ミニュイの祭日

冬木雪男

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前章 ニュイ・エトワレ~星降る夜~

みんなでステキな朝食を

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「おやおや私が一番最後だったか」

 主人席に座ったのは伯爵家当主、フレデリック・ド・ベルナルド様。柔らかな物腰と知的な印象の眼鏡姿の、リュカ様の優しいお父様である。
 眼鏡を指でくいっとあげたと思えば、眉間を揉みながらフレデリック様は言う。

「本当に君たちは朝から元気だね。私にもそのパワーを分けてくれるかな」
「なにをおっしゃいますか。父上だって武官が顔負けする丈夫さをお持ちでしょう?」
「はは、私なんて一族の中では貧相な方だよ。なんたって我が頑強のベアズリーは四日間の籠城戦で勝利を収めて興った家なのだから」

 頑強のベアズリーとはベルナルド家を表す呼び名である。
 なんでも、古くは熊の家紋を王家より頂いたご先祖の武勇伝から始まるものである。
 今となってはベルナルドよりベアズリーの方が有名で、人によっては家名をこっちに間違える方もおられる。間違い方もベアトリスよりはましだが。

「まあ、お祖父様など絵に書いたような脳筋……げふん、実直な方でしたものね」

 リュカ様が亡くなられたおじい様を思い出すとフレデリック様は苦い顔をしながらコーヒーをすする。
 昔話として耳にした程度だが、フレデリック様は婿養子に来るにあたりおじい様に鍛えられたとか。その稽古からよく逃げていた、なんてこともメイド長が語っていた。僕には真面目なフレデリック様が逃げるほどの稽古というのがわからない。一体どんな修行をしたんだろうか?

「さて、そろそろ朝食にしようか。冷める前に食べないとコック長がやきもきしてしまうからね」

 そういえば食堂に屋敷の一族全員が揃っていた。慌ててリュカ様の横に僕も座る。おこぼれを分けてもらえる立場ではないはずだがなぜか一緒に食事をとることが許されている。僕はありがたくメイドのお姉さんに食事を取り分けてもらう。

 いただきますと食事に手を付ける。トーストした食パンにバターとジャムをたっぷりと塗る。大口を開けて 思わずほころんでしまう。手製のマーマレードジャムは甘すぎずどちらかというと酸味が強め。それが既製品のものより自然の味わいを残していて食べやすいのだ。パンは外カリカリ中もちもちでたまらない。うう、控えめにいっても最高。これだから一緒に食べるのを辞退できないんだよなあと内心思った。

「うまそうに食ってるとこ悪いが今日の予定は?」
「……は! ほ、えっと……ええと本日の予定は、……」

 目印にしておいたスピンで手帳を開く。中の予定を音読すればニヤニヤとしたリュカ様の顔が真横にあった。

「ふーん。まだメモ見なきゃだめか。俺は頭に入ってるけどな?」
「んぐ!?」

 ここでもまだまだだなと指摘されてしまう。

「気にすることないよルナくん。君は君のペースで成長しなさい」
「はい……」

 フレデリック様が援護してくれる。やっぱりお優しい人だ。

「ま、がんばれ。期待してるぞ」
「ガンバリマス」

 ずずずと吸った紅茶は茶葉が染み出し過ぎて随分濃いものになってしまった。せっかくおいしい茶葉を用意してもらったのに僕ってやつはダメダメだな……、ああ。
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