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酒と肴と、領主と親父
18品目・領都の夕方、広場で一杯(たまにはビールとウインナー、枝豆なんてのも)
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当初、この領都の暑さから、炭で海鮮ものを焼いて出すのもありかと思って試してみたのだが。
予想外に売れ行きが良かったことと、二日目はまたつくね串を出してみたものの海鮮焼きのリクエストが圧倒的に多かったので、当面は海鮮焼きと他に何か考えることにした。
三日間はただひたすらにホタテとイカ、エビの海鮮焼きと冷たいジュースを提供していたのだが、シャットとマリアンから何か味変してみたいという提案があったので、明日のメニューは海鮮ではなく別の物でも出そうかと思っているのだが。
「う~む。なかなか難しいところだなぁ」
今日の露店は終了。
いつものように開店から二時間程度で全て完売したので、今日もマリアンとシャットの二人が賄い飯用の海鮮を焼いている真っ最中。
炎天下の下での炭焼きなので、熱中症にでもなったら大変という事で、マリアンは俺のお古の麦わら帽子を、シャットはバンダナを頭に、冷たいタオルを首に巻いて炭焼きの真っ最中。
俺はというと、まだ冷たいジュースは残っているので露店のジュースやさんを営んでいるところだが。
「お、ユウヤ店長さん、ラムネを二本売ってほしいんだけど?」
「あいよ……2本で400メレルだ」
すでになじみになりつつある二人組の冒険者が、いつものようにラムネを二本買いに来る。
シュポンッとラムネの蓋を開けて、グビッグビッと喉の奥に流し込む。
その仕草だけで、近くで見ている連中も次々とラムネを買いにやってくる。
「んっぷっはぁぁぁぁ。ほんと、こんな不思議な飲み物は初めてだよ」
「そうだよなぁ……でもよミーシャ、いつもギルドの酒場で飲んでいるエールだって、キリッと冷やしたらうまいとは思わないか?」
「そりゃそうだけど、ユウヤ店長さんみたいに、大量の氷を作り出す魔術でもないと無理だよ。それに、あのでっかい樽をどうやって冷やすんだい?」
「そこなんだよなぁ……」
冒険者ギルドの酒場に置いてあるエールの樽は、聞いた話だとドイツで売っている30リットル入りの樽とほぼ同じ大きさ。
それを冷やすとなると、色々と問題が発生するし、そもそもエールは常温で飲むのが美味い。
だが、うちのラムネを飲んでいるうちに、ぐいっと冷たいのを飲んでみたいと思うようになったらしい。
「冷たいビールとなると、瓶詰のやつなら用意できるが。それだと、つまみも考えないとならんしなぁ。ワインはキリッと冷やして飲むものではないが、シャンパンは冷やさないとだめだし……って、おいおい、ちょっと待て」
おれが腕を組んでそんなことを独りごちっていると、ミーシャとその相方のアベル、そして焼きたての海鮮を片手に涎を垂らしそうなシャットが近寄ってきていた。
「ユ、ユウヤ、冷たいエールってあるのか?」
「なあユウヤ店長、それって売り物なのかい? それならぜひとも売って欲しいんだけれどさ」
「頼む!! キリッと冷えたエールが飲みたいんだ」
三人にそう詰め寄られると、断るにも断り切れないじゃないか。
「はぁ……つまみも用意しないとならんからなぁ……明日の夕方でいいなら、特別に用意してやる」
「よっしゃ、それじゃあ明日の為に依頼でも受けにいこうかねぇ。アベル、とっとと出かけるよ」
「よし来た! それじゃあまた明日な!」
「はいはい……ということで、明日は夕方からも営業しないとならんようだな。まあ、露店を開くというよりも、ここで飲み会をやるっていう感じか」
シャットから焼きたての海鮮を受け取り、それで賄い飯を食べ始める。
しかし、こっちの世界でビールを販売するっていうのもなぁ。
甥っ子の本では、販売ライセンスが無いと違法になるとか、そういうのも書いてあったような気がするんだが。
「なあマリアン。露店で酒を販売してもいいのか?」
「別に問題はないと思いますけれど? 他領からワイン売りが来ることも良くありますし。こう、小さな樽に詰めて売っていたり、壷を持ち込んで入れてもらったりしていますよ?」
ああ、これは聞き方が悪かったな。
「そういうのはありなのか。ちなみにだが、ここにテーブルと椅子を用意して、ここで酒を売って飲ませるっていうのは?」
「酒を飲むのは酒場っていう決まりはないにゃ。けど、わざわざ広場に酒を持って来て飲むっていうのは聞いたことがないにゃ」
「酒屋で酒を買っても、まさかこんな街道沿いで樽から呑むようなことはしませんけれどね」
ふうむ。
これは一度、商業ギルドにいって話を聞いてきた方がいいかもなぁ。
「よし、あとでギルドで詳しい話を聞いてみるか」
「それがいいにゃ。それじゃあ、後片付けを開始するにゃ」
「そうですね。私とシャットは、このあとはギルドに戻ってのんびりしていますので、なにか仕事がありましたら声を掛けてください」
「ああ、その時は顔でもだすさ」
こうして食事も終えて後片付けをしたのち、俺は商業ギルドで話を聞くことにした。
………
……
…
――商業ギルド
「なるほど……露店のスペースでテーブルと椅子を用意し、そこで飲食する分には問題はありません。また、ユウヤさんの露店で購入したお酒を広場で飲んでいても問題はありませんよ。要は、『お酒を販売しているスペースが露店の範囲内』であれば大丈夫ですし、その範囲内でテーブルと椅子を出して飲食物を提供していても、酒場の出張店のようなものなので罪に問われることはありませんね」
一通りの説明をしたのち、ギルドの受付嬢があっさりと説明をしてくれた。
実は俺以外にも、同じように露店を使ってミニ酒場のようなことをやっている旅の商人はいたらしい。
販売している場所が露店として割り当てられた範囲であれば罪に問われることもないし、酒の販売についてもこの領都では許可は必要ないらしい。
ただ、王都や他の領地によっては、酒類販売免許を持っている商人以外は販売が制限されるとか。
「なるほどねぇ、うん、助かったよ、ありがとさん」
「いえいえ。私たち商業ギルドは、すべての商人の利益と繁栄のためにお力をお貸しするために存在していますので」
「ああ、すまなかったね」
軽く礼を告げてギルドを後にすると、宿に戻ってから越境庵へ移動。
明日のために必要な仕込みと仕入れを始めるとしますか。
〇 〇 〇 〇 〇
――翌日・午後
いつものように、露店のメニューはイカ焼きとエビ焼き、ホタテのバター焼き。
それに今日は、ジャガイモのホイル焼きも付け加えてみた。
いや、焼台の横にアルミホイルを巻いたジャガイモをゴロゴロと並べておけば、勝手に火が入っていい感じになるのでね。
調味料だってバターがあるから問題はないし。
とうことで、ジャガイモバター焼きの分だけ手間が増えたげと、マリアンとシャットがいれば問題はない。
そしていつものように二時間かっきりで販売を終えると、あとは夕方まで一休み。
「なあユウヤ。このあとってさ、ミーシャとアベルが客でくるんだよな? あたいたちも客になったら駄目かなぁ?」
「んんん? まあ、客といっても二人にごちそうするようなものだから、別に構わんよ。シャットも呑みたいのか? キンキンに冷えたビールを」
「わ、わたしも呑みたいです!!」
テヘヘと笑っているシャットの横で、マリアンが勢い良く手を上げて叫んだ。
うん、お嬢さんたちも呑みたいというのなら仕方がない。
今日は従業員の慰安も兼ねるとしようかねぇ。
………
……
…
――ジュウウウウ
間もなく、夕方6つの鐘が鳴る。
この街は日が落ちるのが遅く、日本時間夕方6時ごろでもまだ明るく、人通りは結構ある。
正門や西門からは外で働いていた人や冒険者達が戻って来て、家路を急ぐ頃。
そして酒場に人が溢れ、喧噪が響いてくる頃でもある。
「なあユウヤ、今焼いているそれってなんだい?」
「ん、ああ、これか。酒の肴にいいと思ってね、ガーリックとバジルの入ったウインナーを
焼いているところだよ。そっちのボ―ヘルに入っているのはさっき茹でたばかりの枝豆で、こっちは生干しシシャモを炙ったもの。まだ食うなよ、アベルとミーシャが来てからだからな」
「わ、分かっているって」
そう俺に注意されるまでは、そーっと手を伸ばしてつまみ食いしそうな勢いだったけれどな。
その隣では、マリアンがテーブルと椅子を綺麗に並べてくれている。
わざわざ店のホールに置いてあったイスとテーブルを一組引っ張り出してたきたんだからな。
その上には取り皿と割りばし、スプーンとフォークも用意しておく。
あとは調味料だが、粒入りマスタードと醤油、マヨネーズ、あとは一味唐辛子でもあればいいか。
さすがに子持ちシシャモやウインナーについては仕込みはできない、こういうのはプロが作ったものを買って来てそれを炙るだけで十分。
シシャモだってよく出回ってタイルカペリンじゃない、鵡川産の天然シシャモを冷凍している奴だ。
最近は不漁でね、生はなかなか出回ってこないものでね。
枝豆は茹でる前に先端をちょっとだけハサミで切り落とし、しっかりと塩もみをしてある。
これは枝豆の産毛を落とすのと、塩味をしっかりとつけるため。
あとは沸騰したお湯に、塩もみしたままの枝豆を入れて沸騰するのを待つ。
再沸騰してきたら、大体5分を目安にざる上げして、熱々のうちに頂くのがうちの流儀。
そんな感じで準備をしていると、ちょうどアベルとミーシャもやって来た。
「よっ、ちょっと遅れたかな?」
「ギルドで素材の査定に手間どっちゃってね」
「いや、ちょうどいい感じだな、さあ、まずは座ってくれ」
席に座るよう促してから、まずはテーブルの上に今日の酒の肴をならべていく。
熱々の枝豆、焼きたてのウインナーと子持ちシシャモ。
そしてビアタン(ビールタンブラー)を人数分用意してから、本日のおすすめを。
――シュンッ
氷水の張ってあるクーラボックスに入れてあるのは、ご存じ赤い星マークの付いた瓶ビール。
それと恵比須様のマークが入っているビールも数本と、あとはシャンパンを一本だけ。
「……あ、あのねユウヤ店長、この透き通った入れ物はなにかしら?」
「酒を飲むのに飾りっていうことはないだろうし。ジョッキは?」
「ああ、この透き通ったのが酒を飲むための器でね。故郷では、こいつをビアタンって呼ぶんだ。さて、それじゃああけるとするか」
クーラーボックスの中に手を突っ込んで星印のビールを一本とりだす。
それを栓抜きでシュポッと栓を抜くと、まずはアベルとミーシャのビアタンに注ぐ。
――トクットクットクットクッ……
心地よい音が瓶の中から伝わって来る。
そしてビアタンの中には透き通った薄琥珀色のビールとクリーミィな泡。
それをじっと、瞳をキラキラさせるように眺めている一同。
「そしてうちのお嬢さんたち……と」
続いてマリアンとシャットにも注いでやると、最後は自分のビアタンに注ぐ。
「それじゃあ完売と行きたいが、ビアタンは非常に割れやすいから、いつも酒場でタンカード(蓋つきジョッキ)でやっているように力いっぱい打ち付けるのはなしだせ、こう、軽く音を鳴らすだけでいい。それじゃあ」
俺のことは背に合わせて、みんながビアタンを手に持ちあげる。
「乾杯っ」
「「「「乾杯」」」」
――チン!
心地よい音が響くと、アベルとミーシャが恐る恐るビアタンを口元に運び。
――ゴクッ
口の中にビールを流し込み、そして喉がなる。
その瞬間、二人はお互いの顔を見合ったかと思うと、次の瞬間には一気にビールを流し込みビアタンを空にした。
「んっぷっはぁぁぁぁぁ、なんだこれは、こんなにうまいとは思わなかったぞ」
「普段飲んでいるエールよりも薄味で、でものど越しがさわやかでなんていうか……美味しいです」
「ああ、それはありがとうさん」
お褒めに預かり恐悦至極。
俺はのんびりと枝豆を口に持っていき、プツンプツンと豆を口の中に入れる。
その仕草をじっと見てシャットが真似ているんだが、初めて食べる枝豆に感激したのか、一つ、また一つと食べ始めた。
「うんみやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「この枝豆っていうのですか、プツンプツンって感触が楽しくて、それで美味しいです」
「このハーブの聞いたウインナーも最高だ、この小魚だって、酒に妙にあうじゃないか……この黄色くて赤い粉の掛かっているタレに付けると……さらにうまい! ユウヤ店長、ビールのお代わりはあるのか?」
「まあ、そこに入っている分だけだが……」
追加で一本引っ張り出して栓を開けると、それをそのままアベルに手渡す。
あとは手酌でやってくれという意思表示だ。
それが判ったのか、アベルもミーシャやシャットたちのビアタンにビールを注ぎ始める。
うん、楽しい酒盛りっていう感じで、たまにはこういうのもいいな。
ただ、ちょっと離れたところで、こっちを羨ましそうに眺めている冒険者が気になるところだが。
すまないな、今日はもう看板だ。
予想外に売れ行きが良かったことと、二日目はまたつくね串を出してみたものの海鮮焼きのリクエストが圧倒的に多かったので、当面は海鮮焼きと他に何か考えることにした。
三日間はただひたすらにホタテとイカ、エビの海鮮焼きと冷たいジュースを提供していたのだが、シャットとマリアンから何か味変してみたいという提案があったので、明日のメニューは海鮮ではなく別の物でも出そうかと思っているのだが。
「う~む。なかなか難しいところだなぁ」
今日の露店は終了。
いつものように開店から二時間程度で全て完売したので、今日もマリアンとシャットの二人が賄い飯用の海鮮を焼いている真っ最中。
炎天下の下での炭焼きなので、熱中症にでもなったら大変という事で、マリアンは俺のお古の麦わら帽子を、シャットはバンダナを頭に、冷たいタオルを首に巻いて炭焼きの真っ最中。
俺はというと、まだ冷たいジュースは残っているので露店のジュースやさんを営んでいるところだが。
「お、ユウヤ店長さん、ラムネを二本売ってほしいんだけど?」
「あいよ……2本で400メレルだ」
すでになじみになりつつある二人組の冒険者が、いつものようにラムネを二本買いに来る。
シュポンッとラムネの蓋を開けて、グビッグビッと喉の奥に流し込む。
その仕草だけで、近くで見ている連中も次々とラムネを買いにやってくる。
「んっぷっはぁぁぁぁ。ほんと、こんな不思議な飲み物は初めてだよ」
「そうだよなぁ……でもよミーシャ、いつもギルドの酒場で飲んでいるエールだって、キリッと冷やしたらうまいとは思わないか?」
「そりゃそうだけど、ユウヤ店長さんみたいに、大量の氷を作り出す魔術でもないと無理だよ。それに、あのでっかい樽をどうやって冷やすんだい?」
「そこなんだよなぁ……」
冒険者ギルドの酒場に置いてあるエールの樽は、聞いた話だとドイツで売っている30リットル入りの樽とほぼ同じ大きさ。
それを冷やすとなると、色々と問題が発生するし、そもそもエールは常温で飲むのが美味い。
だが、うちのラムネを飲んでいるうちに、ぐいっと冷たいのを飲んでみたいと思うようになったらしい。
「冷たいビールとなると、瓶詰のやつなら用意できるが。それだと、つまみも考えないとならんしなぁ。ワインはキリッと冷やして飲むものではないが、シャンパンは冷やさないとだめだし……って、おいおい、ちょっと待て」
おれが腕を組んでそんなことを独りごちっていると、ミーシャとその相方のアベル、そして焼きたての海鮮を片手に涎を垂らしそうなシャットが近寄ってきていた。
「ユ、ユウヤ、冷たいエールってあるのか?」
「なあユウヤ店長、それって売り物なのかい? それならぜひとも売って欲しいんだけれどさ」
「頼む!! キリッと冷えたエールが飲みたいんだ」
三人にそう詰め寄られると、断るにも断り切れないじゃないか。
「はぁ……つまみも用意しないとならんからなぁ……明日の夕方でいいなら、特別に用意してやる」
「よっしゃ、それじゃあ明日の為に依頼でも受けにいこうかねぇ。アベル、とっとと出かけるよ」
「よし来た! それじゃあまた明日な!」
「はいはい……ということで、明日は夕方からも営業しないとならんようだな。まあ、露店を開くというよりも、ここで飲み会をやるっていう感じか」
シャットから焼きたての海鮮を受け取り、それで賄い飯を食べ始める。
しかし、こっちの世界でビールを販売するっていうのもなぁ。
甥っ子の本では、販売ライセンスが無いと違法になるとか、そういうのも書いてあったような気がするんだが。
「なあマリアン。露店で酒を販売してもいいのか?」
「別に問題はないと思いますけれど? 他領からワイン売りが来ることも良くありますし。こう、小さな樽に詰めて売っていたり、壷を持ち込んで入れてもらったりしていますよ?」
ああ、これは聞き方が悪かったな。
「そういうのはありなのか。ちなみにだが、ここにテーブルと椅子を用意して、ここで酒を売って飲ませるっていうのは?」
「酒を飲むのは酒場っていう決まりはないにゃ。けど、わざわざ広場に酒を持って来て飲むっていうのは聞いたことがないにゃ」
「酒屋で酒を買っても、まさかこんな街道沿いで樽から呑むようなことはしませんけれどね」
ふうむ。
これは一度、商業ギルドにいって話を聞いてきた方がいいかもなぁ。
「よし、あとでギルドで詳しい話を聞いてみるか」
「それがいいにゃ。それじゃあ、後片付けを開始するにゃ」
「そうですね。私とシャットは、このあとはギルドに戻ってのんびりしていますので、なにか仕事がありましたら声を掛けてください」
「ああ、その時は顔でもだすさ」
こうして食事も終えて後片付けをしたのち、俺は商業ギルドで話を聞くことにした。
………
……
…
――商業ギルド
「なるほど……露店のスペースでテーブルと椅子を用意し、そこで飲食する分には問題はありません。また、ユウヤさんの露店で購入したお酒を広場で飲んでいても問題はありませんよ。要は、『お酒を販売しているスペースが露店の範囲内』であれば大丈夫ですし、その範囲内でテーブルと椅子を出して飲食物を提供していても、酒場の出張店のようなものなので罪に問われることはありませんね」
一通りの説明をしたのち、ギルドの受付嬢があっさりと説明をしてくれた。
実は俺以外にも、同じように露店を使ってミニ酒場のようなことをやっている旅の商人はいたらしい。
販売している場所が露店として割り当てられた範囲であれば罪に問われることもないし、酒の販売についてもこの領都では許可は必要ないらしい。
ただ、王都や他の領地によっては、酒類販売免許を持っている商人以外は販売が制限されるとか。
「なるほどねぇ、うん、助かったよ、ありがとさん」
「いえいえ。私たち商業ギルドは、すべての商人の利益と繁栄のためにお力をお貸しするために存在していますので」
「ああ、すまなかったね」
軽く礼を告げてギルドを後にすると、宿に戻ってから越境庵へ移動。
明日のために必要な仕込みと仕入れを始めるとしますか。
〇 〇 〇 〇 〇
――翌日・午後
いつものように、露店のメニューはイカ焼きとエビ焼き、ホタテのバター焼き。
それに今日は、ジャガイモのホイル焼きも付け加えてみた。
いや、焼台の横にアルミホイルを巻いたジャガイモをゴロゴロと並べておけば、勝手に火が入っていい感じになるのでね。
調味料だってバターがあるから問題はないし。
とうことで、ジャガイモバター焼きの分だけ手間が増えたげと、マリアンとシャットがいれば問題はない。
そしていつものように二時間かっきりで販売を終えると、あとは夕方まで一休み。
「なあユウヤ。このあとってさ、ミーシャとアベルが客でくるんだよな? あたいたちも客になったら駄目かなぁ?」
「んんん? まあ、客といっても二人にごちそうするようなものだから、別に構わんよ。シャットも呑みたいのか? キンキンに冷えたビールを」
「わ、わたしも呑みたいです!!」
テヘヘと笑っているシャットの横で、マリアンが勢い良く手を上げて叫んだ。
うん、お嬢さんたちも呑みたいというのなら仕方がない。
今日は従業員の慰安も兼ねるとしようかねぇ。
………
……
…
――ジュウウウウ
間もなく、夕方6つの鐘が鳴る。
この街は日が落ちるのが遅く、日本時間夕方6時ごろでもまだ明るく、人通りは結構ある。
正門や西門からは外で働いていた人や冒険者達が戻って来て、家路を急ぐ頃。
そして酒場に人が溢れ、喧噪が響いてくる頃でもある。
「なあユウヤ、今焼いているそれってなんだい?」
「ん、ああ、これか。酒の肴にいいと思ってね、ガーリックとバジルの入ったウインナーを
焼いているところだよ。そっちのボ―ヘルに入っているのはさっき茹でたばかりの枝豆で、こっちは生干しシシャモを炙ったもの。まだ食うなよ、アベルとミーシャが来てからだからな」
「わ、分かっているって」
そう俺に注意されるまでは、そーっと手を伸ばしてつまみ食いしそうな勢いだったけれどな。
その隣では、マリアンがテーブルと椅子を綺麗に並べてくれている。
わざわざ店のホールに置いてあったイスとテーブルを一組引っ張り出してたきたんだからな。
その上には取り皿と割りばし、スプーンとフォークも用意しておく。
あとは調味料だが、粒入りマスタードと醤油、マヨネーズ、あとは一味唐辛子でもあればいいか。
さすがに子持ちシシャモやウインナーについては仕込みはできない、こういうのはプロが作ったものを買って来てそれを炙るだけで十分。
シシャモだってよく出回ってタイルカペリンじゃない、鵡川産の天然シシャモを冷凍している奴だ。
最近は不漁でね、生はなかなか出回ってこないものでね。
枝豆は茹でる前に先端をちょっとだけハサミで切り落とし、しっかりと塩もみをしてある。
これは枝豆の産毛を落とすのと、塩味をしっかりとつけるため。
あとは沸騰したお湯に、塩もみしたままの枝豆を入れて沸騰するのを待つ。
再沸騰してきたら、大体5分を目安にざる上げして、熱々のうちに頂くのがうちの流儀。
そんな感じで準備をしていると、ちょうどアベルとミーシャもやって来た。
「よっ、ちょっと遅れたかな?」
「ギルドで素材の査定に手間どっちゃってね」
「いや、ちょうどいい感じだな、さあ、まずは座ってくれ」
席に座るよう促してから、まずはテーブルの上に今日の酒の肴をならべていく。
熱々の枝豆、焼きたてのウインナーと子持ちシシャモ。
そしてビアタン(ビールタンブラー)を人数分用意してから、本日のおすすめを。
――シュンッ
氷水の張ってあるクーラボックスに入れてあるのは、ご存じ赤い星マークの付いた瓶ビール。
それと恵比須様のマークが入っているビールも数本と、あとはシャンパンを一本だけ。
「……あ、あのねユウヤ店長、この透き通った入れ物はなにかしら?」
「酒を飲むのに飾りっていうことはないだろうし。ジョッキは?」
「ああ、この透き通ったのが酒を飲むための器でね。故郷では、こいつをビアタンって呼ぶんだ。さて、それじゃああけるとするか」
クーラーボックスの中に手を突っ込んで星印のビールを一本とりだす。
それを栓抜きでシュポッと栓を抜くと、まずはアベルとミーシャのビアタンに注ぐ。
――トクットクットクットクッ……
心地よい音が瓶の中から伝わって来る。
そしてビアタンの中には透き通った薄琥珀色のビールとクリーミィな泡。
それをじっと、瞳をキラキラさせるように眺めている一同。
「そしてうちのお嬢さんたち……と」
続いてマリアンとシャットにも注いでやると、最後は自分のビアタンに注ぐ。
「それじゃあ完売と行きたいが、ビアタンは非常に割れやすいから、いつも酒場でタンカード(蓋つきジョッキ)でやっているように力いっぱい打ち付けるのはなしだせ、こう、軽く音を鳴らすだけでいい。それじゃあ」
俺のことは背に合わせて、みんながビアタンを手に持ちあげる。
「乾杯っ」
「「「「乾杯」」」」
――チン!
心地よい音が響くと、アベルとミーシャが恐る恐るビアタンを口元に運び。
――ゴクッ
口の中にビールを流し込み、そして喉がなる。
その瞬間、二人はお互いの顔を見合ったかと思うと、次の瞬間には一気にビールを流し込みビアタンを空にした。
「んっぷっはぁぁぁぁぁ、なんだこれは、こんなにうまいとは思わなかったぞ」
「普段飲んでいるエールよりも薄味で、でものど越しがさわやかでなんていうか……美味しいです」
「ああ、それはありがとうさん」
お褒めに預かり恐悦至極。
俺はのんびりと枝豆を口に持っていき、プツンプツンと豆を口の中に入れる。
その仕草をじっと見てシャットが真似ているんだが、初めて食べる枝豆に感激したのか、一つ、また一つと食べ始めた。
「うんみやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「この枝豆っていうのですか、プツンプツンって感触が楽しくて、それで美味しいです」
「このハーブの聞いたウインナーも最高だ、この小魚だって、酒に妙にあうじゃないか……この黄色くて赤い粉の掛かっているタレに付けると……さらにうまい! ユウヤ店長、ビールのお代わりはあるのか?」
「まあ、そこに入っている分だけだが……」
追加で一本引っ張り出して栓を開けると、それをそのままアベルに手渡す。
あとは手酌でやってくれという意思表示だ。
それが判ったのか、アベルもミーシャやシャットたちのビアタンにビールを注ぎ始める。
うん、楽しい酒盛りっていう感じで、たまにはこういうのもいいな。
ただ、ちょっと離れたところで、こっちを羨ましそうに眺めている冒険者が気になるところだが。
すまないな、今日はもう看板だ。
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だが、王子にとってセフィラは勇者に取り入るための道具でしかなかった。
勇者亡き今、王子はセフィラとの婚約を破棄し、新たな神獣の契約者となって力による国民の支配を目論む。
しかし、ガルーと契約を交わしていたのは最初から勇者ではなくセフィラだったのだ!
真実を知って今さら媚びてくる王子に別れを告げ、セフィラはガルーの背に乗ってお城を飛び出す。
これは少女と世話焼き神獣の癒しとグルメに満ちた気ままな旅の物語!
中年オジが異世界で第二の人生をクラフトしてみた
Mr.Six
ファンタジー
仕事に疲れ、酒に溺れた主人公……。フラフラとした足取りで橋を進むと足を滑らしてしまい、川にそのままドボン。気が付くとそこは、ゲームのように広大な大地が広がる世界だった。
訳も分からなかったが、視界に現れたゲームのようなステータス画面、そして、クエストと書かれた文章……。
「夢かもしれないし、有給消化だとおもって、この世界を楽しむか!」
そう開き直り、この世界を探求することに――
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