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シェヘラザード
しおりを挟むアレックスが現役から退き、スローライフを送るべく赴いたのは、ブリリアント・シュロスから馬車で行けば半日ほどかかるところにある、新たな我が家であった。
正確には『何もないところに皇爵のために創らせておいた』田舎町である。
皇帝の座についてから十数年間。我儘」贅沢一つ言わなかった、アレックスに対する、家族や家臣達からのささやかな贈り物であった。
アレックスは、たいそ喜び、その田舎町をシェヘラザードと命名した。
シェヘラザードには、ブリリアント・シュロスから連れてきた使用人は、誰もいなかった。
実は、四年ほど前から、この町造りはは始められていたのだが。町の住民は、周辺の部落の人々に御触れを出し、集まった人々に家と仕事を与え、シェヘラザードに住まわせ造った新しい町である。
つまり誰一人、アレックスとは縁もゆかりもない人々が集まり、できた町なのである。
人々にとって、この町は魅力的であった。皇帝の直轄地のため、治安が良いこと。新しい領主の皇爵が、外国への出荷や、城に納める為のワイン作りや牧畜の仕事をする事で、収入源を確保しようと考え、数年前から投資をしていた。町の人々は、その安定した仕事と生活を求め、移住してきたのである。
そのおかげで、アレックスが来る前から、すでに町は活気がある、豊かな田舎町が形成されていた。
シェヘラザードの町に着くと、なって2年ほどのフランツ・ヘッセン町長がアレックスを出迎えた。唯一、アレックスが元皇帝であった事を知る人物である。ヘッセンは、元々男爵家の三男で、騎士団に所属していた男である。しかし、アレックスの退位にあたり、どうしても1人は騎士を付けたいと言う家族の要望により、選ばれたのが彼であった。
「ようこそおいで下さりました。皇爵様。どうか何なりとおっしゃって下さい。」
ヘッセンは、アレックスに頭を垂れると、アレックスは、
「どうか私の事に関係なく、接っしてもらいたい」
と、苦笑いを浮かべた。
「はい。承知しております。それでは、早々にお屋敷へと参りましょう。」
ヘッセンは、アレックスの乗った馬を引いて、歩き出した。
アレックスが住まう屋敷は、町に接した森の中に造られた。
森の小道をしばらく進んでいくと、二階建ての屋敷が見えてくる。外見や内装は、質素な様式を採用し、とても落ち着いた田舎の屋敷である。
屋敷のすぐそばには、大きな樫の木が配され、その木の周りには、いく種もの薬草が植えられていた。これは、アレックスが皇帝に在位中に国内外から取り寄せ、栽培・普及させたものだ。
「おおっ・・・」
アレックスは、嬉しそうに思わず声を漏らす。
皇帝になったばかりの頃から、アレックスは、こういった薬草から薬を作ることを趣味としていた事もあるのだろう。
屋敷の前に来ると、アレックスは、馬から降りた。そして、ヘッセンに明日の朝から人をよこすようにと頼むと、屋敷へと入っていった。ヘッセンも、アレックスの言葉に従った。
アレックスは、ヘッセンの後ろ姿を見送ると、屋敷には入らず、屋敷の裏手にある小高い丘へと向かった。
屋敷を造るにあたり、アレックスのたっての希望で、家の裏手に小高い丘を築き上げさせたのだ。その丘のてっぺんに大きな平たい巨石も配置させて・・・
アレックスが丘を登り、丘のてっぺんにある巨石のところまで来ると、辺りを見渡し、大きく深呼吸をした。
「私だけの魔の森・・・」
アレックスは、そのまま。日が暮れるまで何時間もそこで過ごした。
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