10 / 25
第3章
2
しおりを挟む
「一年の時って、もしかして柊くん、私のこと覚えてたの?」
「あー……なんとなく思い出したんだよ。あんたと話すようになってから、ああ、こういう奴いたなって」
どうやら薄っすらとではあるが、私という存在が柊くんの中にはあったらしい。
ほとんど接点のなかった私たちが、今こうして、隣に座って言葉を交わしている。去年の私が知ったらどう思うだろうか。さすがに驚いたりしたのだろうか。
「私の印象、どんなだった?」
「どんなって、天真爛漫」
「私が?」
そんなこと、誰かに言われたことがない。男でも女でも誰とでも寝るビッチ。そんな噂ばかりが流れていた私のことを、天真爛漫だと評する人なんているはずがない。
「もしかして、天真爛漫の意味間違えてるとか?」
「俺のこと、そんなに馬鹿に見えてんのか」
「いや、だってどう考えても」
「おかしくねえよ」
風が、ふわっと抜けていった。
「なんだ、笑えんじゃん」
彼が言った。笑っていたつもりはない。え、と小さく反応した私に彼は、笑ってるよ、と言った。
「ほら、今のは演技じゃないだろ」
「どうだろ。何も考えてなかった」
「なんていうか、自然と顔が笑ってた。微笑んでた、に近いだろうけど」
ロボットだと言われ、ロボットかもしれないと納得し、そんな過程で私が笑っていたのか。意識せず笑うことなんて、自分にはもうないものだと思っていた。何を見ても、笑うという好意は愛想の武器でしか使えなくなっていた。
「そっちの方がいい。辛気臭い顔してる時ほどよっぽどいい」
そうか、笑えていたのか。私は、ちゃんと。でも、笑えていた自覚がない。
笑えないことがたくさんあって、それが重なるようにやってきて、笑い方をもう忘れてしまった。ロボットだと言われて私はなんで笑えたんだろう。自分にぴったりだと、そう思えたからだろうか。それは、なんだか、とても変なような気がした。けれど、私はもうとっくに変なのだから仕方がない。
「柊くんもあまり笑わないね。笑ったところ見たことないかも」
「笑うよ。面白いことがあれば、すっげえ単純に笑う」
彼が笑う顔を想像してみた。破綻するような顔とは、どんなものだろう。どんな声で、どんな表情で、彼は笑うのだろう。意外と可愛らしい笑い方をするのかもしれない。
人に興味を持つことは初めてだった。私も、誰かのことを気になったりするのか。そう思うと、頬が上がっているような気もした。この時間が遮られるまでは。
手元のスマホが振動している。メッセージではなく電話だった。
表示されていたのは高津先輩の名前。それを見た瞬間、全ての動きが固まった。視線を動かすことさえ、どうにもならなかった。
「なに、それ彼氏?」
楽しかった余韻が跡形もなく引いていく。
彼が私の手元をのぞきこむように見ている。瞬時に、見られたくないと思った。なぜだろう、画面を隠すように角度を変えたのは。
「あ……先輩みたい。なんだろう」
「とりあえず出たら? 電話」
うん、と私は返しただろうか。曖昧にうなずきながら、強く放つ液晶へと目が落ちる。気分が、落ちる。
「あー……なんとなく思い出したんだよ。あんたと話すようになってから、ああ、こういう奴いたなって」
どうやら薄っすらとではあるが、私という存在が柊くんの中にはあったらしい。
ほとんど接点のなかった私たちが、今こうして、隣に座って言葉を交わしている。去年の私が知ったらどう思うだろうか。さすがに驚いたりしたのだろうか。
「私の印象、どんなだった?」
「どんなって、天真爛漫」
「私が?」
そんなこと、誰かに言われたことがない。男でも女でも誰とでも寝るビッチ。そんな噂ばかりが流れていた私のことを、天真爛漫だと評する人なんているはずがない。
「もしかして、天真爛漫の意味間違えてるとか?」
「俺のこと、そんなに馬鹿に見えてんのか」
「いや、だってどう考えても」
「おかしくねえよ」
風が、ふわっと抜けていった。
「なんだ、笑えんじゃん」
彼が言った。笑っていたつもりはない。え、と小さく反応した私に彼は、笑ってるよ、と言った。
「ほら、今のは演技じゃないだろ」
「どうだろ。何も考えてなかった」
「なんていうか、自然と顔が笑ってた。微笑んでた、に近いだろうけど」
ロボットだと言われ、ロボットかもしれないと納得し、そんな過程で私が笑っていたのか。意識せず笑うことなんて、自分にはもうないものだと思っていた。何を見ても、笑うという好意は愛想の武器でしか使えなくなっていた。
「そっちの方がいい。辛気臭い顔してる時ほどよっぽどいい」
そうか、笑えていたのか。私は、ちゃんと。でも、笑えていた自覚がない。
笑えないことがたくさんあって、それが重なるようにやってきて、笑い方をもう忘れてしまった。ロボットだと言われて私はなんで笑えたんだろう。自分にぴったりだと、そう思えたからだろうか。それは、なんだか、とても変なような気がした。けれど、私はもうとっくに変なのだから仕方がない。
「柊くんもあまり笑わないね。笑ったところ見たことないかも」
「笑うよ。面白いことがあれば、すっげえ単純に笑う」
彼が笑う顔を想像してみた。破綻するような顔とは、どんなものだろう。どんな声で、どんな表情で、彼は笑うのだろう。意外と可愛らしい笑い方をするのかもしれない。
人に興味を持つことは初めてだった。私も、誰かのことを気になったりするのか。そう思うと、頬が上がっているような気もした。この時間が遮られるまでは。
手元のスマホが振動している。メッセージではなく電話だった。
表示されていたのは高津先輩の名前。それを見た瞬間、全ての動きが固まった。視線を動かすことさえ、どうにもならなかった。
「なに、それ彼氏?」
楽しかった余韻が跡形もなく引いていく。
彼が私の手元をのぞきこむように見ている。瞬時に、見られたくないと思った。なぜだろう、画面を隠すように角度を変えたのは。
「あ……先輩みたい。なんだろう」
「とりあえず出たら? 電話」
うん、と私は返しただろうか。曖昧にうなずきながら、強く放つ液晶へと目が落ちる。気分が、落ちる。
0
あなたにおすすめの小説
俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件
こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。
・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。
・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。
・物静かで儚げな美術部員。
・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。
・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。
拓海の生活はどうなるのか!?
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる