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第二部・異世界からの侵略編

第38話・予想外と想定内

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 亜空間潜航により姿を消した異世界侵攻艦隊。

 その亜空間内でファーミリアスは、他の艦隊の艦長らと通信を行い、作戦会議を行っている。

『ファーミリアスハさま。此度の異世界侵攻、予想外の事態になっておりますが、これは計算の範囲内でしょうか?』
『我が砲撃艦による魔導砲が弾かれたのですぞ? この世界には魔法を遮断する対魔法素材など皆無であり、マギ・テクニカルによる魔導兵器を反射・吸収・無効化されることはないとファーミリアスさまからのご説明もありましたが、これは如何なる事態なのでしょうか?』
『マスター・マルガレータの開発したゴーレムアーマー、あのミスリル複合装甲すら、あの謎の機動兵により真っ二つ。これは今一度、作戦の練り直しを要求しますが』

 異世界侵攻艦隊旗艦・オルレアンの主艦橋の艦長席で、ファーミリアスは正面モニターに映し出されている艦長たちからの提案を静かに聞いている。
 彼自身も、ここまで一方的に作戦が失敗するなど予想もしていない。
 曽祖父たる勇者が残した機動戦艦の概略図、そして魔導生命体に作り替えられた魔導頭脳『オクタ・セブン』から齎された古代兵器の設計図。
 
 それらを元に作り出された魔導戦艦シリーズに敗北はなかった。
 二日前の、あの一方的な反撃までは。

「ナナ、敵艦隊についてのデータはあるのか?」

 艦長席の近くにある魔導機関制御席で、元オクタ・セブンであった人造聖霊エルフ・ナナが頷く。
 
「我らが始原なる神殺しの戦艦。その零番艦にして最高頭脳であるオクタ・ワンが搭載されているのかと推測されます。あまりにも距離が遠すぎて、憶測の域を脱することはできませんが、あの艦隊の砲撃を一定の角度にてスリップさせつつ中和、さらに無力化する事ができるのは神が作りし機動戦艦の『多次元フィールドバリアシステム』に他なりません」

 解析データからの推測、それを読み上げるナナ。
 今日この日に至るまで、ファーミリアス率いる異世界侵攻艦隊の建造から始まるすべての計略は、ナナとファーミリアスの二人によって提案されたもの。

 滅びし世界から出て、新たな世界へと至る。
 その地に空間越境門を設置し、星の人々を移民させる。
 そのためにも、移民先に知的生命体がいては邪魔なのである。
 故に、『降伏か死か』、この選択肢になった。

 星を傷つけるような攻撃をしてしまえば、移民するべき大地が存在しなくなってしまう。
 その結果、見せしめとなったのがキリバス共和国。
 あの島一つ程度の消滅ならば、特に移民計画に支障はない。

 曽祖父が生まれた地である日本もまた、彼が死ぬ際に呪いの言葉を吐いていたことから滅ぼす対象であることは必至。
 ついで、世界のトップを語るアメリカもまた、滅びの対象ではあるのだが、彼の国は広大な土地を有している。
 それ故にトップを潰し軍事力を潰して降伏を迫るならば、彼らは両手をあげて服従を選択するだろう。そしてトップが崩れるならば、この星の他の国々も続くように降伏を宣言する。

 ここまでが、ナナの弾き出した戦略データ。
 だが、ここに零番艦アマノムラクモの存在は加味されていない。
 そして降伏宣言時にミサキ・テンドウと彼女の機動兵器の存在を確認したものの、鑑定眼による判定は『錬金術師』であり脅威に値しないとナナが判断。
 その結果が、今のような状況である。

「多次元フィールドバリアシステム。失われた技術か。それを突破する方法は?」
「駆逐艦のエネルギーをすべて砲撃艦に集めましょう。計算では砲撃艦の主砲掃射8.5秒があのフィールドに干渉し中和するために必要な時間。恐らくはそれ以上の長時間、あのバリアを維持できるユニットは存在しないはず。アダマンタイトやオリハルコンが潤沢にないこの世界では、錬金術師による純銀から精製できるミスリル軽合金が対魔法素材の限界でしょう」
「ということだ。作戦の大きな変更はないが、駆逐艦三隻を砲撃艦に接続。それとは別に、この世界の理りや軍事バランスなどを調べたい。調査班を編成し、各地に送り込んでほしい。必要ならば捕虜として捉え、頭の中から知識と記憶を抽出しても構わない」

 淡々と指示を出すファーミリアス。
 その言葉に艦長たちは疑うこともなく頷き、画面が消えていく。

「ナナ、俺のマギ・ゴーレムは完成しているのか?」
「ご安心を。最終調整も完了、敵零番艦の機動兵器の推測データと比較しても、あなたが負ける道理はないわ。許可さえいただけるなら、後方の補給艦隊に命じて量産も可能よ?」
「それは急ぎで頼みたい。さて、今の我々に足りないのは知識。それを得るまでは、現状はこの空間で待機だ。曽祖父の残した亜空間潜航システム、そこからの時空間融合潜伏。たとえ零番艦といえども、見つけることはできないだろう」

 自信満々に呟くファーミリアス。
 そして時が来るまで、彼らは世界から姿を消して沈黙することを選択した。

 
 
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