラスターを全開にして上空に飛ぶと、本体を引っ張り上げる。

 ―――残り17秒ッ!

 バーニアも活用して機体を回転させ、徐々に遠心力を強めながら振り回す。

「そッらッ!!」

 ―――残り12秒。
 十分に遠心力が強まったところで機体を縦回転させ、思い切り地面に叩きつけた。

「とどめぇぇッ!!」

 スラスター全開で本体に急接近。両手の銃を構え、銃口を皮膚に密着させると零距離から全弾撃ち込んだ。

『敵撃破。総数50―――時間制限に達しました。シミュレーションを終了します。なお、この記録は各教諭に送られます』

 目標の最後の一体を倒した瞬間、演習が終了する。

「…まだまだだな」

 全然足りない。こんなんじゃ奴を殺せない。

 カズトは背中のNLS器具を外し、シミュレーションポッドのハッチを開ける。
 新鮮な空気を吸い、ポッドから出ると端末横に置いていた飲み物を飲む。

「……!」

 …ほんと、赤付き争い厳しいものになりそうだな…

 視界の端に映った端末に表示されている最終スコア。
 さっき上位にいた人達は全員45前後。中でも…

「これは負けてらんないね…」

『ユーリア・アシスティ』という名前。総スコアは49で、カズトと1しか差がなかった。
 カズトは一抹の不安に駆られる。
『赤付き』の枠は毎期1枠。今は最上位にいるが、他の人達はこの先確実に実力を上げてくる。絶対に枠に入れる保証はない。

 絶対譲らせない…

 カズトは飲み物のフタを閉めると、パイロットスーツから制服に着替えるため着衣室に向かう。

 …でも、アシスティって人には一度会ってみたいな。どんな人なのか―――

 そう思いつつ階段を下り、踊り場に足掛けようとした時、何かを踏んでバランスを崩した。

「―――うわっ!?」

 倒れる。―――がその瞬間に後ろから腕を掴まれた。

「…あなた、大丈夫?」

 女性の声。

「…う、うん…!」

 引っ張られ、体勢を立て直してくれる―――…が、本当に落ちる寸前に掴まれたため姿勢が悪く、逆に悪化して―――

「離して―――」

 助からないと悟り、後ろの人にそう言うが遅かった。

「きゃっ…!?」

 支えてくれていた人も体勢を崩し、一緒に床に落ちる。
 …段差の角にぶつかったのか、身体の節々が痛い。

「イッテテ…ご、ごめんなさい!だ、大丈夫!?」

 カズトは体を起こし、覆い被さられていた長い金髪の女子生徒に呼び掛ける。

「え、えぇ…―――!!」

 すると、突然蒸発したかのように顔を真っ赤に染めた。
 何かと思い、その視線の先を見ると―――

「―――!!」

 右手に感じる柔らかい感触。
 カズトは瞬時に手を離し、起き上がる。

「あ!いや!これはっ!ち、違っ!」

 女子生徒は赤面しながら胸を隠し、立ち上がるとカズトを睨み付ける。そして―――

「!―――」

 ―――バチンと言う甲高い音が、踊り場に響いた。


 イテテ…

 …その後、カズトは人目を避けながら制服に着替え、教棟ロビーのイスに座っていた。
 跡はないが、頬が真っ赤になり濡れたハンカチを押し当てている。

「―――その…さっきはごめんなさい…」

 声がしてその方向を向くと、さっきの人がいた。
 カズトは立ち上がり、両手をブンブンと横に振る。

「あ!い、いや!謝るのこっちですから!助けてもらったのに、…その、セクハラ行為を…」

「…もう気にしてないわ。あれは事故だもの」

「ご、ごめんなさい…」

 こういう時何て言ったらいいか分からない。

「だから気にしてないわ」

 すると、制服に着替え、長い金髪に青い瞳をした彼女はM.I.Dを見ながら言った。

「…それよりももう次の講義が始まるけどいいの?」

「えっ!?あ、ほんとだ…」

 カズトも端末を取り出して確認し、時間を把握する。
「お先にどうぞ」と彼女に先頭を譲り、少し離れたところでカズトも歩きだした。


 この後の予定は何だったかなぁー…

 そう思いながら彼女の後ろを歩く。

 にしても…

 カズトは自然と、彼女の後ろ姿をじっと見ていた。

 スタイル抜群で細い脚。容姿も端麗で声も華麗。今朝会ったあの女の子に引けを取らないぐらい可愛いな…

 胸辺りを見ると、右手にあの柔らかい感触が―――

「―――そう言えばあなた。演習での総スコア一位だったわね」

 すると急に彼女は振り向き、そう言った。

「えっ!?」

 目線に触ってしまった場所が映り、ドキッとして思わず大きめな声をだす。

「?どうかした?」

「い、いや!何でもないです!あはは…!」

 カズトは手を横に振り、苦し紛れにそう答える。

 僕のバカーッ!何邪な事考えてるんだバカー!?

 自分をそう罵りながら冷静を取り戻しつつ、彼女にあることを聞いた。

「でもどうして僕の事を?」

 最上位だったことを知ってると言うことは、カズトの事を知ってると言うこと。
 その疑問に対し、彼女が答える。

「今朝オオデマリ教諭に質疑をしていたでしょう?そこで名乗っていたから」

 その言葉に「あ、…そういえばそうだった」とその時の事を思い出す。

「でも、ああいう場で疑問を言えるのは良いことよ。その繰り返しで理解も深まるし、意欲を示すポイントにもなる」

 いつの間にか物理的に距離が縮まっていて、横に並んで話していた。

「そうですねー…でも教諭にも寄りそうですけどね。質疑を繰り返すのは、人によっては反感を買うことになりますし」

 子供の頃から女友達がいなかったカズトにとって、二人一緒に歩いていると言うのは、とても心が踊る。

「そういう人は本部に異議を申し立てれば良いのよ」

 もしかしたら、僕に気があるのではないか。脈アリなのではないかと行き過ぎた妄想をしてしまう。だが―――

「あっはは、まぁー…それも一つの手段ですよね」

 …いや、それはないか。

「そうね」

 よく見れば、横に並ぶ彼女と間が空いている。
 僕は真っ直ぐにしか歩いていないし、自然とそうなったかもしれないが―――ちょっ…と試しに少しだけ横に寄ってみる。

「ところであなたは演習どうでした?自分なりの結果は出せましたか?」

「そうね…」

 ここで然り気無く横に寄る。すると―――

「私としては満足だけど、どうせだったら一位になりたかったわ」

 動いた分だけ、彼女も横にずれた。

「いやでもこれからですし、最後僕は運みたいなとこもあったので、次はこうも行かないかもしれないなーって」

 …まぁだって、そもそも話をしてるんだから横に並ぶのは当たり前か。―――ん?

「あれ、今何て言いました?」

 他の事に思考が向いている間に、何か重要な事を言っていた気がする。

「?私としては満足だけど?」

「もうちょっと後」

「どうせなら一位になりたかった?」

「―――そう、それ!」

 カズトは立ち止まり、彼女を見る。

 この人はついさっき、一度会ってみたいと思っていた―――

「あれ、もしかしてあなたって…」

 カズトの言葉に、彼女は小さく息を吐いて言う。

「…私はまだ名乗ってなかったわね。ユーリア・アシスティ。さっきから思っていたけど、敬語は使わなくて良い」

 言いながら彼女は前を歩くと、こちらを振り向く。

「あなたは私にとって驚異だから。赤付きは譲らない。…それだけよ」

 その言葉を最後に、彼女は先を歩いていった。
 一人の空間になり、静寂が包んでいる。

「―――赤付きは譲らない…か」

 あの本気の表情。スコアから分かる拮抗した実力の持ち主。…取られる可能性は存分にある。だが―――
 カズトは拳を握ると笑みを浮かべる。

「それはこっちの台詞だよ…!!」

 そう。譲らせない。僕には赤付きにならなくてはならない理由があるんだから。


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