丘の上の王様とお妃様

よしき

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丘の上の王様とお妃様 3

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【 帝国財閥は、『日本最大』にして『やんごとなき血筋』の王一族が治めている。 その中でも、本家の家長にして、会長でもある『王  聖(こうき)氏  40才』は、経営者としてはかつてないほどの手腕とカリスマ性。さらに甘いマスクは、人々を魅了してやまない。先月発表された『世界に影響力のある人物100人』では、王氏は、日本人初となるベスト5に選ばれており、今後も目が離せない人である】

  今日は、喫茶店の雑誌を新しいものに入れ換える日である。その中の「ザ  日本経済」の表紙を爽やかに飾った男性は、ここふた月喫茶店「坂の上」にほぼ毎日必ず顔をだす。仕事はしっかりこなしているらしいが...(どんな仕事をしているかは、全く不明だけど)
  さらに、やはり上にたつだけあって、コミニュケーション能力は、ハイスペックだ。威張ることもなく、どの分野でもそれなりの知識を持ち合わせている。政治はもちろん、グローバル化している、経済や株の話などは、流石帝国財閥の会長だけあって、ものすごく熟知している。
   しかし、それだけの大物にも関わらず、スパーマーケットのキャベツに大根。さらには、トイレットヘーパー等の値段までも知っているのだ⁉
  恐るべし...王 聖である。お陰で、男女問わずお店の常連さん 達とも仲がよくなっているし。いつの間にか新規のお客さんも増えて来ている。(うれしい悲鳴では、あるが)
  
  しかしながら、である。超セレブの王さんは、どういう訳だか知らないが、近藤のおじさんと話が合うらしい。お互いに「ワンちゃん(昔のプロ野球の選手のアダ名らしい)」と「コンちゃん」と知らない間に呼びあっている。
   そのせいで、現在私は二人に「タマちゃん」と、呼ばれるハメになってしまった。
   「タマちゃん、コーヒーと紅茶まだ?」
私の悩みなど関係なく、近藤のおじさんが私に声をかけてきた。私は、本棚を整理し終わると、
「はい。今お持ちします。」
と、少し上ずった声で返事をした。そして、いつものように準備が出き次第一番奥のボックス席に向かう。そこには、目下私を悩ませる人物も座っていた。
「お待たせしました。アメリカンと紅茶になります。」
「待ってました~」
近藤のおじさんは、いつものようにコーヒーをすすり始めた。
「ありがとう、タマちゃん。」
近藤さんとテーブルを挟んで反対側の席に、王さんが座っており、爽やかな笑顔で私をねぎるう。そして、優雅に紅茶の香りを楽しんでから、味わうように飲む。王さんのその姿は、王公貴族その者のように綺麗で。私もついつい、みとれてしまう。...特に、つい最近気がついたのだが、王さんの瞳は純粋な黒色ではない。光の加減で深い藍色のような瞳である。つい吸い込まれてしまいそうになる意思の強い瞳...
  「そうそう。タマちゃんさ、お願いがあるんだけれど」
近藤さんのおじさんの声で私は、ハタと、我に返った。そして、近藤のおじさんの笑顔を見てホッと胸を撫で下ろした。
「お願いって?」
何事も無かったように、私は、笑顔で応対したのだけれど...それは、私にとっては、2度目の悪夢であった。
「実を言うと、うちの母ちゃんからなんだけれど。タマちゃんさ、いまだに誰とも付き合っていないみたいだし。まあ、なんだ。いい人を紹介したいって言うんだよ」
   私は、思わずのけぞりそうになった。私は、忘れていたのだ。近藤さんの奥さまが、この街一番の世話焼きオバサンだと言うことを!  
「いちお、俺も見たけれど。中々いい話しらしいよ。ほら、タマちゃんも35才過ぎたし。そろそろ考えないと。」
   ...。
  私は、チラリと王さんに目線を落とした。すると、王さんも私を見つめていて...二人の目が合った瞬間。私の胸の鼓動が突然はやまた。急いで、視線を元の近藤のおじさんに戻すと、丁度コーヒーを飲んでいるところだった。
  私は、思った。チャンと近藤家の良心に答えなければ、と。私が大きく息を吸い、話そうとした時...
「それは、お断りさせてもらいますよ。」
そう言って王さんは、立ち上がった。そして、素早く私の前にやってきた。
   私は、何が起こったのか分からず、立ち尽くしていると、王さんは私の前に片膝をつき、すかさずスーツの胸元から小さな小箱を取り出した。小さな小箱を王さんは、おもむろに開ける。そこにあったのは、ダイヤの指輪だった。
「木崎珠子さん。先日話したように俺は、君と婚約をしている。その誓いを守るためにも、この指輪を受けとれ」
私はもちろん、突然の出来事に思考回路が停止してし寸前のところまで追いやられてしまった。そして、その状態で私は、無意識に返事を返した。
「は、い...」
   私は、自分の口から出たその二文字を自分の耳で聞いた瞬間『やられた!』と言う後悔の念が全身を駆けめぐり、顔どころか耳たぶまで真っ赤になっているのが分かった。
   ああ、最悪だ!こんなことで軽く返事をしてしまっただなんて‼
   しかし、口から出た言葉には、力があるのだ。
「なんだ、タマちゃん。俺らの知らない間に、本当の玉の輿に乗っちゃっていたのか⁉」
  近藤のおじさんは、ニヤニヤと意味ありげな笑いを顔に浮かべてた。そして王さんは、不敵な笑顔をしながら立ち上がった。
「コンちゃんには、早くにこの事を知っておいて欲しくてね。」
「ワンちゃん、俺とあんたの仲じゃないか。そう言うことなら、母ちゃんには、俺がチャンと言っておくから。二人とも安心してくれ!」
   近藤のおじさんは、『よかった、よかった』というオーラを振りまきながら、テーブルにコーヒーの代金を置いた。
「まあ、詳しい日取りとか分かったら教えてくるよ。じゃあなタマちゃん。」
近藤のおじさんは、私と王さんの肩をポンポンと叩きながら、機嫌よく店から出ていった。
   そして、沈黙。
   私の状況は、近藤のおじさんがいなくなっても変わらなかった。何故ならば、目の前にいる肉食動物の様な王さんがいることには、変わりがないからだ。
「では、君の気持ちが変わらないうちに、この指輪をもらってもらおうか?」
  王さんは、私の左手の薬指にキラキラと輝く指輪をつけてくれた。
「これで、変な虫はつかないだろうからね」
「いえ、そんなこんな高価なものを受けとるわけには...」
   私にだってこのダイヤが高価な品物であるかは分かる。多分普通の婚約指輪よりも一桁、いや二桁は違うかもしれない。急いで指輪を外そうとする私。
   その時王さんは、私の体を抱きしめてきたのだ。一瞬、いい香りがして...ああ、これは王さんの香り...私は、胸の音が、王さんに聞こえているのではないかと思うほど、胸の高鳴りを感じた。それと同時に、王さんの肌の温もりが優しく私を包む。ほんのわずかな時間なはずなのに。それは、とても長い時間に感じた。

   
   

  






   
   
   
   
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