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第4章 人の願い
最終話 ずっと、ずっと、これからも
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その晩、エラルドはふと人の動く気配に目を覚ました。
小さな小屋の中、一緒に雑魚寝をしていたダリルとエンゾを起こさないように注意深く毛布を抜け出し、外へ出る。
そこにはやはり、アイセルがいた。
「夜は冷えます。中に入りましょう」
「うん。でも、もう少しだけ」
エラルドは小さく息を吐いてから、持って来たブランケットを彼女の肩にかけた。
その上から小さな肩を撫でつけて、彼女と同じように星空を見上げる。
エラルドのやることを黙って受け入れていたアイセルが、くふくふと嬉しそうに笑った。
「旅の途中、野宿していた時のことを思い出すわね」
アイセルの頬が仄かに赤く染まる。
「いつもそうやって、あなたが私の肩を温めてくれた」
エラルドの頬も、きゅうっと熱が上がった。
もしもあの頃、自分の気持ちに気づいていたら。
あんな風に彼女を抱きしめることはできなかっただろう。
エラルドは自分の鈍感さに、少しだけ感謝した。
「……ねえ、あなたに話したいことがあるの」
アイセルの黄金の瞳がキラリと光って、エラルドの心臓がドキッと跳ねた。
同時に、温かいものが身体の底からあふれてくる。
(あの夜の、約束だ)
彼女と約束した、明日。
その未来を、二人はようやく迎えたのだ。
ずっとずっと伝えたかった、この気持ちを。
ようやく伝えることができる。
「いえ。私から」
「え?」
「先に私から伝えさせてください」
エラルドは、アイセルの前に跪いた。
二人が初めて顔を合わせた日も、こうしてエラルドは彼女の前に跪いていた。
彼女の騎士になりたいと願い出た日も。
騎士として、彼女に忠誠を誓うために。
だが今は。
ただ一人の人として、ここにいる。
この広い世界に生きる、ただ一人の人として、彼女に伝えたい気持ちがある。
エラルドは、そっとアイセルの手をとった。
トクン、トクン、トクン。
心臓の音がやけに耳に響いて。
まるで世界に二人きりになったような、不思議な感覚に包まれる。
空ははるか遠くまで澄み渡っていて。
キラキラと輝く星が二人を見つめている。
(ああ、世界は。こんなにも美しい)
その世界で、出会えた奇跡。
もう一度、巡り合えた奇跡。
二人が自ら引き寄せたのだとアイセルは言っていた。
(だが、それだけではない)
もっと不思議な、温かな何かが、二人をここに連れて来てくれたような気がするのだ。
これまで出会ったすべての人の願いが、ここに在る。
そう思うと、瞳の奥が熱くなって涙が零れ落ちそうになる。嬉しいような、悲しいような、切ない気持ちがあふれてくる。
アイセルも同じ気持ちなのだろうか。
黄金の瞳を潤ませながら、ふにゃりと柔らかい笑みを浮かべて。
彼の言葉を待っている。
喉の奥が熱くなる。
エラルドは、こみあげてくる思いを、言葉にした。
「あなたを、愛しています」
途端、アイセルが飛びつくようにエラルドを抱きしめた。
「私も。愛しています」
彼女が囁くように言うから、エラルドの身体が歓喜に震えた。
その思いのまま、彼女の身体を、そっと抱き返す。
「ずっと一緒に居させてください」
「うん。ずっとずっと、側にいて」
二人は新しい朝を迎えるまで抱き合って、互いの温もりを確かめ合った。
ずっと、ずっと、これからも。
エラルドは心の中で、何度も何度も繰り返した。
* * *
「時は流れる。
まもなく、神も魔法も、人の手から消えてゆく。
その時まで、わしはこの場所の守りを続けるさ」
老人のそんな言葉に見送られて、エラルドたちは山を下りた。
山を下りて街道に出ると、ダリルとエンゾとはそこで別れた。
セディリオ王子への報告は二人に任せて、アイセルとエラルドはこのまま旅に出るのだ。
「さて。あんたらはこれから、どこへ行くんだ?」
ニヤリと笑ったダリルに、アイセルとエラルドは顔を見合わせた。
「どこへでも」
アイセルの声が弾む。
そうだ。
彼女は、自由だ。
どこへでも、望む場所へ行ける。
「行ってみたい場所がたくさんあるの。
会いたい人もたくさんいる」
アイセルがエラルドの手を握る。
「エラルドと一緒に」
大切な仲間に見送られて、二人は新たな一歩を踏み出したのだった──。
* * *
神も魔法も、いつか人の手から消えてゆく。
きっとそうなのだろう。
その時に、人の手の中に何が残るのか。
ただ一つ。
これだけは確かだ。
愛だけは。
きっと、ずっと、人の心の中に在る。
そして、愛は人の願いに形を変えて。
いつか誰かを未来に導く。
それを人は、奇跡と呼ぶのだろう──。
Fin.
小さな小屋の中、一緒に雑魚寝をしていたダリルとエンゾを起こさないように注意深く毛布を抜け出し、外へ出る。
そこにはやはり、アイセルがいた。
「夜は冷えます。中に入りましょう」
「うん。でも、もう少しだけ」
エラルドは小さく息を吐いてから、持って来たブランケットを彼女の肩にかけた。
その上から小さな肩を撫でつけて、彼女と同じように星空を見上げる。
エラルドのやることを黙って受け入れていたアイセルが、くふくふと嬉しそうに笑った。
「旅の途中、野宿していた時のことを思い出すわね」
アイセルの頬が仄かに赤く染まる。
「いつもそうやって、あなたが私の肩を温めてくれた」
エラルドの頬も、きゅうっと熱が上がった。
もしもあの頃、自分の気持ちに気づいていたら。
あんな風に彼女を抱きしめることはできなかっただろう。
エラルドは自分の鈍感さに、少しだけ感謝した。
「……ねえ、あなたに話したいことがあるの」
アイセルの黄金の瞳がキラリと光って、エラルドの心臓がドキッと跳ねた。
同時に、温かいものが身体の底からあふれてくる。
(あの夜の、約束だ)
彼女と約束した、明日。
その未来を、二人はようやく迎えたのだ。
ずっとずっと伝えたかった、この気持ちを。
ようやく伝えることができる。
「いえ。私から」
「え?」
「先に私から伝えさせてください」
エラルドは、アイセルの前に跪いた。
二人が初めて顔を合わせた日も、こうしてエラルドは彼女の前に跪いていた。
彼女の騎士になりたいと願い出た日も。
騎士として、彼女に忠誠を誓うために。
だが今は。
ただ一人の人として、ここにいる。
この広い世界に生きる、ただ一人の人として、彼女に伝えたい気持ちがある。
エラルドは、そっとアイセルの手をとった。
トクン、トクン、トクン。
心臓の音がやけに耳に響いて。
まるで世界に二人きりになったような、不思議な感覚に包まれる。
空ははるか遠くまで澄み渡っていて。
キラキラと輝く星が二人を見つめている。
(ああ、世界は。こんなにも美しい)
その世界で、出会えた奇跡。
もう一度、巡り合えた奇跡。
二人が自ら引き寄せたのだとアイセルは言っていた。
(だが、それだけではない)
もっと不思議な、温かな何かが、二人をここに連れて来てくれたような気がするのだ。
これまで出会ったすべての人の願いが、ここに在る。
そう思うと、瞳の奥が熱くなって涙が零れ落ちそうになる。嬉しいような、悲しいような、切ない気持ちがあふれてくる。
アイセルも同じ気持ちなのだろうか。
黄金の瞳を潤ませながら、ふにゃりと柔らかい笑みを浮かべて。
彼の言葉を待っている。
喉の奥が熱くなる。
エラルドは、こみあげてくる思いを、言葉にした。
「あなたを、愛しています」
途端、アイセルが飛びつくようにエラルドを抱きしめた。
「私も。愛しています」
彼女が囁くように言うから、エラルドの身体が歓喜に震えた。
その思いのまま、彼女の身体を、そっと抱き返す。
「ずっと一緒に居させてください」
「うん。ずっとずっと、側にいて」
二人は新しい朝を迎えるまで抱き合って、互いの温もりを確かめ合った。
ずっと、ずっと、これからも。
エラルドは心の中で、何度も何度も繰り返した。
* * *
「時は流れる。
まもなく、神も魔法も、人の手から消えてゆく。
その時まで、わしはこの場所の守りを続けるさ」
老人のそんな言葉に見送られて、エラルドたちは山を下りた。
山を下りて街道に出ると、ダリルとエンゾとはそこで別れた。
セディリオ王子への報告は二人に任せて、アイセルとエラルドはこのまま旅に出るのだ。
「さて。あんたらはこれから、どこへ行くんだ?」
ニヤリと笑ったダリルに、アイセルとエラルドは顔を見合わせた。
「どこへでも」
アイセルの声が弾む。
そうだ。
彼女は、自由だ。
どこへでも、望む場所へ行ける。
「行ってみたい場所がたくさんあるの。
会いたい人もたくさんいる」
アイセルがエラルドの手を握る。
「エラルドと一緒に」
大切な仲間に見送られて、二人は新たな一歩を踏み出したのだった──。
* * *
神も魔法も、いつか人の手から消えてゆく。
きっとそうなのだろう。
その時に、人の手の中に何が残るのか。
ただ一つ。
これだけは確かだ。
愛だけは。
きっと、ずっと、人の心の中に在る。
そして、愛は人の願いに形を変えて。
いつか誰かを未来に導く。
それを人は、奇跡と呼ぶのだろう──。
Fin.
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