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あなたと過ごした一昨日
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記憶の揺らぎの中、一心に彼を想う。
これは走馬灯だろうか。てっきり死ぬ直前に見ると想っていた幻を、僕は死後に見せられていた。
あれは――一昨日の記憶か。見覚えのある出来事をそっと回想させられる。
「マルス!!」
僕に向かって笑いかける一人の青年。世にも珍しい黒髪黒目のイケメンは、僕の想い人。
そんな彼が自分の名前を呼んで、こちらに向かってくる。嬉しくないはずがなかった。だから僕は彼に応える為、手を上げた。
「レオン、こっちだ。早く食べようぜ?」
「ああ」
僕の前を陣取る彼。視線がぶつかり、自然と鼓動が早くなる。
時刻は昼過ぎ。昼食を食べようと僕らは待ち合わせをしていた。明日からはダンジョンに潜る予定があったから。こうして外食を楽しめるのは暫く後になる。それを憂えてぼやいた僕にレオンは付き合ってくれたのだ。
親切な彼。ますます好きになってしまうのだった。
巷で話題の飲食店に入る。中に入ると、食べ物の美味しそうな香りが鼻についた。僕はさっさと席に座ると、レオンがいるのも忘れてメニューの虜となった。
ふ、と視線をあげて……集中し過ぎていた為に忘れていたレオンと目が合い、あたふたと慌てる僕。グラスの水をこぼしてしまい、着衣が濡れるが、わざわざ僕の方まで来たレオンが、持っていたハンカチで丁寧に拭ってくれた。どこまでもいい人だなぁと感心する僕はお子様もいい所だ。
選んだメニューは、ローフシュルトとクゥールナ貝の貝柱焼きだ。ローフシュルトとは青野菜とロン肉の煮込み料理。肉汁が染みた野菜が美味しく、柔らかい肉もたまらない。郷土料理としてこの地方では有名だ。
クゥールナ貝の貝柱焼きはコリコリとした食感がして、独特なあまみがあって食べ応えがある。ちなみに両方とも僕の好物である。
「レオンはどうする?」
「俺も同じものを、」
「えー、一緒のかよ」
「だめか?」
「違うの頼んでくれれば、味比べできるのに……」
「なるほど、そういうことか。でも俺も、……お前と同じものが食べたい気分なんだ」
その一言に不覚にもどきっとした。
「へ、んなこと言うなよな」
「変か?」
「普通、男同士でお前と同じものが食いたいなんて言わねーよ。少なくとも、僕は」
「そうかな?」
「そういうもんなの!」
これだからレオンは。
僕に気を持たせるような発言や行動を多々するが、そのじつ彼の本音はその黒い目のように、色が深すぎて読み取れない。窺える機会のないまま、僕は食べ物に意識を向けた。
店を出るとき、ふいに手を、繋がれた。でも理由を聞き出せない僕。きっとまともな回答を出されて落ち込むだけだろうと思うと、怖くて聞き出せなかった。それ以上に、現状におかしいほど興奮した。嬉死してしまうんじゃないかと思ったのだ。
抑圧した恋心。それが暴れ出してしまいそうになる。今すぐに伝えてしまいたいという欲求に駆られる。だけど、同時にそれを押し留める強い重り。それは僕自身の臆病な心。
ああ、そっか。あの時……――告白してしまえばよかったのだな。そうすれば、今頃……
だけどその先はまともな思考にならなかった。とりとめのない事が次々と浮かんで、最後には……思考が完全に停止してしまうのだった。
これは走馬灯だろうか。てっきり死ぬ直前に見ると想っていた幻を、僕は死後に見せられていた。
あれは――一昨日の記憶か。見覚えのある出来事をそっと回想させられる。
「マルス!!」
僕に向かって笑いかける一人の青年。世にも珍しい黒髪黒目のイケメンは、僕の想い人。
そんな彼が自分の名前を呼んで、こちらに向かってくる。嬉しくないはずがなかった。だから僕は彼に応える為、手を上げた。
「レオン、こっちだ。早く食べようぜ?」
「ああ」
僕の前を陣取る彼。視線がぶつかり、自然と鼓動が早くなる。
時刻は昼過ぎ。昼食を食べようと僕らは待ち合わせをしていた。明日からはダンジョンに潜る予定があったから。こうして外食を楽しめるのは暫く後になる。それを憂えてぼやいた僕にレオンは付き合ってくれたのだ。
親切な彼。ますます好きになってしまうのだった。
巷で話題の飲食店に入る。中に入ると、食べ物の美味しそうな香りが鼻についた。僕はさっさと席に座ると、レオンがいるのも忘れてメニューの虜となった。
ふ、と視線をあげて……集中し過ぎていた為に忘れていたレオンと目が合い、あたふたと慌てる僕。グラスの水をこぼしてしまい、着衣が濡れるが、わざわざ僕の方まで来たレオンが、持っていたハンカチで丁寧に拭ってくれた。どこまでもいい人だなぁと感心する僕はお子様もいい所だ。
選んだメニューは、ローフシュルトとクゥールナ貝の貝柱焼きだ。ローフシュルトとは青野菜とロン肉の煮込み料理。肉汁が染みた野菜が美味しく、柔らかい肉もたまらない。郷土料理としてこの地方では有名だ。
クゥールナ貝の貝柱焼きはコリコリとした食感がして、独特なあまみがあって食べ応えがある。ちなみに両方とも僕の好物である。
「レオンはどうする?」
「俺も同じものを、」
「えー、一緒のかよ」
「だめか?」
「違うの頼んでくれれば、味比べできるのに……」
「なるほど、そういうことか。でも俺も、……お前と同じものが食べたい気分なんだ」
その一言に不覚にもどきっとした。
「へ、んなこと言うなよな」
「変か?」
「普通、男同士でお前と同じものが食いたいなんて言わねーよ。少なくとも、僕は」
「そうかな?」
「そういうもんなの!」
これだからレオンは。
僕に気を持たせるような発言や行動を多々するが、そのじつ彼の本音はその黒い目のように、色が深すぎて読み取れない。窺える機会のないまま、僕は食べ物に意識を向けた。
店を出るとき、ふいに手を、繋がれた。でも理由を聞き出せない僕。きっとまともな回答を出されて落ち込むだけだろうと思うと、怖くて聞き出せなかった。それ以上に、現状におかしいほど興奮した。嬉死してしまうんじゃないかと思ったのだ。
抑圧した恋心。それが暴れ出してしまいそうになる。今すぐに伝えてしまいたいという欲求に駆られる。だけど、同時にそれを押し留める強い重り。それは僕自身の臆病な心。
ああ、そっか。あの時……――告白してしまえばよかったのだな。そうすれば、今頃……
だけどその先はまともな思考にならなかった。とりとめのない事が次々と浮かんで、最後には……思考が完全に停止してしまうのだった。
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