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結ばれる幸福を感じて

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「シズク……綺麗だ」

 ライから褒められて、照れる俺。現在、俺の部屋の寝台の上。俺は着衣を全て脱いで、同じく裸のライの上に跨っている。

「シズクはやっぱり裸が一番だな」
「そんな褒めなくていいから! っていうか素っ裸だと初めて会った時を思い出して、居た堪れないんだけど……」
「そうか?」

 対面で膝の上に乗せられて、俺の肩に頭を乗せるライは満足げだ。始終ニコニコとしている。

「醜い俺でも、お前は愛せるのか?」
「そんな醜い部分ごと、俺は愛したいよ?」
「やめろ。そんな部分まで愛したいとか言うな。お前は……俺の格好いいとこだけ好きでいりゃいーんだよ!」

 自分から聞いておいて何を……と思った。くつくつと笑う俺を、真っ赤な耳のライがそっぽを向いたまま抱き締める。

「離してやんねーから」
「ああ」


 労わられるように始まった行為は、なんとライからのフェラからだった。二度目の口での奉仕は、泣くほど気持ちよかった。俺のを銜えてライが喋るのでさえ、感じて、うっかり彼の顔にかけてしまった。だが、掛かった精液を手で拭うと、その精液を舐めるライ。

「面白い味だな」
「いや、その表現はどうなの? そこはまずいってはっきり言えばいいのに……」
「お前のだと思うと新鮮だ」

 大人なのに子供みたいなライ。そんな彼だから、俺も自分から奉仕してみたいと告げると、明らかにいやな顔をされた。何故だ。
 俺が問えば、答えはあっけなく返って来た。

「微妙にあれトラウマなんだが……お前に海辺で噛まれたやつ。フェラなんかされたら気まぐれに噛まれそうで怖い」
「狂犬なのに? 笑える」
「うるせぇ! 俺をからかいやがって……!」

 俺の体をそのままベッドに押し倒すライ。俺は抵抗することなく彼を見ていたが――

「ライになら、騙されてもいいよ?」
「――は?」
「好きなだけ、俺を利用してくれ」
「……殺し文句かよ。だめだ。お前に勝てそうに無い……」

 珍しくライが観念している。その様子をつぶさに観察した。

「ライ、恋愛は勝ち負けじゃないよ」
「分かってる」

 ライの首に腕を絡めて胸に埋もれる。

「俺をライの好きなようにして」
「ああ、そうかよ! じゃ、遠慮なく〝食う〟ぞ?」
「どうぞ。とびっきりの俺を味わって」
「途中で止めろとか言われても止めねぇからな! 絶対に」
「ああ!」
「……決めた。お前を壊してやる。そんで、……俺だけのシズク・キリシマに変えてやる」


「ああ、あっン。あ。……あああッ!! ライ、も、イク、イっちゃ……」
「イケよ。何度でも」
「あ、ああああああ!!」

 ぺろぺろとあらぬ場所を舐められていた俺だったが、ついに舌が俺の肛門の中に侵入してきた。縦横無尽に動き回る熱いもの。アレと比較すれば、大したことないはずが、中を重点的に舐められ、解されれば、あっという間に高ぶる体。

「大分、ん、解れて、きた、な」
「ひぃいっ、そんなとこで、喋らないで!」
「前も触るか?」
「らめっ! らめえ、前なんか触られ……やあっ!?」

 触っちゃダメだといってるのに、手持ち無沙汰なのか、ライは寛げた息子を弄び始めた。まるで手慰みしているようだ。

 気持ち一つでこうもセックスの印象が変わるものなのかと不思議でたまらなかった。いや、やってる行為も大層丁寧ではあるが。

「はぁ……! ライ……も、我慢出来ない……キて、来て! ライ!」
「もう一声」
「へ?」
「おねだり、上手に出来たらいいぜ?」
「んっはぁ、意地悪!」
「そんなこと言うと……もっとこれ続けるぞ?」
「あっあぁあ、あ――っ! だめ、それはあ、」
「じゃあおねだりをどうぞ」
「ふっんん、ライの、ばかっ!」

 するとライは舌先で丁寧に腸壁を押し広げ始めた。これではまたイかされてしまう。その前に、しなくては……! 俺は気持ちよさで泣き叫びながら、必死におねだりをした。

「ラ……イの、おっきいの、欲しい、んっ、俺の、穴と寂しさを、いっぱい、埋めて!」
「及第点」
「ひどっ!」
「だから、及第点だ。ちゃんと入れてやるよ」
「違う。なんで頑張ったのに及第点なんだ!」
「そこかよ。……いやだってもっと淫語使わせたかったから」
「変態か!」
「まあまあエロいからオッケーってことで」
「言うに事欠いてまあまあだって!?」
「怒るなよ、お嬢ちゃん」
「俺は男だ!」
「見て分かるけどな。でもお前は……俺の雌だから」
 
 雌、なんて言葉にうっかりアナルがきゅんとひくついた。陰茎からは蜜もどきが零れる。

「なんだぁ? 期待してんのかよ」
「そりゃ……する……よ」

 俺の返事に満足したのか、ライが顔を寄せて、キスを迫る。俺も口を開けて、彼の舌を迎え入れる。

「はぁ……んん……は、は、んんぅ」
「ちゅる……ン。っんん!!」

 唾液を絡めるいやらしい音が聞こえる。

「ぷはっ……それじゃ、挿れるか」

 待ちに待った彼の猛り。それが物欲しげな俺の陰部に宛がわれる。剛直が俺の柔らかな内部へとゆっくりと時間を掛けて進入してくる。
 玉の汗をかいて、それを受け入れる俺。
 笠の部分が入ると、後は比較的すんなりと収まる。ちょうどいい具合だ。

「どうだ、シズク?」
「いい……よ」
「あッんん! もう動くの?」
「悪い。ダメか?」
「いいよ。でも……ちゃんと大事にしてくれよな」
「ああ。大切にするさ」
「本当かあ?」
「本当だって。これは……嘘じゃない」

 訝しい目をした俺に戸惑うライ。

「信じてくれよ、シズク」
「どうしようかな?」
「く……、なら、俺が信じてもらえるようにすればいいか?」

 なるほど。そういう考えもあるか。俺は納得してライをみつめる。

「じゃあ、やってみせてよ。俺を信じさせて」

 頷くと、ライは寝そべる俺の腰を掴んで、ゆっくりとした動きで自身を抜き差しする。その度に俺の中がライと離れたくないというように絡みついた。もどかしい程丁寧な動作で出し入れされて、俺は甘い声を上げた。

 ライが、この不器用な男が好きでたまらない。固い鎧で覆われた心。それはすんなりとは受け入れてくれなかったが、こうして彼と一つになれると、心まで傍にあるような気がした。

 快感を感じる場所を刺激され、俺はうっとりとライを見る。ライも、そんな俺を見て満足げだ。ゆるやかに行われるセックス。そう、これは愛と愛を結ぶまさに性行為なのだ。本来は繁殖の為という側面が強い行為を、こうしてライと行えてよかった。悲惨な出来事だけで終わらずに済んだことを、俺は幸せな心地で安堵していた。

 ライに丹念に解されたおかげで、とろっとろの中。彼を包み込んで、その逞しさに男らしいなと思う。俺は受け入れられる喜びを感受していた。

 汗をかきながら、ライが俺の中を円を描くようにあちこちを刺激する。それに合わせて自分も腰を動かして位置を調整する。

「っあん、あん……!」

 艶めく声があがる度、湧き上がる悦び。ライにもっと気持ちよくなってほしい一心で腰を動かす。

「はぁ、ン……ずいぶん積極的だな、シズク」
「は……んんっ! ああ」
「蕩けてるお前を見てると、俺もイキそうだ」
「イケ、ばいい、ん、よ! はあ、ライも行こう?」
「じゃあ、遠慮なく。一緒に行こうぜ、シズク」
「ああ!」

 間近に迫る解放感。立ち昇りかけているそれを少し抑えつつ彼に合わせる。ライがラストスパートというように激しく腰で突く。ずんっ、ずんっ、という重い響きが広がっていく気持ちよさ。
 そして――絶頂。

「あっああああああ!!」
「くぅっ――!!」


 腹に蜜がかかると同時に、体内にたっぷりと注がれる熱。飛沫がかかり、白濁が中を満たしていくのを感じながら、俺は確かな幸せを感じていた。


 秘所に受け入れながら、俺は祈る。

『俺達の仲がいつまでも続きますように』

 ああ、やばい……これ、クセになりそう……!!

 清らかな光りが胸に宿り、俺を精神と肉体の両方向から天へと召し上げる。セックスお祈り、気持ち良過ぎる……。自分の体がほのかに青く光っているのを薄目で確認すると、もう限界だった。視界が白けていくのを心地よい気分で感じて、やがて俺の意識はぷつりと途切れた。



 目覚めると、ライは俺を介抱していた。精液やらでドロドロだった体は清められ、裸の上には布団を被せられて俺は眠っていた。うっとりする程、色気のあるライがやって来て俺を啄ばんだ。唇に押し当てられた温かなもの。俺はライの頭を引き寄せて、それを受け入れた。

「どうする、飯にするか?」
「……ライが甘いと砂吐きそうなんだけど」
「酷い言い草だな。俺だってお前を甘やかしてみたい……たまには」
「たまにかよ!」
「基本は――やっぱ苛めてぇ」
「イジメっ子反対!」
「泣かせて、鳴かせて、可愛がってやるよ。それで満足しろ」
「だめ。足りない。ちゃんと愛しますって言って」
「な……」
「それが男の責任だろ?」
「俺を愛するんじゃないのか? 第一、お前も男だろうが」
「それはそうだけど……やっぱりライからの愛も欲しい。俺って欲張りだからさ」
「敵わないな。シズクには」

 困ったように笑うライ。

「目一杯愛するから、体も心も俺にシズクの全てをくれ」
「ああ!」

 ぎゅううっと効果音が出そうなぐらいライを抱きしめる。と、顔の横にあった耳が真っ赤なことに気付く。狂犬も照れるんだな。案外可愛い。


 嘘吐きな騎士が少しでも素直に愛を求めてくれるだけ、進歩かな?

 そう思った。


 惜しい気持ちで離れると、俺はベッドから立ち上がる。このままじゃいけないと衣服を探すが、そこでライが硬直しているのが目に入った。

「!?」
「どうしたんだ?」
「お前――それは……」
「それって……あ! 何だこれ?」

 俺の下腹部、臍を中心に桃色のハートマークが現れた。なんか露骨に卑猥で、すっげぇ嫌なんだけど……。なんの模様だ?

「現れた、か」
「現れた? ライ、何か知ってるのか?」
「勿論。その模様は、……――妊娠した証明だ」
「……え?」
「お前は、俺の子を孕んだんだ。シズク!!」

 がばっと抱き締められ、頬に軽いキスをされる。俺は状況についていけない。妊娠? 俺……それってつまり……。

「俺、達の間には『愛』があるってこと?」
「ああ、そうだぜ! やったな!!」

 無邪気にはしゃぐライを見て、やっと実感が伴った。俺の最初の祈りは、どうやら無事に届いたらしい。
 俺もライを抱き締める。急にやったら「お腹の子に障ったら大変だろ!?」と慌てられる。


「ライ、ライ……! これからもよろしくな」
「こっちこそ、頼むぞ、シズク」

 改まった自己紹介では握手もしなかった。でも今は手を繋いで、微笑み合う。

「ありがとうな。全部、お前のおかげだ、シズク。お前が――俺に愛を分け与えてくれたんだ」

 ライの言葉が胸に落ちる。そのまっすぐな様子に思わず涙が零れた。間違いなく、忘れられない日になったのだった。
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