型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

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第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と

第175話・元勇者と現勇者と、呆れる仲間たち

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 タクマ・ヨシザワ。
 私が出会った五人目の勇者であり、ハーバリオス王国とは全く関係のない勇者召喚で呼び出された人。
 初見であったはずの私に向かって、いきなり腕時計を寄越せとか言い出した挙句、なんだかんだと問題を起こし、幻獣王であるブランシュさんに勇者の力を封じられた人。

 はて、どうしてそんな人が、この北方の寒い地方にやって来ているのでしょうか。
 我儘放題な人物だと思いましたけど、もしもそうならこんなに極寒の厳しい土地にくるのではなく、ぬくぬくと南方で生活していそうな気がしませんか?
 そもそも、封じられたのは勇者としての才覚、つまり聖剣をふるう力。
 確かに聖剣は主と認めた方に絶大な加護を与えるのでして、その恩恵で強くなっている方がおおいのですよ。

 まあ、緒方さんのように、自前で聖剣ならぬ聖銃を持って姿を現した方もいらっしゃいますけれど。

「こんなところでお会いできるとは……なんといいますか。あ、そちらはおひとり様一杯のみ無料ですので、もしもお求めでしたらこちらで販売していますので」
「あうあう……このおいしいスープがいっぱいだけ……か、買うにゃ!!」
「まいどありー、だっし。お会計はそちらでよろしくだし……それで、そこの日本人の勇者さんは、飲むのか飲まないのかどっちにするんだし?」
「なっ、何故俺が日本人だってわかった」

 どうやら柚月さんと勇者さんで話が始まったようですので。
 こちらは商売に集中することにしましょう。
 
「う、うちはこの壺を二つ買うにゃ、お金ならあるにゃ」
「俺はこっちだな。このワカメとかいうものが入っているものを一つだ」
「私は、このソラヌトマトのスープを一壺、頂けますか?」
「はい、いまお持ちしますので少々お待ちください」

 勇者パーティーの三人も、タクマを放置してスープを購入してくれました。
 まあ、盾騎士シールド・リッターのアランさんと獣人の……アルナイアルさんは、そもそも勇者タクマに苦言を呈していましたし、魔術師のマヤさんも今日は大きな喧嘩などにはならないと読んだようで、タクマさんのほうをチラチラと見ていますけれど、柚月んとの話に口を挟むようなことはないようです。

「そういえば、店主さんは個人商隊トレーダーなのかにゃ? もしもそうなら、強い武器は売ってないかにゃ?」
「武器ですか? うちの主な商品は食品と衣料品なので、武具の取り扱いは行なっていないのですけど」
「あうあう……それは仕方がないにゃ」
「そうですか。まあ、他の鍛治師でも探すしかないか」
「それしかないにゃ。どうにか予選までに装備を攫えないと、大武術大会にも参加できないからにゃぁ」

 そう呟きながら、こちらをチラッチラッと見ていますが、無いものはないのですよ。こればっかりは嘘は申しません。

「残念ですが、お役に立てなくて申し訳ありません」
「い!いやいや。無茶なことを話しているのはうちらだにゃ。でも、ひょっとしたらという期待もあったにゃ」
「まあ、そもそもタクマが聖剣を売り飛ばしたのが悪い。では、別の店も当たることにしよう。マヤ、タクマは任せるからな」
「はいはい。あとはお任せを」

 そう告げてから、アルナイアルさんとアランさんはどこかへ出かけまして。
 さて、横で話し込んでいる柚月さんたちは、どんな様子なのでしょうか。

………
……


──少し前
「お前も日本人か!!」

 タクマは目の前の柚月が日本人であることに驚いている。
 そもそも、彼女の身につけているアクセサリーなどは、こっちの世界にはない代物である。
 それを見て、まさかと思ったタクマであるが、ここにきてようやく同郷の人間に会うことができて、ホッとした顔になっていた。

「あーしはハーバリオス王に召喚されたし。それで、あんたは誰に召喚されたし?」
「さぁな? ヴェルディーナ王国の偉い奴に呼び出された確か覚えていないな。魔王が復活したので、奴を倒して魔族に奪われた聖域を取り戻してほしいと頼まれただけだし、俺が地球に戻るための魔導具も魔族が持っているって教え込まれたからなぁ」
「うん、それ嘘だし」
「……はぁ?」

 魔族を倒して魔導具を取り返せたら、日本に帰れる。
 そう教わったのは良いのだが、そもそも自分は勇者としてこの世界に召喚され、地位も与えられた。
 生活に必要なものはすべて用意され、冒険の仲間も騎士団や魔導師教会から派遣されてきた。
 それに、魔族の侵攻はまだそれほど進んでおらず、魔王国の隣国にあるパルフェノンとの戦争が始まるまでに力をつければ良いと言われた。

 だから、自堕落な生活をしていた。

 地位を得て、人をアゴで使うことの快楽を覚えたタクマは段々と我儘になり、自分の意を汲み取らない者に対しては怒鳴り散らしたり実力行使として暴力を振いまくっていた。
 結果、修行も兼ねての地方巡業を仰せ使い王都から叩き出されたのである。

 そして、ある事件を境に勇者一行はヴェルディーナ王国から脱出し、流浪の旅を続けることになったという。

「マジかよ……はぁ。それじゃあ、俺はどうやって帰ればいいんだ?」
「そんなの知らないし。転移の魔道具は実在するから、それでも探せばいいし」
「転移の魔導具……そうか、お前も勇者で、しかも大魔導師なんだよな? どうだ、お前さえ良ければ、俺たちと一緒に来ないか? あのクソ商人も性格は悪いが地球産の商品も扱っているし、何よりも顔や体つきは俺の好みだ。どうだ?」
「いっぺん死んでこい……だし。そもそも、勝手に人のことを鑑定するなし。地球に帰還するための魔導具なんて存在しないし、あーしたちは召喚された魔法陣に魔力が蓄積されたら、自動的に帰ることになっているし」
「死んでこいだと!! この勇者の俺に……って、ちょっと待て、帰還の魔法陣があるのか?」

 その柚月の説明で、タクマは頭を傾げる。
 
「タクマが召喚された国がヴェルディーナ王国なら、そこに勇者召喚の魔法陣が存在するはずだし。儀式官と召喚を司る魔導師、そして魔法陣があれば帰れるし……って、ヴェルディーナって言ったし?」
「ああ。魔族によって滅ぼされた国だ。その建物も土地も何もかも、魔族の負の領域によって砂漠となってしまった……くっそ。俺はもう、日本に帰れないのかよ!」
「うん、無理だし。それじゃあ、あとは仕事の邪魔だからどっかに行くといいし。それと、クリスっちに手を出したら灰も残さずに燃やすから覚悟するし」

 最後の柚月の言葉は本気。
 だが、タクマは頬をかきながら、何かを考えて。

「ま、まあ、商人に手を出すことはやめる。それで、実は美味い儲け話があるんだが、乗らないか?」
「乗らないし」
「まあ、聞けって。この先のヤージマ連邦王都の大武道会は知っているだろ? それに出て上位の商品を根こそぎ、俺たちが手に入れないか? 俺が欲しいのは優勝商品の副賞の魔導剣だ。それ以外には興味がないから、あとはお前にやる。だかろ、予選とかで強そうな奴を、お前の魔法で倒してくれ」
「はぁ……あーしにはメリットがないし。そもそも、大会の時間は露店で仕事だし」
「チッ……ノリが悪い奴だな。まあいいさ、それじゃあこの話は無かったことで。マヤ、いくぞ!!」

 そのままマヤを連れて、タクマもフェイール商店を後にする。
 それと入れ替わりに遠巻きに見ていた客がまた集まって来たため、試飲用のスープが次々と消えていくことになった。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


──夜
 露店初日を無事に終え、私たちは馬車に戻って来ました。
 今は食後、昼間に販売していたスープの在庫が切れましたので、今からの発注で朝一番にお願いしようか考えてしまいます。
 連日同じものというのも、何か芸がありません。
 かと言って、サライのような露店はおそらく人が集まらないかと思いますよ。
 お面とかポップコーン……ポップコーンはありですね。
 焼き鳥……うん、これもいけそうですが、温かいスープの方が人が集まりそうですよ。
 でも、近くの露店の人曰く、明日は大雪が降るかもしれないので、あまりバザールには人が集まらないかもと教えてくれました。

「それよりも、昼間は助かりました。ノワールさんが横で元勇者さんを牽制してくれたから、大きな事件にならずに済みました」
「いえいえ。それよりも、ちょっと気になることがありまして……」
「「気になること?」」

 私と柚月さんが同時に問いかけますと、ノワールさんも顎に指を当ててから。

「今回の大会の副賞、あの男は魔導剣と話していましたが……私の知る限りは、魔導剣と呼べるものは世界に一つしかありませんよ?」
「なにぃ!! 魔導剣が副賞だと!!」
「うわ!! 驚かすの禁止だし」

 突然、クリムゾンさんが起き上がって叫びましたが。

「魔導剣といえば、ワシの知る限りでは世界に一振り。タイタン族の至宝である魔導鉱ダマスカスにより生み出された剣、レーヴァティンしかない……そ、れ、が、大会の副賞だぁぁぁぁ? こうしてはおれん、お嬢や、急いで王都へ向かうぞ。剣を取り戻さなくては」
「待った、ちょっと待ってください。王都へ急ぐのはわかりました、明日の朝一番で商業ギルドに話をして来ます。それで、王都で剣を確認する方法は?」
「ワシが見ればわかる!!」
「それで本物だったら、どうするし? 大会の副賞っていうことは、今は誰かの所有物だし」
「話をして返してもらう!」
「話が通じなかったら?」
「力づくで奪い返フベシッ!」

──パシィィィン
 クリムゾンさんの後頭部に、ノワールさんのツッコミが炸裂します。

「はい、紅は少し落ち着きなさい。そんな事をしたら、私たちの立場も悪くなるでしょう? あなたはフェイール商店の護衛なのよ? それを、あなたの悲願を優先して主人であるクリスティナさまに迷惑を掛けるだなんてとんでもないわよ?」
「お、お、おおう……」

 ようやく落ち着きを取り戻したクリムゾンさん。
 でも、その気持ちは私にもわかります。
 奪われてしまった大切なものを取り返す、それがどんなに辛いことか。

「紅は、明日まで指輪の中で頭を冷やしなさい。クリスティナさまも、明日の朝までに露店を畳むのかどうするか、考えて頂けますか? 先ほどのお言葉は嬉しいのですが、私たちは何よりも、クリスティナ様の意思を尊重しますので」
「わかりました」
「まあ、万が一の時はあーしも手伝うし」

 さて、今後はどうするべきなのか、じっくりと朝まで考えることにしましょう。
 
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