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チートを体感する玄白

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 冒険者ギルド裏・訓練場。
 小さな闘技場コロシアムほどの円形の建物、ここは冒険者ギルドが管理している施設の一つ。
 普段は訓練施設として使われているが、収穫祭や大きな冠婚葬祭などでは、催事場として開放されていることもある。
 今日は特にそのような催し物はないため、闘技場内部には大勢の冒険者たちが訓練をしていた。

「では、ランガクイーノ・スギタさんの適正審査を行います。審査内容は魔術素養、武術素養の二つに加えて、ランガクイーノさんには治療素養も審査させて貰います」

 受付嬢が説明をするので、玄白は素直に説明を受ける。

「まず一つ目の魔術要素から。この場所から奥にある的に向かって、一番得意な魔法を飛ばしてもらいます。的を破壊する必要はありません、魔術コントロールがどれぐらいできておるのかを見させて貰いますので」
「魔術……済まぬ、わし、魔術がよくわからん」
「では、私が簡単にレクチャーしますので、お時間を貰えますか?」

 困り果てた玄白のもとに、マチルダが近寄ってくる。
 そして受付嬢に告げて許可をもらうと、その場で簡単な魔術の説明が始まった。

「ランガさん、魔術回路については理解できますか?」
「うむ。そこを通る魔力についても理解できる。じゃが、それをどのような形で外に放出するのか、それが今ひとつ理解できておらぬ」
「なるほど。外に放出するのはイメージです。魔力を一点に集めて、そこから放出する。例えば、手の中に集めてから、魔力が矢のような形になるようにイメージすると」

 そう告げてから、マチルダが手の中にマジックアローを作り出す。
 
「おおおお!!」
「これをですね、頭の中で弓をイメージして放つことで、マジックアローは飛んでいきます。ある程度は魔術書に図解入りで説明されていますので、そちらを参考にするとよろしいかと思いますわ」
「イメージじゃな!!」

 マチルダの説明に頷きつつ、玄白はイメージする。
 まず矢をイメージしてから、手の中にマジックアローを作り出すと、それを弓を弾くイメージで放ってみる。

──シュン
 だが、マジックアローは玄白の目の前、10m程で消滅する。

「ぷっ!! みろよあの魔法!! あんなのじゃウサギだって殺せないじゃないか!」
「笑うなよ、あそこにいるってことは初心者なんだろう? 魔法の適性がなくても、武術の作用はあるかもしれないじゃないか?」

 周りの嘲笑を受けても、玄白はめげない。

「矢はダメじゃなぁ。しかし、飛び道具となると……お?」

 ふと思い出し、玄白は手の中に小さな丸い魔力玉を生み出す。

「おいおい、矢でもダメだったのに、今度は玉かよ」
「もう諦めろって」

 そんなギャラリーの罵詈雑言など無視。

「次に、イメージ……じゃが、どうせなら射出するものもイメージで作り出したほうが、良いのではないか?」

──ブゥン!!
 そう呟いてから、玄白は手の中に火縄銃を作り出す。
 これには周りで見ていたものも、顎が外れそうなぐらいにおどろていた。

「い、いや、なんだあれは? 杖か?」
「それよりも魔力で杖を実体化したぞ、あの嬢ちゃん!」
「嘘だろ? そんなことが可能なはずがないだろうが?」

 ガヤガヤとするギャラリー。
 だが、そんなことはつゆ知らず、玄白は火縄銃に球をこめる。
 火薬なんてないが、それこそ爆発をイメージすれば良いと考え、球だけを銃口から入れて構える。

──ガチャッ
「実物は見たことがあるが、実際に撃った所など伝聞でしか知らぬが。まあ、本の通りにやれば良いか」

──ゴウンッ
 引き金を引く。
 その刹那、魔力で作られた火縄銃から球が射出され、的に直撃する。
 流石に中心ではないが、球は的の端に命中して抉り、消滅した。

──ポカーン
 一同、騒然。
 だが、玄白は更なる改良を加える。

「球をこめるのではなく、球を銃身に作り出すイメージの方が早いな。こうかな?」

──ゴウンッ
 今度は球込めの手順を省いたので、準備がさらに速くなる。
 
「ふむふむ。イメージということは、ここまで銃身が長い必要もないか。魔力の放出がイメージということは、銃身を短く詰めても問題はないな?」

──ブゥン
 今度は銃身を短く。
 130センチの銃身を60センチまで詰める。
 魔法の爆発は反動が出なかったので、握りを改良して片手でも打てるように調整。
 図らずしも、ハンドガンとライフルの中間のような形状の銃を作り出してしまった。

──ゴウンッ!
 さらに射撃。
 未だ的の中心には当たらないまでも、その威力については見ていたものたちが沈黙するレベルである。

「そ、それまで!! ランガクイーノさんの魔法素養は十分です。次は武術素養のチェックに移りたいと思います」
「ん? もう終わりか? もう少し改良できそうなのじゃが?」
「それはまた後日、ご自分で調べてください。ではこちらへ」

 そう告げられてから、玄白は闘技場内の別の場所に移動する。
 そこでは軽装鎧を着た戦士が立っている。
 カイトシールドとロングソートを見に帯びた戦士、何処となく歴戦の戦士のような雰囲気を醸し出していた。

………
……

 
「次は俺が相手をしよう。ルールは簡単、一発でも俺に攻撃を当てられたら合格だ。なお、俺は手加減しつつ反撃をするので、俺の攻撃を五発受けた時点で失格となるからな」

 そう説明してから、戦士はロングソードを引き抜き盾を構える。
 
「武力とはまた。わし、刀も満足に使ったことがないがのう」

 武器を一切持たず、半身になり構える。
 当然ながら徒手空拳など使ったことはないため、自己流の喧嘩の構えでしかない。
 その動き、構えから、目の前の戦士はランガクイーノが武術は素人であるとあっさりと見切ったのである。

《……武がない冒険者は、いつか早死にする。ここで諦めさせた方が無難か》

 そう考え、踏み込んで横一閃にソードを薙ぐ。
 手加減しているとはいえ、この一発は素人の玄白には致命傷になりかねないのだが。

──キィン
《見えるのう。これが闘気というやつか》

 玄白は体内の闘気を目に集め、戦士の動きを見切る。
 その次に体全体の魔力回路と神経に闘気を流し込み、反射速度を爆発的に高める。
 あとは、ゆっくりと流れてくる攻撃をかわすだけ。

──スッ
 無駄な動きなどなく、数歩だけ下がる。
 これで一刀目を躱すと、再び構えを取り直す。

「ほう? 素人の動きかと思ったが、なかなかいい感じだな」
「い、いや、わし、人を攻撃するような手段は学んでおらぬから。本当に幼少の頃、嗜み程度で剣術を学んだだけじゃよ。それもすぐに興味を無くして、勉学に没頭したのじゃからな」
「まあ、躱す技術だけても無いよりはましか。それよりも、速く攻撃をしてこいよ」

 そうはいっても、ケンカ程度の攻撃など当たるはずがなく。
 覚悟を決めて殴りかかっても、あっさりと交わされ、カウンターで一撃を受ける。
 それが二度、三度と繰り返されると、玄白は距離を取ってから、一旦呼吸を落ち着かせる。

「はぁはぁ……こりゃ敵わん。あやつの隙が見えないでは無いか」

 再度、目に闘気を集める。
 今度はより意識を集中し、戦士の体の闘気の流れを読む。
 時折構えて動いて見せると、それに反応するように戦士の闘気が揺らいでいる。

「んんん? これはまた面白い」

 身体の中を流れる闘気。
 その動きを見て、玄白はふと面白いことを思いついた。

「試してみるか。まあ、それでダメじゃったら、商業ギルドでの登録のみとなるが、それもまた一興」
 
 身体中の闘気を活性化させ、反射速度を上げる。
 そして力一杯踏み込んだ刹那、戦士の懐に潜り込んで。

──パン!
 その腹部目掛けて掌底を入れる。
 だが、それは体に触れられる前に後ろにかわされたが、玄白の目論みはそこにあった。

「危ない危ない。いい攻撃だけど、目に見えるな」
「じゃろうなぁ。だが、闘気の動きは見えぬじゃろ?」

──ドン!
 掌底から放出された闘気。
 それは戦士の腹部に直撃する。
 痛みも何も無い闘気をぶつけられたが、その瞬間に戦士は目眩を覚え、その場に膝から落ちる。

「ぐぅぇぇぅ。お、おまえ、何をした?」
「腹部にわしの闘気をぶつけたまで。ダメージはないが、体内の闘気が乱されたじゃろ?」
「そ、そんな簡単にうげぇぇぇぇぇ」

 口から嘔吐する戦士。
 戦士の言う通り、そんなに簡単な事ではない。
 むしろ、他人の闘気や魔力を触れる事で見出すことができる玄白がおかしい。
 それでも、直接的な殺傷力はなく、この一撃で玄白の闘気も枯渇したので、近接戦闘には玄白は不向きであることが立証された。

「さて、試験は失格かな?」
「まあ、一撃には違いないから、合格とする。でも、身を守る術ぐらいは、しっかりと身につけた方が良いぞ」

 これで魔術素養、武術素養の二つは合格。
 いよいよ、玄白にとってよ本命である治療についての試験が始まるのであった。

 
 

 

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