Lythrum

赤井 てる

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〜Machinery city〜

「unknown」Part Final

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「………」

学生証を端末にかざし、講義室に戻ってきたユウキは自分の席に着いた。
室内には誰もいない。

……

ユウキは机に腕を置くと、そのまま顔を埋めた。

…嫌だ。…もう嫌だ。

理不尽しかない。全てに違和感を感じる。
拳を強く握り、奥歯を思い切り噛み締めながら額を机に触れた。そして、無意識に叔母達との記憶が駆け巡る中―――急に強い睡魔に襲われた。
本能で抵抗しようとする。だが体が言うことを聞かず、そのまま深い眠りへと落ちていった―――



「―――…ーん」

…声が聞こえる。

「―――…ねーん」

意識が浮上し、声がはっきりと聞こえてくる。

「―――おーい、しょうねーん」

………

手をつつかれる感覚に目を覚まし、顔を上げる。

「お、やっと起きた」

窓から差し込む橙色の日が顔に当たる。

「ずいぶん寝てたね。格納庫で別れた時朝だったけど今もう夕方だよ?」

「………」

…思考がぼやける。状況を掴めないが、徐々に回復していく。

「全く。私に感謝しなよー?叩き起こされそうになっていた少年をわざわざ庇ってあげたんだからさ」

前の席に後ろ向きで座っていた教諭がそう言った。
…ようやく頭がはっきりし、周りを見渡す。

「今日の講義はもう終わったよ。皆は今頃、フードカフェで夕飯食べてるんじゃないかな?」

「………」

「んまぁしょうがないよ。今の少年にとって、睡眠はなんだし」

…寝ていたことに対して何も感じない。何も思わない。
すると「よっ」と席を立ち、ユウキの横に来ると、教諭は手を差し出した。

「朝のお礼だ。どーせほっといたら何も食べないんだろうし、ご飯食べに行くよご飯!」



「―――あっ、いたいた!おーいアーちゃーん!」

ロビーのような噴水がある場所に、赤髪の少女がいた。

「…遅い」

螺旋状の階段を下りながら少女の元に行く。

「いやーごめんごめん!ちょっと少年にあるしてたらまた反作用がね…」 

……

少女はユウキの顔を見て、教諭に視線を移す。

「……講義外の時は刺激になることは避けた方が良いって、レデリカに言われてたはず」

「いやぁー、そうなんだけどねぇー…」

「あはは…」と片手を頭の後ろに当てるが、「今回だけだから」と言葉を続ける。

「ってかそろそろ閉まっちゃう時間だから、早く行っちゃおうかっ!」

「…ン」

教諭が「たんまり食うぞーっ!」と言いながら歩きだす。

「ちな、フードカフェ行って何も食べないのは無しだよ少年?私の奢りなんだから」

「…頭でも打ったの?」

教諭の言葉に少女が言う。

「ひどっ!?でも、それほど私の懐が温まってるって事だよアーちゃん!」

「…」

「…というのは嘘で、情報提供料みたいなもん?」

三人は外に出て、街灯に照らされたレンガ造りの道を進む。

「…どうするの?」

「取り敢えず、今暗号化されたデータを解読中。そっからコンタクト取ってみて…そっからかな?」

そう言い終えた所で、教諭が立ち止まる。

「うっし着いたーっ!毎度ながら食欲そそる良い匂いだね~っ!」

ドア上に置かれた『フードカフェ』と表示された電子板。

「んじゃ、入ろっか」

首元にあるノブに手を掛け、扉を開ける。
中から音楽が聞こえ、ユウキは教諭に腕を引っ張られ足を踏み入れた。



「うんめ!さすが政府管轄の飯はちげぇな!」

横で夜ご飯を頬張る兄に対し、少女は食事に手がついていなかった。

「…どうした美乃?少しでも食っとかねぇと、明日動けないぞ?」

「……うん…」

…兄の言葉に答えはするが、以前として食べる気力が出てこない。

「…なぁ、一日中熟睡してやがった根暗、どこで会ってたか知らねぇが、もう関わるな―――」

―――兄がそう言った瞬間、何かが込み上げ、席を立ち上がった。
一瞬周りの視線が集まるが、またすぐに元の空間に戻る。

「……ごめん…食欲ないから…今日はもう戻るね」

「…お、おう…」

美乃は食器を手に持ち、返却口へと持っていく。
…兄の視線を感じるが、見る余裕はなくそのままフードカフェを出ていった。


………

…部屋に戻ってきた美乃は部屋着に着替え、ベッドに横たわった。
施設から持ってきた巨大な動物のぬいぐるみを抱き、顔を埋める。

………

『―――だから大丈夫。何があっても絶対に、自分がお兄ちゃんの元に連れて帰るから!』

…暗く寒い洞窟の中での記憶。
…怖がっていたのはあなたの方なのに、無理して元気付けてくれて…私を救ってくれて…

…大切な思い出。なのに…

「…嘘つき」



「へいミユウちゃーんっ!注文良いかい?」

三人が席に座ると、教諭は側にあるタブレット状の端末を取らずに手を上げる。

「もーりーたん教諭、注文する時はそこにあるやつ使ってっていつも言ってるでしょ?」

すると、軍服の上から白いエプロンを巻いた三つ編みをした女性が食器を持って歩いてきた。

「いやー、今結構空いてるようだったから、ご指名しようと!」

「ここカフェだけど…」

そう言いつつ、女性はユウキを見た。

「それよりも珍しいね。りーたん教諭がアーちゃん以外の子連れてるなんて」

「ちょっと仕事に多大な貢献をしてもらったからね。お礼に奢って上げようと」

「……」

教諭の言葉に、女性は考え込むように手を顎に当てる。二人は表情一つ変えないまま、女性は口を開く。

「…うん。頭を打ったんだね。それかレデりん医師のところから遂に…」

「ちょっと待ってミユウちゃんまでっ!?てか何で私闇に堕ちてる認定されてんの!?」

「グヌヌ…」と言う教諭に女性は微かに微笑んで言った。

「それで、注文はいつもので良いんですか?アーちゃんは?」

「私はそれで。あと少年にも同じのを!」

「…私もいつもの」

二人の言葉に、女性はウィンクする。

「オーダー承りました!少し待っててね」

そう言って奥の部屋へと入っていく。
それを見送っていた教諭は背を伸ばしながら「やっぱ明るい方が良いねぇ~」と呟いた。

「そういや朝の演習結果だけど、今期結構えぐい生徒ばっかだね」

教諭は少女の方を見て喋る。

「…これぐらいは想定通り。期間が空いてたから、実力を伸ばしてくるはず。…譲れない人は特に」

「『想いと継続は力なり』…ってね。でもアーちゃんも47でさ、50とか言う頭おか…優秀な生徒とたった3しか違わなかったんだから、こっからだよ」

「…分かってる」

………

…すると、顔を俯けていたユウキに、教諭はテーブルに肘を着き、頭を手で支えながら言った。

「そういや少年にはまだ言ってなかったよね?この支部には成績優秀者に、この世界の政府が管轄する全てに優遇される『赤付き』っていう称号があってね、毎期皆それだけを目指してここに来るって言っても過言じゃないほど便利なやつなんだ」

「………」

「―――はーいお待ちどう様!『パエリエ』1つと『ミレアム・ミート』2つです!」

そこで、女性が現れ、お盆に載せた料理をテーブルに置く。

「おーはやっ!そして美味そう!」

「丁度ガル爺とレデりん医師達の分作ってたから、先譲ってもらってね」

「え、それ良かったの?」

「うん。来るの多分もっと後だから」

…目の前にある米のようなものと、ソースがかかったスライスされた肉。

「それじゃあ遠慮なく!」

「……ん」

「ほら少年もさっ!」

「………」

教諭の声に反応はない。

「―――ほい!あーん!」

するとユウキの僅かに口が開いた隙に、教諭はフォークで刺した肉を入れた。

「どお?美味いっしょ?」

「………」

…口を動かし飲み込むが、ユウキの反応はなかった。
何の味もしない。

「も、もしかして料理口に合わなかったのかな…?」

「いや、違う違うっ!今の少年、結構不安定だからさ…」

「……」

少女は二人の言葉を聞きながらパエリエを食べ進める。
その心の中で、ユウキの態度に苛立ちが大きくなっていた。

………

食欲が沸かない。動きたくもない。…食べたくもなかった。
…ユウキは動くことなく顔を俯け続ける。

「…記憶ってのは、どうも厄介だね」

教諭が唖然としているように言う。

―――どうなるかは分かるじゃろ?

―――!?

教諭の様子に、支部長の言葉が脳裏に響く。
…ユウキは、怯えるように料理を食べ始めた。

「…おぉ、急にすごい食欲」

「―――あの、すみません」

離れた席から、呼ぶ声が聞こえる。

「あ、はーい!―――ごめん、仕事に戻るね」

「うい。ありがとね」

教諭の言葉に、女性は「皆また来てね」と手を上げその場を離れていった。
そこからあまり会話は無く、食事を終えると外へ出る。

「あー食った食った!」

腹を押さえ、満足そうに話す教諭。

「…私の分、払う」

「いいよいいよー、少年だけ奢ってアーちゃんだけ仲間外れなのはなんだからね」

「…ありがと」

「お!素直アーちゃんゲットー!これで疲れも吹き飛んだわ」

歩きながら振り返り、指を銃の形にして少女に向ける。

「さて、夜も更けてきたし、少年医務室に連れていきますか」

腰に両手を当て、背伸びしながら言った。

「アーちゃん一緒に風呂入んなーい?」

「…時間まで演習するから無理」

「そっかー…じゃあ一緒に寝なぁい?」

教諭は両腕を合わせ、首を傾げて少女を見る。

「……いびきうるさいから一人で寝て」

少女の言葉に、教諭は「そんな~!」と言いながら3人は建物のロビーに入った。

「そういや少年、多分昨日から風呂入ってないっしょ?浴場教えるから入ってきなよ」

「…私はこっち行く」

教諭が喋ってる途中で、少女はそう言って別れようとする。

「―――あッ!!待って!!別れのハグをッ!?」

そう言って教諭は手を広げる。

「……」

一度は去ろうとしていたが、小さく息を吐くと振り向いて立ち止まった。

「また明日ねアーちゃん!」

教諭は少女の元まで駆け抱き締める。

「…ん…」

少々は小さくそう言うと、奥の通路へと歩いていった。

「それじゃあ少年、私に着いてきて」

そう言うと、教諭は少女とは反対側の通路へと歩いていく。

………

…ユウキは力ない動きでその後ろを着いていった。


「―――さぁここが浴場だ少年!」

通路の突き当たりの両側に、2つの入り口があった。
それぞれの入り口に青とピンクの垂れ幕があり、中から女子生徒や男子生徒が出てくる。

「タオルとか、一式中に揃ってるからひとっ風呂浴びてきなっ」

そう言って、教諭はユウキの後ろを押し出す。そして「ついでに私も入ろ~」と言った瞬間、電子音が鳴り響いた。

「…お、ちょいとごめんよ」

教諭は軍服の内ポケットから端末を取り出す。

「ん、どしたのクレイ?」

教諭は誰かと話している。そして、最初はどこか楽しそうに話していたが、徐々にその顔が青ざめていった。

「…え…まじ…?ばれた…?…今すぐこっち来いって…?な、なんでそれを知って―――あ……」

血の気が引いてくように表情が固まり、体を振るわせている。

「…い、医務室にねぇー……え…それ遠回しに死ぬって事だよね……うん、うん…とっ、取り敢えず『死んだ』ってことにしといて!じゃッ!!」

―――一瞬『あ、ちょっと!』と端末越しから声が聞こえ、通話が終了する。

「…ヨシ!ジャアショウネンワタシニゲルジュンビシナキャイケナイカラ、アガッタラチャントイムシツモドルンダヨ」

声と体が振るえ、青ざめながら教諭は歩いていった。

………

『―――』

―――ッ!?

支部長の声が響く。
…ユウキは焦るように浴場へと入ろうとした瞬間。

―――

隣のピンクの垂れ幕の向こうから、格納庫で会った少女が出てきた。

「…あ―――」

…少女はユウキに気付き、立ち止まる。

「…」

…ユウキは咄嗟に、…無意識に声を掛けようとしていた。

「……」

…だが少女は目をそらすと、ユウキの横を通り歩いていった。

「………」



「…」

青い瞳をもつ少女は、橋の上で水面を見ていた。
…木の葉を揺らすそよ風が、金色の髪をなびかせる。

「ヨォ、そこにいたのカ。296

「…何か用?」

声が聞こえるといつの間にか横にいる。

「なァオマエ、気付いてたか?今日入隊してきた奴らの中に、がいることニ」
 
黒髪をし、首に藍色の印がある青年は少女の首に腕をかける。

「スゲェ偶然だよなァ…!悪魔で任意の指令なのに、すぐ近くに居るんだからヨォ…!」

青年はそう言うと顔を近づけ、耳元で囁く。

「それにアノ眠りグズのおかけで、確定すンだから、こんなおもしれェ事ねェよなァ…!」

言いながら青年は少女の頬を触るが、無表情で言う。

「…それで?早く用件を言ったらどう?」

その言葉に、青年は少女を見ると「キヒィッ…!!」と笑う。

「話がはえェオンナはキライじゃないゼェ…?」

首元に手を移し、言葉を続ける。

「明日、午前10時24分。『再誕者』を呼びよせ、を喰わせるッ…!!」

制服の中に手を潜り込ませ、右胸のすぐ上を指で押す。

「―――オマエのその、呪われた力を使ってなァッ…!!ユーリアッ…!!」

「…そう」

話を全部聞いたところで、下着の中に潜り込ませようとしていた手を掴み取る。

「オイオイそんなことしてイイと思ってンのかァ~ッ?実験体のお前がヨォ」

脅しのように耳元で囁く。

「……」

…ユーリアは強く掴んでいた腕を離した。
青年は「ハッ」と言いながら、ユーリアの髪を触り匂いを嗅ぐ。

「…呪籠の兄妹はどうするつもり?きっと一緒にいるわよ」

「何の宿兄貴は邪魔なだけだ。殺しちまえェ~ッ」

青年は「それに…」と首を指でなぞりながら言った。

「別に呪籠も殺してもかまわねェ、体さえありゃ、良いんだからな~…」

「……」

「…失敗すンじゃねェぞォ?そん時はどうなるか…分かってるよなァ~ッ!?」

「…了解」


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