【本編完結】【R18】新米冒険者くんの溺愛〜高嶺の花である私が夜は年下男子にひんひん泣かされているだなんて、絶対誰にも知られたくない!〜

鈴木 桜

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第7章 私が運命に翻弄される悲劇の悪女だなんて、絶対誰にも知られたくない!

第25話 みんなのエミリーさん

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『お客様、ギルド内で騒ぎを起こされるのは困ります』

 シルバーブロンドの髪が、キラキラと光っていた。

『薄汚い? 私にはそうは見えませんけど。失礼ですが、お客様の目の方が汚れていらっしゃるのでは?』

 アメジストの瞳でニコリと笑って。その姿に気圧された男が逃げていった。

『大丈夫?』

 優しく笑いかけてくれたその人を、女神様だと思った。


 次にその人に会えたのは、それから1年後だった。
 お金を貯めて、辻馬車に乗って彼女が暮らす町に行った。第9公営ギルドの中をこっそり覗き見ると、その人は受付カウンターにいた。冒険者と楽しそうに談笑して、他の職員も一緒に笑っていた。

 彼女だけが、キラキラと輝いて見えた。

 同時に、彼女が愛されていることを知った。誰もがエミリーさんを美しいと言い、誰もがあんなにいい人はいないよ、と噂していた。

『いつか、誰か一人のものになってしまうのかな?』

 と、一人の老婆が悲しそうに呟いていた。周囲の人も、その言葉に眉をひそめた。


 その次に彼女に会えたのは、さらに2年後だった。冒険者になるための訓練校に通っていたボクは、その研修の途中で彼女が暮らす町に寄ることができた。
 彼女は相変わらず『みんなのエミリーさん』だった。みんなに愛されて、みんなに微笑みかける。
 彼女は『高嶺の花』と呼ばれ、それに応えていた。

 それはまるで周囲が造り上げた偶像のようで、ボクはそれを嫌だと思った。


 次に再会したとき、ボクは冒険者になっていた。数々の試験をトップの成績で通過し、彼女の町のA級パーティーにスカウトされた。ようやく彼女の近くに行ける、その資格を手に入れたのだ。

 彼女はやっぱり『高嶺の花』で、誰のものでもなかった。ボクはそれが嬉しくもあり、悲しくもあった。彼女には『たった一人の人』がいない。それはボクにとって嬉しいことなのに、悲しかった。
 それに、ボクも『みんな』の内の一人にしかなれなかったから。それも悔しかった。

 どうすれば彼女ともっと親しくなれるのか、そればかりを考えていた。
 あの日、彼女を助けたのは偶然なんかじゃない。世間ではこういう行為を『ストーカー』と呼ぶらしいことは知っていた。けれど、ボクは止められなかった。どんな手を使ってでも彼女の視界に入りたかった。


 そしてボクは、彼女の本当の姿を見た。

 本当の彼女は、ふわふわしていて、優しくて、寂しがりやで、泣いたり笑ったり忙しない人だ。
 幻滅なんかするはずない。心の底から、愛おしいと思った。
 『高嶺の花』や『みんなのエミリーさん』じゃない。ボクだけに見せてくれる、ボクだけのかわいいエミリーさん。
 ボクを見つめて、好きだと言ってくれたエミリーさん。

 会う度に愛しさがあふれて、ボクはどうしようもなく幸せだった。


 * * *


(……朝)

 夜明け前、パチリと覚醒した。右腕に優しい温もりを感じて視線をやれば、愛しい人がすやすやと可愛らしい寝息を立てて眠っていた。美しいシルバーブロンドの髪に鼻先を埋めると、愛しい匂いに包まれる。

(ごめんなさい)

 昨夜は、酷い抱き方をしてしまった。衝動を抑えきれなかったのだ。
 ボクの知らない男が、エミリーさんに微笑みかけていた。愛しいと言わんばかりの瞳で。エミリーさんもそれを拒絶していなかった。

(そんな程度のことで自制をなくすだなんて)

 心の中で反省を繰り返しながら、そっとベッドから抜け出した。今日もクエスト受注が決まっているので仕事に行かなければならない。本当は彼女と離れたくはないが、そんなことをすれば彼女は怒るだろう。
 シャワーを浴びてから、部屋中に散らかった二人分の衣類を集めて、洗濯機を回す。彼女の上着のポケットには小型魔導通信機ポケベルが入っていた。

「魔力、切れてたのか」
 
 どうりで、いくらメッセージを送っても無視されるはずだ。魔石を交換すると、すぐにメッセージを受信した。クレアさんからは『フ゛シ゛テ゛ ヨカツタ』、コールズ課長からは『ホンシ゛ツ キユウカ ヤスメ』と。
 エミリーさんは今日は仕事を休めるらしい。それにホッと息を吐いた。

(無理をさせたから)

 ボクが休めと言っても、無理にでも出勤したはずだ。
 できるだけ音を立てないように最低限の家事をこなして、ダイニングにはエミリーさんの朝食と昼食を準備する。
 それから部屋に保護魔法をかけた。これで、ボク以外はこの部屋に入ることはできない。もしエミリーさんが部屋から出ればそれを感知できる術式も組み込んでおいた。

 最後に置き手紙を書く。

『今日は休むようにって連絡が入ってました。急いで仕事を終わらせて帰ってくるので、この部屋で待ってて下さい。保護魔法をかけてありますから、安心して。絶対に、部屋から出ないように』

 よく眠っている愛しい人の頬にキスをして、もう一度その髪に顔を埋めて。胸いっぱいに優しい香りを吸い込んでから、ようやく部屋を出た。


 * * *


「サイラス!」

 集合場所に行くと、すでにボク以外の5人が既に揃っていた。その内の一人、リカ……聖女様が大きく手を振っている。

「おはよう。エミリーさん、大丈夫だった?」
「ああ」
「よかったね」

 聖女様が、カラッと笑って言った。その様子に、わずかに首を傾げる。

(昨日まで、あんなにボクにすり寄っていたのに……?)

「それじゃあ、仕事に行こう」

 マクレガーさんの合図で早々に馬車に乗り込み、出発した。移動しながら今日のクエストの内容を確認していく。
 町外れに出現した新たな迷宮ダンジョンの調査だ。迷宮ダンジョンは放置しておくと次から次に魔物を吐き出すので、早々に迷宮主を倒して封鎖しなければならない。それが、冒険者の仕事だ。

「可能なら今日ケリをつける」
「そんなに急ぐ必要あります?」
「魔王が復活すると、続々と迷宮ダンジョンが発生すると伝承にある。これもその一つだろう」
「一つずつ丁寧に攻略してる余裕はないってことですね」
「その通りだ」

 迷宮ダンジョン攻略自体は、いつもどおりだった。
 その途中、ボクの部屋に残してきた保護魔法からエミリーさんが抜け出したことを感知した。『帰らなければ』、そう思ったのは一瞬のことで。

 次の瞬間には、そのことをしまった。

 頭は妙にクリアで、『ボクはこの迷宮ダンジョンを攻略しなければならない』、ただそれだけに突き動かされた。

 そして迷宮主を倒した後、その亡骸の奥に祭壇が設えられていることに気付いた。

「これ、鍵……?」

 聖女様が祭壇の上に祀られていた黄金の鍵を手に取った。

「聖剣を封じた隠し迷宮ダンジョンの鍵だよ」

 急に割り込んできた男の声に、ボクの背中がゾワリと粟立つ。

(この声は、……!)

 目の前の祭壇には、いつのまにかが腰掛けていた。
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